エストロゲンは避妊薬やホルモン補充療法などに日常的に使用され、廃水への排出を介して水環境に入ります。エストロゲンは魚のホルモンシステムを乱し、水生環境に対して悪影響をもたらすと考えられています。EU では、EU 指令 2013/39/EU により、水の枠組み指令 2000/60/EC に 15 の優先物質が追加されました。この更新で 17α-エチニルエストラジオールおよび 17β-エストラジオールは優先化合物リストに含まれてはいませんが、これらの化合物の水生環境での存在とそのリスクに関するデータを収集するために、ウォッチリストに追加されました。
本アプリケーションノートでは、地表水および廃水中に存在するエストロン、17α-エチニルエストラジオールおよび 17β-エストラジオールの分析法について紹介します。これらの化合物に要求される EU 基準の LLOQ である ppq レベルを達成するために、オフラインの固相抽出(SPE)によるクリーンアップと予備濃縮を組み合わせ、さらに大容量注入とタンデム四重極型質量分析法を用いました。
このアプリケーションには次のようなメリットがあります。
エストロゲンは避妊薬やホルモン補充療法などに日常的に使用され、廃水への排出を介して水環境に入ります1。 エストロゲンは魚のホルモンシステムを乱し、水生環境に対して悪影響をもたらすと考えられています1。 EU では、EU 指令 2013/39/EU2 により、水の枠組み指令 2000/60/EC に 15 の優先物質が追加されました3。この更新で、17α-エチニルエストラジオールおよび 17β-エストラジオールは優先化合物リストに含まれてはいませんが、これらの化合物の水生環境での存在とそのリスクに関するデータを収集するために、ウォッチリストに追加されました2。
本アプリケーションノートでは、地表水および廃水中に存在するエストロン、17α-エチニルエストラジオールおよび 17β-エストラジオールの分析法について紹介します。これらの化合物に要求される EU 基準の LLOQ である ppq レベル4を達成するために、オフラインの固相抽出(SPE)によるクリーンアップと予備濃縮を組み合わせ、さらに大容量注入とタンデム四重極型質量分析法を用いました。
抽出したサンプルは、Scottish Water によって前処理および供給されました。スパイクした地表水と廃水サンプルを、まずろ過して抽出し、オフライン固相抽出(SPE)メソッド5-6 を使用して濃縮しました(図 1)。蒸発乾固し、LCMS グレードの水に再溶解した後、サンプルを大容量で注入(100 µL)して UPLC-MS/MS で分析しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class(大量注入用の拡張ループ、ニードル、シリンジを装着) |
バイアル: |
TruView LCMS 認定 |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH C18 1.7 µm、3.0 × 100 mm |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
サンプル注入量: |
100 µL |
流速: |
0.6 mL/分 |
移動相 A: |
0.01 mM NH4F(分析グレード)水溶液(LCMS グレード) |
移動相 B: |
0.01 mM NH4F(分析グレード)含有 50:50 アセトニトリル:メタノール(LCMS グレード) |
時間(分) |
流速(mL/分) |
%A |
%B |
---|---|---|---|
初期条件 |
0.6 |
70 |
30 |
1.00 |
0.6 |
70 |
30 |
3.50 |
0.6 |
5 |
95 |
5.50 |
0.6 |
5 |
95 |
5.60 |
0.6 |
70 |
30 |
8.60 |
0.6 |
70 |
30 |
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
イオン化モード: |
ESI |
測定モード: |
MRM |
キャピラリー電圧: |
2.00 kV |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1200 L/時間 |
ネブライザー: |
7 bar |
データ管理 |
MassLynx v4.2 |
分析法の最適化を、さまざまなカラム、移動相組成、グラジエント、MS トランジションを評価することによって行いました。「実験方法」セクションに詳説されている条件により、試験した条件について全体的に最適な性能が実現しました。ターゲット化合物のベースライン分離が達成され、50 ng/L 溶媒標準試料からのクロマトグラフィーの例が、図 2 に示されています。化合物は疎水性であるため、グラジエントの有機性の高い部分で溶出します。その結果、図 3 の RADAR スキャン(フルスキャン m/z 100 ~ 1000)に示されているように、この分析に使用した廃水中のマトリックス成分からこの化合物を分離することは困難な課題です。MS ソースの汚染を最小限に抑えるために、Xevo TQ-XS の組み込まれている流路系を使用して、分析のためにクロマトグラフィー部分を MS システムに転流し、不要な部分を廃液に転流しました。
適切な範囲にわたって、マトリックスマッチド(抽出後スパイク)ブラケット検量線中のすべての化合物について、十分な直線性が得られました。地表水中では、17α-エチニルエストラジオールで 10 ~ 320 ng/L、17β-エストラジオールおよびエストロンで 62.5 ~ 2000 ng/L の範囲で良好な直線性(R² > 0.998、残差 < 15% )が得られました。図 4 に、3 つの化合物すべてのキャリブレーションと関連する残差の例が示されています。廃水の場合、マトリックスマッチド検量線は 3 つの化合物すべてについて 120 ~ 2000 ng/L の範囲であり、直線性も許容可能でした(R² > 0.997、残差 < 10%)。分析法の堅牢性を、スパイクした水のサンプル(各マトリックス種類について n = 8)を使用して評価し、%RSD 値は 6% 未満でした。
地表水での分析法性能を評価するため、抽出前にマトリックスサンプルを適切な pg/L(ppq)レベルで事前にスパイクし、図 1 に詳述されている方法に従って調製しました。クリーンアップと濃縮の前に、地表水中に低 ppq レベルで事前スパイクしたサンプルで得られたクロマトグラフィーと感度の例が、図 5 に示されています。
マトリックス効果は、事後にスパイクした地表水サンプルを溶媒検量線に対して定量することによって判定しました。マトリックス効果は、17β-エストラジオールおよびエストロンの場合 ≤ -22%(抑制)、17α-エチニルエストラジオールの場合 ≤ 16%(促進)と算出されました。廃水は、固相抽出クリーンアップ後でも複雑なサンプルのままであり、図 3 の RADAR スキャンに示すように、その結果はすべての化合物について -72% 以下の著しいマトリックス抑制でした。ただし、この著しい抑制があっても、低レベルの各化合物は検出可能なままです。
表 2 に、地表水中に 3 回繰り返して 2 つのレベルでスパイクした化合物の回収率と再現性のデータが示されています。
この分析法では、高感度であることが示され、地表水マトリックス内の各化合物について、目標の EU 規制(2015/495/EU)4 の LLOQ(PtP s/n = 10)レベルが達成されました。廃水マトリックスでは、すべての低レベル濃度の化合物が検出されました。図 6 に示されているように、標準試料添加メソッドを使用して存在する化合物を定量し、17α-エチニルエストラジオールは 16.9 pg/L で測定されました。
この分析法は、地表水および廃水中の低 ppq レベルの合成エストロゲンの分析に焦点を当てています。Oasis SPE および Sep-Pak SPE によるサンプル前処理テクノロジーを利用して、最適化した抽出メソッドによって、必要な濃度とクリーンアップが得られ、スパイクした地表水サンプルで許容可能な回収率と再現性が得られることがわかりました。ACQUITY UPLC H-Class および Xevo TQ-XS を組み合わせた大量注入の使用により、地表水のこの分析の困難な検出要件を達成できました。標準試料添加を用いることで、廃水サンプル中の微量残留物の正確な定量が可能になりました。
720006030JA、2020 年 11 月 改訂