グリホサートや AMPA の水系環境への移行について調査するために、多数のラボ試験およびフィールド試験が行われており、これらの物質が地表水に移動する可能性があることについて一定の認識および懸念が示されています。
これらの化合物の水サンプル中の微量測定は困難です。その理由として、水への溶解度が高いこと、イオン性の性質、金属イオンとのキレート化が挙げられます。これら 3 化合物はすべて、極性がより低い化合物に誘導体化して、固相抽出(SPE)および逆相液体クロマトグラフィー(LC)での保持および分離を改善することができます。塩化フルオレニルメチルオキシカルボニル(FMOC)は、この分析に最も一般的に使用されるプレカラム誘導体化試薬であり、LC-MS/MS と組み合わせることで、水モニタリングプログラムの一環として 3 化合物すべてを 1 つの分析法で測定することができます。
このアプリケーションノートでは、FMOC による誘導体化後、SPE を使用せずに、新規イオン化テクノロジーの UniSpray を使用する Xevo TQ-XS と組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class システムを用いた LC-MS/MS により、水サンプル中のグリホサート、AMPA、グルホシネートを測定する分析法について説明します。
抽出手法の目標は、すべての分析種について効率的で再現性のある回収率を達成することです。以前の試験と同様に、ベンゾジアゼピンに対応するために、洗浄プロトコルは従来の MCX メソッドから変更されています2。 図 4 には、6 つの異なるロットの尿からの化合物のパネル全体の平均抽出回収率を示しています。メプロバメートとノルプロポキシフェンを除くすべての化合物(MDMA および EDDP)で、70% を超える回収率が見られました。抽出効率も一貫していました。すべての定量化合物について、変動係数(%CV)は 10% 未満でした。個々のバッチの回収データは同じパターンでした。異なるマトリックスロットでこのような高効率の回収率が得られたことで、抽出手法の頑健性が実証されました。このことは、さまざまなソースからのサンプル中の化合物の定量において重要になります。
農業および農業以外の目的で農薬が広く使用されるようになったことで、その残留物が地表水源や地下水源に存在するようになりました。グリホサートは、世界中で最も広く使用されている広域スペクトル除草剤の 1 つです。一般に AMPA として知られるアミノメチルホスホン酸は、環境中のグリホサートの主要な代謝物です。グルホシネート-アンモニウムは、世界中の多くの国で雑草防除に使用されている別の非常に効果的な除草剤であり、化学構造が類似しています。このような除草剤が多様かつ広範囲で使用されていることは、その残留物が、散布ドリフト、流出、排水などの間接的な流入経路や特定汚染源から、年間を通して地表水に到達する可能性があることを意味します。グリホサートや AMPA の水系環境への移行について調査するために、多数のラボ試験およびフィールド試験が行われており、これらの物質が地表水に移動する可能性があることについて一定の認識および懸念が示されています。一方、グリホサートと AMPA は、深層地下水系で低濃度が散発的に検出されるに留まっているため、これらの化合物の浸出は一般に発生する可能性が低く、おそらく無視できるレベルだと考えられます1。
水サンプル中のこれらの化合物の微量測定が困難であることは、水への溶解度が高いこと、イオン性の性質、金属イオンとのキレート化に関連しています。これら 3 化合物はすべて、極性のより低い化合物に誘導体化して、固相抽出(SPE)および逆相液体クロマトグラフィー(LC)での保持および分離を改善することができます。塩化フルオレニルメチルオキシカルボニル(FMOC)は、この分析に最も一般的に使用されるプレカラム誘導体化試薬であり、LC-MS/MS と組み合わせることで2,3,4、水モニタリングプログラムの一環として 3 化合物すべてを 1 つの分析法で測定することができます。
公共水道事業者は、地域の入手状況に応じてさまざまな水源から原水を汲み上げています。国によっては、ほぼすべての飲料水を地下水から供給している場合や、地表水(河川、用水路、湖、貯水池)が飲料水の主要な供給源である場合もあります。水中における農薬の存在は、さまざまな指令によって規制されています。加盟国には、消費者が利用できる水が飲料水指令の要件を満たしていることを確認するために、水質を定期的にモニターする義務があります5。 この指令により、サンプル中に存在する個々の残留農薬の最大限度が 0.1 µg/L に設定されています(総農薬量は 0.5 µg/L)。一般に、飲料水に関する世界保健機関(WHO)のガイドラインおよび欧州委員会の科学勧告委員会の意見が、飲料水の水質基準の科学的基礎として使用されています。欧州水枠組み指令(WFD)6は、欧州全体の水質を改善することを目的としており、地表水、沿岸水、地下水を対象として、欧州全体で良好な化学的状態の水を提供することを目指しています。加盟国は、河川流域固有の汚染物質を特定し、それらの物質に対して国独自の環境品質基準(EQS)を設定する必要があります。固有の汚染物質とは、生物学的水質に有害な影響を及ぼす可能性があり、加盟国において大量に水環境に排出されていることが確認されている物質のことです。これらの EQS の値はヨーロッパの国ごとに異なります。例えば、英国のグリホサートの長期平均 EQS は 196 µg/L7 ですが、フランスおよびドイツでは 28 µg/L です8。飲料水、地表水、地下水中のこれらの極性除草剤をモニターするための、信頼性の高い分析メソッドが必要とされています。
このアプリケーションノートでは、FMOC による誘導体化後、SPE を使用せずに、新規イオン化テクノロジーの UniSpray を使用する Xevo TQ-XS と組み合わせた Waters ACQUITY UPLC I-Class システムを用いた LC-MS/MS により、水サンプル中のグリホサート、AMPA、グルホシネートを測定する分析法について説明します。
グリホサートとさまざまな陽イオンの複合体形成により回収率が低下するという問題は、環境水の分析において十分に立証されています3。 すべての水サンプル(12 mL)はろ過(0.22 µm セルロースメンブレンフィルターを使用)してから、イオン交換(Dionex OnGuard II Na イオン交換シリンジカートリッジ)を用いて塩および金属を除去し、ポリプロピレン(PP)容器に保管しました。ろ過済みのそれぞれの水サンプルからの被験サンプルを、図 1 に示す誘導体化手順を用いて処理しました。飲料水のサンプル中に標準試料の溶液を調製し、同じ手順で内部標準試料を添加し、溶液を誘導体化しました。
分析法の正確性は、対象化合物をさまざまな濃度でスパイクした水サンプルを分析することで評価しました。添加回収サンプル中の分析種の濃度を測定し、レスポンスの直線性を評価するために、標準試料の溶液を飲料水中に 0.02 ~ 2.0 µg/L の範囲にわたって調製しました。
UPLC システム: |
50 µL 拡張ループおよび 250 µL サンプルシリンジを備えた FTN サンプルマネージャーを搭載した ACQUITY UPLC I-Class |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH Phenyl、1.7 µm、2.1 × 100 mm |
移動相 A: |
5 mM 酢酸アンモニウム水溶液、pH 9(25 ~ 28% 水酸化アンモニウム溶液を使用) |
移動相 B: |
メタノール |
流速: |
0.4 mL/分 |
注入量: |
50 µL |
カラム温度: |
50 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
分析時間: |
16 分 |
時間(分) |
%A |
%B |
曲線 |
---|---|---|---|
0 |
90 |
10 |
? |
5 |
54 |
46 |
6 |
7 |
54 |
46 |
6 |
8 |
0 |
100 |
6 |
9.5 |
0 |
100 |
6 |
11 |
90 |
10 |
1 |
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
イオン源: |
UniSpray |
イオン化モード: |
US |
キャピラリー電圧: |
3.0 kV |
脱溶媒温度: |
550 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1,000 L/時間 |
イオン源温度: |
150 ℃ |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
コーン電圧: |
14 V |
コリジョンガス流量: |
0.14 mL/分 |
ネブライザーガス圧: |
7 Bar |
データは、MassLynx MS ソフトウェア(v4.2)を用いて取り込み、TargetLynx XS アプリケーションマネージャーを用いて解析しました。各化合物の個々の溶液の注入と、IntelliStart ソフトウェアによるデータ評価により、MRM トランジションの選択と重要なパラメーターの最適化を実施し、取り込みメソッドおよび解析メソッドを自動で作成しました。表 1 は、保持時間を含むすべての MRM トランジションの条件をまとめたものです。自動デュエル機能を使用して、最適なデュエルタイムが自動的に設定されています。この試験では、安定同位体標識 AMPA をグルホシネート測定用の内部標準試料として使用しました。*
*現在ではグルホシネート-D3 を多くのサプライヤーが入手できるようになっています。
UniSpray は、イオン化効率が向上した、新規の独特のイオン源です9。 UniSpray イオン源は、その独特の形状により、複数の異なるメカニズムでより小さい液滴を生成して脱溶媒を促進します。これらの効果が組み合わさった結果、エレクトロスプレーなどの従来のイオン化モードと比較して、同じ量のサンプルからより多くの遊離イオンが生成し、幅広い範囲の化合物にわたってレスポンスが向上します。
飲料水、地表水、地下水に必要な下限値を大幅に下回る 0.02 µg/L になるようにスパイクした飲料水の分析から検出された各分析種のレスポンス(図 2)により、優れた感度および選択性を有することが実証されました。ラボには、最低でも EQS の 3 分の 1 の定量下限(LLOQ)を持つ分析法の提供が求められています。実測感度から、3 化合物すべてが、極めて低濃度であっても、検出・定量が可能であることが示唆されました。
飲料水中に 7 種類の濃度(0.02、0.05、0.10、0.50、1.0、1.5、2.0 µg/L)で調製された標準溶液を、キャリブレーションに使用しました。3 化合物すべてのレスポンスは直線的であり、3 化合物すべてについて相関係数(r2)が > 0.999 で、残差は < 6% でした(図 3 参照)。
分析法の正確性は、スパイクした水サンプルの分析によって判定しました。測定値は、スパイク試験から予測される値と比較して、85% ~ 110% の範囲に収まることが分かりました(表 2)。測定の併行精度も良好で、例えば 0.1 µg/L になるようにスパイクした 4 種類の地下水サンプルを 2 回繰り返しで分析した場合(n = 8)、RSD は <6% でした。同定基準、イオン比、保持時間はすべて許容範囲内に収まっていました10。
4 種類の水サンプルの分析で、クロマトグラムにグリホサートと AMPA が検出されていますが(図 4)、1 つのケース(地下水サンプル中のグリホサート(0.021 µg/L))を除くすべてのケースで、濃度が LLOQ を下回っていることがわかりました。
このアプリケーションノートでは、FMOC による誘導体化後、Xevo TQ-XS MS システムと組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class システムで、UPLC-MS/MS により、グリホサート、AMPA、グルホシネートを測定する分析法の性能を実証しました。この分析法はシンプルで安価かつ時間を節約できるため、さまざまな種類の水サンプル中におけるグリホサート、AMPA、グルホシネートの迅速かつ信頼性の高い定量が可能になります。結果は、この分析法がモニタリング目的でのグリホサート、AMPA、グルホシネートの検出に適していることを示しています。試験した濃度範囲にわたり、優れたキャリブレーション特性、直線性、残差が認められました。分析法の正確性は良好であることがわかり、この分析法を実際の水サンプルの分析に適用しました。研究者は、各自のラボの分析法をバリデーションし、その性能が目的に適合しており、また関連する分析コントロール保証システムのニーズを満たしていることを証明しなければなりません。
著者らは、水サンプルを提供して頂いた Brabant Water、Evides、Waterleiding Maatschappij Limburg に感謝いたします。
720006246JA、2018 年 4 月