食品業界には迅速かつ信頼性の高い、費用対効果のある方法が求められており、原料のサプライヤは製品の一貫性を確認し、ラベル表示が要件を満たしていることを保証する必要があります。複雑なマトリックスと低濃度のビタミンということから困難な業務になる場合があります。さらに現在用いられているメソッドのほとんどは、ビタミンを別々に、もしくはグループに分けて分析することになっています。確立されている手法には、微生物学的評価、比色および蛍光分析、滴定法、HPLC 法などが含まれています。LC-MS を用いることにより、検出器の選択性を改善し、定量下限をさらに低濃度にすることが可能です。近年の技術革新により、装置の使いやすさと頑健性を向上させることで、ラボに質量分析計を導入する際の課題をなくし、質量検出のメリットを生かしやすくなりました。これらのメリットが、ACQUITY QDa 検出器を導入するきっかけにつながります。本アプリケーションノートではダイエットサプリメントおよび飲料サンプルに含まれる 12 種の水溶性ビタミン(WSV)を ACQUITY UPLC H-Class システム及び ACQUITY UPLC QDa 検出器を用いて分析を行いました。
栄養価を高め、食事の栄養不足を補うため、食品および飲料のほとんどにビタミンが日常的に用いられています。規制要件を満たすために、食品および飲料の製造業者は、製品が消費される国の規制に応じて製品ラベルをつける必要があります。これらの規制の例としては、ビタミンやミネラルについては欧州委員会(EC)1925/2006 に記載があり、米国連邦規則(CFR)21 条にはアメリカ合衆国における食品のラベルについて記載されています。
食品業界には迅速かつ信頼性の高い、費用対効果のある方法が求められており、原料のサプライヤは製品の一貫性を確認し、ラベル表示が要件を満たしていることを保証する必要があります。複雑なマトリックスと低濃度のビタミンということから困難な業務になる場合があります。さらに現在用いられているメソッドのほとんどは、ビタミンを別々に、もしくはグループに分けて分析することになっています。確立されている手法には、微生物学的評価、比色および蛍光分析、滴定法、HPLC 法などが含まれています1。LC-MS を用いることにより、検出器の選択性を改善し、定量下限をさらに低濃度にすることが可能です。Waters ACQUITY QDa 検出器により、ラボに質量分析計を導入する際の課題がなくされ、質量検出のメリットを生かしやすくなりました。
本アプリケーションノートではダイエットサプリメントおよび飲料サンプルに含まれる 12 種の水溶性ビタミン(WSV)を ACQUITY UPLC H-Class システム及び ACQUITY UPLC QDa 検出器を用いて分析を行いました。
表1 に今回の実験に用いる WSV の保持時間、選択イオンレコーディング(SIR)の m/z、コーン電圧を一覧にしています。
それぞれの WSV について、水を用いて 1 mg/mL に調製し、ストック溶液としました。ビタミン B2、B7、B9 については 1N の NaOH を 200 µL 加えて溶解させました。ビタミン C は低 pH の酢酸緩衝液に溶解することで安定性が向上します。各ストック溶液を混合し、ビタミン C 1.25 mL 及びその他のストック溶液 0.025 mL をそれぞれとり、水を用いて 25 mL に希釈しました。混合ストック溶液(ビタミン C:50 ppm、その他ビタミン:1 ppm)について、表 2 に示した希釈系列で 11 種の標準溶液を調製しました。
粉末のビタミン飲料(1 包 8.50 g)を 100 mL の水に溶解し、0.2 µm の PVDF フィルターでろ過しました。サンプル溶液はさらに希釈を行い、250 倍及び 10 倍希釈の 2 種類を調製しました。希釈レベルが異なった 3 種のサンプル溶液は、サンプル中に含まれる濃度の異なるビタミンを測定するために用いました。
マルチビタミンサプリメント錠を乳鉢と乳棒を用いて粉砕しました。粉末 1.34 g を秤量し、ビーカーに移し 100 mL の水を加えました。サンプルは 15 分間超音波処理を施し溶解し、攪拌した後 0.2 µm の PVDF フィルターを用いてろ過しました。さらにこれらのサンプルは水を用いて 1000、100、20 倍にそれぞれ希釈しました。これらの希釈溶液及び最初に溶解したサンプル溶液(希釈なし)は同様にサンプル中に含まれる濃度の異なるビタミンを測定するために用いました。
2 種類のビタミン水溶液サンプルは水を用いて 20 倍希釈し、0.2 µm の PVDF フィルターを用いてろ過しました。
UPLC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class |
分析時間: |
17.5 分 |
カラム: |
ACQUITY UPLC HSS T3、1.8 µm、2.1×100 mm |
カラム温度: |
30 ℃ |
移動相 A: |
10 mM ギ酸アンモニウム 0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
10 mM ギ酸アンモニウム 0.1% ギ酸含有メタノール溶液 |
注入量: |
5 µL |
検出器 1: |
ACQUITY UPLC PDA |
波長: |
波長取り込み範囲 210~400 nm;解析波長 270 nm |
スキャンレート: |
10 ポイント/秒 |
検出器 2: |
ACQUITY QDa |
イオン化モード: |
ESI+ |
分析時間: |
8.0 分 |
プローブ温度: |
600 ℃ |
キャピラリー電圧: |
0.8 kV |
質量範囲: |
m/z 50~800 m/z (セントロイド)及び SIR ※ |
サンプリングレート: |
5 Hz |
コーン電圧: |
フルスキャン 15 V ※表 1 にそれぞれの SIR チャンネルのコーン電圧を示した SIR の m/z は先行検討をもとに用いた2 |
12 種類の水溶性ビタミンを重ね書きしたクロマトグラムを図 1 に示しており、すべての化合物は 8 分以内に溶出しています。この条件で分析したところ、2 つの同時溶出ピーク(2.5 分付近に溶出しているニコチンアミドおよびピリドキシン、7.25 分付近に溶出しているシアノコバラミン及び葉酸)が確認されました。質量検出器を用いることで、全ての化合物をベースライン分離する必要がなくなり、質量対電荷比(m/z)を用いて正確に識別されます。図 2 に同時溶出したビタミンを含む各ビタミンの直線性を示しています。図 2 の D 及び F は葉酸(m/z =442)及びシアノコバラミン(m/z =678)の検量線を示しています。質量検出器の選択性を用いることで、同時溶出している化合物についても定量が可能です。図 2 には UV では分析が困難だったビタミンの検量線も示しています。例えばビオチン(図 2A)及びパントテン酸カルシウム(図 2H)は UV 検出器ではレスポンスが低いビタミンです。これらの化合物は十分な感度を得るために低波長側で分析します3。 低波長側で分析を行うと、化合物の特異性が損なわれますが、MS 検出を用いることで、分析における特異性及び感度が確保できます。
MS 検出器を用いることで UV 検出よりもさらに低濃度のビタミンの検出が可能になります。図 3 にピリドキシン、ピリドキサル、ニコチン酸及びニコチンアミドの 5 ppb(5 µg/L)の SIR クロマトグラム及び UV クロマトグラム(図 3A、270 nm)を示しています。図 3A に示したようにこの濃度のビタミンは UV では検出されませんでした。MS 検出器による定量下限の改善は、低濃度ビタミンを定量する上で重要です。感度を向上させ、サンプル抽出物を希釈することでさまざまなマトリックスにおける検出が可能になります。この検討ではビタミンサプリメントおよび飲料についてサンプル希釈するだけで簡単に分析できます(錠剤の場合は粉砕という初期工程が必要です)。
図 4 に 2 つのビタミン水サンプル中から検出されたビタミン B5(パントテン酸カルシウム)を示しています。UV クロマトグラムを見ると、サンプル前処理なしの UV ではビタミン B5 は検出できないことが分かります。ビタミン B1(チアミン)は UV 検出が困難なビタミンの 1 つです。図 5 に希釈した粉末のビタミン飲料から検出されたビタミン B1 およびビタミン C(アスコルビン酸)の例を示しています。ビタミン C については UV で検出可能ですが、ビタミン B1 は検出されません。しかしながら図 5A に示したように ACQUITY QDa 検出器の SIR を用いることでビタミン B1 は明確に検出できます。
シアノコバラミンはサプリメント及び食品からわずかにしか検出されない水溶性ビタミンであり、定量するために分けて行う必要があります。2 次元のクロマトグラフィーはビタミン検出においてはルーチン分析に用いられます4。 従来の UPLC メソッドを用いてマルチビタミンサプリメントから検出されたシアノコバラミンの例を図 6 に示しています。この濃度では UV クロマトグラムにおいてはピークが検出されませんでした(図 6B)。質量検出により高濃度に配合されているビタミンを検出するのと同じ方法でビタミン B12 を検出することが可能でした。ACQUITY QDa 検出器は LC のワークフローに容易に取り入れることが可能で、既存の多波長取り込みを行うよりも使い易くなっています。
ビタミンの分析において、配合されているビタミンの濃度範囲が広いことが課題の 1 つでした。例えば本検討で用いた錠剤のマルチビタミンサプリメントには、6 µg 配合されている B12(シアノコバラミン)から 16 mg 配合されている B3(ナイアシン(ニコチン酸))まであり、他の B 群ビタミンについてもこの範囲内で配合されています。本検討では濃度の異なるレベルのビタミンを考慮するため、最初の抽出物についてそれぞれ希釈を行い、全てのビタミンについて同じ LC-MS 条件で分析を行っています。図 7 にマルチビタミンサプリメントの分析結果を示しています。図 7A 及び 7B はリボフラビン(B2)について 100 倍希釈及び希釈なしの SIR クロマトグラムを比較しています。図 7C は希釈なしのサンプルにおけるシアノコバラミン(B12) の SIR クロマトグラムを示しています。希釈したサンプルからはピークは検出されませんでした(データの記載はなし)。希釈なしのサンプルにおける 270 nm の UV クロマトグラムを図 7D に示しており、サンプル中のリボフラビンのピークは十分に検出されています。リボフラビンおよびシアノコバラミンの定量値は 12.5 ppm と 41 ppb でした。サプリメントのラベルに表示されている値の 96% および 68% に相当するものでした。本検討ではラベル表示量の実証も、添加回収試験も実施しませんでしたが、表 2 に示した検量線の範囲内において、多段階の希釈を用いることで実証できる可能性が示唆されました。
ビタミン B のメソッドについて再現性を評価するために、濃度の異なるビタミンを注入し評価しました。保持時間の再現性及びピーク面積の再現性の結果を表 4 及び 5 に示しています。表 4 は 2 つの濃度の異なる標準溶液をそれぞれ 10 回注入し、合計で 20 回注入した結果を示しています。保持時間については、溶出が早い水溶性ビタミンについても全て %RSD=0.6% 以下という良好な結果が得られました。ピーク面積の再現性については 0.025 mg/L を 10 回注入し評価しました(表 5)。強度が小さかった葉酸およびリボフラビン 5 リン酸を除くほとんどのビタミンは %RSD=10% 以下でした。経時劣化することが知られているビタミン C については本検討から除外しました。
本アプリケーションでは UV では検出できない濃度の水溶性ビタミンを正確に定量することで、ウォーターズの ACQUITY QDa 質量検出器の性能を示しています。SIR チャンネルを用いることで感度が向上し、同時溶出が起こっても化合物を選択的に定量することが可能です。すべての化合物をベースライン分離するという負担がなくなり、より低濃度のビタミンを検出することが可能になります。
ACQUITY QDa 検出器を用いることで、
720004960JA、2016 年 11 月