分散染料は低分子の合成染料です。分散染料の主たる用途は、生地・紙・玩具など消費者製品です。染料の中には、肌へ長く触れていると、アレルギーを起こすものがあることが知られています。染料の中にアゾ基が存在すると、発がん性またはその恐れが指摘されている芳香族アミンを生成する可能性があります。
消費者製品の中にそのような染料が使われていることがわかり、消費者の健康被害の可能性について関心が高まりました。そのような染料の使用に関する規制はドイツで 1996 年に始まりました。続いて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いた UV や MS 検出、密度計による公定法 DIN 54231 が作成されました。
本アプリケーションノートでは、9 種類の分散染料について、HPLC と UHPLC の 2 流路を持つ液体クロマトグラフィーシステムを用い、DIN 54231 に準拠した UV 検出及び MS 検出の分析法を紹介します。
相補的な分析検出手法として質量検出を追加することにより、化合物の検出および同定の信頼性が向上します。MS 検出も行うことにより、特定の染料サンプルに含まれる不純物ピークの確認に必要な情報を取得できます。
分散染料は低分子の合成染料です。染料は、アゾ基やアントラキノン構造を持ちます1。 分散染料の主たる用途は、生地・紙・玩具など消費者製品です。染料の中には、肌へ長く触れていると、アレルギーを起こすものがあることが知られています2。 染料の中にアゾ基が存在すると、発がん性またはその恐れが指摘されている芳香族アミンを生成する可能性があります2。
消費者製品の中にそのような染料が使われていることがわかり、消費者の健康被害の可能性について関心が高まりました。そのような染料の使用に関する規制はドイツで 1996 年に始まりました。続いて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いた UV や MS 検出、密度計による公定法 DIN 54231 が作成されました3-5。
本アプリケーションノートでは、図 1 に示す 9 種類の分散染料について、HPLC と UHPLC の 2 流路を持つ液体クロマトグラフィーシステムを用い、DIN 54231 に準拠した UV 検出及び MS 検出の分析法を紹介します 6。MS 検出も行うことにより、特定の染料サンプルに含まれる不純物ピークの確認に必要な情報を取得できます。Disperse Blue 1 の標準品の検出下限は、DIN 54231 の分析法では 0.7 mg/mL と定められています。ウォーターズの ACQUITY Arc システムと ACQUITY QDa 検出器を使用すると、検出下限は全成分において十分に下回りました。
全ての分析は、ACQUITY Arc システムを用い、2998 フォトダイオードアレイ検出器(PDA)と ACQUITY QDa 検出器によるポジティブイオン化モードで検出しました。データの取得と解析には Empower 3 ソフトウェアを用いました。
染料の標準品をメタノールにて溶解・段階希釈しました。
LC システム: |
ACQUITY Arc |
分析モード: |
グラジエント |
カラム: |
XBridge C18、5 µm、2.1×150 mm |
移動相 A: |
10 mM 酢酸アンモニウム水溶液 pH 3.6 |
移動相 B: |
アセトニトリル |
流量: |
0.30 mL/分 |
PDA 検出波長: |
210 - 800 nm |
カラム温度: |
30 ℃ |
注入量: |
5 µL |
分析時間: |
30 分 |
グラジエント条件: |
0 分 40% B、7 分 60% B、 17 分 98% B、24 分 98% B、 初期組成に戻す |
MS システム: |
ACQUITY QDa |
イオン化モード: |
ESI + |
キャピラリー電圧: |
1.2 kV |
コーン電圧: |
10 V |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
ソース温度: |
120 ℃ |
MS スキャンレンジ: |
100 - 600 m/z、Selected Ion Recording(SIR) |
サンプリングレート: |
5 ポイント/ 秒 |
9 種の分散染料の混合物の分析を、XBridge C18 2.1×150 mm、5 µm のカラム(製品番号 186003110)を用いて行いました。図 2 の下段は PDA 検出器による 240 nm のクロマトグラム、上段は SIR チャンネルデータの重ね書きクロマトグラムです。。
ここで、disperse yellow 3(ピーク 4)と disperse orange 3(ピーク 5)は共溶出しており、UV 検出のみでは正確な検出は困難です。UV のみの検出を目指してカラム分離を試みると、分析法開発の時間がかかります。これらの化合物は m/z が異なるため、ACQUITY QDa 検出器を用いると共溶出をしていても、図 2 に示した積み重ねられた個々の SIR クロマトグラムのように独立して検出することが可能です。質量分析により、検出感度は著しく向上しました。
突出したピーク(ピーク A)が、PDA 検出器により保持時間(tR)9.5 分に溶出しました。未知不純物の m/z はこの分析条件でモニターするように設定されていなかったため、この成分のピークの SIR チャンネルは取得されていません。PDA の測定と同時に MS フルスキャンの取り込みをすると、混合物に含まれる全ての化合物のマススペクトルと UV スペクトルが得られます(図 3)。
未知化合物 A のマススペクトルでは、m/z 267 のベースピークが検出されました。また、未知化合物 A の UV スペクトルはピーク 2(disperse blue 3)と類似するため、似た構造を持つことが推測されます。染料分が 20% の disperse blue 3 標準品を分析しました(図 4)。Empower ソフトウェアの質量分析ウィンドウを使用すると、UV スペクトルとマススペクトルを同時に表示するため、disperse blue 3(m/z 297)を迅速に確認できます。ピーク A のマススペクトルのベースピークは m/z 267 であり、これは先の混合物の分析結果を再現しています。さらに、2 つの分析にて保持時間と UV スペクトルも一致します。2 つ目の未知化合物である保持時間 11.4 分のピーク B も、disperse blue 3 の標準品の分析において m/z 254 で検出されました。ACQUITY QDa 検出器と PDA 検出器を用いることで、染料の混合試料で検出された不純物 A は、disperse blue 3 の標準品由来であることが、総合的に結論付けられました。
総合的な検出技術として質量分析を用いると、化合物の検出と同定がより確実になります。共溶出している化合物でも m/z が異なる場合、質量情報により信頼性のある分析が可能です。今回記載した分析方法では、DIN に定められた検出下限を十分に満たします。PDA 検出器と MS 検出器を併用することで、分析法開発の際に検出した不純物が disperse blue 3 の標準品由来であることが判明しました。このように、質量分析を付加することで不純物の分析を総合的に実施可能です。
ACQUITY Arc システムは、クロマトグラフィーの分離の柔軟性を増し、充塡剤粒子径 3.0~5 µm のカラムを使用した HPLC 分析の生産性が向上します。さらに、2.5~2.7 µm のカラムを使用した高速で効率的な UHPLC 分析にも対応します6。
720005552JA、2016 年 1 月