• アプリケーションノート

ワイドポア Amide 結合固定相を用いたインタクト糖タンパク質の高分離 HILIC 分析法の開発

ワイドポア Amide 結合固定相を用いたインタクト糖タンパク質の高分離 HILIC 分析法の開発
  • Matthew A. Lauber
  • Scott A. McCall
  • Bonnie A. Alden
  • Pamela C. Iraneta
  • Stephan M. Koza

  • Waters Corporation

要約

親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)は高極性化合物を分離するツールとして広く採用されています。実際、低分子の分離のための一般的な手法となっています。比べて、例えばタンパク質グリコシル化の特性解析においてなど HILIC の選択性が非常に有用である例はあるにも関わらず、生体高分子への HILIC の適用は比較的限られています。

糖鎖を分析するための典型的なアプローチには、タンパク質からの酵素的もしくは化学的な糖鎖の切り出しと、HILIC によるクロマトグラフィー分離があります。最適化した粒子径 2 µm 以下の Amide 結合固定相に基づく UPLC ベースの分離は、迅速な高分離を促進することで遊離糖鎖の HILIC 分離を一変させました。

タンパク質に結合している糖鎖の分析を可能にするために、本アプリケーションノートでは、最適化した HILIC カラムと、それを用いて質量範囲 10~150 kDa のインタクトおよび消化した糖タンパク質グライコフォームを分離する分析法を提案します。ワイドポア(300Å)Amide 結合有機シリカ(エチレン架橋型ハイブリッド:BEH)固定相を採用しています。

逆相分離が疎水性の異なるタンパク質のアイソフォーム分離に用いられるのと同様に、BEH Amide 300Å を用いた HILIC 分離が、糖鎖占有率に関して異なるアイソフォームなど親水性の異なるタンパク質のアイソフォーム分離に使用できることを実証します。

この新しい分離技術が使用できることで、HILIC を蛍光検出もしくは ESI-MS と組み合わせて、インタクト糖タンパク質のより詳細な特性解析が実施できるようになります。

利点

  • 固定相(結合相およびポアサイズ)、イオンペア、カラム加圧状態、注入アプローチの最適化によるインタクトタンパク質グライコフォーム HILIC 分離の向上
  • MS に適合する HILIC によりサンプル構成成分の詳細な研究が可能に
  • 従来の逆相(RP)分離と直交する選択性により糖タンパク質の修飾特性解析を促進
  • Glycoprotein BEH Amide、300Å、1.7 µm 固定相は糖タンパク質分離により QC 試験を実施し、一貫したバッチ間再現性を確保

はじめに

親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)は高極性化合物を分離するツールとして広く採用されています。実際、低分子の分離においては、比較的幅広く使用されるようになっています。比べて、例えばタンパク質グリコシル化の特性解析においてなど HILIC の選択性が非常に有用である例はあるにも関わらず、生体高分子への HILIC の適用は比較的限られています。糖鎖を分析するための標準的なアプローチには、タンパク質からの酵素的もしくは化学的な糖鎖の切り出しと、HILIC によるクロマトグラフィー分離があります。最適化した粒子径 2 µm 以下の Amide 結合固定相に基づく UPLC ベースの分離は、迅速な高分離を促進することで遊離糖鎖の HILIC 分離を一変させました1-2。 遊離糖鎖分析は代表的なアプローチですが、従来から長い時間がかかり、面倒なサンプル調製技術を必要とします。最近の GlycoWorks RapiFluor-MS N-Glycan キットの発売により、これらの欠点の多くは解消されました 3 が、例えば修飾部位の解析を行いたい場合 7 など、タンパク質グリコシル化特性解析の代替手段についても検討が必要です4-6

タンパク質に結合している糖鎖の相補的な分析を可能にするために、最適化した HILIC 固定相とそれを用いてインタクトおよび消化した糖タンパク質グライコフォームを分離する分析法を提案します。ワイドポア(300Å)Amide 結合有機シリカ(エチレン架橋型ハイブリッド:BEH)8 固定相を、分子量 10~150 kDa のインタクトタンパク質グライコフォームについて今までにない分離を達成するために厳密に開発した分析法と共に採用しました。 

実験方法

サンプルについて

Glycoprotein Performance Test Standard(ウシ RNase A および RNaseB の混合処方、製品番号 186008010)および RNase B(Sigma R7884)は 18.2 MΩ の水に溶解し、濃度 2 mg/mL に調製しました。トラスツズマブは濃度 21 mg/mL の溶液を水で 2 mg/mL に希釈しました。

カラムのコンディショニングには、Glycoprotein Performance Test Standard(100 µg)のバイアルの成分を 0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)80% アセトニトリル(ACN)溶液に溶かして 4 mg/mL のタンパク質溶液を調製しました。

糖鎖占有率アイソフォームの分離検討用には、Intact mAb Mass Check Standard(製品番号:186006552)を以下の手法を用いて脱グリコシル化しました。糖タンパク質(15 µg)は 1% (w/v) RapiGest SF および 50 mM HEPES(pH 7.9)を含む溶液 28.2 µL に溶解して濃度 0.52 mg/mL に調製しました。この溶液は 90℃で 3 分間加熱し、50℃に温度を下げた後、GlycoWorks Rapid PNGase F 溶液 1.2 µL と混合しました。このサンプルを 50℃で 5 分間インキュベートして完全に脱グリコシル化しました。部分的な脱グリコシル化サンプルは、Intact mAb Mass Check Standard を、加熱によるプレ変性無しに 50℃で 5 分間インキュベートすることで調製しました。

分析条件(特に記載の無い限り同じ)

カラムコンディショニング

新規(今まで未使用)の ACQUITY UPLC Glycoprotein BEH Amide、300Å、1.7 µm カラムは、実際の試験サンプル分析を行う前に 40 µg の Glycoprotein Performance Test Standard(0.1% TFA および 80% ACN を含む溶液に 4 mg/mL で溶解して 10 µL 注入)の 2 連続注入・分離で、もしくはカラムをマスクするのに必要なサンプルを同等量ロードしてコンディショニングを実施します。図 2 に示した分離は Glycoprotein Performance Test Standard を用いたコンディショニングに使用できます。 

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC H-Class Bio システム

サンプル温度:

5 ℃

分析カラム温度:

30 ℃(特に記載の無い限り同じ)

UV 検出:

214 nm / 280 nm、2 Hz

蛍光検出:

Ex 280 nm / Em 320 nm、10 Hz

流速:

0.2 mL/分

注入量:

≦ 1 µL(水系溶媒希釈)。注:室温ではタンパク質が析出する傾向にあるため、サンプルによっては高有機溶媒比率の希釈液を避ける必要があります。2.1 mm 内径カラムでは、クロマトグラフィー性能に悪影響を及ぼさずに水系溶媒希釈液を 1.2 µL 注入まで可能。

カラム:

ACQUITY UPLC Glycoprotein BEH Amide、300Å、1.7 µm、2.1×150 mm(Glycoprotein Performance Test Standard 添付して出荷);

ACQUITY UPLC Glycoprotein BEH Amide、300Å、1.7 µm、2.1×100 mm(Glycoprotein Performance Test Standard 添付して出荷);

ACQUITY UPLC BEH HILIC、130Å、1.7 µm、2.1×150 mm;

XBridge BEH HILIC、130Å、5 µm、2.1×150 mm;

ACQUITY UPLC Glycan BEH Amide、130Å、1.7 µm、2.1×150 mm;

ACQUITY UPLC Glycan BEH Amide、130Å、1.7 µm、2.1×100 mm

他社カラム:

PolyHYDROXYETHYL A、300Å、3 μm、2.1×100 mm;

Glycoplex A、3 µm、2.1×100 mm; ZORBAX.  RRHD 300-HILIC、300Å、1.8 µm、2.1×100 mm;

Halo PentaHILIC、90Å、2.7 µm、2.1×100 mm;

SeQuant ZIC-HILIC、200Å、3.5 µm、2.1×100 mm;

Accucore Amide、150Å、2.6 µm、2.1×100 mm;

TSKgel  Amide-80、80Å、3 µm、2.0×100 mm

カラムコネクター(150 mm カラム接続のため):

0.005×1.75 mm UPLC SEC カラム接続用チューブ

バイアル:

ポリプロピレン 12×32 mm、300 μL

スクリューネックバイアル

HILIC 分離テクノロジーの進化について示すために用いたグラジエント(図 1)

カラムサイズ:

2.1×150 mm

移動相 A:

0.1% (v/v) TFA 水溶液

移動相 B:

0.1% (v/v) TFA アセトニトリル溶液

時間(分)

%A

%B

Curve

0

20

80

6

20

80

20

6

21

20

80

6

30

20

80

6

RNase B HILIC 分離のためのフォーカスグラジエント(図 2 および 5)

カラムサイズ:

2.1×150 mm

移動相 A:

0.1% (v/v) TFA 水溶液

移動相 B:

0.1% (v/v) TFA アセトニトリル溶液

時間(分)

%A

%B

Curve

0

20

80

6

1

34

66

6

21

41

59

6

22

100

0

6

24

100

0

6

25

20

80

6

35

20

80

6

性能評価のためのグラジエント(図 3)

カラムサイズ:

2.1×150 mm

移動相 A:

0.1% (v/v) TFA 水溶液

移動相 B:

0.1% (v/v) TFA アセトニトリル溶液

時間(分)

%A

%B

Curve

0.0

20

80

6

0.7

30

70

6

29.3

45

55

6

30.0

80

20

6

31.3

80

20

6

32.0

20

80

6

40.0

20

80

6

移動相モディファイアー選択のためのグラジエント(図 4)

カラムサイズ:

2.1×150 mm

移動相 A:

0.1% (v/v) TFA 水溶液もしくは 50 mM ギ酸アンモニウム(pH4.4)水溶液もしくは 0.5% (w/v) ギ酸水溶液

移動相 B:

ACN

時間(分)

%A

%B

Curve

0

20

80

6

20

80

20

6

21

20

80

6

30

20

80

6

RNase B 逆相分離のためのフォーカスグラジエント(図 6)

カラムサイズ:

2.1 x 150 mm

移動相 A:

0.1% (v/v) TFA, 水

移動相B:

0.1% (v/v) TFA, ACN

時間(分)

%A

%B

Curve

0

95

5

6

1

74.5

25.5

6

21

67.5

32.5

6

22

10

90

6

24

10

90

6

25

95

5

6

35

95

5

6

インタクトトラスツズマブのためのフォーカスグラジエント(図 7 および 8)

カラムサイズ:

2.1×150 mm に

内径 25 μm ポストカラムチュービングで長さ変更

もしくは 2.1×150 mm カラムを 2 本連結

移動相 A:

0.1% (v/v) TFA 水溶液

移動相 B:

0.1% (v/v) TFA アセトニトリル溶液

時間(分)

%A

%B

Curve

0

20

80

6

1

30

70

6

21

37

63

6

22

70

30

6

24

70

30

6

25

20

80

6

45

20

80

6

IgG 糖鎖占有アイソフォーム分離のための条件(図 9)

カラムサイズ:

2.1×150 mm 2 本連結もしくは 2.1×150 mm 1 本

カラム温度:

80 ℃

移動相 A:

0.1% TFA、0.3% HFIP 水溶液

移動相 B:

0.1% TFA、0.3% HFIP アセトニトリル溶液

時間(分)

%A

%B

Curve

0

20

80

6

10

50

50

6

11

100

0

6

14

100

0

6

15

20

80

6

25

20

80

6

MS 条件

MS システム:

Xevo G2 QTof

イオン化モード:

ESI+

測定モード:

Resolution(~20 K)

キャピラリー電圧:

3.0 kV

コーン電圧:

45 V

ソース温度:

150 ℃

脱溶媒温度:

350 ℃

脱溶媒ガス流速:

800 L/時間

キャリブレーション試薬:

NaI(2 µg/µL、m/z 100-2000)

データ取り込み:

m/z 500-4000、スキャン時間 0.5 秒

データ管理:

MassLynxソフトウェア(v4.1)

結果および考察

糖タンパク質分離に向けた HILIC テクノロジーの発展

HILIC は 1990 年代初頭に逆相クロマトグラフィーから採用した移動相を用いて高極性化合物を分離するための技術として始まりました9。 HILIC 分離メカニズムは、固定化された水和層を形成する極性の固定相によると主に考えられています9。 親水性分析種は固定化された水和層へ分配され、水素結合、双極子相互作用、イオン性相互作用により固定相と相互作用します。このように、親水性分析種は低極性の初期組成移動相条件下で HILIC 固定相に保持され、LC のグラジエントにより極性移動相の濃度を増加させていくことで、後ろに溶出されます9

数多くの HILIC もしくは HILIC 様の固定相が過去 20 年位の間に開発されました。多くは非修飾シリカをベースとしたタイプで、ポリアルコールや両性イオンを結合したタイプなどの HILIC 固定相もあります。糖鎖の保持および選択性向上には、アミド結合相の使用が広まってきています。例えば、Waters Glycan カラムに用いられる ACQUITY UPLC Glycan BEH Amide 固定相は、高分離遊離糖鎖分析に向けて広く使用されています。 

しかしながら、前述したように、HILIC はインタクトの高分子アプリケーションにおける広範な使用は見受けられません。高有機溶媒比率によるタンパク質の析出に関する懸念が、HILIC ベースのタンパク質分析法開発を試みるのを思いとどまらせる大きな理由です。この認識を乗り越えるために、我々は高分子分離を促進するために設計されたワイドポア有機シリカ(エチレン架橋型ハイブリッド:BEH)パーティクルベースのアミド結合固定相を新たに開発しました。この固定相は、タンパク質が充塡剤細孔内の大半にアクセスでき、分析種のサイズが固定相の平均細孔径に非常に近い場合(例、3 倍以内)に生じる拡散の制限による顕著なピークの拡散を起こさないような大きい平均細孔径です。 

この新規固定相に至った HILIC テクノロジーの進歩は注目に値します。高分子 HILIC に向けたこの新たなテクノロジーは、いくつかのハイマンノース(Man5 – Man9)グライコフォームから成る 13 kDa のタンパク質である、ウシ ribonuclease B(RNase B)の分離に用いることができます。図 1 はいくつかの異なる固定相で分離した RNase B を示しています。下から上に行くにつれて、粒子径が 5 µm から 1.7 µm に、非修飾からアミド結合相に、スタンダードポアサイズ(130Å)からワイドポアサイズ(300Å)にと、より新規のクロマトグラフィーテクノロジーが採用され、より良好な RNase B の分離が達成されています。RNase B のグライコフォームが最も良好に分離したのは、BEH Amide、300Å、1.7 µm パーティクルです。ワイドポア固定相の使用が、最適な分離の達成に重要な役割を果たしています。ウシ RNase B、そのグライコフォームと脱グリコシル化したアイソフォーム(RNase A)を含む新規開発試験混合物(Glycoprotein Performance Test Standard)を用いて示した評価結果を図 2 に示しました。本スタンダードを用いた分離例では、ワイドポア(300Å)BEH Amide固定相、スタンダードポア(130Å)BEH Amide 固定相両方にフォーカスグラジエントが使用されています。ワイドポアアミドカラムでは、分離全体に渡って大きく向上が見られたことに加え、脱グリコシル化した RNase A アイソフォームと RNase B の Man5 グライコフォームの分離度が顕著に(24%)向上しました。

図 1.インタクト糖タンパク質分離における HILIC 固定相テクノロジーの進化。HPLC サイズの非修飾有機シリカ(XBridge BEH HILIC、130Å、5 µm)から粒子径 2 µm 以下のアミド結合有機シリカ、300Å、1.7 µm パーティクル(ACQUITY UPLC Glycoprotein BEH Amide 300Å、1.7 µm)までの固定相を充塡した 2.1×150 mm カラムを用いた RNase B 1 µg の分離。 
図 2.Glycoprotein BEH Amide 300Å、1.7 µm カラムと BEH Amide、130Å、1.7 µm カラムを用いた Glycoprotein Performance Test Standard(RNase A + RNase B グライコフォーム)の分離。記載の分離度はピーク 1 および 2(RNase A + RNase B グライコフォーム)の半値幅を用いて計算。この例では、Ex 280 nm、Em 320 nm の蛍光検出で、カラム温度 45℃を採用。

他の市販 HILIC 固定相と比較すると、この最新開発品の有用性はより明白です。9 種類の異なる HILIC 固定相による RNase B 分離評価結果を図 3 に示しました。評価した 9 種類のうち 6 つでは、回収率が悪い、保持が不十分など望ましく無い結果を示しました。100Å 以上のポアサイズのパーティクルを用いたアミド結合固定相でのみ RNase B グライコフォームの妥当な分離が達成できました。

図 3.インタクト糖タンパク質分離に向けた市販 HILIC カラムの評価。(A)9 種類の異なる固定相を用いた RNase B の UV クロマトグラム。(B)最も高分離の HILIC UV クロマトグラムの拡大図。

移動相最適化、MS 適合性、逆相との直交性

タンパク質グライコフォームの高分離 HILIC 分析には、移動相選択について考慮することが重要です。顕著なイオン性相互作用を軽減し、移動相 pH をコントロールするために、多くの HILIC 分離ではアンモニウム塩(ギ酸塩もしくは酢酸塩)が用いられます。この移動相システムの糖タンパク質分析への適合性を RNase B を用いて評価しました。

図 4 には、HILIC 分離でよく使用される移動相モディファイアーである 50 mM ギ酸アンモニウム、0.5% ギ酸と 2,7、その代わりに 0.1% TFA を使用して得られた RNase B のクロマトグラムを示しました。グライコフォームが最も良く分離したのは 0.1% TFA を用いた時です。グライコフォームの分離向上と同時に、TFA 添加移動相では RNase B の保持が低減しました。これらの結果から、HILIC を用いた糖タンパク質の高分離達成には、酸性イオンペア条件が重要であることが明らかです。TFA を用いた酸性条件により、タンパク質の酸性残基を十分にプロトン化することで、より疎水性の状態で存在するようになります。加えて、TFA カウンターイオンが塩基性残基にイオンペアとして働き、陽イオン性残基もより疎水性の形態で分離されます。このように、HILIC 固定相への糖タンパク質の保持は主に糖鎖により決定し、糖鎖修飾の違いに対しより選択的な分離が達成されます。  

図 4.インタクトおよび消化糖タンパク質の分離に向けた移動相条件最適化。(A)様々な移動相と Glycoprotein BEH Amide 300Å、1.7 µm、2.1×150 mm カラムを用いた RNase B の UV クロマトグラム。(B)糖タンパク質 HILIC 分離へのイオンペアの有用性を示す概略図。疎水性の強酸によるイオンペアにより低減した親水性は赤色の網掛けにより表示[PDB:1RBB]。

幸い、TFA 移動相はその揮発性から ESI-MS に容易に接続できます。開発した HILIC 分析法のこの特徴により、分離したグライコフォームのオンライン特性解析が可能となり、グリコシル化したタンパク質を含むサンプルのプロファイリングに新たな選択肢を提供します。この目的を達成するために、BEH Amide、300Å、1.7µm カラムを用いて RNase B から分離したピークは ESI-MS により確認しました。  

図 5 には、RNase B の分離により得られた UV クロマトグラムとトータルイオンクロマトグラム(TIC)を示しています。6 種類の標識ピークについて得られたマススペクトルの積算およびデコンボリューション(MaxEnt 1)により、RNase B グライコフォームが検出されたことを確認しました。実際、デコンボリューションした質量は、Man5 から Man9 まで修飾度の異なる RNase B と併せて脱グリコシル化した RNase B(RNase A)の同定も裏付けています。 

図 5.RNase B の HILIC-MS。(A)フォーカスグラジエントと Glycoprotein BEH Amide、300Å、1.7 µm、2.1×150mm カラムを用いて RNase B について得られた Uv(下)および TIC(上)クロマトグラム。(B)各標識ピークについて得られたデコンボリューションした MS スペクトルと対応するグライコフォームの同定結果。 

最後に、この新規開発固定相と実証した分析法により従来の逆相分離とは直交する相補的な新たな分離選択性が提供される点について注目して下さい。例えば、図 6A にはグリコシル化したアイソフォームから脱グリコシル化した RNase B(RNase A)を十分に分離するために、BEH C4 300Å、1.7 µm カラムを用いて逆相により RNase B が分離できることを示しています。しかしながら、RNase B のハイマンノースグライコフォーム同士は、逆相により分離することができません。一方、BEH Amide、300Å、1.7 µm カラムでは各主要なグライコフォームがベースライン分離しました(図 6B)。 

図 6.BEH C4、300Å、1.7 µm カラムを用いた逆相と BEH Amide、300Å、1.7 µm カラムを用いた HILIC の直交性。(A)ACQUITY UPLC Protein BEH C4、300Å、1.7 µm、2.1×150 mm カラムを用いた RNase B(1 µg)の分離。(B)ACQUITY UPLC Glycoprotein BEH Amide、300Å、1.7 µm、2.1×150 mm カラムを用いた RNase B(1 µg)の分離。 

インタクト mAb の不均一なグライコフォームの分離

この新規テクノロジーの限界を探究するために、インタクト mAb グライコフォームの分離可能性について検討を行いました。特に、トラスツズマブの分離について確認しました。この実験では、サンプルの注入について特に考慮する必要がありますが、これは主にトラスツズマブやその他多くの糖タンパク質は高濃度の有機溶媒への溶解が難しいためです。実際、IgG などのタンパク質では、70-80% のアセトニトリルの溶液条件で通常析出しはじめます。そのため、最適な水系希釈溶媒のサンプル注入の条件について検討し、2.1 mm 内径カラムでは水系希釈液に溶かしたサンプル 1 µL まで対応できることが分かりました。2 mg/mL のトラスツズマブの水系サンプルを用いて、適切なサンプル負荷量を注入し、IgG の HILIC 分離を実施しました。インタクトタンパク質の HILIC 分離ではアセトニトリル高濃度の希釈液を用いることができますが、0.2-1.0% の濃度で TFA イオンペアを使用、TFA とヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を組み合わせて適用、もしくはジメチルスルフォキシド(DMSO)などの強溶媒を使用することでタンパク質サンプルの溶解性を向上するように注意を払う必要があります(データは記載無し)。

図 7 に示すように、トラスツズマブは BEH Amide、300Å、1.7 µm カラムと 100% 水系希釈液の注入により実際に複数のピークに分離できます。しかしながら、150 mm 長さのカラムにおける背圧では、著しくテーリングが見られます。MS 分析から、最初の一連のピークはインタクトトラスツズマブの G0F/G0F、G0F/G1F、G1F/G1F、G1F/G2F グライコフォームと正確に帰属されました。インタクト IgG は 2 つの重鎖に最低でも 2 箇所の N 結合型糖鎖のサイトをもつ二量体構造で、連結により形成されたグライコフォームとして見られることを説明しています。これは、IgG のインタクト質量分析の結果による解析とも一致しています10。 一方、MS により確認したクロマトグラフィープロファイルのテーリングしている成分は、複数の共溶出しているトラスツズマブのグライコフォームに相当していました。この結果から、オンカラムでの凝集が起きており、特に、インタクトタンパク質を逆相で分析する際のキャリーオーバやゴーストを防ぐために超高背圧が有効であることがすでに報告されている 11 ことから、カラム背圧を上げることがインタクトの免疫グロブリンを HILIC で分析する上での解決策となることを提唱します。更なるカラム背圧の効果について、様々な長さの内径の細いポストカラム PEEK チューブを用いて検討しました。図 7(濃い色の線)はカラム背圧上昇による影響を示しています。トラスツズマブが約 7500 psi の条件下で溶出するようにカラム背圧を 2 倍にすると、クロマトグラフィープロファイルで凝集体と推定されるピークが消失しました。これらの条件下で結果として得られたクロマトグラフィープロファイルは 5 種類の主要なグライコフォームにより表され、再度になりますが、これはインタクトトラスツズマブの ESI-MS の結果と一致していました10。 さらに、カラム背圧が上昇するに従って保持時間が低減したことも興味深い点です。これは単糖の HILIC 分離に関して以前に報告されている現象です12。 背圧を上昇させることで分析種への水の配位が減少し、逆相クロマトグラフィーで見られたものとは逆の影響で、保持が低減したということが提示されています12

図 7.IgG の HILIC 分離におけるカラム背圧の影響。トラスツズマブ(1 µg)を Glycoprotein BEH Amide、300Å、1.7 µm、2.1×150mm カラムと流路制限有りもしくは無しで分離[PDB:1IGT]。

超高背圧下におけるインタクト IgG の分離の利点を考慮して、BEH Amide、300Å、1.7 µm、2.1×150 mm カラム 2 本を低拡散で高耐圧のカラムコネクターを用いて接続して分離を実施しました。この連結カラムを用いて得られたインタクトトラスツズマブの分離は、グライコフォームの分離を達成できたことの証拠となる抽出イオンクロマトグラムと併せて図 8 に示しました。この 300 mm の構成により、最適な HILIC 分離とさらにグライコフォーム間のより良好な分離に必要なカラム背圧がもたらされます。非常に高分子の分析種の場合も HILIC で分離する際に更なる理論段数は有効であることは明白で、高分子の HILIC 分離における分配の重要性を裏付けています。 

糖鎖占有率のための LC 分析法

インタクト IgG の UPLC HILIC 分離は、単に各グライコフォームの分離のためだけに使用できるという訳ではありません。同じように興味深いことに、これらの新しい分離を糖鎖占有率に関する情報を得るためにも使用できます。この目的を達成するために、BEH Amide、300Å カラムの IgG の糖鎖占有率評価における可能性を評価しました。この評価は、PNGase F で異なる脱グリコシル化処理をした反応物の分析検討により実施しました。高温の 80℃のカラム温度、TFA イオンペアと HFIP の移動相への添加により、IgG の溶解度を向上でき、微細構造を崩壊させますが、そうしないと個々の不均一なインタクト IgG グライコフォーム(例えば、G0F/G0F vs. G0F/G1F)で保持されます。図 9 には、非変性 Intact mAb Mass Check Standard(マウス IgG1 mAb)および部分的もしくは完全に脱グリコシル化したアイソフォームの分離についての HILIC 蛍光クロマトグラムを示しています。図に示すように、これら 3 種類のサンプルの HILIC 蛍光プロファイルは大きく異なっています。オンライン MS 検出によって、これら 3 つのプロファイルに見られるピークは異なる糖鎖占有率の状態に相当することが確認されました。  

図 8.ACQUITY UPLC Glycoprotein BEH Amide 300Å、1.7 µm、2.1×150 mm カラムを 2 本連結して用いたインタクトトラスツズマブのグライコフォームの分離。トラスツズマブの主要な不均一なグライコフォームについての UV クロマトグラムおよび抽出イオンクロマトグラムを示しました。  mAb 保持時間におけるカラム背圧は約 7,000 psi。
図 9.インタクトタンパク質 HILIC-FLR-MS による糖鎖占有率および脱グリコシル化の評価。3 種類のサンプルについて得られた HILIC 蛍光プロファイルをそれぞれ示しました:(A)未変性(B)部分的に脱グリコシル化(C)完全脱グリコシル化 Intact mAb Mass Check Standard。この mAb サンプル(1.5 µg)は ACQUITY UPLC Glycoprotein BEH Amide 300Å、1.7 µm、2.1×150 mm カラムを 2 本連結して分離。(D)ACQUITY UPLC BEH Amide、130Å、1.7 µm、2.1×150 mm カラムおよび(E)ACQUITY UPLC Glycoprotein BEH Amide 300Å、1.7 µm、2.1×150 mm カラムを用いた部分的に脱グリコシル化した Intact mAb Mass Check Standard の HILIC 蛍光プロファイルの比較。

非未変性 mAb に代表される、最も強く保持したピークは、インタクト mAb の 2 箇所(全て)グリコシル化した形態に相当します。部分的に脱グリコシル化した mAb サンプルでは同時に弱い HILIC の保持でいくつかのさらなるピークが見られ、このうち 2 つは対応して検出された分子量から一ヶ所および全て脱グリコシル化した mAb 種で、3 つ目のピークは検出された分子量から PNGase F であることが示されました。一方、完全に脱グリコシル化した mAb サンプルでは、脱グリコシル化した mAb の予測される分子量(145.3 kDa)と一致した分子量がみられる均一な蛍光プロファイルが得られました。BEH Amide、130Å、1.7 µm 固定相の使用を試みた場合、上記のピークはどれも分離できなかった(図 9D および 9E)点は注目すべき点です。つまり、ワイドポア固定相によって、以前までは得られなかった分離の開発が促進されました。

ウォーターズでは、上記評価を用いて迅速な酵素的脱グリコシル化のプロトコールを開発しました3。 また一方、この同じ分析法がインタクト治療用 mAb の糖鎖占有率測定に適用できると示唆するのは自然なことですが、ここでは、脱グリコシル化した形態(-2 および -1 N 結合型糖鎖)の相対存在量は蛍光によりモニターされ、LC-MS により裏付けられると考えられます。

結論

低分子の HILIC は広く注目を集め使用されています。一方、この技術の生体高分子分離への適用は限られてきました。上記のアミド結合ワイドポア HILIC 固定相と対応する分析法によって、インタクトトラスツズマブの不均一なグライコフォームの分離で例に示すように、インタクトのグリコシル化したタンパク質のグライコフォームが分離できるようになりました。また、この技術は糖鎖占有率の研究にも適用できます。逆相分離が疎水性の異なるタンパク質のアイソフォーム分離に用いられるのと同様に、BEH Amide 300Å を用いた HILIC 分離は、糖鎖占有率に関して異なるアイソフォームなど親水性の異なるタンパク質のアイソフォーム分離に用いることができます。この新しい分離技術が使用できることで、HILIC を蛍光検出もしくは ESI-MS と組み合わせて、インタクト糖タンパク質のより詳細な特性解析が実施できるようになります。 

参考文献

  1. Ahn, J.; Yu, Y. Q.; Gilar, M., UPLC-FLR Method Development of 2-AB Labeled Glycan Separation in Hydrophilic Interaction Chromatography (HILIC).Waters Appication Note 720003238EN 2010.
  2. Ahn, J.; Bones, J.; Yu, Y. Q.; Rudd, P. M.; Gilar, M., Separation of 2-aminobenzamide labeled glycans using hydrophilic interaction chromatography columns packed with 1.7 microm sorbent.J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci 2010, 878 (3–4), 403–8.
  3. Lauber, M. A.; Brousmiche, D. W.; Hua, Z.; Koza, S. M.; Guthrie, E.; Magnelli, P.; Taron, C. H.; Fountain, K. J., Rapid Preparation of Released N-Glycans for HILIC Analysis Using a Novel Fluorescence and MS-Active Labeling Reagent.Waters Application Note 720005275EN 2015.
  4. Wang, B.; Tsybovsky, Y.; Palczewski, K.; Chance, M. R., Reliable Determination of Site-Specific In Vivo Protein N-Glycosylation Based on Collision-Induced MS/MS and Chromatographic Retention Time. J Am Soc Mass Spectrom 2014, 25 (5), 729–41.
  5. Shah, B.; Jiang, X. G.; Chen, L.; Zhang, Z., LC-MS/MS peptide mapping with automated data processing for routine profiling of N-glycans in immunoglobulins.J Am Soc Mass Spectrom 2014, 25 (6), 999–1011.
  6. Houel, S.; Hilliard, M.; Yu, Y. Q.; McLoughlin, N.; Martin, S. M.; Rudd, P. M.; Williams, J. P.; Chen, W., N- and O-glycosylation analysis of etanercept using liquid chromatography and quadrupole time-of-flight mass spectrometry equipped with electron-transfer dissociation functionality.Anal Chem 2014, 86 (1), 576–84.
  7. Gilar, M.; Yu, Y. Q.; Ahn, J.; Xie, H.; Han, H.; Ying, W.; Qian, X., Characterization of glycoprotein digests with hydrophilic interaction chromatography and mass spectrometry.Anal Biochem 2011, 417 (1), 80–8.
  8. O’Gara, J. E.; Wyndham, K. D., Porous Hybrid Organic-Inorganic Particles in Reversed-Phase Liquid Chromatography. J Liq Chromatogr Relat Technol. 2006, 29, 1025–1045.
  9. Alpert, A. J., Hydrophilic-interaction chromatography for the separation of peptides, nucleic acids and other polar compounds.J Chromatogr 1990, 499, 177–96.
  10. Xie, H.; Chakraborty, A.; Ahn, J.; Yu, Y. Q.; Dakshinamoorthy, D. P.; Gilar, M.; Chen, W.; Skilton, S. J.; Mazzeo, J. R., Rapid comparison of a candidate biosimilar to an innovator monoclonal antibody with advanced liquid chromatography and mass spectrometry technologies.MAbs 2010, 2 (4).
  11. Eschelbach, J. W.; Jorgenson, J. W., Improved protein recovery in reversed-phase liquid chromatography by the use of ultrahigh pressures.Anal Chem 2006, 78 (5), 1697–706.
  12. Neue, U. D.; Hudalla, C. J.; Iraneta, P. C., Influence of pressure on the retention of sugars in hydrophilic interaction chromatography.J Sep Sci 2010, 33 (6–7), 838-40.

ソリューション提供製品

720005380JA、2015 年 4 月

トップに戻る トップに戻る