• アプリケーションノート

Oasis PRiME HLB 固相抽出(SPE)および UPLC CORTECS C18 カラムを用いた、口腔液からの THC とその代謝物の抽出の向上

Oasis PRiME HLB 固相抽出(SPE)および UPLC CORTECS C18 カラムを用いた、口腔液からの THC とその代謝物の抽出の向上

  • Xin Zhang
  • Jonathan P. Danaceau
  • Erin E. Chambers
  • Waters Corporation

法中毒学目的のみに使用してください。

要約

このアプリケーションノートでは、法中毒学アプリケーションのための、新規 SPE 吸着剤である Oasis PRiME HLB の µElution フォーマットを用いた、口腔液サンプルからの THC-OH、THC-COOH および THC の抽出について説明しています。

この吸着剤により、コンディショニングおよび平衡化のステップが不要になり、抽出手順が簡素化するとともにサンプル前処理のワークフローが高速化しました。さらに、µElution フォーマットを用いることにより、蒸発乾固、再溶解を行わずに抽出物の直接注入が行え、非特異的吸着およびサンプル損失のリスクを最小限に抑えられます。口腔液の独特の性質により、他のマトリックスでは見られなかったイオン化抑制が発生しました。このシグナル抑制を克服するため、CORTECS C18 カラムを使用して効率を高め、5% 強アンモニアを添加して SPE 洗浄ステップを最適化しました。これらの変更により、マトリックス効果がほとんどなくなり(10% 未満)、検量線の R2 値がすべて 0.999 を上回るメソッドが実現できました。

結論として、Oasis PRiME HLB を用いることにより、マトリックス効果が最小限で一貫した回収率が得られ、口腔液サンプル中の 4 桁の濃度範囲の分析種定量が可能になりました。

アプリケーションのメリット

  • 非侵襲的で簡単に採取できる口腔液マトリックス用の半バリデーション済みメソッド
  • 従来の SPE 吸着剤と比較して、より高速でより簡素化されたサンプル前処理ワークフロー
  • 優れた一定の回収率で、最小限のマトリックス効果
  • µElution フォーマットにより蒸発乾固および再溶解が不要に
  • すべての分析種について直線性が高く、正確で精密な結果が得られる

はじめに

大麻は、依然として娯楽目的に広く使用されている乱用薬物であり、米国では多くの州で医療目的での合法化が進み、これに伴い娯楽目的についても合法化する流れがあります。このような状況下で Δ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)や活性型の代謝物 11-ヒドロキシ-Δ-9-THC(THC-OH)、不活性型の 11-ノル-9-カルボキシ-Δ-9-THC(THC-COOH)の定量分析法のニーズがますます高まっています1。 大麻使用の評価には尿が従来使用されてきましたが、口腔液がマトリックスとしてますます一般的になってきています。口腔液の採取は、比較的簡単に行えて非侵襲的であり、厳密な管理下で行うことができます。さらに、口腔液中の薬物および代謝物の濃度は、尿中濃度よりも現在の障害のより適切な指標になるため、サンプリング時において被験者に薬理効果が現れている可能性が高くなります2,3。 THC 使用のカットオフレベルは、口腔液中で 2 ng/mL と報告されています5。したがって、この濃度で正確な定量が行える分析法が必要になります。

この分析法では、Oasis PRiME HLB µElution プレートを用いた口腔液中の THC と、その主要代謝物である 11-THC-OH および 11-THC-COOH の抽出および分析と、それに続く UPLC-MS/MS 分析について説明します。SPE 手順はシンプルで非常に効率的であり、LC に適合する溶媒で溶出させるため、サンプルの蒸発乾固および再溶解を行うことなく、直接注入が可能です。分析は迅速で、すべての分析種が 3 分で溶出します。すべての化合物について、回収率が優れており(すべて 75% を上回っており、%RSD <6)、マトリックス効果は非常にわずかでした(ME <10%)。定量結果では、非常に優れた再現性が示されました。すべての検量線は直線性が高く、R2 値は 0.999 を上回っていました。品質管理試料の結果は予想濃度の 10% 以内で、平均 %RSD は 3% 未満でした。

実験方法

LC 条件

UPLC システム:

ACQUITY UPLC I-Class システム

カラム:

CORTECS UPLC C18 カラム、1.6 µm、2.1 × 100 mm

カラム温度:

40 ℃

サンプル温度:

10 ℃

移動相 A(MPA):

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B(MPB):

0.1%ギ酸含有アセトニトリル

強洗浄溶媒:

70:30 アセトニトリル:2 % ギ酸水溶液

弱洗浄溶媒:

10%アセトニトリル水溶液

注入量:

5 µL

グラジエント条件は表1に示しました。

グラジエント

時間(分)

流速(mL/分)

%A

%B

0.0

0.6

50

50

1.0

0.6

50

50

3.0

0.6

5

95

5.0

0.6

5

95

5.6

0.6

50

50

6.0

0.6

50

50

質量分析

MS システム:

Xevo TQ-S質量

分析計のイオン化モード:

ESI+

キャピラリー電圧:

2.0 kV

コーン電圧:

分析種毎に最適化

コーンガス:

150 L/時間

脱溶媒温度:

500 ℃

イオン源温度:

150 ℃

試料

すべての標準試料および安定同位体標識内部標準は Cerilliant 社(米国テキサス州ラウンドロック)から購入しました。100 µg/mL のストック標準溶液は 40% メタノール中に調製しました(THC、THC-OH、THC-COOH)。100 ng/mL の THC-D3、THC-OH-D3、THC-COOH-D3 を含む作業用内部標準溶液も 40% メタノール中に調製しました。個々のキャリブレーション試薬と品質管理標準試料は 40% メタノール中に用時調製しました。1800 µL の口腔液に 200 µL のそれぞれの作業用キャリブレーション試薬または QC 標準試料を加え、検量線作成用サンプルおよび QC サンプルを調製しました。すべての分析種について検量線の範囲を 0.05 ~ 100 ng/mL としました。品質管理サンプルは、口腔液中濃度 0.375、1.75、7.5、37.5 ng/mL になるように調製しました。

サンプル前処理

サンプルの前処理

口腔液サンプルは、Immunalysis 社の Quantisal 採取デバイスを使用して、メーカーの指示に従って採取しました。採取アプリケーターを(スパイク済み)口腔液で飽和させ、3.0 mL のサンプル安定化バッファーが入っている採取バイアルに入れました。Quantisal の説明書によると、これはサンプル 1.0 ± 0.1 mL の採取と同等とされています。次に、抽出を改善するために採取バイアルに 1 mL のアセトニトリルを添加しました。サンプルの移送時間をシミュレーションし、パッド内のサンプルと採取バイアル中の安定化バッファー混合液の間で完全に平衡化させるために、採取キットを一晩冷蔵庫で保存しました。 

Oasis PRiME HLB µElution プレートによる固相抽出

バッファーで安定化した口腔液サンプルの 500 µL アリコート(口腔液 100 µL と同等)を、200 µL の 4% H3PO4 および作業用内部標準混合液 10 µL を添加して前処理しました(40% MeOH 中 100 ng/mL)。

前処理したサンプル全体(計 710 µL)を、コンディショニングや平衡化を行わずに、Oasis PRiME HLB µElution プレートに直接ロードし、続いて 250 µL 5% NH4OH 含有 25:75 メタノール:水で 2 回洗浄しました。次に、すべてのウェルにおいて 25 µL の 90:10 アセトニトリル:メタノール溶液を用いて 2 回溶出を行い、50 µL の水で希釈しました。5 µL を UPLC-MS/MS システムに注入しました。SPE 抽出手順を図 1 にまとめました。

図 1.  Oasis PRiME HLB を用いる、口腔液中の THC、THC-COOH、THC-OH の抽出メソッド。コンディショニングと平衡化が不要なため、サンプル抽出はわずか 3 ステップに簡素化しています。 

分析種の回収率は下記の式で計算されます:

A は抽出サンプルのピーク面積値に相当し、B は抽出後に分析種を添加したブランクマトリックスサンプルのピーク面積値に相当します。

マトリックス有りのピーク面積値はサンプル前処理後に分析種を加えたピーク面積を表しています。マトリックス無しのピーク面積値は分析種を添加した溶離溶媒のピーク面積を表しています。

結果および考察

クロマトグラフィー

1 ng/mL の抽出済みキャリブレーション試薬由来の 3 種類のカンナビノイドに関する代表的な UPLC クロマトグラムを図 2 に示します。CORTECS UPLC C18 カラムを使用することで、すべての化合物は 3 分で溶出しました。すべての化合物のピーク形状が優れており、ピーク幅はすべてベースラインから高さ 5% の位置で 1.8 秒未満でした。

表 2 に、UPLC 分離での保持時間、ならびに各カンナビノイドおよびそれらの安定同位体標識内部標準の MRM トランジション、コーン電圧、コリジョンエネルギーなどの MS パラメーターを示しています。各分析種に対して定量イオン(リストの上段)と確認イオン(リストの下段)の 2 種類の MRM トランジションを用いました。 

回収率およびマトリックス効果

抽出回収率は高く、一貫していました。図 3 に示すように、すべての分析種の回収率は 75% 以上であり、%RSD はすべて 6% 以内で、Oasis PRiME HLB の再現性が証明されました。マトリックス効果は最小限であり、すべての分析種について 10% 以下を示しました。この非常に低い標準偏差(6% 以下)により、Oasis PRiME HLB を用いた抽出とクリーンアップでは高い一貫性が得られることが再び実証されました。表 3 にすべての回収率とマトリックス効果のデータをまとめています。SPE の洗浄ステップには、口腔液マトリックスによる抑制を回避するための最適化が必要でした。洗浄溶媒に 5% 強アンモニアを添加することにより、抑制が最小限に抑えられ、マトリックス効果をほぼ完全に解消できました。

図 2.  抽出された口腔液サンプル中の THC-OH、THC-COOH、THC のクロマトグラム(それぞれの分析種が 1 ng/mL) 
表 2.  すべての分析種と内部標準物質の質量分析パラメーター
図 3.  Oasis PRiME HLB µElution プレートで抽出した THC-OH、THC-COOH、THC の回収率およびマトリックス効果。エラーバーは標準偏差を示します。すべての化合物について、抽出の回収率の %RSD は 8% 未満でした。マトリックス効果はすべて 10% 未満でした。
表 3.  THC とその代謝物の回収率およびマトリックス効果(すべての試験で N=4)

定量結果

検量線作成のためのサンプルおよび品質管理サンプルは、前述の材料と方法セクションの記載通りに調製しました。検量線範囲は、THC-OH および THC-COOH については 0.1~ 100 ng/mL、THC については 0.05~ 100 ng/mL としました。品質管理サンプルは、検量線範囲に対して適切となるよう、低、中、高濃度で調製しました。

キャリブレーションと品質管理(QC)の結果からは、この分析法により、直線性が高く、正確で高精度の結果が得られることが示されています。すべての分析種が検量線範囲全体において直線性のレスポンスを示し、R2 値は、1/x 重み付けを使用して 0.999 以上でした。図 4 に検量線を示し、表 4 にすべての化合物の検量線で得られたデータをまとめています。定量下限値(LLOQ)は、THC-OH および THC-COOH について 0.1 ng/mL、THC について 0.05 ng/mL でした。いずれの場合も、バリデーション済み分析法に求められる、正確性、精度、直線性、分析感度に関して FDA が要求する基準を満たしていました4

0.375、1.75、7.5、37.5 ng/mL になるように調製した品質管理サンプルの濃度は正確かつ精密でした。すべての QC 値は、目標値の 10% 以内で、ほとんどは 5% 以内でした。表 5 にデータを示しています。この結果からは、この分析法が、サンプルの予想値の範囲全体を含む検量線範囲にわたって直線性であり、正確かつ精密であることが示されています。この分析法には、カットオフレベル 2 ng/mL をはるかに下回る口腔液中の THC をルーチンに測定するのに十分な選択性および感度があることも証明されました。このことは、0.375 ng/mL の QC サンプルレベルでの正確性および精度が優れていることからわかり、6 回の繰り返し注入すべての計算濃度の平均が予想値の 6% 以内でした。 

表 4.  1/x の重み付けでの THC およびその代謝物の検量線データ
図 4.  THC とその代謝物の検量線(1/x 重み付けの直線近似で R2 > 0.999) 
表 5.  抽出された口腔液サンプルの品質管理の結果(3 種類のレベルすべてで、各化合物について N = 6)。下の平均値は、特定濃度のすべての化合物の平均値を示しています。 

結論

このアプリケーションノートでは、法中毒学アプリケーションのための、新規 SPE 吸着剤である Oasis PRiME HLB の µElution フォーマットを用いた、口腔液サンプルからの THC-OH、THC-COOH および THC の抽出について説明しています。この吸着剤により、コンディショニングおよび平衡化のステップが不要になり、抽出手順が簡素化するとともにサンプル前処理のワークフローが高速化しました。さらに、µElution フォーマットを用いることにより、蒸発乾固、再溶解を行わずに抽出物の直接注入が行え、非特異的吸着およびサンプル損失のリスクを最小限に抑えられます。口腔液の独特の性質により、他のマトリックスでは見られなかったイオン化抑制が発生しました。このシグナル抑制を克服するため、CORTECS C18 カラムを使用して効率を高め、5% 強アンモニアを添加して SPE 洗浄ステップを最適化しました。これらの変更により、マトリックス効果がほとんどなく(10% 未満)、検量線の R2 値がすべて 0.999 を上回るメソッドが得られました。

回収率は非常に一貫しており、回収率は 75% 超、RSD は 6% 未満で、すべての化合物についてマトリックス効果はわずかでした。すべての化合物について、直線性、正確性、精度、分析感度が優れていました。QC サンプルについて、正確性はすべてターゲット濃度の 10% 以内、平均 %RSD は 3% 以内であり、この吸着剤と UPLC-MS/MS 分析法の組み合わせによって高い再現性が得られることが実証されました。結論として、Oasis PRiME HLB を用いることにより、マトリックス効果が最小限で一貫した回収率が得られ、口腔液サンプル中の 4 桁の濃度範囲の分析種定量が可能になりました。

参考文献

  1. Huestis, M.A., Henningfield, J.E., Cone, E.J.: Blood Cannabinoids.I. Absorption of THC and Formation of 11-OH-THC and THCCOOH During and After Smoking Marijuana. Journal of Analytical Toxicology 16(5), 276–282 (1992).
  2. Kintz, P., Cirimele, V., Luders, B.: Detection of Cannabis in Oral Fluid (Saliva) and Forehead Wipes (Sweat) from Impaired Drivers. Journal of Analytical Toxicology 24, 557–561 (2000).
  3. Niedbala, R.S., Kardos, K.W., Fritch, D.F., Kardos, S., Fries, R., Waga, J.: Journal of Analytical Toxicology 25, 289–303, (2001).
  4. Bansal, S., DeStefano, A.: Key elements of bioanalytical method validation for small molecules.The AAPS Journal 9(1), E109-E114 (2007).
  5. Chi, E., Cole, J.: Using an MRM method on a GC-triple quadrupole MS to confirm and quantitate THC in oral fluid is an effective alternative to blood and urine sample.The Forensic Magazine, 17–21 , Nov (2010).

720005729JA、2016 年 6 月

トップに戻る トップに戻る