• アプリケーションノート

Waters Anion Polar Pesticide カラムおよび UPLC-MS/MS を用いた乳児用調製粉乳中の塩素酸塩と過塩素酸塩の測定

Waters Anion Polar Pesticide カラムおよび UPLC-MS/MS を用いた乳児用調製粉乳中の塩素酸塩と過塩素酸塩の測定

  • Janitha De-Alwis
  • Euan Ross
  • Stuart Adams
  • Waters Corporation

要約

塩素酸塩および過塩素酸塩は一般的、クロマトグラフィーを使用して分析されており、特殊な装置を使用する必要があります。このアプリケーションノートでは、ACQUITY UPLC I-Class システムと Xevo TQ-XS 質量分析計を組み合わせて、乳製品中の塩素酸塩と過塩素酸塩を測定する際の性能を評価しています。 

アプリケーションのメリット

乳児用調製粉乳およびその他の乳製品中の塩素酸塩と過塩素酸塩を測定する代替の分析法。この分析法は、規制当局および食品関連業者の適性評価試験に適しています。メリット:

  • 5 分以内の分析時間で優れたクロマトグラフィー保持、ピーク形状、分離を実現。
  • 優れた感度により、QuPPe-AO 分析法によって抽出されたサンプル内の低レベルおよび mg/kg 以下のレベルの残留物の測定が可能になります。

はじめに

最近の欧州食品安全機関(EFSA)の報告によれば、欧州連合(EU)内で消費されている食品のほとんどには、農薬がほぼ含まれていないことが強調されています1。 ただし、最新のモニタリングデータによれば、過去数年に比べて超過量の増加が示されています。この差異は塩素酸塩の残留物によるものです。最大残留基準値(MRL)を確立する作業をサポートするための 2016 年のコントロールプログラムにおいて、この化合物が初めて含まれました。このレポートでは、相当な割合の離乳食において塩素酸塩が MRL を超過していることも示されました。EFSA では現在、食品中の塩素酸塩および過塩素酸塩の MRL を見直しています2

食品は、さまざまな製造段階において塩素酸塩および過塩素酸塩で汚染される場合があります。過塩素酸塩は、肥料の使用により食品中に存在することがある一方で、塩素酸塩は、食品製造中の塩素系殺菌剤の使用によって存在することがあります。乳業では多くの場合、次亜塩素酸塩および二酸化塩素が殺菌剤として使用されます。調査では、このような種類の殺菌剤の使用によって、最終製品における塩素酸塩レベルが上昇することがあることが確認されています3

食品加工業における公衆安全および幅広い環境に対する塩素酸塩の健康上のリスクの増加により、欧州連合では、塩素酸塩は農薬として非承認にされており、既定では 0.01 mg/kg の MRL が適用されています2。 ただし、食品では多くの場合、この MRL を超えるレベルが検出されています。2

塩素酸塩および過塩素酸塩は一般的、クロマトグラフィーを使用して分析されており、特殊な装置を使用する必要があります。最近の分析法では LC-MS/MS が使用されており、Quick Polar Pesticides Methodology(QuPPe)で用いられる分析カラムを活用しています4

塩素酸塩および過塩素酸塩のための代替的な UPLC-MS/MS 分析法は、ウォーターズコーポレーションのアプリケーションノート(製品番号:720006421EN)で初めて概説されました。この分析法では、新規の親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)カラムを使用して、優れたクロマトグラフィー保持および分離が可能になりました。このカラムは現在、アプリケーション専用の型式として、Waters Anion Polar Pesticide(APP)カラムで発売されました。この分析法により、乳児用調製粉乳(動物由来製品用の QuPPe 分析法、QuPPe-AO に従って抽出およびクリーンアップ済み)中の塩素酸塩および過塩素酸塩を定量する、迅速で費用対効果の高いアプローチが提供されます。4

実験方法

サンプルは、調整された QuPPe-AO 抽出手順に従って、抽出およびクリーンアップされました。乳児用調製粉乳は、ラベルの記載どおりに LC-MS グレードの水で溶かし、1% ギ酸含有メタノール溶液を使用して、10 mL のサンプルを抽出しました。抽出および注入のばらつきを補正するため、抽出する前に、同位体標識内部標準試料をすべてのサンプルに添加しました。サンプルを遠心分離した後、得られた上清のアリコートを、アセトニトリルおよび C18 吸着剤と混合しました。LC-MS/MS 分析の前に、サンプルをボルテックス混合し、遠心分離しました。図 1 には、この分析に使用したサンプル前処理法の概要が示されています。

図 1. この分析に使用したサンプル前処理ワークフロー

分析法の性能は、SANTE ガイドライン 11813/2017 に従って評価しました5。 分析法の真度および精度を評価するために、乳児用調製粉乳サンプルを 0.010 mg/kg、0.020 mg/kg、0.050 mg/kg でスパイクしました。溶媒キャリブレーション標準試料は、希釈した QuPPe 溶媒内で 0.004 ~ 0.800 mg/kg(1.0 ~ 200 ng/mL、バイアルでの濃度)の範囲で調製しました。標識したバージョンの塩素酸塩および過塩素酸塩も、内部標準試料として追加しました。塩素酸塩および過塩素酸塩でスパイクされたサンプル濃度を決定するために、ブラケット検量線を使用しました。

分析条件

LC 条件

システム:

ACQUITY UPLC I-Class PLUS

カラム:

Waters Anion Polar Pesticide(APP)カラム 2.1 × 50 mm、5 μm(製品番号:186009286)

カラム温度:

50 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

2 µL

流量:

0.5 mL/分

移動相 A:

0.9% のギ酸および 50 mM のギ酸アンモニウム含有水溶液(LC-MS グレード)

移動相 B:

0.9% ギ酸含有アセトニトリル溶液(LC-MS グレード)

グラジエント

表 1. この分析に使用したグラジエント
(注記:グラジエントは 350 μL の注入後に遅れて開始されます)

MS 条件

システム:

Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計

ソフトウェア:

MassLynx v4.2

イオン化モード:

ESI-

測定モード:

MRM

キャピラリー電圧:

0.50 kV

コーン電圧:

15 V

コーンガス流量:

150 L/時間

脱溶媒温度:

600 ℃

脱溶媒ガス流量:

800 L/時間

ソース温度:

150 ℃

表 2. オートデュエル機能を使用して自動的に設定された最適デュエルタイムでの MRM トランジション

結果および考察

移動相の組成、バッファー濃度、グラジエント勾配、MS トランジションを評価することによって、分析法の最適化が達成されました。「実験方法」セクションに詳説されている条件により、全体的に最適な性能が実現できました。

乳製品サンプルには、分析のさまざまな段階で干渉する可能性があるマトリックス成分(タンパク質、脂肪、糖類など)が含まれています。これらのマトリックス成分の影響を最小限に抑えるため、分析法には通常、除タンパクおよび脱脂のステップを伴います。QuPPe-AO の抽出およびクリーンアップ手順により、調製粉乳サンプルからタンパク質および脂肪が十分に除去され、分析法の頑健性が向上しました。塩素酸塩および過塩素酸塩の同位体標識内部標準試料により、抽出および注入のばらつきを補正できました。

SANTE ガイドライン 11813/2017 に概説されている基準に従って、分析法の再現性(RSDr)、真度などの性能が評価されました。分析法の内部検証により、塩素酸塩および過塩素酸塩の同定および定量における優れた性能が実証されました。0.004 mg/kg の溶媒標準試料のピーク間シグナル対ノイズ比のクロマトグラムの例が、図 2 に示されています。

図 2. 0.004 mg/kg の溶媒標準試料のクロマトグラム。分析法の感度が優れていることが示されます。

2 種類のターゲット化合物の保持と分離を示すクロマトグラムの例が図 3 に示されています。この APP カラムのカラムボイドボリューム(t0)が 0.24 分で計算されました。すべての化合物に対して、SANTE ガイドラインで概説されているカラムボイドボリュームの 2 倍を超える保持が達成されました。この分析法の合計実行時間は、カラム平衡化を含めて 5 分でした。

図 3. 粉ミルクに 0.01 mg/kg でスパイクされた塩素酸塩および過塩素酸塩のクロマトグラム。

塩素酸塩および過塩素酸塩のキャリブレーションの直線性が、ブラケット検量線を使用して評価されました。図 4 に示されているように、検量線は 0.004 ~ 0.800 mg/kg(1.0 ~ 200 ng/mL、バイアルでの濃度)の範囲で溶媒内にスパイクされました。優れた相関係数および残差(r2 > 0.999 および残差 < 10%)が得られました。

図 4. ブラケット検量線を使用した、塩素酸塩および過塩素酸塩のキャリブレーションの直線性。キャリブレーション範囲は 0.004 ~ 0.800 mg/kg(1.0 ~ 200 ng/mL,、バイアルでの濃度)でした。

サンプルをさまざまなスパイクレベルで抽出および注入して(0.010 mg/kg [n = 5]、0.020 mg/kg [n = 5]、0.050 mg/kg [n = 5]))、この技法の再現性および真度を測定しました。乳児用調製粉乳の分析の再現性(%RSD)および回収率は、表 3 に示されています。保持時間およびイオン比は、SANTE ガイドラインで定義された許容範囲内でした。表 4 には、SANTE ガイドラインで設定された主要な基準に対する、乳児用調製粉乳の塩素酸塩および過塩素酸塩の測定のための分析法バリデーション結果のサマリーが示されています。

表 3. 補正済み標識標準試料。スパイクした乳児用調製粉乳の塩素酸塩および過塩素酸塩の真度および再現性(各スパイクレベルで n = 5)。
表 4. 乳児用調製粉乳の塩素酸塩および過塩素酸塩の測定のための分析法バリデーション結果のサマリー

結論

この試験の目的は、乳製品中の塩素酸塩および過塩素酸塩の測定において、ACQUITY UPLC I-Class システムおよび Waters Anion Polar Pesticide(2.1 × 50 mm)カラムに Xevo TQ-XS 質量分析計を組み合わせて使用した場合の性能の評価でした。この手法を検証したところ、塩素酸塩と過塩素酸塩の検出、同定、定量に優れた感度を示しました。この分析法は効果的な抽出とクリーンアップを提供し、さまざまな乳製品マトリックスに適用できます。Xevo TQ-XS では、直線性およびキャリブレーション範囲の点で、模範的な性能が得られました。この分析法の真度および精度をさまざまな QC レベルで測定した結果、バイアスおよび %RSD について優れた結果が得られました。

参考文献

  1. EFSA (2019) The 2016 European Union Report on Pesticide Residues in Food.https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.2903/j.efsa.2018.5348.
  2. European Commission.(2015) Chlorate https://ec.europa.eu/food/plant/pesticides/chlorate_en.
  3. McCarthy, W.; O’Callaghan, T.; Danahar, M.; Gleeson, D.; O’Connor, C.; Fenelon, M.; and Tobin, J. Chlorate and Other Oxychlorine Contaminants Within the Dairy Supply Chain.Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety 2018, 17, 1561–75.
  4. European Commission (2017) QuPPe Method.https://www.eurl-pesticides.eu/docs/public/tmplt_article.asp?CntID=887&LabID=200.
  5. European Union (2017), Document No.SANTE 11813/2017.Guidance Document on Analytical Quality Control and Method Validation Procedures for Pesticides Residues Analysis in Food and Feed.https://ec.europa.eu/food/sites/food/files/plant/docs/pesticides_mrl_guidelines_wrkdoc_2017-11813.pdf

720006686JA、2020 年 7 月 改訂

トップに戻る トップに戻る