• アプリケーションノート

地表水および廃水中に存在する天然および合成エストロゲンの UPLC-MS/MS による低 ppq レベルでの定量分析

地表水および廃水中に存在する天然および合成エストロゲンの UPLC-MS/MS による低 ppq レベルでの定量分析

  • Euan Ross
  • Benjamin Wuyts
  • Angela Boag
  • Waters Corporation
  • スコットランドの水

要約

エストロゲンは避妊薬やホルモン補充療法などに日常的に使用され、廃水への排出を介して水環境に入ります。エストロゲンは魚のホルモンシステムを乱し、水生環境に対して悪影響をもたらすと考えられています。EU では、EU 指令 2013/39/EU により、水の枠組み指令 2000/60/EC に 15 の優先物質が追加されました。この更新で 17α-エチニルエストラジオールおよび 17β-エストラジオールは優先化合物リストに含まれてはいませんが、これらの化合物の水生環境での存在とそのリスクに関するデータを収集するために、ウォッチリストに追加されました。

本アプリケーションノートでは、地表水および廃水中に存在するエストロン、17α-エチニルエストラジオールおよび 17β-エストラジオールの分析法について紹介します。これらの化合物に要求される EU 基準の LLOQ である ppq レベルを達成するために、オフラインの固相抽出(SPE)によるクリーンアップと予備濃縮を組み合わせ、さらに大容量注入とタンデム四重極型質量分析法を用いました。

アプリケーションのメリット

このアプリケーションには次のようなメリットがあります。

  • EU 基準の LLOQ を達成できる高い感度
  • 目的の分析種のベースライン分離と良好なピーク形状
  • 地表水および廃水サンプルでの適切な直線性とデータ再現性
  • 固相抽出における良好な回収率と再現性
  • 同位体標識を使用しない内部標準添加による、廃水中に検出された残留物の定量

はじめに

エストロゲンは避妊薬やホルモン補充療法などに日常的に使用され、廃水への排出を介して水環境に入ります1。 エストロゲンは魚のホルモンシステムを乱し、水生環境に対して悪影響をもたらすと考えられています1。 EU では、EU 指令 2013/39/EU2 により、水の枠組み指令 2000/60/EC に 15 の優先物質が追加されました3。この更新で、17α-エチニルエストラジオールおよび 17β-エストラジオールは優先化合物リストに含まれてはいませんが、これらの化合物の水生環境での存在とそのリスクに関するデータを収集するために、ウォッチリストに追加されました2。 

本アプリケーションノートでは、地表水および廃水中に存在するエストロン、17α-エチニルエストラジオールおよび 17β-エストラジオールの分析法について紹介します。これらの化合物に要求される EU 基準の LLOQ である ppq レベル4を達成するために、オフラインの固相抽出(SPE)によるクリーンアップと予備濃縮を組み合わせ、さらに大容量注入とタンデム四重極型質量分析法を用いました。

Xevo TQ-XS

実験方法

サンプルの説明

抽出したサンプルは、Scottish Water によって前処理および供給されました。スパイクした地表水と廃水サンプルを、まずろ過して抽出し、オフライン固相抽出(SPE)メソッド5-6 を使用して濃縮しました(図 1)。蒸発乾固し、LCMS グレードの水に再溶解した後、サンプルを大容量で注入(100 µL)して UPLC-MS/MS で分析しました。

図 1. Scottish Water 提供の固相抽出、クリーンアップ、濃縮の方法

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC H-Class(大量注入用の拡張ループ、ニードル、シリンジを装着)

バイアル:

TruView LCMS 認定

カラム:

ACQUITY UPLC BEH C18 1.7 µm、3.0 × 100 mm

カラム温度:

30 ℃

サンプル温度:

10 ℃

サンプル注入量:

100 µL

流速:

0.6 mL/分

移動相 A:

0.01 mM NH4F(分析グレード)水溶液(LCMS グレード)

移動相 B:

0.01 mM NH4F(分析グレード)含有 50:50 アセトニトリル:メタノール(LCMS グレード)

グラジエント

時間(分)

流速(mL/分)

%A

%B

初期条件

0.6

70

30

1.00

0.6

70

30

3.50

0.6

5

95

5.50

0.6

5

95

5.60

0.6

70

30

8.60

0.6

70

30

MS 条件

MS システム:

Xevo TQ-XS

イオン化モード:

ESI

測定モード:

MRM

キャピラリー電圧:

2.00 kV

コーンガス流量:

150 L/時間

脱溶媒温度:

600 ℃

脱溶媒ガス流量:

1200 L/時間

ネブライザー:

7 bar

データ管理

MassLynx v4.2

表 1. ターゲット化合物用に最適化した MS パラメーターおよび LC 保持時間のサマリー

結果および考察

分析法の最適化を、さまざまなカラム、移動相組成、グラジエント、MS トランジションを評価することによって行いました。「実験方法」セクションに詳説されている条件により、試験した条件について全体的に最適な性能が実現しました。ターゲット化合物のベースライン分離が達成され、50 ng/L 溶媒標準試料からのクロマトグラフィーの例が、図 2 に示されています。化合物は疎水性であるため、グラジエントの有機性の高い部分で溶出します。その結果、図 3 の RADAR スキャン(フルスキャン m/z 100 ~ 1000)に示されているように、この分析に使用した廃水中のマトリックス成分からこの化合物を分離することは困難な課題です。MS ソースの汚染を最小限に抑えるために、Xevo TQ-XS の組み込まれている流路系を使用して、分析のためにクロマトグラフィー部分を MS システムに転流し、不要な部分を廃液に転流しました。 

図 2. 1.7 µm、3.0 × 100 mm、ACQUITY UPLC BEH C18 カラム、注入量 100 µL で分離された 50 ng/L の溶媒標準試料のクロマトグラフィーの例 
図 3. RADAR スキャン(フルスキャン m/z 100 ~ 1000)、固相抽出によるクリーンアップおよび濃縮後のマトリックスサンプル。廃水の RADAR スキャンに対して示されているターゲット化合物のピークの例により、それらが溶出する領域が示されてます。 

適切な範囲にわたって、マトリックスマッチド(抽出後スパイク)ブラケット検量線中のすべての化合物について、十分な直線性が得られました。地表水中では、17α-エチニルエストラジオールで 10 ~ 320 ng/L、17β-エストラジオールおよびエストロンで 62.5 ~ 2000 ng/L の範囲で良好な直線性(R² > 0.998、残差 < 15% )が得られました。図 4 に、3 つの化合物すべてのキャリブレーションと関連する残差の例が示されています。廃水の場合、マトリックスマッチド検量線は 3 つの化合物すべてについて 120 ~ 2000 ng/L の範囲であり、直線性も許容可能でした(R² > 0.997、残差 < 10%)。分析法の堅牢性を、スパイクした水のサンプル(各マトリックス種類について n = 8)を使用して評価し、%RSD 値は 6% 未満でした。

地表水での分析法性能を評価するため、抽出前にマトリックスサンプルを適切な pg/L(ppq)レベルで事前にスパイクし、図 1 に詳述されている方法に従って調製しました。クリーンアップと濃縮の前に、地表水中に低 ppq レベルで事前スパイクしたサンプルで得られたクロマトグラフィーと感度の例が、図 5 に示されています。 

マトリックス効果は、事後にスパイクした地表水サンプルを溶媒検量線に対して定量することによって判定しました。マトリックス効果は、17β-エストラジオールおよびエストロンの場合 ≤ -22%(抑制)、17α-エチニルエストラジオールの場合 ≤ 16%(促進)と算出されました。廃水は、固相抽出クリーンアップ後でも複雑なサンプルのままであり、図 3 の RADAR スキャンに示すように、その結果はすべての化合物について -72% 以下の著しいマトリックス抑制でした。ただし、この著しい抑制があっても、低レベルの各化合物は検出可能なままです。

図 4. 地表水中のすべての化合物について、キャリブレーションおよび関連する残差(n = 2)の例 
図 5. 地表水中に 30 pg/L の 17α-エチニルエストラジオール、120 pg/L の 17β-エストラジオール、400 pg/L エストロンを事前にスパイクした(抽出前)サンプル

表 2 に、地表水中に 3 回繰り返して 2 つのレベルでスパイクした化合物の回収率と再現性のデータが示されています。 

この分析法では、高感度であることが示され、地表水マトリックス内の各化合物について、目標の EU 規制(2015/495/EU)4 の LLOQ(PtP s/n = 10)レベルが達成されました。廃水マトリックスでは、すべての低レベル濃度の化合物が検出されました。図 6 に示されているように、標準試料添加メソッドを使用して存在する化合物を定量し、17α-エチニルエストラジオールは 16.9 pg/L で測定されました。

表 2. 地表水マトリックスに 3 回繰り返して 2 つのレベルでスパイクした場合の、すべての化合物の固相抽出メソッドの回収率および再現性のデータ(事前スパイクのレベルを太字で示す)
図 6. 廃水中の低レベル濃度の 17α-エチニルエストラジオールを算出するために使用した標準試料添加メソッド(n = 2)

結論

この分析法は、地表水および廃水中の低 ppq レベルの合成エストロゲンの分析に焦点を当てています。Oasis SPE および Sep-Pak SPE によるサンプル前処理テクノロジーを利用して、最適化した抽出メソッドによって、必要な濃度とクリーンアップが得られ、スパイクした地表水サンプルで許容可能な回収率と再現性が得られることがわかりました。ACQUITY UPLC H-Class および Xevo TQ-XS を組み合わせた大量注入の使用により、地表水のこの分析の困難な検出要件を達成できました。標準試料添加を用いることで、廃水サンプル中の微量残留物の正確な定量が可能になりました。

参考文献

  1. Schwindt A, Winkelman D, Keteles L, et al.An Environmental Oestrogen Disrupts Fish Population Dynamics through Direct and Transgenerational Effects on Survival and Fecundity.Journal of Applied Ecology.2014.
  2. Directive 2013/39/EU of the European Parliament and of the Council of 12 August 2013 Amending Directive 2000/60/EC and 2008/105/EC in Respect of Priority Substances in the Field of Water Policy Text with EEA Relevance.August 2013.
  3. Directive 2000/60/EC of the European Parliament and of the Council of 23 October 2000 Establishing a Framework for Community Action in the Field of Water Policy.October 2000.
  4. Commission Implementing Decision (EU) 2015/495 of 20 March 2015 Establishing a Watch List of Substances for Union-Wide Monitoring in the Field of Water Policy Pursuant to Directive 2008/105/EC of the European Parliament and of the Council (Notified under Document C(2015) 1756) Text with EEA Relevance.March 2015.
  5. Ross E, Boag A, Todd H, Gatward N. Analysis of Natural and Synthetic Estrogens at Sub-PPT Levels in Surface Water and Crude Influent Water Utilizing the ACQUITY UPLC System with 2D LC Technology and Xevo TQ-S. Waters Technology Brief No.720005626en.March 2016.
  6. Chang H. et al.Occurrence of Androgens and Progestogens in Wastewater Treatment Plants and Receiving River Waters: Comparison to Estrogens.Waters Research.45(2):732–740.2011.

720006030JA、2020 年 11 月 改訂

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