このアプリケーションノートでは、Waters フラクションマネージャー - 分析(W-FMA)と ACQUITY Arc 超高速高分離液体クロマトグラフィー(UHPLC)システムを併用して、モデルの複雑な医薬品製剤(DayQuil)に存在する複数の成分を分離し単離する方法について説明します。
近年、分析装置の技術の進歩により、創薬プロセスは大きな進歩を遂げています。医薬品製剤中の有効医薬品成分の分離、精製、同定は、医薬品開発プロセスにおいて不可欠なステップです。これらのステップは、特に複雑な医薬品製剤では困難である場合があります。
質量分析法は破壊的な検出方法ですが、適切に設定すれば、フラクション分取をトリガーする用途にも使用できます。一般に分析スケールのアプリケーションで使用する低流量では、すべての液滴が重要であり、完全に最適化して特性解析した分取システムの使用が不可欠です。このアプリケーションノートでは、質量検出器を使用する方法と時間ベースの方法の 2 つのフラクション分取モードについて説明します。
場合によっては、成分の分離ではなく、同定が要件であることがあります。このような場合、オンライン多次元クロマトグラフィーシステムがよく使用されます1。 通常は、このようなシステムを使用するだけで十分ですが、その設定がいつも利用可能または実用的であるとは限りません。このアプリケーションノートでは、Waters フラクションマネージャー - 分析(W-FMA)と ACQUITY Arc 超高速高分離液体クロマトグラフィー(UHPLC)システムを併用して、モデルの複雑な医薬品製剤(DayQuil)に存在する複数の成分を分離し単離する方法について説明します。また、そのような複雑な混合物からの成分同定を支援するために、WFM-A を「オフライン多次元」法で効果的に使用する方法についても説明します。
DayQuil は地元のドラッグストアから購入しました。アセトアミノフェン 162.5 mg、臭化水素酸デキストロメトルファン 5 mg、およびフェニレフリン HCl 2.5 mg に相当するサンプルを、2 mL のアセトニトリルで希釈しました。このサンプルの 10 μL をさらに 1 mL のアセトニトリルで希釈し、3 種の化合物の最終濃度をそれぞれ 812.5 μg/mL、25 μg/mL、および 12.5/μg mL にしました。最終的に得られた溶液の 10 μL のサンプルを LC-MS システムに注入して分析しました。WFM-A を使用して対象のピークの候補を同定し、分取しました。分取したフラクションは次に、最適化したグラジエント条件下で再分析しました。
すべての分離は ACQUITY UPLC フォトダイオードアレイ(PDA)検出器と ACQUITY QDa 質量検出器を搭載した ACQUITY Arc UHPLC システムを使用して実施しました。システムは、WFM-A と連結させ、MassLynx Software および FractionLynx アプリケーションマネージャーを使用して制御しました。
LC システム: |
ACQUITY Arc |
検出器: |
ACQUITY UPLC フォトダイオードアレイ(PDA)検出器 |
カラム: |
SunFire C18 3.5 μm, 4.6 x 100 mm(製品番号 186002553) |
カラム温度: |
40 ℃ |
注入量: |
10 µL |
流速: |
1.5 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸含有 H2O |
移動相 B: |
0.1% ギ酸含有アセトニトリル |
グラジエント: |
図を参照 |
ISM の設定: |
10:1 スプリッター、流速 0.5 mL/分、50% アセトニトリル/水、0.1% ギ酸 |
MS システム: |
ACQUITY QDa 検出器 |
イオン化モード: |
ESI+ |
キャピラリー電圧: |
0.8 kV |
コーン電圧: |
10 V |
ソース温度: |
550 ℃ |
WFM-A は、最適化した低流速フラクションコレクターで、通常分析スケールのアプリケーションに関連する幅の狭いピークを分取するように特別に設計されています。この WFM-A を使用して、複数モードのフラクション分取を実行することができます2。 このアプリケーションノートでは、新しい分取モード(質量検出器を使用)と時間ベースのフラクション分取モードの両方について確認しました。
質量検出器を使用するモードでは、分子量が ACQUITY QDa 検出器を通過すると、分取がトリガーされます。この実験では、上記のように前処理した 10 μL の DayQuil サンプルをカラムに注入し、2 つの質量を分取の対象としました。図 2 に示すように、2 つの対象( m/z 261と m/z 272)の分取に成功しました。FractionLynx は、分取したフラクションをクロマトグラムにリアルタイムで表示し、色で識別します。ターゲットの値とバイアル位置もクロマトグラム上にリアルタイムで記録されます。図 2 の挿入図は、分取したフラクションm/z 272 の質量スペクトルを示しており、図からわかるように、目的の質量の純粋なフラクション( m/z 272)が分取されています。これは対象の質量が他のピークから十分に分離されている場合、このシステムが純粋な化合物をターゲットにして分取できることを示しています。さらなるフラクション分析を行わなくても、実際に分取したデータから質量スペクトル情報を取得できます。
しかし、この分離方法で個々の成分を分離できない場合は、このコレクターは、分取プロセスにおいてこれらの成分を分離することができません。システムはサンプルリストに示されている質量を分取し、ここで全体的な成功のレベルはクロマトグラフィーのメソッドに依存することになります。例えば、図 3 では、m/z 261 をターゲットとした場合でも、スペクトル分析から m/z 217 や m/z 305 も分取されていることがわかります。m/z 217 を抽出すると、m/z 261 フラクションの分取開始時に、化合物の一部の溶出が遅れることにより重なっていることが認められ、混入の原因が確認されます。
m/z 261 の分取フラクションの精製後分析により、この共溶出が認められ、精製スペクトルで報告された 3 つの成分が確認され、これらが 9.6% という不純物レベルに寄与していたことが示されました(図 4)。不純物はフラクションの先頭と終わりで分取されていました。
このケースでは、意図的にカラムにオーバーロードし、このような状況を想定しました。この情報に基づき、これ以降の分取では、このような状況を回避するために、ブール論理の NOT 関数など、追加のソフトウェアツールを使用することも可能であったと考えられます。この関数を使用すると、他の共溶出質量を分取せず、目的の質量のみを分取することができます。
実験の目標は、複雑な医薬品サンプルに含まれる複数の成分を分離・同定することでした。このサンプルはかなり複雑で、単一の分離法ですべての成分を分離するのは困難で時間がかかる場合があります。そこで、時間ベースのフラクション分取(図 5)と、分取したフラクションの再分析という 2 段階のアプローチを採用しました。このアプローチでは、この複雑なサンプルをより小さく扱いやすいフラクションに分割し、分取して再度分析しました。
よりフォーカスしたグラジエントを使用してフラクションを分析し(図 6)、これらの分取したフラクションを迅速かつ効率よく分離することができました。ここで、フラクション 3 がポリエチレングリコール(PEG)干渉を示していることに触れておきます。この干渉は一番下のトレースで認められ、エチレンオキシドの繰り返しユニットの質量に対応して隣接するピークが 44 Da ずつ離れた典型的な PEG の質量分布を示しています。
この場合のフラクションの再分析は、精製のときと同じカラムで実施しました。しかし、分離効率をさらに高めるために、直交ケミストリーや、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)やガスクロマトグラフィー(GC)などの直交クロマトグラフィー技術を使用して再分析を行うこともできます。
このアプリケーションノートで採用した設定のもう 1 つの興味深い機能はデュアル検出です。前述したように、当社のシステムは、ACQUITY QDa と ACQUITY PDA という 2 つの異なる検出モードを採用しています。
この設定の利点は、ACQUITY QDa が発色団を持たない分析種を検出できることです。この機能は、WFM-A の分取性能を向上させる上で特に重要です。例えば、図 7 に示すように、ACQUITY PDA 検出のみを使用した場合、複数の成分が欠落して分取されなかった可能性があります。
720006287JA、2018 年 6 月