このアプリケーションブリーフでは、QuEChERS 抽出と大気圧 GC(APGC)および Xevo G2-XS QTof 高分解能質量分析(HRMS)を組み合わせた分析法について説明します。
QuEChERS 抽出メソッドと APGC および QTof の組み合わせにより、熟練したオペレーターを必要とせず、従来のダイオキシン類のサンプル前処理および分析よりも、迅速かつ安価なダイオキシン類分析を行うことができます。
本研究の目的は、Waters Xevo G2-XS QTof で APGC 高分解能質量分析(HRMS)を使用する従来の磁場セクター手法よりも迅速で費用対効果の高いダイオキシン分析法を開発するとともに、EPA メソッド 1613 に必要な最小性能限界を超えることでした。
ダイオキシン類およびダイオキシン様化合物は、がんを含むさまざまな疾患に関連する遍在性の残留性有機汚染物質(POPs)です1。 これらはストックホルム条約2で規制されており、世界中の規制機関によってその発生と毒性がモニターされています。
磁場セクター装置を使用して沈殿物中のダイオキシン類を測定する従来の分析法がゴールドスタンダードと見なされています。ただし、これには専門のオペレーターと専用の装置が必要です3。 従来のサンプル前処理にかかる時間は数日を超える場合があり、高価で有害な溶媒を大量に使用します。
沈殿物のケミストリーは空間的・時間的に変化する可能性があるため、ダイオキシン汚染を評価する施設を適切に特性解析するには、多数のサンプルを分析する必要があります4。 このことは、サンプル前処理に非常に多くの時間を費やし、大量の溶媒を使用することを意味します。過去 10 年間、QuEChERS(迅速、簡単、安価、効果的、堅牢、安全)と呼ばれるアセトニトリル単相抽出法が採用され、農薬分析用の食品サンプルをわずか 30 分で調製することができました5。 この手法を改変して、沈殿物サンプル中のダイオキシン類とフランの分析用の迅速な抽出およびクリーンアップメソッドとして適用し、この試験のサンプルの前処理に使用しました。この新しいアプローチでは、大気圧 GC(APGC)を搭載した Xevo G2-XS QTof を使用してサンプルを調査しました。
沈殿物中のダイオキシン類およびフランのスクリーニング用に改変 QuEChERS サンプル前処理メソッドが開発されました。これにより、10 サンプルで 4 ~ 5 日もかかっていたサンプル前処理が、1 日で最大 30 サンプルに短縮されました6。 この試験では、従来の磁場セクター装置に代わって、Xevo G2-XS QTof(図 1b)に接続した APGC イオン源(図 1a)も利用しています。
湿った沈殿物サンプルに 13C 標識標準試料を加え、改変 QuEChERS メソッドを使用して抽出を行いました。分離した有機層を、液-液抽出によってヘキサンに溶媒交換しました。抽出物は、カーボンカラムでクリーニングしてから濃縮し、磁場セクター GC HRMS システムと、APGC イオン源を搭載した Xevo G2-XS QTof 装置を使用して分析を行いました。この分析で使用したカラムは、長さ 20 m、30 m、40 m の Restek Rtx-Dioxin2 でした。
ダイオキシン類の分析に関し、APGC-Xevo G2-XS QTof の機能と性能は磁場セクター MS と同等以上であることが証明されました。従来の EI(電子衝突イオン化)システムとは異なり、APGC イオン源ではより高流量が使用でき、分析時間が短縮します。4 種類の同族体群について、流量増加がクロマトグラフィー分離に与える影響を図 3 に示します。カラム流量が増加するとクロマトグラフィー分離は低下しますが、主に固定相(Rtx-Dioxin2)の選択性により、定量分析に必要な十分な分離が維持されます。HxCDD 同族体の対のみは共溶出しているように見えますが、それらの TEF(毒性等価係数)が同一であることを考えると、クロマトグラフィー分離能の低下が TEQ(毒性等量)に及ぼす影響は極めて小さいと予想されます。
カラム長も評価し、結果を図 4 にまとめています。カラムを短くすることで背圧が低減し、結果として流量が増加して、分離における損失を最小限に抑えながら分析時間をさらに短縮(15 分/サンプル)できました。APGC は汎用性が十分高く、EI イオン化および磁場セクター MS のメソッド要件があるにも関わらず、規制を満たす究極のクロマトグラフィー性能(最適流量で 40 m Rtx-Dioxin2 カラムを使用)が得られます。必要に応じて、重要な異性体の分離を維持しながら、(20 m Rtx-Dioxin2 カラムを流量 3 mL/分超で使用して)ハイスループットとキャパシティー増加が可能です。
図 5a では、APGC-Xevo G2-XS QTof を使用して、0.5 ~ 200 pg の 2,3,7,8-TCDD の検量線から、良好な直線性と R2 0.9993 が得られています。
APGC-Xevo G2-XS および磁場セクターと比較した認証レファレンス物質の分析結果を図 5b に示します。APGC-Xevo G2-XS の分析結果は、レファレンスや磁場セクターと比較して良好です。一方、磁場セクターでの 2,3,7,8-TCDD および 1,2,3,7,8,9-HxCDF の分析結果はレファレンスとは異なりますが、同じ同族体についての APGC での分析結果はレファレンスと比較して良好であることが注目に値します(図 5b)。
QuEChERS は、施設の修復工事からの多数の沈殿物サンプルの分析に有効なサンプル抽出/クリーンアップメソッドであることが証明されており7、従来の前処理と比較して時間と溶媒を削減できます。APGC と Xevo G2-XS QTof の組み合わせにより、GC-HRMS システムよりも高流量を扱えるため、装置の分析時間が短縮しました。QuEChERS 抽出と APGC-QTof 分析を組み合わせたメソッドにより、従来の手法と比較してサンプルスループットが 15 倍向上しました。Xevo G2-XS QToF は、APGC、ESI、APCI、UniSpray などのインレットオプションを使用できる柔軟なプラットホームを提供するため、必要に応じて同じ装置で他の分析を行えます。このシステムは、ダイオキシンの公式メソッド EPA1613 の検出限界を満たすノンターゲット取り込みモードで動作し、従来のサンプル前処理メソッドや汎用的なサンプル前処理メソッドで発生する可能性のあるノンターゲット分析種の元素組成などの追加の分析情報が得られます。
720006099JA、2017 年 10 月