本アプリケーションノートでは、ニードル洗浄液の組成と洗浄モードを最適化することによって、キャリーオーバー低減にどのような影響をもたらすかについて、2018 Alliance HPLC システムを使用して評価します。
2018 Alliance HPLC システムは、適切な洗浄溶媒でインジェクターニードル1 の外部を洗浄するフロースルーニードルデザインを採用しており、複数の洗浄モードが選択可能です。ニードル洗浄液の組成と洗浄モードの最適化により、サンプルのキャリーオーバーを大幅に低減させることができます。
2018 Alliance HPLC においてニードル洗浄方式とニードル洗浄溶媒を最適化することでキャリーオーバーの低減を図る
サンプルのキャリーオーバーは、注入した試料が次の注入に持ち越されることを意味しており、分析ラボにおいて共通の問題です。分析種の化学的性質、ニードル洗浄溶媒の組成、液体クロマトグラフィー(LC)システムのニードル洗浄モードなど、複数の要因がキャリーオーバーに影響を与えます。2018 Alliance HPLC システムは、適切な洗浄溶媒でインジェクターニードル1 の外部 を洗浄するフロースルーニードルデザインを採用しており、複数の洗浄モードが選択可能です。ニードル洗浄液の組成と洗浄モードの最適化により、サンプルのキャリーオーバーを大幅に低減させることができます。本アプリケーションノートでは、ニードル洗浄液の組成と洗浄モードを最適化することによって、キャリーオーバー低減にどのような影響をもたらすかについて、2018 Alliance HPLC システムを使用して評価します。評価には、Coumarin と Quetiapine fumarate の 2 種の化合物を使用します。
2018 Alliance:Alliance e2695 セパレーションモジュール、100 µL シリンジ、2998 PDA 検出器、CH-30(パッシブカラムヒーター)、e2695 エンハンスメントキット、ファームウェア 3.04
Coumarin: |
チャレンジ溶液:2 mg/mL Coumarin(水溶液)標準溶液:0.2 µg/mL Coumarin(水溶液)ブランク:水 |
カラム: |
CORTECS C18, 2.7 µm 3 mm × 100 mm (製品番号:186007372) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
4 ℃ |
注入量: |
4 µL |
流量: |
0.8 mL/分 |
ニードル洗浄液: |
90:10 水:アセトニトリル |
ニードル洗浄時間: |
設定のまま、ダブル、拡張 |
移動相 A: |
水 |
移動相 B: |
アセトニトリル |
グラジエント: |
イソクラティック (90:10 移動相 A:移動相 B) |
分析時間: |
15 分 |
PDA 波長: |
275 nm(解像度 4.8 nm) |
Quetiapine Fumarate Assay USP 40 NF35 S1 |
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Quetiapine: |
標準溶液:0.16 mg/mL Quetiapine fumarate(移動相)(標準ストック溶液:USP 医薬品各条定量)ブランク:水 |
カラム: |
XBridge BEH C8、5 µm 4.6 mm × 250 mm (製品番号:186003018) |
カラム温度: |
25 °C |
サンプル温度: |
4 ℃ |
注入量: |
50 µL |
流量: |
1.3 mL/分 |
ニードル洗浄液: |
90:10 水:アセトニトリル 70:30 メタノール:水 |
ニードル洗浄時間: |
設定のまま、ダブル、拡張 |
移動相: |
54:7:39 メタノール: アセトニトリル: 緩衝液 |
(事前調製:0.45 µm フィルターろ過) |
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緩衝液: |
2.6 g/L 第二リン酸アンモニウム(pH 6.5 にリン酸で調整) |
グラジエント: |
イソクラティック |
分析時間: |
15 分 |
PDA 波長: |
230 nm(解像度 4.8 nm) |
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ニードル洗浄モードの設定と溶媒組成のサンプルキャリーオーバーに対する効果を調べるため、Coumarin と Quetiapine fumarate を e2695 エンハンスメントキットを搭載した 2018 Alliance HPLC システムで分析しました。各化合物は個別に調製し、それぞれ 6 回の繰り返し注入を実施しました。
本試験では、キャリーオーバーを評価するために 2 種の分析法を用いています。1 つ目の分析法では、検出器が飽和する高濃度のチャレンジ溶液と、そのチャレンジ溶液の 0.01% の濃度の標準溶液を使用しました。本試験では、プレブランク溶液、標準溶液、チャレンジ溶液、ポストブランク溶液の順に注入しました。キャリーオーバーは次のように計算しました。
キャリーオーバー (%) =(ポストブランクのピーク面積)/(標準溶液のピーク面積)* 0.01
この分析法は Coumarin のキャリーオーバーの評価に使用しました。
2 つ目の分析法では、チャレンジ溶液の濃度を検出器の直線範囲内まで下げて、標準溶液によるキャリーオーバーを直接定量します。この分析法では、キャリーオーバーは次のように計算します。
キャリーオーバー (%) =(ポストブランクのピーク面積)/(標準溶液のピーク面積)* 100
この分析法は Quetiapine fumarate に使用しました。
インジェクターニードルの外部を洗浄するためのニードル洗浄モード設定は、サンプルのキャリーオーバーに大きな影響を及ぼします。ニードル洗浄のモード設定には、設定のまま(デフォルト)、ダブル、拡張の 3 種類があります。「ダブル」ではニードルの洗浄時間が長くなり、注入前に実行されます。一方、「拡張」では、サンプル注入の前後にニードルの洗浄を行います。注記:洗浄時間およびサイクルを変更するには、ファームウェア 3.04 が必要です。
本試験では、Coumarin および Quetiapine fumarate の分析により、3 種のニードル洗浄モード設定を評価しました(図 2)。洗浄モードを「設定のまま」から「ダブル」へ変更するとキャリーオーバーは予想通りに低減し、「拡張」を使用した場合、さらに低減しました。「ダブル」ニードル洗浄モード設定では、デフォルトの設定である「設定のまま」に対して、Coumarin と Quetiapine fumarate でそれぞれ 1.2 倍と 1.5 倍、キャリーオーバーが低減しました。「拡張」モードは、注入後にもニードル洗浄を実行するため、注入前の洗浄では完全に除去されないようなキャリーオーバーが発生しやすい化合物に対して、非常に有効な設定となっています。Coumarin と Quetiapine fumarate はキャリーオーバーしやすいため、「拡張」モードを使用することで「設定のまま」 に対してそれぞれ 2.5 倍および 2.7 倍、キャリーオーバーが低減しました。キャリーオーバーの改善は Quetiapine fumarate でより顕著でしたが、最新のニードル洗浄モード設定では両化合物とも、キャリーオーバーが大幅に低減しました。
洗浄モード設定に加えて、ニードル洗浄溶液の組成がキャリーオーバーの低減に重要です。ニードル洗浄溶媒は、対象化合物に対して高い 溶解性を有する必要があるため、アプリケーションにより異なります。USP 収載の Quetiapine fumarate 定量法2 には、適切なニードル洗浄溶媒に関する記載がないため、一般的な 90:10 水: アセトニトリル溶液をオリジナルの洗浄溶媒として使用しました(図 3)。無視できない量のキャリーオーバーが観察されましたが、ニードル洗浄溶媒の組成を変更することによって最小化することができました。ニードル洗浄液の組成を最適化するため、サンプル化合物を効果的に溶解できる条件(溶媒や pH)を選択します。出発点として、クロマトグラフィー分析法における初期の移動相条件が挙げられます。Quetiapine fumarate の定量法では、61% 有機溶媒の移動相を使用します。そのため、有機溶媒の比率がより高いニードル洗浄液を用いれば、インジェクターニードルの Quetiapine fumarate の溶解性が向上すると考えられます。この例では、ニードル洗浄溶媒としてわずかに移動相と比べ高濃度である有機溶媒(70% メタノール)3 を使用することで、Quetiapine fumarate のキャリーオーバーを 1/3 に低減することができました(図 3)。
最適なニードル洗浄モード設定およびニードル洗浄溶媒組成を選択することは、HPLC 分析法においてサンプルキャリーオーバーを低減させるために不可欠です。最適なニードル洗浄モードとニードル洗浄液組成を組み合わせると、2018 Alliance HPLC システムにおけるキャリーオーバーは大幅に低減します。
720006389JA、2018 年 10 月