• アプリケーションノート

フロー反応開発の自動化のためのプロセス流のリアルタイム LC モニタリング

フロー反応開発の自動化のためのプロセス流のリアルタイム LC モニタリング

  • Tanya Tollifson
  • Ernie Hillier
  • Waters Corporation

要約

PATROL UPLC プロセス分析システムは、反応溶出液のアリコートを分析することにより、フロー反応の開発のモニタリングおよび最適化を行うのに最適です。結果は、低レベルのプロセス不純物を含む、反応中のすべての分子種の反応速度をマッピングするために使用されます。このシステムは、自動ベンチトップ型フローリアクターである Uniqsis FlowSyn システムと簡単に接続できます。フロー反応をモニターするために開発された分析法を、シンプルなユーザーインターフェースを用いて製造現場に簡単に導入することにより、PATROL UPLC プロセス分析システムに移管し、最終的なフロー反応をモニターすることができます。

アプリケーションのメリット

PATROL UPLC プロセス分析システムは、連続フロー反応の開発に役立ちます。このシステムにより、柔軟な導入形式でサンプル流を自動でオンラインで LC モニターし、生成物の収量や純度の定量を行うことができます。反応条件を最適化することで、低レベルの不純物および/または中間体を含むすべての反応成分の反応速度を測定でき、結果として、製品化にかかる投資額を削減することができます。

はじめに

製造者は、化学合成プロセスを最適化する取組みの中で、連続フローケミストリーシステムなどの新しいテクノロジーを導入しています。連続フロー反応は、バッチ反応を著しく上回る利点を提供し、その中には、生成物のスループットと収量の向上、拡張の容易さ、温度制御の向上、より安全な製造プロセスなどが含まれます。フロー反応の最適条件を決定することは、対象化合物の最高の収量を確保するためだけでなく、最終生成物の分離や精製のステップが必要になる二次生成物の生成を最小限に抑えるためにも重要です。フロー反応開発の一環として、温度、圧力、コイル滞留時間、反応物質の化学量論に関して、最終生成物の反応速度を特性解析します。しかし、この情報を得るには通常、反応後に液体クロマトグラフィー(LC)分析を行うことになるため、開発プロセスが非連続的になり、多くの場合、時間がかかります。オフライン分析では、アリコートが反応し続けたり、空気への曝露によって変化したりすることにより、結果が損なわれる可能性があります。開発のスケジュールと定量における信頼性を向上させるには、オンラインモニタリング手法を導入するのが有利です。主生成物に関する定量情報の取得には分光分析法または UV 分析法が使用されています。しかし、これらの分析法では、低レベルの不純物や中間体、生成速度に関する定量情報がほとんど得られません。オンライン LC などの定量的分離手法を用いることにより、最終生成物および低レベルの不純物に関する情報が明らかになると同時に、フロー反応の最適化を自動化することができます。さらに、反応をより深く理解することで、製造に向けてのスケールアップのプロセスが改善されます。またこれにより、収量と純度の最大化が確保されます。

UltraPerformance LC(UPLC)のメリットは、フロー反応の最適化のモニタリングに適しています。このクロマトグラフィー手法により、分離能、感度、スループットが向上します。クロマトグラフィーカラム内の粒子の直径が小さくなるほど、得られる分析スケールの分離の効率が向上します。さらに、粒子径が小さいほど、その分離に最適化された線速度が増大します。したがって、分離能を損なうことなくクロマトグラフィー分離をはるかに高速で行えると同時に、この手法をリアルタイム LC 分析に使用するのに必要な注入間サイクル時間が得られます。これにより、フロー反応の反応速度を迅速かつ正確に特性解析することができ、最終的な反応条件について頑健なデザインスペースが得られます。

オンラインセンサーとしての UPLC の能力を実証するために、連続フロー反応の最適化について説明します。UPLC を反応最適化のセンサーとして導入するには、まず反応分子種をモニターするための分析法の自動開発が必要です。これは、プラグフロー反応からの溶出液を回収し、これをアットライン分析で分析することによって行えます。UPLC 分析法の条件が確立したら、UPLC システムをフローリアクターに直接構成して、オンラインサンプリングを行います。最終生成物および可能性のあるプロセス不純物の最終濃度に対する各変数の影響を定量するために、反応条件を変化させます。次にこのデータを使用して、最適なフロー反応条件を決定します。同じ分析スケールの UPLC 分析法を使用して、ベンチトップスケールからパイロットスケール、そして最終的に製造スケールへのフロー反応のスケールアップをモニターできます。

自動サンプル希釈機能を搭載した PATROL UPLC プロセス分析システムは、プロセス分析法開発におけるオンラインおよび/またはアットラインの UPLC 分析向けに設計されています。すべての分析法を、製造現場に直接移管できます。

実験方法

自動フロー反応開発の実証に使用した反応は、図 1 に示すように、ジメチルホルムアミド(DMF)中に高温下で 3,4-ジフルオロニトロベンゼンにモルホリンを付加する反応です。フロー反応は Uniqsis FlowSyn システムで実行し、PATROL UPLC プロセス分析システムを使用して溶出液をサンプリングおよびモニターしました。分析法の開発においては、図 2 に示すように、反応コイルに反応物を注入した後、オプションのフラクションコレクターでフラクションを回収することで、FlowSyn をプラグフロー分析用に設定しました。次に、出発物質、最終生成物、および可能性のある不純物を定量するための UPLC 分析法を開発するためにサンプルをアットラインで分析しました。分析法を最適化した後、PATROL UPLC パイロットプロセス分析システムを FlowSyn システムのアウトレットに直接構成しました。図 3 に示すように、アリコートが、オンラインモードで自動的にサンプリングされ、UPLC システムに注入されます。

図 1.  3,4-ジフルオロニトロベンゼンへのモルホリンの付加
図 2.  分析法を開発するために、Uniqsis FlowSyn システムをプラグフロー分析用に設定しました。反応物は、サンプルコイル(A)を用いて反応コイル(B)に注入しました。溶出液は、フラクションコレクター(C)中のサンプルバイアルに直接回収しました。次に、これらのフラクションを PATROL UPLC プロセス分析システムでアットラインサンプルとして使用して、オンラインモニタリング用の分析法を開発しました。
図 3.  フロー反応を最適化するために、Uniqsis FlowSyn システムと PATROL UPLC プロセス分析システムを併用することで、フローリアクター溶出液の自動オンライン分析を行いました

分析法開発のためのクロマトグラフィー条件

システム:

PATROL UPLC プロセス分析システム

データ:

Empower 2 ソフトウェア

カラム:

ACQUITY UPLC BEH C18 2.1 mm × 50 mm、1.7 µm

ACQUITY UPLC BEH Phenyl 2.1 mm × 50 mm、1.7 µm

ACQUITY UPLC HSS T3 2.1 mm × 50 mm、1.8 µm

ACQUITY UPLC HSS C18 2.1 mm × 50 mm、1.8 µm

サンプル:

DMF を含む反応物アリコート

注入量:

2 µL

温度:

40 ℃

流速:

600 µL/分

溶離液 A1:

10 mM ギ酸アンモニウム(pH 3)

溶離液 A2:

10 mM 重炭酸アンモニウム(pH 10)

溶離液 B1:

アセトニトリル

溶離液 B2:

メタノール

グラジエント:

2 分間で 5% ~ 95% B

検出:

245 nm、20 Hz ノーマル

サンプルフラッシュ:

30 秒

希釈:

100 倍

ニードル洗浄:

60:20:20 ACN/DMF/水で 5 秒間

最終的なクロマトグラフィー分析法

システム:

PATROL UPLC プロセス分析システム

データ:

Empower 2 ソフトウェア

カラム:

ACQUITY UPLC HSS T3 2.1 mm × 50 mm、1.8 µm

サンプル:

DMF を含む反応物アリコート

注入量:

2 µL

温度:

60 ℃

流速:

1 mL/分

溶離液 A:

10 mM ギ酸アンモニウム(pH 3)

溶離液 B:

メタノール

グラジエント:

30 秒間で 35% ~ 75% B、15 秒間ホールド

検出:

245 nm、40 Hz ノーマル

サンプルフラッシュ:

30 秒

希釈:

100 倍

ニードル洗浄:

60:20:20 ACN/DMF/水で 5 秒間

結果および考察

フロー反応の自動開発の最初のステップは、フロー反応流のモニタリングに使用する UPLC 分析法を開発することでした。フローリアクターはプラグフロー実験用に配管されており、両方の反応物を反応コイルに注入して、溶出液をサンプルバイアルに直接回収しました。反応条件は、この実験に最適である必要はありませんが、未反応の出発物質、最終生成物、およびすべての反応副生成物が含まれている必要があります(通常、これらの条件はバッチ反応条件から推定できます)。溶出液の入ったサンプルバイアルにバーコードを付け、PATROL UPLC プロセス分析システムに配置しました。オプションのカラムマネージャーを用いることにより、システムでは 4 種類のカラムケミストリーからカラムを選択することができます。ACQUITY UPLC バイナリーソルベントマネージャー(BSM)には、分析法開発に使用できる 4 種類の溶媒(水系溶離液 2 種と有機系溶離液 2 種)が入っています。入手可能な ACQUITY UPLC クオータナリーソルベントマネージャー(QSM)構成を使用することにより、4 種類の溶媒の組み合わせと 4 番目のラインに配置される追加の 6 ポートの溶媒選択バルブを用いて、分析法開発における分離条件をさらに詳しく検討することができます。アットラインサンプルがシステムに導入されると、サンプルバイアル上のバーコードが読み取られ、システムにより、Empower ソフトウェア内の以前に設計された分析的スクリーニングプロトコルが使用されて、分析法の pH、有機モディファイヤー、カラムケミストリーが反応化合物の最終的な分離に及ぼす影響が検討されます。さらに、注入したサンプル成分の濃度が確実に PATROL UPLC プロセス分析システムの直線性範囲内に収まるように、サンプルの自動希釈レベルもバーコードによって認識されます。図 4 に示すように、スクリーニングプロトコルによって得られたクロマトグラムを解析して、反応成分が最も良く分離される条件を決定することができます。カラムと溶離液を選択したら、2 次スクリーニングプロトコルを実行して、分離温度、グラジエント条件、流速を最適化します。これら 2 種類のスクリーニングプロトコルに基づいて、すべての反応成分(高濃度の最終生成物と低レベルの不純物を含む)を定量できる高速 UPLC 分析法を開発できます。このアッセイでは、モルホリンに発色団がないため、UV 検出では分析できません。ただし、モルホリンは過剰に添加されるため、このフロー反応でのモルホリンのモニタリングは重要ではありません。モルホリンは、エバポレイト光散乱(ELS)検出や質量分析などの補完的な検出手法を追加することで分析できます。初期スクリーニングの結果により、この反応については、低 pH バッファーを用いて、HSS T3 ケミストリーでメタノールを有機系溶離液として使用することで、最高の分離が得られることが示されました。二次スクリーニングプロトコルでさらに最適化すると、図 5 に示すように、分析時間 45 秒の分析法が得られました。

図 4.  プラグフロー実験サンプルの分析から得られたスクリーニング結果。このデータに基づいて、さらなる最適化のために、最良のピーク形状と分離が得られる分離条件を選択しました。
図 5.  フロー反応媒体の最終的なグラジエント分離

Uniqsis FlowSyn システムは、自動フロー反応の開発用に設計されています。実験のマトリックスをプログラミングして、コイル温度、反応の化学量論、コイル滞留時間が最終生成物の収量と純度に及ぼす影響を評価することができます。このシステムを PATROL UPLC プロセス分析システムと接続することで、これらのさまざまな反応条件のそれぞれの検討を完全に自動化することができます。図 6 に示すように、再現性のある定量を確実に行うためには、反応の定常状態の条件セットそれぞれにつき十分な数のサンプルを回収することが重要です。これにより、データのケモメトリック分析に最適な結果が得られます。反応が定常状態に達するまでの時間は、反応コイルの寸法(長さと内径)によって異なります。これは、実験の開始時と終了時に開放チューブを通る液体の層流によって反応物質が拡散するためです。したがって、定常状態に到達するために必要な時間の長さを理解することが重要です。次に、この時間を、定常状態で十分な繰り返し注入を行うのに必要な時間に加算することで、自動実験で反応条件を変更できる頻度が決まります。UPLC 分析法の最終的な実行時間は 45 秒でしたが、サンプリングと希釈に必要な時間の追加により、注入間のサイクル時間が 2.6 分に増加しました。自動実験では、定常状態での十分な回数の注入を確保するために、各反応条件セットを 25.0 分間にホールドしました。

図 6.  各反応条件セットにおいて十分な数のアリコートを定常状態で分析するようにすることが重要です。最低限 3 つの定常状態サンプルを使用することで、各反応成分について再現性のある定量が可能になります。

コイル滞留時間、反応温度、反応化学量論の影響を検討するために、反応変数のマトリックスを作成しました。表 1 に分析法開発マトリックスを示しています。これらの変数を Uniqsis FlowSyn システムにプログラミングし、シーケンスを開始しました。PATROL UPLC プロセス分析システムによるオンラインサンプルの自動取り込みも開始し、ユーザーの操作なしで実行させました。

表 1.  フロー反応最適化変数、およびそれらが最終生成物とプロセス不純物の相対量に及ぼす影響

いずれのシステムも、シーケンスが完了すると、自動的にフラッシュしてシャットダウンするようにプログラミングしました。得られたクロマトグラフィーデータを分析して、各反応変数が最終生成物およびプロセス不純物の収量に及ぼす影響を判定しました。得られた最終生成物およびプロセス不純物それぞれの相対量を表 1 に示します。これらの変数それぞれのトレンドを図 7 に示します。このデータをケモメトリック分析に使用して、最適な反応条件を決定することができます。最終的な反応条件を、1.5 倍過剰量のモルホリン、コイル滞留時間 11 分、コイル温度 100 ℃ と決定しました。これにより、プロセス不純物の生成を最小限に抑えて、最終生成物の収量を最大にすることができました。

図 7.  各フロー反応変数、およびそれらが最終生成物(青)およびプロセス不純物(赤)の生成に及ぼす影響のトレンドプロット

最終的なフロー反応条件は、パイロットスケール、プラントスケール、または製造スケールに簡単にスケールアップでき、PATROL UPLC プロセス分析システムを製造現場でのモニタリングに使用できます。UPLC を使用してスケールアップのプロセスおよび製造現場での最終プロセスをモニターすることで、フロー反応の開発において収集した情報を、製造プロセスにおけるプロセス逸脱の把握に直接移行させることができます。

結論

PATROL UPLC プロセス分析システムは、反応溶出液のアリコートを分析することにより、フロー反応の開発のモニタリングおよび最適化を行うのに最適です。結果は、低レベルのプロセス不純物を含む、反応中のすべての分子種の反応速度をマッピングするために使用されます。このシステムは、自動ベンチトップ型フローリアクターである Uniqsis FlowSyn システムと簡単に接続できます。フロー反応をモニターするために開発された分析法を、シンプルなユーザーインターフェースを用いて製造現場に簡単に導入することにより、PATROL UPLC プロセス分析システムに移管し、最終的なフロー反応をモニターすることができます。

720004101JA、2014 年 5 月

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