• アプリケーションノート

UPLC-MS を用いたフォルモテロール、ブデソニド、および類縁化合物の分析におけるソフトウェア支援 Analytical Quality by Design アプローチの適用

UPLC-MS を用いたフォルモテロール、ブデソニド、および類縁化合物の分析におけるソフトウェア支援 Analytical Quality by Design アプローチの適用

  • Fadi L. Alkhateeb
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

要約

医薬品の品質、安全性、有効性を確認する際、分析法の性能が重要です。一時一事法(OFAT)と Analytical Quality by Design(AQbD)の 2 つが最もよく使用されます。Quality by Design アプローチを使用して、ACQUITY UPLC H-Class PLUS システムおよび Empower 3 と Fusion ソフトウェアを用いて、ブデソニド、フォルモテロールおよび類縁化合物の堅牢な分析法を開発しました。

アプリケーションのメリット

  • 分析法開発における Fusion QbD のメリット
  • ACQUITY UPLC H-Class PLUS システムと、Empower 3 クロマトグラフィーデータシステム(CDS)および S-Matrix Fusion QbD ソフトウェアの組み合わせによる、高効率で高性能な分析法開発
  • 分析法開発における ACQUITY QDa 質量検出器のメリット
  • フォルモテロール、ブデソニド、および類縁化合物の分析のための高性能で堅牢な分析法開発

はじめに

医薬品の品質、安全性、有効性を確認する際、分析法の性能が重要です。現在、分析の分野における分析法開発には複数のアプローチがあります。一時一事法(OFAT)と Analytical Quality by Design(AQbD)の 2 つが最もよく使用されます1-4。 OFAT プロトコールでは、他のパラメーターは一定のままで、1 つのパラメーターのみを変更し、それがレスポンスに及ぼす影響を評価します。この要因を変更しても改善が見られない場合は、別のパラメーターを検討します2。 このアプローチは包括性に欠けており、分離度、ピーク形状、堅牢性の点で分離が最適ではありません。

一方、AQbD アプローチでは、事前に定義された目標から始まる、リスクに基づいたより包括的かつ体系的な戦略を分析法開発に使用します。このアプローチでは、複数のパラメーターおよび設定を検討し、試験対象となる要因が分析法の性能に与える影響についての幅広い情報を得ます。この情報は、分析法の性能基準を満たすことが確認された要因の多次元の組み合わせに対応する、Method Operable Design Region(MODR)を確立するために使用します。このアプローチの成果として、ライフサイクル全体にわたって期待される性能を確実に提供でき、目的に適合し、適切に設計され、理解しやすく、堅牢な分析法が開発できます5,6 。分析法開発に AQbD アプローチを採用するもう 1 つの重要な利点は、分析法の変更において柔軟な規制対応が可能となることです2。 このように、AQbD は、分析法開発において従うことが望ましいアプローチとなります。

この研究の主な目的は、ソフトウェア支援 AQbD アプローチを用いて、フォルモテロール、ブデソニドおよび類縁化合物の分析のための超高速液体クロマトグラフィー-質量分析(UPLC-MS)分析法を開発することです。ブデソニド(図 1A)は、炎症を抑制することにより、喘息の長期的治療に使用されるコルチコステロイドです。フォルモテロール(図 1B)などのアゴニストも、喘息や慢性閉塞性肺疾患のコントロールに幅広く使用されています。混合吸入器で 2 種類の医薬品成分を同時に吸入することは、臨床的により有効であることが証明されています7

図 1.エピマーのペアとして存在するブデソニド(A)とフマル酸フォルモテロール(B)の化学構造。

このアプリケーションノートは、フォルモテロール、ブデソニド、および類縁化合物の高性能分離の達成における、AQbD アプローチを用いた分析の可能性に主な焦点を当てています。主要なクロマトグラフィーパラメーターの一部について、分離効率に及ぼす影響を調査し、その結果を示して説明します。このアプリケーションノートでは、分析法開発用の AQbD ソフトウェアに Fusion QbD を使用します。

実験方法

混合試料および標準試料の調製

ブデソニドとフマル酸フォルモテロールの標準試料は、USP(米国、Rockville)から購入しました。ブデソニド類縁物質 G、E、L もすべて USP(米国、Rockville)から購入しました。これらの化合物の原液は、それぞれの標準試料の必要量を正確に計量し、アセトニトリルに溶解して調製しました。次に、これらの原液を用いて、前述のすべての API と不純物を含む混合試料を調製しました。この混合試料は、各標準試料の原液をサンプル溶媒の 70/30(v/v)水/アセトニトリルに希釈して調製しました。混合試料における各成分の最終濃度は次記のとおりです:ブデソニド 0.4 mg/mL、フォアモモテロール 0.15 mg/mL、類縁物質 E および L 0.005 mg/mL、類縁物質 G 0.01 mg/mL。

LC 条件

システム:

クォータシステムナリーソルベントマネージャー(QSM)、サンプルマネージャー(FTN)、カラムマネージャー(2 つの補助カラムマネージャー付き)、PDA 検出器、ACQUITY QDa 質量検出器を搭載した ACQUITY UPLC H-Class PLUS システム

検出器:

eλ PDA および ACQUITY QDa

カラム:

2.1 × 50 mm カラム 5 本:

• BEH C18、1.7 µm(全多孔性カラム容量 [CVFP] = 114 µL)、pH 範囲:1~12

• BEH Shield RP18、1.7 µm(CVFP = 114 µL)、pH 範囲:1~11

• CORTECS T3、1.6 µm(表面多孔性カラム容量 [CVSP] = 85 µL)、pH 範囲:2~8

• CORTECS Phenyl 1.7 µm(CVSP = 85 µL)、pH 範囲:2~8

• HSS PFP、1.7 µm (CVFP = 114 µL)、pH 範囲:2~8

流量:

0.5 mL/min

移動相 A:

1 回目のスクリーニング(0.1% トリフルオロ酢酸)、2 回目のスクリーニング(0.1% 水酸化アンモニウム)

移動相 B:

アセトニトリル(強溶媒[SS])

移動相 D:

分析法開発の様々な段階で、溶媒選択バルブを使用して複数の溶媒から選択

スクリーニング:

D1 20 mM 酢酸アンモニウム

最適化:

D1 (20 mM 酢酸アンモニウム/水酸化アンモニウムバッファー pH = 8.0)、

D2 (20 mM 酢酸アンモニウム/水酸化アンモニウムバッファー pH = 8.5)、

D3 (20 mM 酢酸アンモニウム/水酸化アンモニウムバッファー pH = 9.0)

プロファイル:

10% の有機溶媒で 3.0 分間平衡化(13.2 CVFP および 17.64 CVSP)

10% の有機溶媒で 1.0 分間アイソクラティック(4.4 CVFP および 5.88 CVSP)

グラジエント時間 5~12 分で有機溶媒を 10% から 60% に変化

60% SS で 1.0 分間アイソクラティック(4.27 CVFP および 5.88 CVSP)

0.1 分間で 60% SS から 5% SS に変化

10% SS で 3.0 分間アイソクラティック(13.2 CVFP および 17.64 CVSP)

注:% 強溶媒と % 弱溶媒の合計は 100% になります。

カラム温度:

40℃ で一定

検出 (UV):

244 nm

注入量:

作業用溶液 3 µL

MS 条件

システム:

ACQUITY QDa 検出器

イオン化モード:

ESI+

キャピラリー電圧:

0.8 kV

コーン電圧:

15 V

ソース温度:

600 ℃

データ管理:

Empower 3 クロマトグラフィーデータシステム(Empower CDS)および S-Matrix Fusion QbD

結果および考察

LC 分析法開発の過程では通常、目標の分離を達成するために複数の要因を調製します。カラム固定相、強溶媒、pH などの一部の要因は分離に強い影響を与えますが、グラジエントの勾配やセパレーション温度などの要因の影響は弱いです。通常、これらのパラメーターを調整して得られたレスポンスに基づいて、分析法開発が成功したかどうかを評価します。これらのレスポンスの例として、保持係数、分離度、テーリング、クロマトグラムのピークの合計数、特定の条件を満たすピーク数などが挙げられます。スクリーニングするパラメーターが多いほど、分析法に関してより多くの情報が得られます。ただし、いくつかのクロマトグラフィーパラメーターのスクリーニングには、特に各パラメーターに対して複数のデータポイントをスクリーニングするように設定している場合、非常に時間がかかることがあります。AQbD ソフトウェアプラットホームに Fusion QbD を使用する利点は、統計的サンプリングアプローチを使用して、包括的かつ代表的な実験計画を作成し、分析法開発に必要な実験の数を大幅に低減できることです。これは、可能性のあるすべての要因の組み合わせと比べて、はるかに小さいが代表的であるサブセットを生成およびモデリングすることによって、一般的な「完全実施要因」計画と同じデザインスペースをカバーできるためです。例えば、5 つの異なる試験レベルで 2 つの要因に対して「完全実施要因」試験を行うとすると、すべての可能な組み合わせを行うのに 25 回の実験が必要になります。しかし、Fusion QbD を使用して、これらすべての要因を代表する包括的な試験をモデリングする場合、必要な実験は 13 回のみです。このように実験回数が大幅に低減できるのは、Fusion QbD の統計的サンプリングデザインでは、すべての組み合わせポイントを実行するのではなく、一部のポイントを実行し、他のポイントは予測するためです。これにより、実際の実験数が少なくても、クロマトグラフィースペース全体にわたるすべての重要なパラメーターの影響を包括的に理解できます。図 2A は、デザインスペースのすべてのパラメーターをサンプリングした「完全実施要因」設計の一般的な概略図を示しています。図 2B は、同じデザインスペースの「一部実施要因」を示していますが、適切なサンプリングによりポイント数が少なくなっていることが分かります。

図 2.マトリックスのすべての要素(実験)をサンプリングする完全実施要因計画(A)と、マトリックスのバランスの取れた代表的な実験のみをサンプリングする統計的サンプリング計画(B)の一般的な概略図の例。

ICH によれば、実験計画法(DOE)は、「プロセスに影響を与える要因と、そのプロセスのアウトプットとの関係を決定するための構造化、組織化された分析法」と定義されています。Fusion QbD は、DOE アプローチを使用して堅牢な LC 分析法を開発するためのソフトウェアです。図 3 は、Fusion QbD 分析法開発で通常行われる一般的なステップを示しています。

図 3.Fusion QbD での一般的な分析法開発ステップの概略図。

最初のサンプル試験

このステップの主な目的は、分析システムのスクリーニングステップの開始点として使用できる初期クロマトグラフィー条件を見つけることです。これらの条件は、一般的に、目的の化合物が最初に保持され、分析が終了する前に溶出し、適切な波長でスケール内である必要があります。この時点では、ピークが十分に分離されていることや、良好な形状であることは期待されておらず、保持され、積算可能であることのみが必要である点に留意してください。

このため、Fusion QbD での「General Screening」(一般スクリーニング)のテンプレートを使用して、小規模なスクリーニング実験を作成しました。この実験では、限られた数のパラメーターを検討するように設定しました。検討したパラメーターは、注入量(1~3 μL)、波長、初期保持時間(1~2 分)、2 種類のカラムケミストリー(BEH C18、CORTECS T3)です。得られた結果から、目的のすべての化合物が、開始点の 10.0% 有機組成および 1 分の初期保持時間で保持できることが分かりました。また、波長 244 nmが適切な 2D チャンネルであり、移動相から大きな干渉を受けることなく、すべての化合物を検出できることが分かりました。

分析システムのスクリーニング

1:実験計画の作成
研究のこの段階での目標は、包括的なスクリーニング実験を実施することでした。これには、分析法の性能に最大の影響を与えることが予想される分析システムパラメーターが含まれています。そのため、この実験では、pH と固定相のケミストリーの 2 つを、主要なクロマトグラフィーパラメーターとして検討しました。pH 値 2.0~4.2 の範囲を 0.5 増分で検討しました。固定相ケミストリーについては、幅広い選択性を提供しつつ、成功の可能性を高めるカラムを選択することが目的でした。この段階で、5 種の固定相を選択しました。最初のカラムは BEH C18 で、幅広い pH 範囲(1~14)で使用できる最も一般的な LC カラムの 1 つです。2 つ目のカラムは BEH Shield RP18で、極性基が埋め込まれているため、BEH C18 とは異なる選択性が得られ、幅広い pH 範囲に対応します。3 つ目のカラムは CORTECS T3 で、極性化合物の保持力が向上した表面多孔性 C18 カラムです。この研究で選択した 4 つ目のカラムは、もう 1 つの表面多孔性カラム CORTECS Phenyl で、π-π 相互作用をする可能性があるため、アセトニトリルとメタノールにより、異なる選択性が得られます。最後に選択したカラムは、ユニークな選択性を有する HSS PFP でした。この実験では、装置の機能に応じた適切なカラムサイズと粒子径を考慮していることに注意してください。例えば、ACQUITY UPLC H-Class PLUS システムを使用する場合、カラム内径は 2.1 mm で、粒子径は 1.x µm でした。また、迅速で高流速の分析法開発には短いカラムが望ましいため、長さ 50 mm のカラムを使用することにしました。

この実験で最後に調製したクロマトグラフィーパラメーターはグラジエント時間(5~12 分)でした。流量、温度、注入量など、他のすべてのクロマトグラフィーパラメーターの設定は変えませんでした。図 4 に、この実験に含まれる変数と定数の一部を表示している Fusion QbD ソフトウェアの実験設定画面を示します。

図 4.最初のスクリーニング実験における pH およびグラジエント時間の選択を示している Fusion QbD 画面。

Fusion QbD で実験に用いるすべての変数と定数を選択した後、前述のように、ソフトウェアで統計サンプリングを使用して、すべての必要なスクリーニング実験に用いられる実験計画を作成しました。このスクリーニング実験で、ソフトウェアが作成した分析回数の合計は 44 回でした。実験計画は作成後に Empower にエクスポートされ、これらの分析に必要なすべてのメソッドおよびメソッドセットが作成されました。また、必要なすべてのコンディショニング/平衡化メソッドおよびメソッドセットも作成して、エクスポートしました。このような多数の実験用のメソッドおよびメソッドセットを手動で生成するのに要する時間が節約され、分析法開発にかかる時間を大幅に短縮できるため、この点は特に重要です。すべての可能な組み合わせを試すと 125 のメソッド(5 レベルの tG × 5 レベルの pH × 5 種のカラム)が必要になることを考えると、この DOE 設計は非常に効率的であることが分かります。

2:Fusion QbD へのデータインポートとナレッジスペースの開発
次に、すべての実験を行った後、データを Fusion QbD ソフトウェアにインポートする前に Empower で解析しました。Empower での解析では、得られたクロマトグラムにあるすべての目的のピークのみが波形解析され、これらのピークの分離度、テーリング、対称性などの重要なクロマトグラフィーパラメーターを計算する作業が含まれています。この作業は、得られたすべてのクロマトグラムを確認して「最もきれいな」クロマトグラムを見つけ、それに基づいて解析メソッドを作成することによって行いました。このクロマトグラムでは通常、実際の化合物に対応するピークが最もはっきりと観測され、最もよくベースライン分離されているピークが含まれます。結果から、このスクリーニング実験で得られた分離は最適ではなく、他のクロマトグラフィーパラメーターを検討するための追加の実験が必要であることが分かりました。例えば、図 5 に見られるように、フォルモテロールのピークのテーリングファクター(2.10)は非常に高く、ブデソニド類縁化合物はすべてベースライン分離されていません。ここで、分析法開発プロセスのこの部分では、QDa 質量検出器の使用が非常に有益であったことを述べておく必要があります。その理由は、異なる分析の間で保持時間および/または溶出順序が変化しているにもかかわらず、目的のピークを同定および追跡することができるためです。

図 5.分析システムスクリーニング実験での「最もきれいな」クロマトグラム(33 番目の分析に対応)。

Empower でデータを解析した後、結果を Fusion QbD にインポートし、そこで数学モデルが自動的に構築され、解析結果と結合して「Best Overall Answer (BOA)」を予測しました。このスクリーニング段階で選択した性能目標は、ピーク数に基づいく、およびピーク結果に基づくトレンドレスポンスです。この分析で使用したピーク数に基づいくトレンドレスポンスは、(1)ピークの総数、および(2)各クロマトグラムで USP 分離度が 1.50 以上のピークの数でした。ピーク結果に基づくレスポンスについては、「Max Peak #2 の USP 分離度」および「Max Peak #3 の USP テーリングファクター」を使用しました。Fusion QbD では、Max Peak #1 は面積が最大のピーク、Max Peak #2 は面積が 2 番目に大きいピークとなっています(その他同様)。この例では、医薬品有効成分が 2 種、そのうちの 1 種は 1 組のエピマー(ブデソニド))であるため、主要なピークが 3 本ありました。図 6 は、目的のトレンドレスポンス設定で構成した Fusion QbD レスポンスのインポートダイアログボックスを示しています。

図 6.ケミストリースクリーニング実験からの自動インポートのために性能目標(ターゲットレスポンス)を設定する Fusion QbD 画面。

次のステップでは、Fusion QbD での「Executing Search」を行いました。このステップでは、ソフトウェアは、測定されたレスポンスを使用して、各クロマトグラフィー結果についてモデルを計算します。これらのモデルにより、「Cumulative Desirability Result」が計算されました。これは、0 から 1 の範囲の数値で、ユーザーが指定する性能目標をクロマトグラフィー条件が達成できる確率を表します。この研究では、設定した性能目標を達成するための条件の最適な組み合わせは、BEH C18 カラム、アセトニトリル溶媒、pH 4.2、グラジエント時間 12 分であることが分かりました。

また、Fusion QbD モデルは、Acceptable Performance Region(APR)を示すパフォーマンスマップを提供します。APR は、分析法が事前設定したスクリーニング性能目標を満たすか超える BOA 周辺の白いエリアで示されます。APR は、プロットにすべての性能目標を適用した後、グラフ中の色付けされていない領域(白いエリア)であることに注意してください。この白い領域は、すべての含まれている性能目標の許容限界を満たすか超える設定の組み合わせを示しています。例えば、図 7A で示されているように、性能目標(レスポンス)がまだ適用されていないため、スペース全体が白いです。図 7B~7C のように、性能目標を適用するにつれて、すべての目標が適用されるまで、色付きの領域が広くなっていきます。

図 7.Fusion QbD スクリーニング設計図。スクリーニング実験設計領域内での有効領域の構築を示しています。

2 回目のスクリーニング(高 pH)

最初の分析システムスクリーニング実験は、目的化合物の一部の分離が達成できた点で非常に成功していますが、必要な性能目標をすべて達成することはできませんでした。例えば、前述のように、一部の化合物はベースライン分離されず、フォルモテロールのピークは非対称で、テーリングファクター値が 1.44~2.88 でした。そのため、2 回目のスクリーニング実験を行い、異なるクロマトグラフィー条件下でさらなる改善が可能かどうかを確認する必要がありました。前述したように、pH はクロマトグラフィーの主要パラメーターであり、分離に大きな影響を与えます。そこで、異なる pH 条件下で 2 回目のスクリーニング実験を行いました。前の実験で見出した最良のカラムを使用し、高 pH 条件下でスクリーニングしました。この実験では、BEH C18 カラムを使用して 6.7~10.7 の pH 値をスクリーニングしました。他の変数および定数はすべて、最初のスクリーニング実験で使用した設定のままで行いました。この実験の結果、高 pH の移動相を使用した場合、フォルモテロールのピーク形状が著しく改善されることが分かりました。例えば、フォルモテロールのピークのテーリングは、15 回行った高 pH スクリーニング分析のうちの 10 回で 1.3 未満でした。

次に、これらのスクリーニングの結果を Fusion QbD で解析し、BOA および APR が分かりました。この検索で設定した主要な性能目標は、少なくとも 4 つのピークのベースライン分離と、フォルモテロールピークのターゲットテーリング 1.2 でした。図 8 に見られるように、pH が上昇すると、フォルモテロールのテーリングが低減することが分かりました。BOA の検索では、BEH C18 カラムを使用する場合、pH 8.76、分析時間 12 分が後続の最適化実験のための最適条件であることが確認されました。

図 8.高 pH スクリーニング実験の実験領域内の有効領域を示す Fusion QbD 画面。

最適化

LC 分析法開発における最適化は通常、温度、グラジエント勾配、グラジエント時間、流速などの重要性の低いパラメーターの一部を微調整することによって行われます。この実験では流量と温度を調整しました。

この試験では、0.35 および 0.5 mL/分の 2 つの流速および 30~50℃ の範囲の温度を使用しました。pH 8.0、8.5、9.0 の 3 つのバッファーについても検討しました。BEH C18 固定相は目的化合物の分離において効率的であることが分かっているため、この最適化実験における固定相として選択しました。ここでは、スクリーニング実験で使用した 5 cm(2.1 mm × 1.7 µm)ではなく、10 cm BEH C18 (2.1 mm × 1.7 µm)カラムを使用したことに注意することが必要です。これは、すべての化合物の良好な分離を達成するためであり、長いカラムほど理論段数が多く、したがって効率が良いためです。

Empower の「カラムカリキュレーター」ツールを使用して、グラジエント時間を 5 cm カラム用から 10 cm カラム用に調整しました。Fusion QbD ソフトウェアを使用して実験計画を再度作成し、同一ソフトウェアで結果を解析して APR および BOA を特定しました。結果から、幅広い実験条件下で、必要な性能目標が達成できることが分かりました。

例えば、図 9 に示すように、すべての目的化合物(7 本のピーク)は、幅広い温度範囲(32.2~38.6°C)および幅広いグラジエント時間(13~25 分)にわたって、最小分離度 2.3、テーリングファクター 1.2 未満で分離できます。図 9 のグラフは、デザインスペース内の最終分析法の位置(ターゲット分析法の「T」と指定したポイント)も示しています。

最終デザインスペース内の四角形は、ジョイント「Proven Acceptable Ranges(PAR)」を示しています。これは、分析法を完全に再検証せずに、グラフ化されたパラメーターを承認後に独立して調整できるデザインスペースのサブセットです。これらの結果は、APR スペースの中央で、すべての性能目標を達成する堅牢な分析法が作成できることを示しています。ここで、最適化実験から得られたモデルは、スクリーニングから得られたモデルよりも正確であり、APR を最終デザインスペースと見なすことができることに留意する必要があります。分析結果により、図 9 に示されているデザインスペースが特定されました。これには、必要な性能目標が達成できる幅広い実験パラメーターが含まれています。

図 9.最適化実験から得られたデザインスペースと PAR を示す Fusion QbD グラフ。グラフの下の表は、この設計で達成された、ユーザー指定の性能目標を示しています。

検証

研究のこの部分では、Fusion QbD によって得られた結果を実際の分析と比較するために、いくつかの検証分析を行いました。結果から、予測された性能が実際の性能ときちんと一致していることが分かります。例えば、図 10 に示すように、Fusion QbD は BOA 条件(詳細はグラフを参照)でのピーク数は 7 であると予測し、実際に得られたクロマトグラム(図 10)にも 7 本あることが分かります。さらに、Fusion QbD は、7 本のピークのうち 6 本で USP 分離度が 2 以上であると予測し、実際のクロマトグラムと一致していることが分かります。最後に、Fusion QbD ソフトウェアは、7 本のピークすべてのテーリングファクターが 1.2 以下であると予測し、実際のクロマトグラムでは、7 本のピークのうち 6 本のテーリングファクターが 1.2 未満でした。ここで、Fusion QbD ソフトウェアが、クロマトグラム中の特定のピークについての性能予測に成功していることは注目に値します。例えば、ブデソニドのエピマー A の分離度の予測値は、5 回の異なる検証分析から得られた実測値との差が 2% 以内でした。

図 10.最適化実験から得られた BOA 条件を使用した、フォルモテロール、ブデソニド、および類縁化合物の 4 回の繰り返し注入。条件:pH = 8.2、温度 = 33℃、流速 = 0.350 mL/分。グラジエントプロファイル:5% アセトニトリルおよび 95% アンモニウムで 2 分間の初期保持、続いて 5~60% のアセトニトリルで 25 分間の線形グラジエント。

結論

Quality by Design アプローチを使用して、ACQUITY UPLC H-Class PLUS システムおよび Empower 3 と Fusion ソフトウェアを用いて、ブデソニド、フォルモテロールおよび類縁化合物の堅牢な分析法を開発しました。

  • Fusion QbD を LC 分析法開発のツールとして使用することには、以下の利点があります。

分析法開発プロセス全体を自動化

有効な結果を得るのに必要な実験の数を最小限に抑えることで時間を節約

すべての重要な分析法性能特性に対して、すべての重要な装置パラメーターが及ぼす影響を定量化および視覚化するツールを提供

  • QbD 分析法開発ソフトウェアと ACQUITY UPLC H-Class PLUS システムを組み合わせることで、カラムケミストリー、移動相、温度、注入量などのさまざまなクロマトグラフィーパラメーターを迅速にスクリーニングできます。
  • さまざまなクロマトグラフィー条件で化合物を迅速かつ容易に同定できるため、分析法開発に ACQUITY QDa 質量検出器を使用することは大きな利点をもたらします。

参考文献

  1. Dispas, A.; Avohou, H.T.; Lebrun, P.; Hubert, P.; Hubert, C.Quality by Design Approach for the Analysis of Impurities in Pharmaceutical Drug Products and Drug Substances.TrAC Trends in Analytical Chemistry.2018, 101, 24–33.
  2. Peraman, R.; Bhadraya, K.; Padmanabha Reddy, Y. Analytical Quality by Design: A Tool for Regulatory Flexibility and Robust Analytics.Intl.J. Analy.Chem.2015, 2015, 1–9.
  3. Shao, J.; Cao, W.; Qu, H.; Pan, J.; Gong, X. A Novel Quality by Design Approach for Developing an HPLC Method to Analyze Herbal Extracts: A Case Study of Sugar Content Analysis.PloS One.[Online] 2018, 13, e0198515.
  4. Thakor, N.; Amrutkar, S. Implementing Quality by Design (QbD) in Chromatography.Austin Journal of Analytical and Pharmaceutical Chemistry.
    2017, 4, 1–5.
  5. Reid, G.L.; Morgado, J.; Barnett, K.; Harrington, B.; Wang, J.; Harwood, J. Fortin, D. Analytical Quality by Design (AQbD) in Pharmaceutical Development.American Pharmaceutical Review.[Online] 2013, 144191.
  6. Argentine, M.; Barnett, K.; Chatfield, M.; Hewitt, E.; Jackson, P.; Karmarkar, S.; Marolewski, A.; Pless, A.M.; Rignall, A.; Semin, D.; Trone, M.D.; Wang, Q.; Williams, Z.; Zhao, Y. Evaluating Progress in Analytical Auality by Design.Pharmaceutical Technology.2017, 41(4), 52–59.
  7. Zetterström, O.; Buhl, R.; Mellem, H.; Perpina, M.; Hedman, J.; O'Neill, S.; Ekström, T. Improved Asthma Control with Budesonide/Formoterol in a Single Inhaler, Compared with Budesonide Alone.European Respiratory Journal.2001, 18, 262–268.

720006654JA、2019 年 8 月

トップに戻る トップに戻る