• アプリケーションノート

ACQUITY Arc システムと PDA、質量検出、および Empower 3 ソフトウェアを併用した農薬製剤の UHPLC 分析

ACQUITY Arc システムと PDA、質量検出、および Empower 3 ソフトウェアを併用した農薬製剤の UHPLC 分析
  • Marian Twohig
  • Michael O'Leary
  • Neil J. Lander

  • Waters Corporation

要約

農薬製剤中の活性成分や不純物、分解生成物などを含むすべての成分の検出、特性解析、定量は製品開発、品質管理、製品登録などを支えるために必要です。製剤サンプルのルーチン分析には、現在フォトダイオードアレイ(PDA)検出による液体クロマトグラフィー(LC)分析法が使用されています。UV 検出に質量検出器を追加することで、分析試験法の特異性および選択性が向上し、1 回の分析でサンプルについての補足情報が得られます。

このアプリケーションノートでは、2 つの活性成分(AI)、殺虫剤 AI 1 とトリアゾール系殺菌剤のテブコナゾール AI 2 を含む市販の農薬製剤の分析について紹介します。トリアゾール系殺菌剤は、さまざまな作物病害に対して強力な活性を持つ一般的な農薬です。

製剤の分析には、HPLC と UHPLC の両分離を実施できる 2 つの流路を持つ液体クロマトグラフィーシステムを使用し、UV と質量の検出を行いました。ACQUITY Arc システムは、既存の HPLC 分析法の再現が可能で、更により効率的なクロマトグラフィー分離目的に 3 μm 以下の粒子径を使用する UHPLC 分析法に移管することもできます。

Empower 3 ソフトウェアはデータ取得および解析に使用し、得られた結果から、指定された % 面積レベルを超える不純物に対しフラグを付けました。検出能力とデータ分析を組み合わせることにより未知成分の構造の初期特性が得られました。

利点

  • PDA および質量検出を使用した不純物プロファイリングによる信頼性の向上
  • 活性成分と未知成分の間の構造類似性が 1 回の分析で確認可能
  • Empower 3 ソフトウェアによる統括されたデータ分析 / 解析およびレポート機能を用いた簡便性
  • HPLC と UHPLC の両分離を実行可能な 2 つの流路による分析法の開発および移管

はじめに

作物保護製品により、作物の被害が減少し、豊富で高品質な食料供給が可能になります1。 農薬産業において、分析による農薬製品の品質管理は、ばらつきのない有効な製品が顧客に届くことを保証するために非常に重要です2。 製剤中の活性成分や不純物、分解生成物などを含むすべての成分の検出、特性解析、定量は製品開発、品質管理、製品登録などを支えるために必要です。製剤サンプルのルーチン分析には、現在フォトダイオードアレイ(PDA)検出による液体クロマトグラフィー(LC)分析法が使用されています2-4。UV 検出に質量検出器を追加することで、分析試験法の特異性および選択性が向上し、1 回の分析でサンプルについての補足情報が得られます。 

このアプリケーションノートでは、2 つの活性成分(AI)、殺虫剤 AI 1 とトリアゾール系殺菌剤のテブコナゾール AI 2(図 1)を含む市販の農薬製剤の分析について紹介します。トリアゾール系殺菌剤は、さまざまな作物病害に対して強力な活性を持つ一般的な農薬です5。 製剤の分析には、HPLC と UHPLC の両分離を実施できる 2 つの流路を持つ液体クロマトグラフィーシステムを使用し、UV と質量の検出を行いました6。 ACQUITY Arc システムは、既存の HPLC 分析法の再現が可能で、更により効率的なクロマトグラフィー分離目的に 3 μm 以下の粒子径を使用する UHPLC 分析法に移管することもできます。 

Empower 3 ソフトウェアはデータ取得および解析に使用し、得られた結果から、指定された % 面積レベルを超える不純物に対しフラグを付けました。Empower のカスタムフィールドで、個別に作成したカスタム計算結果から、さらに情報を引き出すことが可能になりました。検出能力とデータ解析を組み合わせることにより初期段階における未知成分の構造の特性解析結果が得られました。

図 1. AI 1 およびテブコナゾールについての構造および m/z。

実験

装置およびソフトウェア

すべての分析は、2998 フォトダイオードアレイ(PDA)および ACQUITY QDa 検出器を接続した Waters ACQUITY Arc システムで実施しました。Empower 3 ソフトウェアは、データの取得および解析に使用しました。

  • サンプル前処理:市販農薬製剤 1g を秤量し、50:50(v/v)アセトニトリル / 水 9 mL を加えました。これを 20 分間超音波処理し、0.2 µm PVDF フィルターを使用してオートサンプラーバイアルにシリンジろ過しました。

 

LC 条件

LC システム:

ACQUITY Arc

分離モード:

グラジエント

カラム:

CORTECS C18+ 3.0×100 mm、2.7 μm

溶媒 A:

0.1% ギ酸水溶液

溶媒 B:

アセトニトリル

流量:

0.80 mL/分

UV 条件

UV 検出器:

2998 フォトダイオードアレイ(PDA)

PDA 検出:

210 - 400 nm

カラム温度:

50 ℃

注入量:

5 µL

グラジエント条件:

0 分 20% B、10 分 80% B、11 分 90% B、12 分 90% B より初期条件に戻る

MS 条件

MS システム:

ACQUITY QDa

イオン化モード:

ESI+

キャピラリー電圧:

0.8 kV

コーン電圧:

10 V

脱溶媒温度:

600 ℃

ソース温度:

150 ℃

MS スキャン範囲:

100 - 1000 m/z

サンプリングレート:

5 Hz

結果および考察

不純物レポートしきい値

ACQUITY Arc システムの、Dwell Volume を選択することが可能な Arc Multi-flow path™ テクノロジーを使用します。Arc Multi- flow path テクノロジーを使用することで、HPLC 分析法用の粒子径 3 µm から 5 µm に対応するだけでなく、併せて粒子径 2.5 µm から 2.7 µm を使用した迅速かつ効率的な UHPLC 分離もサポートすることが可能です。その結果クロマトグラフィー分離の柔軟性が増し、生産性が最大限に発揮されます6。農薬製剤サンプルのクロマトグラフィー分離は、CORTECS C18+ カラム(3.0×100 mm、2.7 µm ソリッドコアパーティクルテクノロジー、製品番号186007402)により UHPLC モードで実施しました。CORTECS 2.7 µm カラムは、HPLC および UHPLC 装置に適合します。このカラムは、HPLC の背圧で効率が高く、5 µm の全多孔性粒子を使用する現行の分析法より高い分離能で高速分析が可能です7

Empower 3 ソフトウェアによる農薬製剤の分析、解析を実施しました。結果、Empower 解析メソッドに設定した 0.1% のレポートしきい値を超える未知の 2 成分が認められました8。 農薬製剤サンプルの分析 / 解析によって得られた、ACQUITY Arc UV クロマトグラム(220 nm)の Empower のレポートを示しました(図 2)。2 つの活性成分は同定され、未知成分はラベルされています。クロマトグラム下のピーク結果表には、成分名、面積、面積 %、保持時間、不純物レスポンスおよびレポートしきい値が示されています。UV および MS データから、未知成分 1 および未知成分 2 はテブコナゾール AI と共通の構造的特徴を有している可能性があることが示されているため(図 3)、Empower 3 のカスタム計算を使用してテブコナゾールに対するそれぞれの不純物の面積 % を計算しました(図 2)。  検出された不純物に関するデータを赤色で強調表示することにより、どちらの成分をさらに調査する必要があるかが容易に判断できます。

図 2.農薬製剤サンプルの分離分析における ACQUITY Arc UV クロマトグラム(220 nm)の Empower ソフトウェアによるレポート。結果は下に表示、しきい値を超える不純物は、赤色で強調表示しています。既知の AI の構造も示しています。

クロマトグラフィー、UV、および質量検出器の結果を Empower ソフトウェアで 1 カ所に集約することにより、データ解析の負担をさらに軽減できます。Empower 質量分析ウィンドウ(図 3)は 1 画面表示できるため、分析に使用したすべての検出器のクロマトグラフィーピークを、対応するスペクトルと関連づけることができます。UV クロマトグラムおよび UV スペクトルがトータルイオンカレント(TIC)クロマトグラム、抽出イオンクロマトグラム(XIC)、質量スペクトルと同一画面に表示されます。検出されたピークのスペクトルは、保持時間のアライメント後、クロマトグラム上のウィンドウに表示されるので、データ評価が迅速かつ容易になります。

図 3. Empower ソフトウェア質量分析ウィンドウ:UV、トータルイオンカレント(TIC)クロマトグラム、抽出イオンクロマトグラム(XIC)を、UV および MS スペクトルと同一画面で見ることができます。

質量分析ウィンドウのデータより、未知成分 2(ピーク 3)とテブコナゾール AI(ピーク 4)間の関係が示されました。UV スペクトルには類似の最大吸収値があり、テブコナゾールの [M+H]+ である m/z 308 と未知成分 2 は同一の m/z を有していることが質量スペクトルにより示されています。さらに、未知成分 2 の同位体パターンは、含塩素化合物の特徴を示し(図 4 参照)、AI の同位体パターンと一致します。1 回の注入分析のみで、未知成分 2 はテブコナゾールと類似の UV スペクトル、および同一の m/z と同位体パターンを有することが確認されました。これらの結果から、未知成分 2 はおそらくテブコナゾールの異性体であり、類似した構造組成および化学的性質を有する可能性があることが示唆されました。さらに、マスクロマトグラムにおける未知成分の検出感度は、特に目的とするピークに対応するイオンを TIC から抽出することで大幅に向上します。ACQUITY QDa による検出感度向上の結果、データ評価の信頼性が向上します。

未知成分 1(ピーク 2)の UV 最大吸収波長は、テブコナゾールに類似している可能性がある不純物である未知成分 2 とテブコナゾールの UV 最大吸収値と比較したところ、高い類似性を示しました。未知成分 1 の m/z は 281 であり、同位体パターンは、構造に塩素が存在することを示唆しています(図 4)。これらのデータをまとめた Empower スペクトルインデックスプロットのレポートを図 4 に示します。

図 4. 農薬製剤分析における ACQUITY Arc UV クロマトグラム(220 nm)および Empower スペクトルインデックスプロットレポート。検出されたピークの UV スペクトル(最上部)、ACQUITY QDa MS スキャンクロマトグラム(最下部)、および UV で検出されたピークの MS スペクトルが表示されます。2 つの AI の構造を挿入図で表示しました。

結論

  • ACQUITY Arc システムは、HPLC 分析用の粒子径 3.0 µm から 5.0 µm に対応するだけでなく、粒子径 2.5 µm から 2.7 µm を使用した迅速かつ効率的な UHPLC 分離もサポートし、クロマトグラフィー分離の柔軟性を増し、生産性を最大限に発揮できます6
  • ACQUITY QDa 検出器は、PDA と併用することで低濃度成分の検出が可能になり、農薬製剤の信頼性が向上しました。この成分は、製剤サンプルに含まれるトリアゾール系殺菌剤活性成分と類似の光学的および構造的特性を有することが確認されました。
  • Empower ソフトウェアの質量分析ウィンドウによる 1 画面表示機能は、分析で使用したすべての検出器のクロマトグラムとスペクトルを関連づけることが可能になります。情報を 1 カ所に統合することにより、データの評価と解釈が簡単になります。
  • 補完的分析検出法として質量検出を追加することにより、化合物の検出および同定の信頼性が向上します。PDA 検出器を用いた分析に慣れているラボにおいて、選択性の低い検出器だけでなく、ACQUITY QDa 検出器を用いることにより、ルーチンの質量検出を経済的に行うことができます。
  • Empower 3 には、データ分析を容易にする数多くの機能があります。設定限度を超える不純物には、自動的にフラグを付けることができます。個別に調整した計算により、更なる調査が必要になるかもしれない成分の同定に大いに寄与する関連情報を迅速に引き出すことが可能になります。

参考文献

  1. EM Ulrich, CN Morrison, MR Goldsmith, WT Foreman.(2012).Chiral Pesticides: Identification, Description and Environmental Implications.Reviews of Environmental Contamination and Toxicology.Springer US.217: 1–74, 2012.
  2. Quality Control of Pesticide Products.(2009).Prepared by the Joint FAO/IAEA Division of Nuclear Techniques in Food and Agriculture.[cited January 8th, 2016) http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/te_1612_web.pdf
  3. KV Kumar, NVS Naidu.Development and validation of RP-HPLC method for the analysis of carbofuran and in its formulations.Der Pharma Chemica, 5(1): 313–319, 2013.
  4. L Vodeb, B Petanovska-Ilievska.HPLC-DAD with different types of columns for the determination of β-Cyfluthrin in pesticide formulations.ACTA Chromatographica.No.17, 2006.
  5. L Toribo, MJ del Noza, JL Bernal, JJ Jimenez, C Alonso.Chiral separation of some triazole pesticides by supercritical fluid chromatography.J. Chrom.A. 1046: 249–253, 2004.
  6. Waters brochure: ACQUITY Arc System.Part no.720005393en.March 2016.
  7. Waters brochure: CORTECS 2.7 μm Columns.Part no.720004675en.February, 2015.
  8. Commission Regulation (EU) No 544/2011.(2011) [cited January 7th, 2016] http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2011:155:0001:0066:EN:PDF

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720005663JA、2016 年 4 月

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