これまでの検討から、ACQUITY QDa 検出器はバイオ医薬品モニタリングにおける光学検出に対する相補的な検出技術となり、単一のワークフローの生産性を改善できることが示されました。医薬品業界では、最小限の労力で既存のワークフローに組み入れることができ、データの価値を高めることが可能な、費用対効果の高い技術が強く望まれています。以前の検討から発展した本アプリケーションノートでは、代表的なバイオ医薬品を使用して ACQUITY QDa 検出器の性能を評価しました。
この研究から、ACQUITY QDa 検出器が従来の LC 移動相と互換性があり、標準的なバイオ医薬用ペプチドマップに見られる広範な分子量のペプチドを検出し、かつ正確な質量情報を取得できることが実証されました。まとめると、これらの結果から、ACQUITY QDa はバイオ医薬品分析者の研究室に追加するのに理想的な検出器であり、ルーチンのペプチド分析アッセイにおいて生産性およびデータ分析の信頼性を向上できることが示されました。
近年、ウォーターズの ACQUITY QDa 検出器は相補的で直交的な検出技術として、既存の光学ベースの LC ワークフローと併用することにより、費用対効果の高いマススペクトルデータを提供してきました 1。
このような概念実証(proof-of-principle)研究は、説得力がある一方で、検証されたのは分子量の範囲が 899~2,848 Da の 7 種のペプチドに限られていました。それに対し、モノクローナル抗体などの生物治療薬は、酵素で処理した場合、3 桁近い大きさの範囲(150~7,000 Da)に及ぶペプチドを産生します 2。加えて多くの場合、ペプチドマッピングにはトリフルオロ酢酸(TFA)などのイオンペア試薬が使用されます。TFA はイオン化効率に悪影響を及ぼすことが多く、質量分析(MS)ベースのペプチドマップデータを得ることはむしろ困難と言えます 3,4。医薬品業界では、従来より最小限のコストと労力でデータの価値を高めることが可能な、直交的な技術が強く望まれています 5。
本アプリケーションノートでは、ACQUITY QDa 検出器が広範な分子量範囲(さらに典型的なバイオ医薬品のペプチドマップ)においてペプチド検出のための簡単で費用対効果の高いソリューションであること、さらにこのような質量検出能力が TFA やギ酸(FA)を含む従来の光学ベースの LC ペプチドモニタリングアッセイと完全な互換性を備えていることを紹介します。そのために、治療用モノクローナル抗体(mAb)トラスツズマブのペプチドマップをモニタリングするための既存の分析法に ACQUITY QDa 検出器を併用しました。
ACQUITY UPLC CSH 130Å、C18(2.1×100 mm、1.7 µm)および ACQUITY UPLC BEH 300Å、C18(2.1×100 mm、1.7 µm)カラムは、カラム取扱説明書に従ってコンディショニングを実施しました。試薬はシグマアルドリッチ社より購入しそのまま使用しました。プロメガ社のシーケンスグレードに改良されたトリプシンを使用し、プロトコルに従って 0.5 mg/mL の濃度になるようにトラスツズマブ消化物(還元・アルキル化済)を調製しました。
LC システム |
ACQUITY UPLC H-Class |
検出器 |
ACQUITY UPLC TUV ACQUITY QDa |
吸収波長 |
215 nm |
バイアル |
トータルリカバリーバイアル 12×32 mm、ガラス、スクリューネック、キャップ、スリットなし |
カラム: |
ACQUITY UPLC Peptide CSH 130Å、C18、1.7 µm、2.1×100 mm ACQUITY UPLC BEH 300Å、C18、1.7 µm、2.1×100 mm |
カラム温度 |
65 ℃ |
サンプル温度 |
4 ℃ |
注入量 |
8 μL |
移動相 A |
0.1% TFA 水溶液 |
移動相 B |
0.1% TFA 含有アセトニトリル |
移動相 C |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 D |
0.1% ギ酸含有アセトニトリル |
時間(分) |
流量(mL/分) |
%A |
%B |
%C |
%D |
---|---|---|---|---|---|
初期値 |
0.2 |
97 |
3 |
0 |
0 |
3 |
0.2 |
97 |
3 |
0 |
0 |
120 |
0.2 |
65 |
35 |
0 |
0 |
127 |
0.2 |
20 |
80 |
0 |
6 |
130 |
0.2 |
20 |
80 |
0 |
0 |
131 |
0.2 |
97 |
3 |
0 |
0 |
140 |
0.2 |
97 |
3 |
0 |
0 |
時間(分) |
流量(mL/分) |
%A |
%B |
%C |
%D |
---|---|---|---|---|---|
初期値 |
0.2 |
0 |
0 |
99 |
1 |
3 |
0.2 |
0 |
0 |
99 |
1 |
120 |
0.2 |
0 |
0 |
67 |
33 |
127 |
0.2 |
0 |
0 |
20 |
80 |
130 |
0.2 |
0 |
0 |
20 |
80 |
131 |
0.2 |
0 |
0 |
99 |
1 |
140 |
0.2 |
0 |
0 |
99 |
1 |
サンプリングレート: |
2 ポイント/秒 |
質量範囲: |
350 – 1250 Da |
コーン電圧: |
10 V |
キャピラリー電圧: |
1.5 kV |
プローブ温度: |
500 ℃ |
データ取得およびデータ解析インフォマティクス |
Empower 3 ソフトウェア SR2 |
初期に行なった概念実証(proof-of-principle)研究によって、ACQUITY QDa 検出器が広範な分子量範囲におけるペプチドの同定と純度の確認に十分に適することが確認されました 1。その際、イオンサプレッションを最小限にするため、移動相の TFA 濃度を 0.02% と相対的に低く設定しました 3,4。しかし、光学ベース(UV)ペプチド分析では多くの場合、従来の C18 カラム性能を改善するために、より高濃度の TFA が使用されます 6。
ACQUITY QDa 検出器がそのような従来法と互換性があることを実証するために、従来の濃度の TFA を使用してトラスツズマブのペプチドマップデータを取得しました。この実験では、還元およびアルキル化され、トリプシンにより消化されたトラスツズマブの 0.5 mg/mL 溶液を 0.1% TFA(v/v)に調製した移動相で分析しました。図 2A に示したように、ACQUITY UPLC BEH 300Å、C18、1.7 µm カラムを使用し、120 分間のグラジエント(実験方法を参照)により光学ベースのペプチドマップデータを取得しました。光学検出器の後に接続した ACQUITY QDa から得られた、図 2A に対応する質量検出器のレスポンスを図 2B に示します。直交的な検出技術によって検出されたペプチドから、高い相関性が確認されました。このデータから、ACQUITY QDa 検出器は、TFA などのイオンペア試薬を含む従来法を用いてマススペクトルデータを取得する能力があることが明らかになりました。
TFA ならびにギ酸でもペプチドマップの性能を改善した新しいカラムが上市されました 7。これにより、従来法に新しいカラムを適用し、かつ質量検出器を併用した場合に、さらに効率的になることが期待されます。
このことを確認するため、図 3 に示すように、ACQUITY UPLC Peptide CSH C18、130Å、1.7 µm カラムを使用し、同一試料に対するペプチドマップデータを取得しました。本実験では、移動相をギ酸濃度が 0.1% (v/v) になるように調製し、120 分間のグラジエントによりペプチドマップデータを取得しました。
図 3 およびこれまでの研究 8 で実証されたように、表面チャージハイブリッド(CSH)カラム独自の表面ケミストリーによってギ酸を容易に使用できるようになり、検出器感度が向上しました。両カラムがペプチドをモニタリングする能力をさらに発揮すると考え、ACQUITY QDa 検出器を用い、異なるイオンペア試薬の使用を評価しました。
移動相に使用したイオンペア試薬の揮発性および酸の性質は、ペプチドなどの多価で検出されるイオン化および荷電状態分布に影響を及ぼすことがあります 3,4。酵素で処理したトラスツズマブ試料から得られたペプチドの荷電状態分布に対する TFA とギ酸の効果を比較検討するために、トリプシンによるトラスツズマブ消化物のシミュレーションに基づき、重鎖ペプチドからなる荷電状態の表を作成しました(表 1)。
TFA およびギ酸によるペプチドマップの両実験のために、ACQUITY QDa 検出器を m/z 350 から 1250(検出器上限)までのスキャン範囲に設定し、表 1 内に太線で表示しました。ペプチドの荷電状態が TFA、FA のいずれかで測定されたかどうかを示すために、緑と青色で強調表示しました。
緑および青色は、ペプチドマップの両実験で荷電状態が測定されたことを示しますが、灰色の部分はスキャン範囲内に収まっていたものの測定されなかったことを示します。
表 1 のように、1 つの例外(ペプチド T12)が見られるものの、イオンペア試薬に TFA またはギ酸のいずれかを使用した場合、すべてのペプチドが複数の多価イオンで検出されました。また、トラスツズマブの重鎖の 93% のペプチドが検出されました。同様に、TFA またはギ酸を用いた場合、多価のトラスツズマブ消化物から、軽鎖の 92% のペプチドフラグメントが検出されました。検出されなかったペプチドは、カラムに保持されなかったか、実験で設定した m/z 350 未満の荷電状態であったかのいずれかです。
これらのデータから、ACQUITY QDa 検出器が TFA および FA ベースの両メソッドと互換性があり、アッセイのモニタリングのメソッド開発に高い柔軟性をもたらすことが確認されました。
これらの結果から、 検出されたペプチドの質量精度はどの程度なのかという疑問が生じるのは当然です。
このために、ACQUITY QDa の質量精度に関する評価を検出されたペプチドのベースピークイオン(BPI)を用いて実施しました。この評価では、各ペプチドの平均分子量を使用して、m/z の測定値と理論値の間の差異を BPI に対して算出しました。
図 4 のように、質量の差異と平均分子量の理論値との比較をプロットしました。図4 に示されたように、測定ペプチドの BPI から導いた質量は装置の仕様である ± 0.2 Da 以内 (青色の強調) であり、大半のペプチドは ± 0.10 Da に収まりました。この結果から、ACQUITY QDa 検出器は、ルーチンの生物治療薬分析に用いられるアッセイにおいて、広範な分子量のペプチドに対する正確な質量情報を提供できることが実証されました。
これまでの検討から、ACQUITY QDa 検出器は光学検出に対する相補的な検出技術となり、単一のワークフローの生産性を改善できることが示されました。医薬品業界では、最小限の労力で既存のワークフローに組み入れることができ、データの価値を高めることが可能な、費用対効果の高い技術が強く望まれています。
以前の検討から発展した本アプリケーションノートでは、代表的なバイオ医薬品を使用して ACQUITY QDa 検出器の性能を評価しました。この研究から、ACQUITY QDa 検出器が従来の LC 移動相と互換性があり、標準的なバイオ医薬用ペプチドマップに見られる広範な分子量のペプチドを検出し、かつ正確な質量情報を報告できることが実証されました。
要約すると、これらの結果から、ACQUITY QDa はバイオ医薬分析者のラボに追加するのに理想的な検出器であり、ルーチンのペプチド分析アッセイにおいて生産性、およびデータ分析の信頼性を向上できることが示されました。
720005266JA、2015 年 1 月