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ACQUITY UPLC H-Class / ACQUITY QDa 検出器による洗浄バリデーションのための高感度で高い特異性を備えた分析ソリューション

ACQUITY UPLC H-Class / ACQUITY QDa 検出器による洗浄バリデーションのための高感度で高い特異性を備えた分析ソリューション
  • Chris Henry
  • Mark Wrona
  • Jayne Kirk
  • Richard Ladd

  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、ウォーターズの ACQUITY UPLC H-Class に PDA(フォトダイオードアレイ検出器)および ACQUITY QDa 質量検出器を併用することで、洗浄バリデーションにおいて信頼性の高い確認が得られること、また UV 吸収が低い、もしくは発色団がない化合物に対する高感度で高い特異性をもつ定量分析が可能であることを実証します。業界をリードする CDS ソフトウェア Empower で制御を行えば、厳しい規制環境、特に高度なデータ完全性、SOP 順守およびコンプライアンス管理を必要とする分野において最適なソリューションが得られます。

利点

  • ACQUITY QDa を用いた低濃度分析種の高感度な定性・定量分析
  • 正確な UPLC 分離と使いやすい質量検出を組み合わせ、化合物同定に高い信頼性を与える
  • 簡便な質量検出により検出限界、および UV 吸収の低い化合物の検出能力を改善することで UV 手法の補完が可能に
  • UV-PDA-UPLC 技術と業界をリードする CDS ソフトウェアを統合して、コンプライアンス環境(GMP)に対応

はじめに

洗浄バリデーションは、医薬品、生物製剤、栄養補助食品および医療機器の業界など多くの企業で必須とされています。規制および業界の観点から、洗浄バリデーションは、製品の交差汚染が患者の安全性や製品品質に悪影響を及ぼさないための重要な評価試験と認識されています1

洗浄バリデーションは、医薬品業界では品質管理(QC)ワークフローの不可欠な要素であり、製品(中間体および不純物を含む)、洗浄剤および異物の後続製品バッチへのキャリーオーバーの可能性を調べる際に、施設の一貫したモニタリングや管理の範囲内で洗浄法を適用し、設定された安全水準以下であることを明確にして、そのエビデンスを文書化するプロセスとして定義されています 2。反応器や容器に後続バッチを汚染するおそれがある原料を含んでいないことは極めて重要であり、汚染された場合は危険性や大きな損害をもたらす可能性があります。 

プロセスの必要性に応じて、洗浄バリデーションは、HPLC-UV 検出または全有機体炭素分析(TOC)など、それぞれに長所と短所をもつ数種の分析法を用いて実施します。HPLC-UV は発色団を有する化合物に限られ、分析法の対象範囲の化合物のみを標的に分析する傾向があり、その他の汚染源の見逃しや、ベースラインの変動や干渉に影響を受ける恐れがあります。また HPLC-UV には低濃度の分析種に対して必要とされる感度が不足しています。対照的に TOC は有機炭素源であれば検出できる非特異的な手法です。  

TOC は広範な汚染源を検出するのに有用ですが、定量的なデータを得ることができない場合があり、その多くは化合物同定 3 用の追加試験(LC-MS など)を実施して適切な洗浄プロトコールを確立する必要があります。このような追加試験によって、製造工場ではダウンタイムによる損失が生じます。

洗浄バリデーションを目的とする残留薬剤の定量では、必要とされる微量の薬剤の検出能がナノグラムからピコグラムの水準にまで達することが多くあります 4

ACQUITY UPLC H-Class システムと ACQUITY QDa 質量検出器(および PDA)との併用により、分析者は、定量・定性分離のための強力で相乗効果に富むツールが得られます。ウォーターズの ACQUITY UPLC H-Class はさまざまな 2 µm 以下の粒子径のカラムケミストリーに対応しており、多様な化合物や混合物において優れたピーク形状とピークキャパシティを得ることができ、併せて分析時間を大幅に改善します。

ACQUITY QDa 質量検出器は UV 検出の補完的な手法として使用することが可能です。質量検出は UV 検出範囲下限よりも少なくとも 10倍の低濃度検出を可能とするため、すべての分析分野、特に最大許容キャリーオーバー(MACO)が厳しく制限された高毒性薬剤の洗浄バリデーションプロトコールにおいて重要なパラメーターとなる、定量限界および検出限界を大幅に下げることができます。さらに、質量に基づく成分同定を迅速に行うことにより、必要に応じてプロセスを再検討し、より短期間に最適化することが可能です。

これらの技術はコンプライアンスに対応した Empower 3 クロマトグラフィーデータソフトウェアによって制御されているため、データ取り込みから報告/配布までの安全性が保証されます。

結果および考察

実際には、洗浄バリデーション手順は反応容器などのスワブ処理段階とそれに続く抽出プロセスが関わります。本アプリケーションノートは、抽出手順後、すなわち抽出物のサンプルバイアルへの分注後に生じる方法について論じています。

PDA 検出器と ACQUITY QDa 検出器を併用し、さらに Empower 3 CDS ソフトウェアでデータ取り込みと装置のコントロールを行い、5 種のジェネリック化合物(塩酸ナファゾリン、塩酸リドカイン、塩酸アミトリプチリン、塩酸ロペラミド、およびトラザミド)のための迅速な 5 分間の分析法を開発しました(表 1)。 

化合物は 0.01 から 1000 ng/mL までの 12 種の濃度に調製しました(n=6)。希釈溶液の組成は 50% の水と 50% のメタノールとしました。 

塩酸リドカインのデータを、UV 吸収が低い化合物で、ACQUITY QDa 分析における有用性を検証する例として選択しました。まず ACQUITY QDa データ取得をフルスキャンモード 200 - 1000 m/z で実施し、プロトン付加体を確認しました。確認後は、ACQUITY QDa に SIR(選択イオンレコーディング)モードを適用しました。SIR モードでは四重極の DC(直流)と RF(高周波)を固有の m/z 値をもつイオンのみが検出器を通過できるように設定し、ノイズを大幅に減らし感度を高めることができます。分析の結果では、0.01 から 1,000 ng/mL までの直線性が示され、R2 = 0.997 を得ました(図 1)。SIR データを用いて、ICH Q2(R1)ガイドラインの「分析手順のバリデーション:テキストと実施方法」のシグナル対ノイズ(S/N)比に基づき計算した結果、塩酸リドカインにおいて約 0.005ng/mL の検出限界を達成しました(図 2/表 2)。これは 0.025 pg(オンカラム)に相当します。 

他の 4 種の化合物の結果は表 3 に要約しました。

220 nm での PDA データを用いて、ICH Q2(R1)ガイドラインの SN 比に基づき計算した結果、塩酸リドカインにおいて検出限界は <1,000 ng/mL でした。これは <5,000 pg(オンカラム)に相当します。そのため直線性は算出しませんでした。PDA と比較して ACQUITY QDa はダイナミックレンジが拡大し、低濃度でも優れた精度を維持することから、低濃度の分析種に対する強力な分析ツールであることが示され、塩酸リドカインでは少なくとも 5 桁の直線性が得られました(図 1/表 4)。

直線性および精度

UV 検出では LOQ が 1,000 ng/mL であったのに対し、ACQUITY QDa 質量検出を使用した場合、塩酸リドカインの LOD を約 0.02 ng/mL まで高い信頼性で向上することができました(表 3)。

UV 吸収の低い化合物であるリドカインの測定で、220 nm の UV 検出より 5 万倍も高感度な MS 分析法が得られました。また、高い信頼性が得られ、質量の確認とともに正確なピークの測定が可能になりました(図 6)。

分析法の精度は塩酸リドカインを用いて、0.01 ng/mL から 1,000 ng/mL までの濃度範囲で検討しました(n=6)。システムは全範囲(ng/mL)で優れた精度を示し、%RSD は 0.7 から 10.6 でした(表 4)。

0.01 ng/mL の濃度に対する SN 比は 5.28 でした。ICH Q2(R1)ガイドラインに従うと、検出限界は SN 比の 3 倍となります。この基準を根拠にした検出限界は、得られたデータに基づいた 0.005 ng/mL よりもわずかに低いと言えます。これらの結果に基づくと定量限界(SN 比の 10 倍)は約 0.02 ng/mL であると推定されます。

ブランクを分析シーケンスの最後に試験し、キャリーオーバーの可能性を評価しました。結果として、ブランク中に分析種は認められませんでした(1,000 ng/mL 試料に関して 0.006% – およそ検出限界)。

表 1. 分析法の条件
図 1. 0.01 から 1,000 ng/mL までの検量線結果(n=6)。5 桁を超える優れた直線性が得られ、重みづけなしの線形回帰で R2 = 0.997 でした。
図 2/表 2.ACQUITY QDa 質量検出器を用いて SIR モードで分析した、LOD 領域の濃度での塩酸リドカインの注入 
表 3.5 種の全化合物の結果の要約
* バックグラウンドの干渉があるため、ブランク減算を用いて算出しました

塩酸ナファゾリン、塩酸ロペラミドおよびトラザミドに関する直線性は 0.01 ng/mL から 1000 ng/mL までの範囲で示され、LOQは 0.02 から 0.03 ng/mL までが得られました。

塩酸アミトリプチリンの直線性は 0.1 ng/mL から 1000 ng/mL までの範囲で示され、この方法では LOQ は約 0.6 ng/mL と算出されました。

表 1 に示した波長において UV 検出によって全化合物を分析した結果、最も高感度であった塩酸アミトリプチリンの LOD は 20 ng/mL 超でした。濃度範囲全体での感度が不足していたため、正確な直線性を得られませんでした。

表 4. 濃度範囲全体で精度は 0.7 から10.6 %RSD までを示しました (n=6)。
図 3. それぞれの最適な UV 波長で検出した 5 種の化合物と SIR を適用した分析との比較

ACQUITY QDa 質量検出

5 種の全化合物をフルスキャンモードで測定し、プロトン付加体 (M+H)+ として確認しました (図 4)。

化合物ごとに確立したプロトン化種を用いて適切な SIR 取得法を Empower に設定しました。

図 4.Empower メインレビューウィンドウに表示されたフルスキャンデータ 

塩酸リドカインと塩酸ナファゾリンにはわずかに共溶出が認められるものの、ACQUITY QDa の SIR 能力により、全濃度範囲において (個別のデータチャネル中で取得された) 両方の分析種の特異的で正確かつ精度の高い定量が可能でした (表 3)。

それぞれの 6 個の複製を用いて化合物を分析し、精度を確立しました (図 5)。

図 5. 10 ng/mL での5種の全化合物の SIR の重ね合わせ (n=6)

補完的な検出のメリット

PDA データに質量検出を併用することで、分析者は、ピーク同定と広範なピーク検出範囲に対する強力な補完的なソリューションを得ることが可能になります。ACQUITY QDa 質量検出器は UV 検出と比較し非常に高感度であるため、分析種に対して高い信頼性で一貫した定量を実現します。

質量検出を UV ワークフローに統合することで、感度向上だけでなく、ピーク同定を高い信頼性で実施することもできます。

図 6. Empower 3 の「質量分析ウィンドウ」の特徴

Empower 3 は、使いやすい単一画面に UV スペクトルデータと MS スペクトルデータを表示可能で、質量確認によって信頼性を高めたピーク ID を容易に確認できます(図 6)。塩酸ロペラミドの質量分析(明るい青)には、2 つの同位体(477.06/499.09)、すなわち塩素 1 つを含む典型的な化合物の MS スペクトルが示されています。

結論

ACQUITY QDa 質量検出が洗浄バリデーションにもたらす能力により、医薬品業界は、検査の強化が顕著な薬剤生産の分野で比類ない感度と選択性を得ることが可能になり、さらにスループット向上、真度やデータの信頼性の改善も可能になります。 

  • ウォーターズの ACQUITY UPLC H-Class に PDA と ACQUITY QDa 質量検出器を併用することでピーク ID の信頼性が高まります。
  • QC 分析者は、ACQUITY QDa 質量検出器を QC ワークフローに簡単に組み込むことで、UV 吸収の低い微量な化合物に対するルーチン分析を可能にする質量データにアクセスできるようになります。
  • Empower 3 を使用して統合的に質量検出をコントロールすることで、生成した結果が QC 環境下のデータインテグリティ要件に完全に適合します。
  • SIR モードの質量検出手法は共溶出ピークがある場合でも低濃度定量を可能にします。
  • 薬理活性の高い化合物や医薬品の開発が増えている状況において、ACQUIY QDa などの技術を活用することで、これらの化合物に要求される低い検出閾値といった分析課題に対処することが可能になります。

追加情報

ACQUITY UPLC H-Class、ACQUITY QDa および Empower CDS の他にも、ウォーターズは、ERA カタログを通じて洗浄バリデーションをサポートする多様な製品および消耗品を提供しています。リンク先:

参考文献

  1. Walsh A. Cleaning Validation for the 21st Century: Overview of new ISPE Cleaning Guide.
  2. Active Pharmaceutical Ingredients Committee (APIC) Cleaning Validation in Active Pharmaceutical Ingredients Manufacturing Plants, September 1999.
  3. McHale W, Wallace B, Lawson S. Why Total Organic Carbon (TOC) Is Often Superior to HPLC for Cleaning Validation Sample Analysis: A Real World Example (Teledyne Technologies).
  4. Robert Harris, Molecular Profiles, 2012.

ソリューション提供製品

720005871JA、2016 年 12 月

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