• アプリケーションノート

Alliance キャリーオーバー性能評価 Part 1:システムデザイン変更によるキャリーオーバーの低減

Alliance キャリーオーバー性能評価 Part 1:システムデザイン変更によるキャリーオーバーの低減

  • Amanda B. Dlugasch
  • Jennifer Simeone
  • Patricia R. McConville
  • Waters Corporation

要約

本アプリケーションノートでは、Alliance HPLC システムインジェクターアセンブリー内のシールパックコンポーネントデザインの最適化による、キャリーオーバーの低減について検討します。

利点

新規デザインのインジェクターアセンブリー搭載 2018 Alliance HPLC のキャリーオーバー性能の向上

はじめに

サンプル由来のキャリーオーバーは分析ラボにおいて共通の問題であり、クロマトグラフィーの分析法に悪影響を与えます。サンプル由来のキャリーオーバーは、注入した試料が次の注入時に持ち越されることを意味します。キャリーオーバーは、バッチ間のバラつき、規格外の結果、再現性の低下などの原因となります。分析種の化学的性質、分析用カラム、HPLC システムのインジェクターアセンブリーのデザインなど、複数の要因がキャリーオーバーに影響を与えます。例えば、フロースルーニードルデザインを使用した HPLC システムでは、移動相が継続的にサンプル注入ニードルの内部を洗浄するため、キャリーオーバーを低減させることができます。また、多くの LC システムは、サンプルのキャリーオーバーをさらに低減させるために、ニードルの外側を適切な溶媒で洗浄するメカニズムを搭載しています。

本アプリケーションノートでは、Alliance HPLC システムインジェクターアセンブリー内のシールパックコンポーネントデザインの最適化による、キャリーオーバーの低減について検討します。インジェクターデザインの向上を評価するために、異なる化学的性質を持つ 4 種の化合物を選択しました。

図 1.Caffeine、Chlorhexidine、Coumarin および Quetiapine fumarate の構造式

実験方法

LC 条件

LC システム

Alliance:

Alliance e2695 セパレーションモジュール 100 µL シリンジ、2998 PDA 検出器、CH-30(パッシブカラムヒーター)、ファームウェア 3.03

2018 Alliance:

2018 Alliance:Alliance e2695 セパレーションモジュール 100 µLシリンジ、2998 PDA 検出器、CH-30(パッシブカラムヒーター)、e2695 エンハンスメントキット、ファームウェア 3.04

サンプル 1

Caffeine:

HPLC/ UV スタンダードキット (製品番号:700003741) チャレンジ溶液:4.0 mg/mL Caffeine (Solution 7) 標準溶液(0.01%):0.4 µg/mL Caffeine (Solution 8) ブランク (Solution 9)

カラム:

XBridge BEH C18, 3.5 µm 4.6 mm × 50 mm (製品番号:186003031)

カラム温度:

35 ℃

サンプル温度:

4 ℃

注入量:

10 µL

流量:

1.0 mL/分

ニードル洗浄液:

メタノール

ニードル洗浄時間:

設定のまま

移動相 A:

移動相 B:

メタノール

分析時間:

23 分

PDA 波長:

273 nm(解像度 1.2 nm)

グラジエント:

サンプル 2

Chlorhexidine:

標準溶液:1.0 mg/mL

Coumarin(0.1% TFA 水溶液)

ブランク:90:10 水: アセトニトリル

カラム:

CORTECS C18, 2.7 µm

3 mm × 100 mm(製品番号:186007372)

カラム温度:

50 ℃

サンプル温度:

室温

注入量:

5 µL

流量:

1.0 mL/分

ニードル洗浄液:

50:50 水:アセトニトリル

ニードル洗浄時間:

設定のまま

移動相 A:

0.1% TFA 水溶液

移動相 B:

0.1% TFA 含有アセトニトリル

グラジエント:

イソクラティック(67:33 移動相 A:

移動相 B)

分析時間:

10 分

PDA 波長:

257 nm(解像度 4.8 nm)

サンプル 3

Coumarin:

ストック溶液:8 mg/mL Coumarin (メタノール溶液)チャレンジ溶液:2 mg/mL Coumarin(水溶液)標準溶液 (0.01%):0.2 µg/mL Coumarin(水溶液)ブランク:水

カラム:

CORTECS C18, 2.7 µm 3 mm × 100 mm (製品番号:186007372)

カラム温度:

30 ℃

サンプル温度:

4 ℃

注入量:

4 µL

流量:

0.8 mL/分

ニードル洗浄液:

90:10 水:アセトニトリル

ニードル洗浄時間:

設定のまま

移動相 A:

移動相 B:

アセトニトリル

グラジエント:

イソクラティック(90:10 移動相 A: 移動相 B)

分析時間:

15 分

PDA 波長:

275 nm(解像度 4.8 nm)

サンプル 4

Quetiapine fumarate Assay USP 40 NF35 S11

Quetiapine:

標準溶液:0.16 mg/mL Quetiapine fumarate(移動相)(標準ストック溶液:USP 医薬品各条定量)ブランク:水

カラム:

XBridge BEH C8、5 µm 4.6 mm × 250 mm(製品番号:186003018)

カラム温度:

25 °C

サンプル温度:

4 ℃

注入量:

50 µL

流量:

1.3 mL/分

ニードル洗浄液:

90:10 水:アセトニトリル

ニードル洗浄時間:

設定のまま

移動相:

54:7:39 メタノール: アセトニトリル: 緩衝液(事前 調製:0.45 µm フィルターろ過)

緩衝液:

2.6 g/L 第二リン酸アンモニウム(pH 6.5 にリン酸で調整)

グラジエント:

イソクラティック

分析時間:

15 分

PDA 波長:

230 nm(解像度 4.8 nm)

データ管理

Empower 3 クロマトグラフィーデータソフトウェアFR 3、Hot Fix 1

結果および考察

試験の手順とキャリーオーバーの算出

最適化したインジェクターデザインがサンプルキャリーオーバーに与える影響を調べるため、様々な化学的性質を持った複数の化合物を、Alliance HPLC システムおよび e2695 エンハンスメントキットを搭載した 2018 Alliance HPLC システムで分析しました。Caffeine、Chlorhexidine、Coumarin、および Quetiapine fumarate の 4 種の化合物を選択しました。各化合物は個別に調製し、それぞれ 6 回の繰り返し注入を実施しました。

本試験では、キャリーオーバーを評価するために 2 種の分析法を用いています。1 つ目の分析法では、検出器が飽和する濃度であるチャレンジ溶液を使用しました。検出器の飽和により正確なピーク面積が測定できないため、チャレンジ溶液の濃度の 0.01% に調製した標準溶液も分析しました。注入の順序は、プレブランク溶液、標準溶液、チャレンジ溶液、ポストブランク溶液です。

キャリーオーバーは次のように計算しました。

キャリーオーバー(%) =(ポストブランクのピーク面積)/(標準溶液のピーク面積)* 0.01

この分析法は、Caffeine と Coumarin のキャリーオーバーの評価に使用しました。

2 つ目の分析法では、チャレンジ溶液の濃度を検出器の直線範囲内まで下げて、標準溶液によるキャリーオーバーを定量します。この分析法では、キャリーオーバーは次のように計算します。

キャリーオーバー(%) =(ポストブランクのピーク面積)/(標準溶液のピーク面積)* 100

この方法は、Chlorhexidine と Quetiapine fumarate に使用しました。 

インジェクターデザインの検討事項とキャリーオーバーへの影響

Alliance HPLC システムのインジェクターは、分析メソッドの実行中 (分析中)にニードルの内部を移動相で洗浄するフロースルーニードルを採用しています。ニードルは、インジェクターアセンブリーのシールパック内にあり、その外部表面がニードル洗浄溶媒で指定した時間で洗浄されます2。 2018 Alliance HPLC システムではシールパックを再設計し、インジェクターニードル外部表面のニードル洗浄フローを改良および最適化しています。既存の Alliance システムでも e2695 エンハンスメントキットを使用することで、インジェクターコンポーネントを新しいシールパックデザインに変更できます。

シールパックデザイン改良の影響を実証するために、4 種の分析化合物のキャリーオーバーを、Alliance HPLC システムおよび 2018 Alliance HPLC システムで評価しました(表 1 および図 2)。Caffeine と Chlorhexidine は HPLC システムにおけるキャリーオーバーの評価に一般的に使用される化合物であり、Coumarin と Quetiapine fumarate は、HPLC システムでキャリーオーバーが起こりやすい化合物です3,4

特定の条件下で評価した結果、全ての化合物において両 Alliance HPLC システムとも低レベルのキャリーオーバーを示しました。一方、2018 Alliance HPLC システムではシールパックデザインの改良によってキャリーオーバー性能を大幅に向上することができました。具体的には、キャリーオーバーの低減は、Caffeine で 7 倍、Chlorhexidine で 20 倍、Coumarin で 3 倍、Quetiapine で 1.5 倍となりました。

表 1.デフォルトの「設定のまま」洗浄モードを使用した、Alliance HPLC システムおよび 2018 Alliance HPLC システムにおける Caffeine、Chlorhexidine、Coumarin、および Quetiapine fumarate のキャリーオーバー。* Alliance HPLC システム5 および 2018 Alliance HPLC システム6 のキャリーオーバー装置仕様は、特定の条件下における Caffeine の分析に基づいています。
図 2.Caffeine、Chlorhexidine、Coumarin、および Quetiapine fumarate の、Alliance HPLC システム(赤)および 2018 Alliance HPLC システム(青)によるポストブランクのクロマトグラフィー結果。クロマトグラム(黒)は、Caffeine と Coumarin では高濃度のチャレンジ溶液を表しており、Chlorhexidine と Quetiapine fumarate では標準溶液を表しています。

結論

2018 Alliance HPLC システムは、インジェクターニードル外部のニードル洗浄フローを改善する新しいシールパックデザインを搭載しています。新デザインのシールパックは、幅広い化合物においてキャリーオーバーを大幅に低減させることが可能です。今回扱った化合物のキャリーオーバー評価において、2018 Alliance HPLC システムが分析する化合物種に関わらずキャリーオーバーを低減できることが示唆されました。

参考文献

  1. Official Monographs, Quetiapine Fumarate USP 40 NF35 S1, United States Pharmacopeia and National Formulary (USP 40-NF35 S1) Baltimore, MD.United Book Press, Inc., 2017. p. 5939.
  2. Jenkins, T.; Waite, M. Low Sample Carryover with Key Performance Indicators on the Alliance HPLC System.Waters Technology Brief 720004534EN.
  3. Jenkins, T.; Waite, M. Screening of Commercial Vanilla Extracts for Authenticity using the Breeze 2 Modular HPLC System.Waters Application Note 720002877EN.
  4. Thurmond, M.; Hodgin, J.C. A Carryover-Elimination Method for a Broad Range of Analytical Sample.The Application Notebook.2003 Sept. http://alfresco.ubm-us.net/alfresco_images/pharma/2014/08/22/bb2580d3-0346-4a14-838b-1bfecbbba32b/article-159538.pdf
  5. Waters e2695 Separations Module Instrument Specifications 720002552EN.September 2008.
  6. Waters e2695 Separations Module Instrument Specifications.720004547EN.April, 2018.

720006386JA、2018 年 10 月

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