本アプリケーションノートでは、革新的な逆相 SPE 充塡剤 Oasis PRiME HLB といくつかの一般的に市販されている逆相 SPE デバイスについて、分析種の回収率とマトリックス効果について比較しました。
Oasis PRiME HLB は、簡単なロード-洗浄-溶離のステップのみで、簡単で迅速な SPE プロトコールにより内因性リン脂質をほぼ除去するように設計されています。Oasis PRiME HLB を用いた薬物一斉分析では低く一貫したマトリックス効果を示したのに対して、他社の SPE デバイスでは、特に溶出の遅い分析種に対して高いマトリックス効果と高い変動を示しました。
Oasis PRiME HLB は、高い回収率、低い変動性、低いマトリックス効果により、SPE テクノロジーにおいて独特な進歩をとげました。この結果、より長いカラム寿命、より少ない質量分析計のイオン源メンテナンス頻度に繋がります。
Oasis PRiME HLB は、従来のサンプル前処理メソッドに比べ、よりシンプルで速い SPE プロトコールを可能にすると同時により綺麗なサンプルを得るための新規逆相 SPE 充塡剤です。本アプリケーションではコンディショニングと平衡化を省いたサンプルロード-洗浄-溶離という 3 ステップ SPE プロトコールにより、全血サンプルから 22 種類の合成カンナビノイドおよび代謝物を抽出することに成功しました。優れた回収率(90 ~ 110%)、最小の相対標準偏差(以下 %RSD)(3 ~ 7%)、最小のマトリックス効果(ME)を全ての分析種で確認できました。同時に他の逆相固相デバイスによる 5 ステップの SPE プロトコールによる抽出を並行して行いました。その結果は、Oasis PRiME HLB と比べ、低い回収率(最小 46%)、高い %RSD(最大 41%)、高いマトリックス効果となりました。カンナビノイド JWH-203 は、他の全ての固相抽出デバイスでは深刻なマトリックス効果により約 80% のイオンサプレッションを示しましたが、Oasis PRiME HLB では 11% のマトリックス効果に留めることができました。本結果は、Oasis PRiME HLB によるリン脂質の除去により実現しています。Oasis PRiME HLB は綺麗な抽出物をより簡単なプロトコールでより短時間で得ることに成功した次世代の逆相 SPE 製品であるといえます。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class |
カラム: |
CORTECS UPLC C18 カラム、1.6 µm、2.1 x 100 mm |
カラム温度: |
30 ˚C |
注入量: |
5 µL |
流速: |
0.6 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液(MilliQ 水) |
移動相 B: |
0.1% ギ酸含有アセトニトリル |
グラジエント条件: |
初期組成は 30%B。% B を 2 分間で 50% まで増加、その後 1 分間ホールドし、%B を 4 分間で 90% まで増加、その後 %B を 0.2 分間で 30% まで戻しました。1.3 分間システムの平衡化を行いました。全体の分析時間は 8.5 分でした。表 1 にグラジエント条件について示しました。 |
MS システム: |
Xevo TQD 質量分析計 |
イオン化モード: |
ESI ポジティブ |
取り込みモード: |
MRM(トランジションは表 2 参照) |
キャピラリー電圧: |
1 kV |
コリジョンエネルギー(eV): |
分析種毎に最適化(表 2 参照) |
コーン電圧(V): |
分析種毎に最適化(表 2 参照) |
データ解析: |
全てのデータは Waters MassLynx ソフトウェア v.4.1(scn 855)を用いて定性、分析を行い、TargetLynx ソフトウェアを用いて定量しました。IntelliStart を用いて質量分析計の最適化を行いました。 |
AM2233、JWH-015、RCS-4、JWH-203、RCS-8、JWH-210、JWH-073、JWH-018 は Cerilliant 社(Round Rock, TX)から購入しました。その他の標準物質と代謝物は、Cayman Chemical 社(Ann Arbor, MI)から購入しました。
個々のストック標準溶液(1 mg/mL)はメタノール、DMSO、50:50 DMSO:メタノールで調製しました。全分析種の混合ストック標準溶液(10 µg/mL)はメタノールで調製しました。
作業用標準溶液は、用時 40% メタノール水溶液で調製しました。回収率を求めるためのサンプルは、全血に作業用標準溶液を直接スパイクして調製しました。一般的なリン脂質は、分離全体にわたってモニターしました。
Oasis PRiME HLB 10 mg プレートによりサンプルを抽出しました。0.1 mL の 0.1 M 硫酸亜鉛 / 酢酸アンモニウム水溶液を 0.1 mL の全血サンプルに加え、5 秒間、細胞を溶解させるためにボルテックスしました。全てのサンプルは 400 µL のアセトニトリルを加えてタンパク沈殿させました。サンプルを 10 秒間ボルテックスした後、5 分間 7000 rcf で遠心分離を行いました。上清を 1.2 mL の水で希釈し、コンディショニングと平衡化を行っていない Oasis PRiME HLB 10 mg プレートにロードしました。その後、500 µL の 25:75 メタノール:水で 2 回洗浄し、90:10 のアセトニトリル:メタノール溶液 500 µL で 2 回溶離しました。溶離液は窒素気流で乾固させ、100 µL の 30% アセトニトリル水溶液に再溶解し、5 µL を UPLC システムに注入しました。
比較した他の SPE デバイスフォーマットも 96 ウェルプレートに 10 mg の充塡剤が充塡されたものを使用しました。サンプル調製は Oasis PRiME HLB と同様に行いました。比較した SPE デバイスでの固相抽出の際は 1 mL のメタノールと 1 mL の水でコンディショニングと平衡化を行い、その後 Oasis PRiME HLB プレートと同様のロード、洗浄、溶離ステップを行いました。図 1 にサンプル前処理の詳細を示しました。
分析種の回収率は下記の式で計算されます:
%回収率 = (面積 A / 面積 B) x 100%
A は抽出サンプルのピーク面積を表しており、B はブランクマトリックス抽出後に分析種が添加されたサンプルのピーク面積を表しています。
マトリックス効果は下記の式で計算されます:
マトリックス効果 = ((マトリックス有りのピーク面積値 / マトリックス無しのピーク面積値) - 1) x 100%
マトリックス有りのピーク面積値はサンプル前処理後に分析種を加えたピーク面積を表しています。マトリックス無しのピーク面積値は分析種を添加した溶離溶媒のピーク面積を表しています。
これまでの報告より、Oasis HLB のような水湿潤性充塡剤のみがコンディショニングと平衡化がなくても使用できることが実証されています。一般に使用されているほとんどの逆相 SPE においてはコンディショニングと平衡化のステップは省くことができません。これを証明するために Oasis PRiME HLB とシリカベース C18 充塡剤、他のポリマーベース充塡剤の回収率比較を行いました。この試験のため、µElution プレートフォーマットとラット血漿サンプルを使用しました。コンディショニングと平衡化を省略した 3 ステッププロトコールではシリカベース C18 や他のポリマーベース充塡剤では低い回収率を示しました(図 2)。一方 Oasis PRiME HLB では 3 ステッププロトコールで非常に良好な回収率が得られました。これは、たとえポリマーベースの充塡剤であっても、水湿潤性がなかったり、部分的な水湿潤性しか有していなければ、本研究で用いたシンプルなサンプル前処理は使用できないことを表しています(詳細は、アプリケーションノート 720005140EN をご参照ください)。以上から、本アプリケーションでは、バイアスのかかっていない合成カンナビノイト抽出の性能比較をするため、Oasis PRiME HLB では 3 ステッププロトコールを、他の SPE デバイスでは 5 ステッププロトコールを適応しました。
分析した 22 種類の合成カンナビノイドを表 2 に示します。幅広い分析種群の合成カンナビノイドから構成されています。これらは adamantyl indoles(AM 1248 および AKB48)、napthoylindoles(JWH-022)、phenylacetyl indoles(RCS-4 および RCS-8)、tetramethylcyclopropylindoles(UR-144 および XLR11)を含みます。JWH-073 および JWH-018 の主要な代謝物を含み、これらのいくつかの分析種は同じマススペクトルフラグメントを持つ構造異性体であるため、正確な定量のために適切なクロマトフィーによる分離が求められます。
CORTECS のソリッドコア構造および最適化されたカラム充塡法により、優れたクロマトグラフィー性能を発揮します。図 3 に、全分析種の 20 ng/mL 校正標準物質の代表的なクロマトグラムを示します。表 1 にピークの情報を示します。CORTECS UPLC C18 カラム(1.6 µm、2.1 × 100 mm)を用いることにより、全分析種は 7.5 分以内に溶出し、全分析時間は 8.5 分でした。全分析種においてピーク形状は優れており、テーリングや非対称性はなく、ピーク幅はベースラインから高さの 5% の位置で 3 秒未満でした。
本研究で用いた合成カンナビノイドおよび代謝物は、中性、酸性、塩基性の分析種を含みます。逆相固相を用いることにより、イオン性に関係なく、一斉に分析種および代謝物を抽出可能です。図 4a および表 3 に、実験方法セクションで記載した計算方法に従って、Oasis PRiME HLB と他社逆相 SPE での回収率の結果を示しました。Oasis PRiME HLB では、21/22 の分析種の回収率が 90 ~ 110% の間にあり(AM 2233 は回収率 71%)、%RSD は 3 ~ 7% の範囲でした。他社の逆相デバイスでは、より低い回収率と高い変動のある結果でした。他社 SPE「EVA」は回収率 60~97%、%RSD 1~17% でした。他社 SPE「STX」は回収率 59~92%、%RSD 2~27% でした。他社 SPE「PLX」は回収率 46~84%、%RSD 3~41% でした。JWH-203、JWH-018、RSC-8、UR-144、JWH-210、AB-001、AKB-48 の 7 種の分析種は、全他社 SPE デバイスにおいて許容できない程 %RSD が高く(%RSD は EVA で 17%、STX で 27%、PLX で 41%)、正確な定量が行えませんでした。結論として、合成カンナビノイドの一斉分析における高い回収率と低い %RSD は、Oasis PRiME HLB が簡単なロード-洗浄-溶離プロトコールにて、他の関連分析種に対しても同様な結果をもたらすことを示唆します。
マトリックス効果は実験方法セクションで記載した方法で計算し、図 4b に結果を示しました。マトリックス効果は一斉分析において、3 種の分析種が 25% 以上であった事を除けば、Oasis PRiME HLB は優れた結果を示し、マトリックス効果は平均 11% でした。全他社の SPE デバイスでは、遅く溶出する分析種ほど、高い変動を示しました(RCS-8、UR-144、JWH-210、AB-001、AKB-48)。さらに、すべての他社 SPE デバイスでは、JWH-203 に関して顕著なイオンサプレッションがみられました。
この結果は、他社の SPE デバイスには、あきらかに幾つかの妨害成分が抽出物中に存在する事を示唆しています。例えばリン脂質の溶出位置をモニターすると、JWH-203 は他社 SPE 製品では除去されなかった残存リン脂質 lysophosphatidylcholine 18:0(m/z 524.4)と共溶出する事が分かります。この共溶出の様子は、図 5a に示されています。図 5b は、JWH-203 がリン脂質 524.4 と共溶出する事によりイオンサプレッションを起こしている事を示しています。図 5c は、JWH-203 のイオンサプレッションとリン脂質の面積値の直接的な関係を示しています。マトリックス効果と関係するリン脂質の線形回帰は、R2 値 0.987 と強い相関を示します。
Oasis PRiME HLB の主な特質は、他のサンプル前処理法よりも綺麗な抽出物が得られ、他の SPE デバイスと比較すると内因性のリン脂質を 90% 以上除去し、SPE テクノロジーにおいて明白な進歩を示します。選択的にリン脂質を除去する唯一の逆相 SPE 充塡剤であり、共溶出とイオンサプレッションを抑制します。一斉分析した薬物の分析種のいくつかは、同一のマススペクトルフラグメントを持つ構造異性体であるため、正確に定量するには十分なクロマトグラフィーによる分離が必要でした。複雑な薬物一斉分析におけるクロマトグラフィーの調整は多くの場合、現実的ではないため、サンプルマトリックスの複雑性を低減する必要があります。Oasis PRiME HLB による内因性リン脂質の除去の結果、より綺麗な抽出物が得られ、回収率の変動が低く、マトリックス効果を低減しました。Oasis PRiME HLB の使用により、カラム寿命の改善と質量分析計イオン源のメンテナンス頻度の低減が期待されます。
図 5a. 他社 SPE デバイスの抽出物で得られたリン脂質 524(Lysophosphatidylcholine 18:0)のクロマトグラム(上図)および 5.74 分に共溶出するカンナビノイド JWH-203 のクロマトグラム(下図)。
図 5b.リン脂質 524 のクロマトグラム(左)および JWH-203 であらかじめスパイクされた全血サンプルのクロマトグラム(右)。リン脂質 524 の相対存在量と JWH-203 とのイオンサプレッションの関係を示すため、クロマトグラムのスケールを揃えました。右図内の数値は、各 SPE デバイス毎に計算したイオンサプレッションの程度を示します。
図 5c.リン脂質 524 と JWH-203 のイオンサプレッションの関係。結果として、共溶出したリン脂質と JWH-203 のイオンサプレッションに直接的な相関関係がある事を示します。
本アプリケーションノートでは、革新的な逆相 SPE 充塡剤 Oasis PRiME HLB といくつかの一般的に市販されている逆相 SPE デバイスについて、分析種の回収率とマトリックス効果について比較しました。Oasis PRiME HLB は、簡単なロード-洗浄-溶離のステップのみで、簡単で迅速な SPE プロトコールにより内因性リン脂質をほぼ除去するように設計されています。比較試験は、Oasis PRiME HLB では 3 ステッププロトコールに基づき、他社の逆相 SPE デバイスでは簡単なロード-洗浄-溶離の 3 ステッププロトコールでは機能しなかったため、5 ステッププロトコールを用いました。
Oasis PRiME HLB では高い回収率と低い %RSD が得られました。21/22 の分析種が %RSD 3~7 の間で % 回収率 90~110% を示しました。一方、全ての他社逆相 SPE デバイスでは、低い回収率と高い変動がみられました。回収率は 46% と低く、%RSD は 41% と高い値でした。Oasis PRiME HLB を用いた薬物一斉分析では低く一貫したマトリックス効果を示したのに対して、他社の SPE デバイスでは、特に溶出の遅い分析種に対して高いマトリックス効果と高い変動を示しました。さらに、Oasis PRiME HLB は他社の SPE デバイスと比較して MW 524.4 のリン脂質を 99% 除去し、リン脂質に起因するイオンサプレッションをほぼ抑制しました。Oasis PRiME HLB は、高い回収率、低い変動性、低いマトリックス効果により、SPE テクノロジーにおいて独特な進歩をとげました。この結果、より長いカラム寿命、より少ない質量分析計のイオン源メンテナンス頻度に繋がります。
720005495JA、2015 年 9 月