本研究では、UPLC-MS/MS により卵中の広範囲な動物用医薬品を分析することを目的として、サンプル調製、クリーンアップ、分析プロトコールを開発しました。Xevo TQ-S 質量分析計と ACQUITY UPLC I-Class システムの組み合わせは、本研究の動物用医薬品分析にて高感度を示しました。
私達の健康や安全を守るために、食品中に残留する動物用医薬品の濃度を測定するための信頼性ある分析法が必要です。分析種は、高極性の水溶性化合物から非極性の脂溶性化合物まで多岐にわたります。最大のスループットと最小のコストを実現するためには、単一の分析法で可能な限り幅広い動物用医薬品を測定できる食品残留分析法が要求されます。卵は、大量のタンパク質、脂質、レシチン(リン脂質)を含有します。これらの成分は、装置の性能を低下させるため、LC-MS 分析の前に低減または除去する事が必要です。
養鶏場の産卵鶏の病気を防ぐため、動物用医薬品が使用されています。しかしながら、動物用医薬品は、卵に転移し蓄積されます。卵内の残留動物用医薬品の存在は、ヒト用の医薬品に使用されている抗生物質に対してアレルギー反応を引き起こしたり、病原体抵抗性を誘発する可能性があるため、消費者にとって高い健康リスクとなります 1。本研究では、多くが米国と中国において残留基準が設定されている、代表的な動物用医薬品 16 種類を 12 系統から選択しました1,2。 図 1 は代表的な動物用医薬品の構造式を示します。
卵中の動物用医薬品を一斉に定量するためのサンプル前処理は、非常に困難です。分析者は、物理化学的特性の異なる幅広い種類の医薬品群を回収しなければなりません。いくつかの分析種は、タンパク質やマトリックス成分と結合する可能性もあります。卵は、食品の中でも抜きん出てレシチン(リン脂質)を多く含有しており、かつ、多くの脂質も含んでいます。レシチンや脂質との共溶出は、LC-MS 分析において妨害やイオンサプレッションに関与し、分析カラムや UPLC システムを汚染し、質量分析計も汚染します。
本研究では、UPLC-MS/MS により卵中の広範囲な動物用医薬品を分析することを目的として、サンプル調製、クリーンアップ、分析プロトコールを開発しました。卵サンプルは、タンパク質を沈殿させ、タンパク質に結合する成分を遊離し、目的の動物用医薬品を抽出するために、酸を添加したアセトニトリル水溶液で処理しました。その後、脂質とリン脂質を除去するために、新規固相抽出デバイスである Oasis PRiME HLB カートリッジを用いて簡単なパススルー法クリーンアップを行いました。
本研究では、カテゴリーの異なる 16 種類の動物用医薬品を選定しました。表 1 に化学式、分子量、米国あるいは中国における残留基準値(MRL)を示しました。
システム: |
ACQUITY UPLC I-Class |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH C18、1.7 µm、2.1×100 mm |
カラム温度: |
30 ℃ |
注入量: |
10 µL |
流量: |
0.4 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸含有アセトニトリル |
初期組成 85% A:15% B。2.5 分間で 40% B までのリニアグラジエント、1.4 分間で 95% B までのリニアグラジエント、2.3 分間ホールド後、初期組成へ戻し、2 分間平衡化。
システム: |
Xevo TQ-S |
イオン化モード: |
ESI+(フロルフェニコールのみ ESI-) |
キャピラリー電圧: |
3.00 kV(ネガティブモードでは 2.50 kV) |
イオン源温度: |
150 ℃ |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
脱溶媒ガス流量: |
1000 L/時間 |
コリジョンガス流量: |
0.15 mL/分 |
ネブライザーガス流量: |
7.00 Bar |
抽出:ホモジナイズした 2 g の鶏卵を 50 mL の遠沈管に入れました。回収率測定用のサンプルは、標準品を添加した後、8 mL の 0.2% (v/v) ギ酸を添加した 80% アセトニトリル水溶液を加えました。30 秒間ボルテックスした後、30 分間振とう器で撹拌して、4500 rpm にて 10 分間遠心分離を行いました。固相抽出クリーンアップのために、上清を分取しました。
パススルー固相抽出(SPE)クリーンアップ:事前に洗浄したバキュームマニホールドに Oasis PRiME HLB カートリッジ 3 cc/60 mg(製品番号 186008056)を設置しました。カートリッジのコンディショニングは必要なく、行いませんでした。1~2 psi で減圧吸引を行い、0.5 mL の上清を Oasis PRiME HLB カートリッジにロードし、素通り画分を回収しました。0.2 mL の素通り画分を分取し、10 mM ギ酸アンモニウム緩衝液(pH 4.5)で 0.6 mL に希釈した後、UPLC-MS/MS 分析に供しました。図 2 は典型的なマトリックス添加標準品のクロマトグラムを示します。
Oasis PRiME HLB は、卵マトリックスから目的化合物の回収とリン脂質の除去を目的として評価しました。本法における全体的な回収率は 50~97% の範囲を示しました。しかしながら、Oasis PRiME HLB カートリッジによる回収率低下への寄与は最小限であると考えられます。図 3 に示す通り、SPE 精製工程における全分析種の回収率は 80% 以上であり、多くの分析種の回収率は 90% 以上でした。
卵は多量の脂質を含み、食物由来としては最大レベルのレシチン(リン脂質)を含有しています。鶏卵の脂質含有量は 11%(重量%)であり(殻を除く)、リン脂質の含有量は 0.35% です4。 初期のサンプル調製の抽出段階においては、目的の薬物と共に脂質やリン脂質のような妨害成分も共に抽出されます。Oasis PRiME HLB カートリッジを用いたパススルー法によるクリーンアップで卵抽出物中の 84% 以上の脂質が除去されました。また、このパススルー法は、リン脂質の除去にも非常に効果的でした。図 4 は Oasis PRiME HLB カートリッジを用いたパススルー法によるクリーンアップで卵抽出物中のリン脂質が 95% 以上除去されたことを示します。
回収率試験は、3 種類の濃度(0.4 MRL、1 MRL、2 MRL)を用い、各濃度において 6 回測定しました。マトリックス添加標準検量線を用いました。図 5 に結果を示します。ナイスタチンとハイグロマイシン以外の多くの分析種(>70%)において回収率は 70% 以上でした。ハイグロマイシンの 0.4 MRL におけるデータ(RSD=34%)以外は、全ての分析種において許容できる再現性(RSD<20%)が得られました。
720005794JA、2016 年 2 月