本アプリケーションノートでは、Alliance HPLC システムインジェクターアセンブリー内のシールパックコンポーネントデザインの最適化による、キャリーオーバーの低減について検討します。
新規デザインのインジェクターアセンブリー搭載 2018 Alliance HPLC のキャリーオーバー性能の向上
サンプル由来のキャリーオーバーは分析ラボにおいて共通の問題であり、クロマトグラフィーの分析法に悪影響を与えます。サンプル由来のキャリーオーバーは、注入した試料が次の注入時に持ち越されることを意味します。キャリーオーバーは、バッチ間のバラつき、規格外の結果、再現性の低下などの原因となります。分析種の化学的性質、分析用カラム、HPLC システムのインジェクターアセンブリーのデザインなど、複数の要因がキャリーオーバーに影響を与えます。例えば、フロースルーニードルデザインを使用した HPLC システムでは、移動相が継続的にサンプル注入ニードルの内部を洗浄するため、キャリーオーバーを低減させることができます。また、多くの LC システムは、サンプルのキャリーオーバーをさらに低減させるために、ニードルの外側を適切な溶媒で洗浄するメカニズムを搭載しています。
本アプリケーションノートでは、Alliance HPLC システムインジェクターアセンブリー内のシールパックコンポーネントデザインの最適化による、キャリーオーバーの低減について検討します。インジェクターデザインの向上を評価するために、異なる化学的性質を持つ 4 種の化合物を選択しました。
LC システム |
|
---|---|
Alliance: |
Alliance e2695 セパレーションモジュール 100 µL シリンジ、2998 PDA 検出器、CH-30(パッシブカラムヒーター)、ファームウェア 3.03 |
2018 Alliance: |
2018 Alliance:Alliance e2695 セパレーションモジュール 100 µLシリンジ、2998 PDA 検出器、CH-30(パッシブカラムヒーター)、e2695 エンハンスメントキット、ファームウェア 3.04 |
Caffeine: |
HPLC/ UV スタンダードキット (製品番号:700003741) チャレンジ溶液:4.0 mg/mL Caffeine (Solution 7) 標準溶液(0.01%):0.4 µg/mL Caffeine (Solution 8) ブランク (Solution 9) |
カラム: |
XBridge BEH C18, 3.5 µm 4.6 mm × 50 mm (製品番号:186003031) |
カラム温度: |
35 ℃ |
サンプル温度: |
4 ℃ |
注入量: |
10 µL |
流量: |
1.0 mL/分 |
ニードル洗浄液: |
メタノール |
ニードル洗浄時間: |
設定のまま |
移動相 A: |
水 |
移動相 B: |
メタノール |
分析時間: |
23 分 |
PDA 波長: |
273 nm(解像度 1.2 nm) |
Chlorhexidine: |
標準溶液:1.0 mg/mL Coumarin(0.1% TFA 水溶液) ブランク:90:10 水: アセトニトリル |
カラム: |
CORTECS C18, 2.7 µm 3 mm × 100 mm(製品番号:186007372) |
カラム温度: |
50 ℃ |
サンプル温度: |
室温 |
注入量: |
5 µL |
流量: |
1.0 mL/分 |
ニードル洗浄液: |
50:50 水:アセトニトリル |
ニードル洗浄時間: |
設定のまま |
移動相 A: |
0.1% TFA 水溶液 |
移動相 B: |
0.1% TFA 含有アセトニトリル |
グラジエント: |
イソクラティック(67:33 移動相 A: 移動相 B) |
分析時間: |
10 分 |
PDA 波長: |
257 nm(解像度 4.8 nm) |
Coumarin: |
ストック溶液:8 mg/mL Coumarin (メタノール溶液)チャレンジ溶液:2 mg/mL Coumarin(水溶液)標準溶液 (0.01%):0.2 µg/mL Coumarin(水溶液)ブランク:水 |
カラム: |
CORTECS C18, 2.7 µm 3 mm × 100 mm (製品番号:186007372) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
4 ℃ |
注入量: |
4 µL |
流量: |
0.8 mL/分 |
ニードル洗浄液: |
90:10 水:アセトニトリル |
ニードル洗浄時間: |
設定のまま |
移動相 A: |
水 |
移動相 B: |
アセトニトリル |
グラジエント: |
イソクラティック(90:10 移動相 A: 移動相 B) |
分析時間: |
15 分 |
PDA 波長: |
275 nm(解像度 4.8 nm) |
Quetiapine fumarate Assay USP 40 NF35 S11 |
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Quetiapine: |
標準溶液:0.16 mg/mL Quetiapine fumarate(移動相)(標準ストック溶液:USP 医薬品各条定量)ブランク:水 |
カラム: |
XBridge BEH C8、5 µm 4.6 mm × 250 mm(製品番号:186003018) |
カラム温度: |
25 °C |
サンプル温度: |
4 ℃ |
注入量: |
50 µL |
流量: |
1.3 mL/分 |
ニードル洗浄液: |
90:10 水:アセトニトリル |
ニードル洗浄時間: |
設定のまま |
移動相: |
54:7:39 メタノール: アセトニトリル: 緩衝液(事前 調製:0.45 µm フィルターろ過) |
緩衝液: |
2.6 g/L 第二リン酸アンモニウム(pH 6.5 にリン酸で調整) |
グラジエント: |
イソクラティック |
分析時間: |
15 分 |
PDA 波長: |
230 nm(解像度 4.8 nm) |
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最適化したインジェクターデザインがサンプルキャリーオーバーに与える影響を調べるため、様々な化学的性質を持った複数の化合物を、Alliance HPLC システムおよび e2695 エンハンスメントキットを搭載した 2018 Alliance HPLC システムで分析しました。Caffeine、Chlorhexidine、Coumarin、および Quetiapine fumarate の 4 種の化合物を選択しました。各化合物は個別に調製し、それぞれ 6 回の繰り返し注入を実施しました。
本試験では、キャリーオーバーを評価するために 2 種の分析法を用いています。1 つ目の分析法では、検出器が飽和する濃度であるチャレンジ溶液を使用しました。検出器の飽和により正確なピーク面積が測定できないため、チャレンジ溶液の濃度の 0.01% に調製した標準溶液も分析しました。注入の順序は、プレブランク溶液、標準溶液、チャレンジ溶液、ポストブランク溶液です。
キャリーオーバーは次のように計算しました。
キャリーオーバー(%) =(ポストブランクのピーク面積)/(標準溶液のピーク面積)* 0.01
この分析法は、Caffeine と Coumarin のキャリーオーバーの評価に使用しました。
2 つ目の分析法では、チャレンジ溶液の濃度を検出器の直線範囲内まで下げて、標準溶液によるキャリーオーバーを定量します。この分析法では、キャリーオーバーは次のように計算します。
キャリーオーバー(%) =(ポストブランクのピーク面積)/(標準溶液のピーク面積)* 100
この方法は、Chlorhexidine と Quetiapine fumarate に使用しました。
Alliance HPLC システムのインジェクターは、分析メソッドの実行中 (分析中)にニードルの内部を移動相で洗浄するフロースルーニードルを採用しています。ニードルは、インジェクターアセンブリーのシールパック内にあり、その外部表面がニードル洗浄溶媒で指定した時間で洗浄されます2。 2018 Alliance HPLC システムではシールパックを再設計し、インジェクターニードル外部表面のニードル洗浄フローを改良および最適化しています。既存の Alliance システムでも e2695 エンハンスメントキットを使用することで、インジェクターコンポーネントを新しいシールパックデザインに変更できます。
シールパックデザイン改良の影響を実証するために、4 種の分析化合物のキャリーオーバーを、Alliance HPLC システムおよび 2018 Alliance HPLC システムで評価しました(表 1 および図 2)。Caffeine と Chlorhexidine は HPLC システムにおけるキャリーオーバーの評価に一般的に使用される化合物であり、Coumarin と Quetiapine fumarate は、HPLC システムでキャリーオーバーが起こりやすい化合物です3,4。
特定の条件下で評価した結果、全ての化合物において両 Alliance HPLC システムとも低レベルのキャリーオーバーを示しました。一方、2018 Alliance HPLC システムではシールパックデザインの改良によってキャリーオーバー性能を大幅に向上することができました。具体的には、キャリーオーバーの低減は、Caffeine で 7 倍、Chlorhexidine で 20 倍、Coumarin で 3 倍、Quetiapine で 1.5 倍となりました。
2018 Alliance HPLC システムは、インジェクターニードル外部のニードル洗浄フローを改善する新しいシールパックデザインを搭載しています。新デザインのシールパックは、幅広い化合物においてキャリーオーバーを大幅に低減させることが可能です。今回扱った化合物のキャリーオーバー評価において、2018 Alliance HPLC システムが分析する化合物種に関わらずキャリーオーバーを低減できることが示唆されました。
720006386JA、2018 年 10 月