• アプリケーションノート

UPLC を用いた、精製におけるプロセスカラム溶出液のオンラインモニタリング

UPLC を用いた、精製におけるプロセスカラム溶出液のオンラインモニタリング

  • Tanya Tollifson
  • Waters Corporation

要約

PATROL UPLC プロセス分析システムにより、プロセス開発にレファレンス標準法を用いることができます。このシステムは業務運営に応じて直接拡張できるため、分光センサーをキャリブレーションしたり、疑わしいサンプルをオフラインの QC ラボに送付したりする必要がなくなります。このアプリケーションノートでは、UPLC を使用してプロセス精製カラムからの溶出液をモニターする方法について説明します。

アプリケーションのメリット

自動オンライン分析およびアットライン分析が可能な PATROL UPLC プロセス分析システムは、プロセス溶出液に関するリアルタイム情報を提供することにより、製造のスループットと収量の向上に役立ちます。1 つの標準バイアルからマルチポイント検量線を作成することにより、目的の生成物並びにプロセス不純物の定量データに基づいて、溶出液フラクションの回収についてリアルタイムで判断を下すことができます。

はじめに

プロセス分析技術(PAT)は、とりわけ製薬企業やバイオ医薬品企業の業界において、製造プロセス全体の重要な構成要素です。これは、プロセスについてより深く理解し、廃液量を最低限に抑えつつ収量の最大化を確保して、一貫した製品品質を得るために使用されています。

PAT では、プロセス内バッチの質を確認し、そのプロセスの重要なステップそれぞれのパフォーマンスを把握するために、製造プロセス全体にわたって適時に測定を行います。製造プロセス全体で、多くのさまざまなセンサーテクノロジーを使用して、プロセス内バッチの特性を測定します。特定された重要品質特性(CQA)をモニターするのに適したセンサーを導入することで、プロセス管理を維持し、プロセスの確立されたデザインスペース内で適切に機能させるのに役立ちます。

通常、精製などのプロセスステップは分光センサーを用いて評価します。これには近赤外線分光(NIR)やラマン分光が含まれます。これらの手法には、精製プロセスに関するリアルタイムの情報を提供する機能がありますが、溶出液流中の複数の成分を効果的に分離して定量する機能はありません。

これらのセンサーの性能は、レファレンス標準(ほとんどの場合高速液体クロマトグラフィー(HPLC))と比較して評価する必要があります。これは、HPLC が選択的で感度の高い手法であり、リニアダイナミックレンジが広く、複雑なサンプル中の複数の成分を定量する機能があるためです。

HPLC は、製薬企業の QC ラボで最も広く使用されている手法です。しかし、分析時間が長く、システム操作が複雑なため、アットライン分析やオンライン分析にルーチンには使用されていません。

Waters UltraPerformance LC(UPLC)テクノロジーの導入により、プロセス内サンプルのほぼリアルタイムのクロマトグラフィー分析が可能になりました。UPLC は、統合されたハードウェアとソフトウェアを含むシステムとして提供され、ユーザーによるインプットをほとんどまたはまったく必要としないシンプルな設計になっています。

PATROL UPLC プロセス分析システムにより、プロセス開発にレファレンス標準法を用いることができます。このシステムは業務運営に応じて直接拡張できるため、分光センサーのキャリブレーションや、疑わしいサンプルのオフラインの QC ラボへの送付が不要になります。このアプリケーションノートでは、UPLC を使用してプロセス精製カラムからの溶出液をモニターする方法について説明します。

実験方法

PATROL UPLC プロセス分析システムを使用して、以下の条件でシミュレーションしたプロセスカラム溶出液をモニターしました。

カラム:

Waters ACQUITY UPLC BEH 2.1 mm × 50 mm、C18、1.7 µm

溶離液:

A:0.1% ギ酸水溶液

B:0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

グラジエント:

1 分間で 10% ~ 25%、曲線 4

流速:

1.0 mL/分

温度:

50 ℃

注入量:

5 µL

検出:

243 nm、40 Hz、タイムコンスタント 0.025 秒

洗浄:

70:15:15 アセトニトリル/水/イソプロパノール

パージ溶媒:

1 mL(トランスファーラインの容量の 4 倍)

分析時間:

1 分

サイクル時間:

2 分 40 秒

結果および考察

分析法

プロセス内 API の精製ステップにより、最終生成物の純度と収量が決まります。精製プロセスにおけるプロセスカラム溶出液の評価において、分光学的手法は LC ほど選択性や感度が高くありません。UPLC を使用してプロセスカラム溶出液をモニターすることにより、信頼性のより高い方法で最終生成物である API の質を管理および最適化することができます。

PATROL UPLC プロセス分析システムによるオンラインモニタリングの有用性を実証するために、クオータナリーグラジエントポンプを使用して、プロセスクロマトグラフィーの溶出液をシミュレーションしました。

プロセスのカラム溶出液をシミュレーションするために、2 種類の不純物から API を精製する際に生じる溶出液を模倣するグラジエントプロファイルを開発しました。UV/Vis 検出器で測定されたプロファイルを図 1 に示します。この分離プロファイルには、API から十分に分離されている 1 つの不純物と、API から完全には分離されない 2 つ目の不純物が見られます。

図 1.  シミュレーションしたプロセスカラム溶出液の UV/Vis トレース(243 nm)

UPLC テクノロジー

UPLC では、2 µm 以下のカラム粒子、およびこれらの粒子のメリットを利用するシステムテクノロジーを使用しています。UPLC が導入されて以来、多くのユーザーが HPLC QC 分析法を UPLC に移管して大きな成功を収めており、スループット、感度、分離のすべてにおいて画期的な改善を実現しています。

PATROL UPLC プロセス分析システムは、これらの大幅な改善を製造現場にもたらし、LC をリアルタイムセンサーとして使用できるようになりました。全体的に設計されたシステムとして、これには、プロセス内環境でサンプルおよびワークフローを管理するために、UPLC テクノロジー、コントロールソフトウェア、頑健に設計されたサンプルマネージャーモジュールが統合されています。システムのコンポーネントは、すべての溶媒、廃液、標準試料とともに、製造環境のすべての要件に適合する密閉ケースに収納されています。

このシステムは、オンライン(プロセスからの直接自動サンプリング)分析およびアットライン(プロセスから手動で取り出したサンプル)分析の両方に適合するように設計されています。ACQUITY UPLC プロセスサンプルマネージャー(PSM)は、プロセス流またはリアクターと接続して、ユーザーの操作を必要とせずに、リアルタイムで分析および定量を行うことができます。データを分散制御システム(DCS)または LIMS に送信して、完全に自動でモニタリングを行うことができます。アットラインアプリケーションの場合、システムはバーコードスキャン機能を有するウォークアップインターフェースを備えており、技術者が情報を入力する必要がありません。また、21 CFR Part 11 に準拠した Empower ソフトウェアによるサンプルの分析過程の管理も行えます。

アプリケーション

プロセスカラムシミュレーションを開始する前に、システム適合性標準試料(API)をバイアルから注入しました。10 回繰り返し注入における併行精度(表 1)は十分に分析法要件の範囲内でした。トランスファーラインを通してサンプルを ACQUITY UPLC PSM の注入バルブに吸引するために、溶出液ラインにティーを配置しました。

表 1.  10 回繰り返し注入における併行精度

PATROL UPLC プロセス分析システムでは、シミュレーションしたプロセスカラムからの溶出液をモニターし、3 本のピークすべてを正常に定量して、UV/Vis 検出器で観察されたプロファイルと同じプロファイルを生成することができました(図 2)。

図 2.  UPLC モニタリングによって生成されたピーク高さのサマリーは、UV/Vis によって生成されたトレースをモデル化していますが、ベースライン分離されていない場合でも、個々のピークを定量することもできます。

シミュレーションの異なるタイムポイントで得た 3 つの抽出クロマトグラム(図 3)からは、精製プロセスの進行全体を通して各成分が定量できることが実証されています。他の分光法と比較した場合の、UPLC によるモニタリングの最も大きなメリットは、API の回収を開始する最適な時間を決定できることです。

図 3.  シミュレーションしたプロセスカラム溶出液から収集された個々のクロマトグラフィートレースにより、API の純度評価が可能になり、API の回収のトリガーに使用されます。

図 4 では、すべての注入を、プロセスカラムシミュレーションにおける不純物 2 のピーク頂点のタイムポイントから API のピーク頂点のタイムポイントまで重ね書きしています。これらのピークは、UPLC カラムで十分に分離されており、レベルが大きく異なっていても容易に定量できます。表 2 は、ピーク面積をまとめたもので、PATROL UPLC プロセス分析システムでの個々の注入について計算したものです。すべての不純物がプロセスカラムから溶出したポイントを、たとえそれが API と比較して非常に低いレベルであっても、判定することができます(図 5)。

図 4.  すべての注入の、プロセスカラムシミュレーションにおける不純物 2 のピーク頂点のタイムポイントから API のピーク頂点のタイムポイントまでの重ね書き
表 2.  個々の注入について計算したピーク面積のサマリー
図 5.  API と比較して非常に低いレベルである場合も含め、すべての不純物がプロセスカラムから溶出したポイントの判定

結論

  • UPLC を用いたプロセスカラム溶出液のモニタリングにより、API とプロセス不純物の同時定量が可能になり、製品の収量と純度が最大化します。
  • PATROL UPLC プロセス分析システムを製造現場に導入することで、プロセスの十分な把握を維持しつつ、プロセスの効率化が促進されます。
  • PATROL UPLC プロセス分析システムは、プロセス内サンプルの困難で多様なアプリケーションに対応できるように、使いやすさを念頭に設計されています。
  • オンライン分析およびウォークアップアットライン分析との完全に自動化された統合により、ユーザーの操作ミスに関連するリスクが低減します。

720002604JA、2014 年 5 月

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