このアプリケーションノートでは、ACQUITY UPLC システムと SYNAPT G2-S 質量分析計を組み合わせて使用して、カンキツ果汁に含まれる成分を特異的かつ明確に同定します。
カンキツ果汁に含まれるフラボノイドが、その生物学的および生理学的効果に対して、注目が集まっています。フラボノイドは、さまざまな薬理学的特性および生物学的特性を有する最大で最も広く存在するクラスの化合物の 1 つです。このような特性から、フラボノイドを含む多くの植物種を機能性食品や生薬として使用することができます。フラボノイド化合物のマーカーとしての役割は重要ですが、サンプルの複雑さのためにその同定は困難です。フラボノイドは、がん進行の防止、一部の慢性疾患のリスク低減、心血管疾患の予防、ならびに抗ウイルス作用、抗菌作用、抗炎症作用に関連しており、これらが果汁成分中のフラボノイド類に関心が寄せらせる理由となっています。フラボノイドの一般的な供給源として、果物、野菜、穀類が挙げられます。これらの関連する健康上のメリットを考慮すると、食品の加工および調製がフラボノイド含量に及ぼす影響について、より深く理解する必要があります。したがって、果汁を摂取することによる効果をより的確に把握するためには、果汁の主成分および微量成分のすべてをプロファイリングできることが不可欠です。また、外観や味など、消費者に影響を及ぼす可能性のある重要な要素も、製品の商品価値に影響します1。
フラボノイドのプロファイリングにおける HPLC-MS の使用がますます一般的になっています。このアプリケーションノートでは、Waters ACQUITY UPLC システムと SYNAPT G2-S 質量分析計を組み合わせて使用して、カンキツ果汁に含まれる成分を特異的かつ明確に同定します。高分解能質量分析(HDMS)がカンキツ果汁製品のプロファイリングに利用されています。この手法には、複雑な混合物のプロファイリングにおいていくつかの独自の利点があります。これは、高分解能質量分析および高効率イオンモビリティーに基づく測定および分離を組み合わせたものです。イオンモビリティー質量分析(IMS)は、迅速な直交気相分離法であり、LC の時間枠内で別次元の分離が得られ、より高いイオン分解能と分析の特異性が得られます。化合物は、質量だけでなく、サイズ、形状、電荷に基づいて区別することができます。
みかん果汁のサンプルを 45 µm フィルターでろ過しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC |
カラム: |
ACQUITY UPLC HSS T3 150 × 2.1 mm、1.7 μm |
カラム温度: |
40 ℃ |
流速: |
0.4 mL/分 |
移動相: |
MeCN(B):H2O(0.2% HCOOH)(A) |
時間(分) |
流速 |
%A |
%B |
---|---|---|---|
初期条件 |
0.4 |
99 |
1 |
0.75 |
0.4 |
95 |
5 |
5 |
0.4 |
5 |
95 |
5.5 |
0.4 |
99 |
1 |
注入量: |
10 µL |
MS システム: |
SYNAPT G2-S |
イオン化モード: |
ESI-、2.7 kV |
サンプルコーン電圧: |
30 V |
脱溶媒温度: |
650 ˚C |
レファレンス質量: |
ロイシンエンケファリン、[M-H]- = 554.2615 |
取り込み範囲: |
m/z 50 ~ 1200 |
取り込み速度: |
5スペクトル/秒 |
コリジョンエネルギーランプ: |
33 ~ 45 eV |
分解能: |
18,000 FWHM |
IMS T-Wave の速度: |
550 m/秒 |
IMS T-Wave のパルス高さ: |
40 V |
SYNAPT G2-S で UPLC-IMS/MSE 機能を使用して、みかん果汁の成分をネガティブイオン化モードのエレクトロスプレーでプロファイリングしました。IMS により、別次元の高速気相イオン分離が得られ、より高いイオン分解能および分析特異性が得られます。IMS は、「気相における電気泳動」と見なされてきました。プロファイリング試験が行われ、HDMS を使用するメリットが明確に示されています。図 1 に、未希釈のみかん果汁の分析において、従来のネガティブイオン化モードで得られたベースピーク強度(BPI)クロマトグラムおよび m/z 609 の抽出質量クロマトグラムを示します。対応する精密質量スペクトルを図 2 に示します。精密質量スペクトルにより、元素組成 C28H33O15(誤差 1.1 ppm)および C16H13O6(誤差 0.7 ppm)が得られました。得られた元素組成を用いて ChemSpider 検索を行ったところ、3.25 分のこの成分は、ヘスペレチン 7-O-ルチノシド(ヘスペリジン)である可能性が高いと考えられました。使用した条件において、m/z 301.0714 のピークは、イオン源でのフラグメンテーションに起因し、二糖類部分の喪失によって発生したものです。観察されたフラグメントおよび得られた精密質量/元素組成により、構造解析を行うことができました。
このデータを MSE データビューアーで表示したところ、3.25 分の成分が、実際には 2 成分で構成されていることが分かりました。図 3 の MSE データビューアーでは、みかん果汁の BPI で検出されたピークを表示しており、モビリティーデータにより、3.25 分に 2 つの成分が存在することが明らかになりました。プリカーサーイオンスペクトルとフラグメンテーションスペクトルは 2 つの異なるドリフト時間から生成されます。これらの同重体成分について得られたイオンモビリティー分離の結果の 3D データ表示を図 4 に示します。MSE データビューアーを使用すると、MSE 取り込みによって得られた時間アライメント済みの高エネルギースペクトルおよび低エネルギースペクトルをシームレスに表示することができます。さらに、モビリティー分離が得られている場合は、モビリティー分離およびそのスペクトルが利用できます。このソフトウェアにより、ドリフト時間は異なるが保持時間が同じ同重体成分を、ボタンをクリックするだけで視覚化することもできます。このフィルターを使用することにより、930 種の主要分析種と微量分析種からなる非常に複雑なサンプル中の 3.25 分のピークが、実際には 2 成分であることを瞬時に確認することができました。ドリフト時間 8.8 ms および 9.5 ms が観察され、成分の推定 T-Wave 衝突断面積(CCS)はそれぞれ 164.6 Å2 および 174.1 Å2 と判定されました。
UPLC-IMS/MSE を行い、衝突誘起解離(CID)フラグメンテーションを「Triwave」の「トランスファー」領域で行った結果、2 つの IMS 同重体成分の構造解析データが 3.25 分に得られました。モビリティー分離された同重体成分の MSE フラグメンテーションスペクトルを図 5 に示しています。これらは同じフラグメンテーションパターンを示しています。これらの条件下において、m/z 463 にマイナーなフラグメントが観察されました。これは、m/z 609 のプリカーサーイオンからラムノース糖単位が失われ、グルコース単位がさらに失われて m/z 301 減少し、m/z 301 のアグリコンが生成したと考えられます。得られたデータからは、ヘスペリジンの配座異性体が認められることが示されています。
みかん果汁の分析で得られた従来のネガティブイオン化モードの m/z 385 の抽出質量クロマトグラムが見られる別の例を図 6 に示します。対応する 3D モビリティーデータを図 7 に示します。従来の抽出質量クロマトグラムの最初の 2 つのピークは、4 種類の IMS 成分で構成されていました。得られた推定 T-wave CCS 値の例(表 1)は、これらの値を使用して特徴的なプロファイリングデータがさらに得られることを示しています。
得られた結果は、IMS により、ピークキャパシティが増加して、より多くの成分を同定できることを示しています。IMS と MSE を組み合わせることで、モビリティー分離した成分を特異的かつ明確に同定することができます。
720004462JA、2012 年 10 月