• アプリケーションノート

ACQUITY UPLC H-Class システム及び ACQUITY QDa 検出器を用いたさまざまな食品マトリックス中に含まれる水溶性ビタミンの選択的定量

ACQUITY UPLC H-Class システム及び ACQUITY QDa 検出器を用いたさまざまな食品マトリックス中に含まれる水溶性ビタミンの選択的定量
  • Mark E. Benvenuti
  • Dimple D. Shah
  • Jennifer A. Burgess

  • Waters Corporation

要約

食品業界には迅速かつ信頼性の高い、費用対効果のある方法が求められており、原料のサプライヤは製品の一貫性を確認し、ラベル表示が要件を満たしていることを保証する必要があります。複雑なマトリックスと低濃度のビタミンということから困難な業務になる場合があります。さらに現在用いられているメソッドのほとんどは、ビタミンを別々に、もしくはグループに分けて分析することになっています。確立されている手法には、微生物学的評価、比色および蛍光分析、滴定法、HPLC 法などが含まれています。LC-MS を用いることにより、検出器の選択性を改善し、定量下限をさらに低濃度にすることが可能です。近年の技術革新により、装置の使いやすさと頑健性を向上させることで、ラボに質量分析計を導入する際の課題をなくし、質量検出のメリットを生かしやすくなりました。これらのメリットが、ACQUITY QDa 検出器を導入するきっかけにつながります。本アプリケーションノートではダイエットサプリメントおよび飲料サンプルに含まれる 12 種の水溶性ビタミン(WSV)を ACQUITY UPLC H-Class システム及び ACQUITY UPLC QDa 検出器を用いて分析を行いました。

利点

  • 選択的な MS 検出により、低濃度ビタミンが明確に検出できるため、サンプル抽出物の希釈を用いて前処理の手間を省力可能
  • ACQUITY QDa 検出器は UPLC および HPLC システムに共通で使用でき、頑健性、信頼性及び UV 検出器との直交性を兼ね備えた、新規ユーザーが迅速に利用できる最も選択性の高い検出器
  • ACQUITY QDa 検出器は既存の液体クロマトグラフィーとともに用いることで、他の LC 検出器の分析時間と選択性を大幅に改善

はじめに

栄養価を高め、食事の栄養不足を補うため、食品および飲料のほとんどにビタミンが日常的に用いられています。規制要件を満たすために、食品および飲料の製造業者は、製品が消費される国の規制に応じて製品ラベルをつける必要があります。これらの規制の例としては、ビタミンやミネラルについては欧州委員会(EC)1925/2006 に記載があり、米国連邦規則(CFR)21 条にはアメリカ合衆国における食品のラベルについて記載されています。

食品業界には迅速かつ信頼性の高い、費用対効果のある方法が求められており、原料のサプライヤは製品の一貫性を確認し、ラベル表示が要件を満たしていることを保証する必要があります。複雑なマトリックスと低濃度のビタミンということから困難な業務になる場合があります。さらに現在用いられているメソッドのほとんどは、ビタミンを別々に、もしくはグループに分けて分析することになっています。確立されている手法には、微生物学的評価、比色および蛍光分析、滴定法、HPLC 法などが含まれています1。LC-MS を用いることにより、検出器の選択性を改善し、定量下限をさらに低濃度にすることが可能です。Waters ACQUITY QDa 検出器により、ラボに質量分析計を導入する際の課題がなくされ、質量検出のメリットを生かしやすくなりました。

本アプリケーションノートではダイエットサプリメントおよび飲料サンプルに含まれる 12 種の水溶性ビタミン(WSV)を ACQUITY UPLC H-Class システム及び ACQUITY UPLC QDa 検出器を用いて分析を行いました。

実験

表1 に今回の実験に用いる WSV の保持時間、選択イオンレコーディング(SIR)の m/z、コーン電圧を一覧にしています。

表 1. 各水溶性ビタミンの保持時間、SIR チャンネル、コーン電圧
表 2. ビタミン B 及びビタミン C 標準溶液の濃度

標準溶液調製

それぞれの WSV について、水を用いて 1 mg/mL に調製し、ストック溶液としました。ビタミン B2、B7、B9 については 1N の NaOH を 200 µL 加えて溶解させました。ビタミン C は低 pH の酢酸緩衝液に溶解することで安定性が向上します。各ストック溶液を混合し、ビタミン C 1.25 mL 及びその他のストック溶液 0.025 mL をそれぞれとり、水を用いて 25 mL に希釈しました。混合ストック溶液(ビタミン C:50 ppm、その他ビタミン:1 ppm)について、表 2 に示した希釈系列で 11 種の標準溶液を調製しました。

サンプル前処理

粉末のビタミン飲料(1 包 8.50 g)を 100 mL の水に溶解し、0.2 µm の PVDF フィルターでろ過しました。サンプル溶液はさらに希釈を行い、250 倍及び 10 倍希釈の 2 種類を調製しました。希釈レベルが異なった 3 種のサンプル溶液は、サンプル中に含まれる濃度の異なるビタミンを測定するために用いました。

マルチビタミンサプリメント錠を乳鉢と乳棒を用いて粉砕しました。粉末 1.34 g を秤量し、ビーカーに移し 100 mL の水を加えました。サンプルは 15 分間超音波処理を施し溶解し、攪拌した後 0.2 µm の PVDF フィルターを用いてろ過しました。さらにこれらのサンプルは水を用いて 1000、100、20 倍にそれぞれ希釈しました。これらの希釈溶液及び最初に溶解したサンプル溶液(希釈なし)は同様にサンプル中に含まれる濃度の異なるビタミンを測定するために用いました。

2 種類のビタミン水溶液サンプルは水を用いて 20 倍希釈し、0.2 µm の PVDF フィルターを用いてろ過しました。

UPLC 条件

UPLC システム:

ACQUITY UPLC H-Class

分析時間:

17.5 分

カラム:

ACQUITY UPLC HSS T3、1.8 µm、2.1×100 mm

カラム温度:

30 ℃

移動相 A:

10 mM ギ酸アンモニウム 0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

10 mM ギ酸アンモニウム 0.1% ギ酸含有メタノール溶液

注入量:

5 µL

Gradient

表 3. 水溶性ビタミンの分析に用いた UPLC グラジエント

検出器条件

検出器 1:

ACQUITY UPLC PDA

波長:

波長取り込み範囲 210~400 nm;解析波長 270 nm

スキャンレート:

10 ポイント/秒

検出器 2:

ACQUITY QDa

イオン化モード:

ESI+

分析時間:

8.0 分

プローブ温度:

600 ℃

キャピラリー電圧:

0.8 kV

質量範囲:

m/z 50~800 m/z (セントロイド)及び SIR ※

サンプリングレート:

5 Hz

コーン電圧:

フルスキャン 15 V

※表 1 にそれぞれの SIR チャンネルのコーン電圧を示した

SIR の m/z は先行検討をもとに用いた2

結果および考察

12 種類の水溶性ビタミンを重ね書きしたクロマトグラムを図 1 に示しており、すべての化合物は 8 分以内に溶出しています。この条件で分析したところ、2 つの同時溶出ピーク(2.5 分付近に溶出しているニコチンアミドおよびピリドキシン、7.25 分付近に溶出しているシアノコバラミン及び葉酸)が確認されました。質量検出器を用いることで、全ての化合物をベースライン分離する必要がなくなり、質量対電荷比(m/z)を用いて正確に識別されます。図 2 に同時溶出したビタミンを含む各ビタミンの直線性を示しています。図 2 の D 及び F は葉酸(m/z =442)及びシアノコバラミン(m/z =678)の検量線を示しています。質量検出器の選択性を用いることで、同時溶出している化合物についても定量が可能です。図 2 には UV では分析が困難だったビタミンの検量線も示しています。例えばビオチン(図 2A)及びパントテン酸カルシウム(図 2H)は UV 検出器ではレスポンスが低いビタミンです。これらの化合物は十分な感度を得るために低波長側で分析します3。 低波長側で分析を行うと、化合物の特異性が損なわれますが、MS 検出を用いることで、分析における特異性及び感度が確保できます。

図 1. 8 分で分離した 12 種類の水溶性ビタミンの重ね書き SIR クロマトグラム
図 2. 各水溶性ビタミンの検量線

MS 検出器を用いることで UV 検出よりもさらに低濃度のビタミンの検出が可能になります。図 3 にピリドキシン、ピリドキサル、ニコチン酸及びニコチンアミドの 5 ppb(5 µg/L)の SIR クロマトグラム及び UV クロマトグラム(図 3A、270 nm)を示しています。図 3A に示したようにこの濃度のビタミンは UV では検出されませんでした。MS 検出器による定量下限の改善は、低濃度ビタミンを定量する上で重要です。感度を向上させ、サンプル抽出物を希釈することでさまざまなマトリックスにおける検出が可能になります。この検討ではビタミンサプリメントおよび飲料についてサンプル希釈するだけで簡単に分析できます(錠剤の場合は粉砕という初期工程が必要です)。

図 3.5 µg/L のビタミン標準混合溶液の 270 nm の UV クロマトグラム及び SIR クロマトグラム。(SIR は 4 チャンネルB:ピリドキシン C:ピリドキサル D:ニコチン酸 E:ニコチンアミド)

図 4 に 2 つのビタミン水サンプル中から検出されたビタミン B5(パントテン酸カルシウム)を示しています。UV クロマトグラムを見ると、サンプル前処理なしの UV ではビタミン B5 は検出できないことが分かります。ビタミン B1(チアミン)は UV 検出が困難なビタミンの 1 つです。図 5 に希釈した粉末のビタミン飲料から検出されたビタミン B1 およびビタミン C(アスコルビン酸)の例を示しています。ビタミン C については UV で検出可能ですが、ビタミン B1 は検出されません。しかしながら図 5A に示したように ACQUITY QDa 検出器の SIR を用いることでビタミン B1 は明確に検出できます。

図 4.2 種類のビタミン水サンプルから検出されたビタミン B5。保持時間 5.9 分のピークは MS 検出器により良好なシグナル対ノイズを示しています(A および C)。しかし、UV では検出できませんでした(B 及び D)。
図 5.250 倍希釈した粉末のビタミン飲料のクロマトグラム。A:ビタミン B1(チアミン)の SIR。B:ビタミン C(アスコルビン酸)の SIR。C:ビタミン C の 270 nm における UV クロマトグラム(ビタミン B1 はUV 検出されなかった)

シアノコバラミンはサプリメント及び食品からわずかにしか検出されない水溶性ビタミンであり、定量するために分けて行う必要があります。2 次元のクロマトグラフィーはビタミン検出においてはルーチン分析に用いられます4。 従来の UPLC メソッドを用いてマルチビタミンサプリメントから検出されたシアノコバラミンの例を図 6 に示しています。この濃度では UV クロマトグラムにおいてはピークが検出されませんでした(図 6B)。質量検出により高濃度に配合されているビタミンを検出するのと同じ方法でビタミン B12 を検出することが可能でした。ACQUITY QDa 検出器は LC のワークフローに容易に取り入れることが可能で、既存の多波長取り込みを行うよりも使い易くなっています。 

ビタミンの分析において、配合されているビタミンの濃度範囲が広いことが課題の 1 つでした。例えば本検討で用いた錠剤のマルチビタミンサプリメントには、6 µg 配合されている B12(シアノコバラミン)から 16 mg 配合されている B3(ナイアシン(ニコチン酸))まであり、他の B 群ビタミンについてもこの範囲内で配合されています。本検討では濃度の異なるレベルのビタミンを考慮するため、最初の抽出物についてそれぞれ希釈を行い、全てのビタミンについて同じ LC-MS 条件で分析を行っています。図 7 にマルチビタミンサプリメントの分析結果を示しています。図 7A 及び 7B はリボフラビン(B2)について 100 倍希釈及び希釈なしの SIR クロマトグラムを比較しています。図 7C は希釈なしのサンプルにおけるシアノコバラミン(B12) の SIR クロマトグラムを示しています。希釈したサンプルからはピークは検出されませんでした(データの記載はなし)。希釈なしのサンプルにおける 270 nm の UV クロマトグラムを図 7D に示しており、サンプル中のリボフラビンのピークは十分に検出されています。リボフラビンおよびシアノコバラミンの定量値は 12.5 ppm と 41 ppb でした。サプリメントのラベルに表示されている値の 96% および 68% に相当するものでした。本検討ではラベル表示量の実証も、添加回収試験も実施しませんでしたが、表 2 に示した検量線の範囲内において、多段階の希釈を用いることで実証できる可能性が示唆されました。

図 6. 質量検出器によるビタミンサプリメント中のビタミン B12 の検出(A)。ビタミン濃度は UV の検出下限以下であった(B)。
図 7.ビタミンサプリメント錠に含まれる濃度が大きく異なる 2 種類のビタミンの検出。リボフラビンはサンプル抽出物 100 倍希釈において明確に検出されています(A)。B12 については希釈していない抽出物からのみ検出されています(C)。希釈なしの抽出物中のリボフラビンは検量線の範囲外でした(B)。この濃度については UV においても容易に検出できます(D)。

ビタミン B のメソッドについて再現性を評価するために、濃度の異なるビタミンを注入し評価しました。保持時間の再現性及びピーク面積の再現性の結果を表 4 及び 5 に示しています。表 4 は 2 つの濃度の異なる標準溶液をそれぞれ 10 回注入し、合計で 20 回注入した結果を示しています。保持時間については、溶出が早い水溶性ビタミンについても全て %RSD=0.6% 以下という良好な結果が得られました。ピーク面積の再現性については 0.025 mg/L を 10 回注入し評価しました(表 5)。強度が小さかった葉酸およびリボフラビン 5 リン酸を除くほとんどのビタミンは %RSD=10% 以下でした。経時劣化することが知られているビタミン C については本検討から除外しました。

表 4. 2 種の標準溶液 0.75 mg/L(10 回注入)及び 0.025 mg/L(10 回注入)の保持時間再現性
表 5. 0.025 mg/L の標準溶液の 10 回注入におけるビタミン B ピーク面積再現性

結論

本アプリケーションでは UV では検出できない濃度の水溶性ビタミンを正確に定量することで、ウォーターズの ACQUITY QDa 質量検出器の性能を示しています。SIR チャンネルを用いることで感度が向上し、同時溶出が起こっても化合物を選択的に定量することが可能です。すべての化合物をベースライン分離するという負担がなくなり、より低濃度のビタミンを検出することが可能になります。 

ACQUITY QDa 検出器を用いることで、

  • UV 吸収がわずかもしくは全くない化合物の定量が可能
  • 異なった質量の化合物が同時溶出していても選択的に定量可能
  • 水溶性ビタミンのメソッドを一つの LC-MS メソッドに統合可能
  • サンプル前処理を容易にし、定量限界を改善
  • Empower 3 及び MassLynx ソフトウエアの 2 種から選択でき、LC ワークフローの中に容易に組み込める
  • 特別な質量分析の知識を必要としないため、ACQUITY QDa 質量検出をすぐに活用可能

参考文献

  1. G F M Ball (Editor).Bioavailabilty and Analysis of Vitamins in Foods.Chapman and Hall.(1998).Chapter 2, pp.33. 
  2. E Riches.The Rapid Simultaneous Analysis of 12 Water Soluble Vitamin Compounds.Waters Application Note No.720003052en, June, 2009. 
  3. Heudi et al.Separation of water-soluble vitamins by reversed-phase high performance liquid chromatography with ultra-violet detection: Application to polyvitaminated premixes.J Chrom A. (2005) 1070: 49–56, pp.51. 
  4. AOAC Method 2011.09: Vitamin B12.

ソリューション提供製品

720004960JA、2016 年 11 月

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