原薬や最終的な製剤の試験に用いる分析法は、社内の各部署や分析受託機関で、様々な分析機器メーカーの装置を用いて行われます。さらに、最新の装置をラボに導入する際には、品質部門で、新しい装置で既存の分析法を正確に実行できるという確信が必要です。異なる装置間でこれらの分析法が正常に移管されて、製品の一貫性と規制へのコンプライアンスが確保できることが必要不可欠です。このアプリケーションブリーフでは、ラボの効率と生産性を向上させるために、不純物の HPLC 分析法を Arc HPLC システムに、そしてより小さい粒子を充塡したカラムに、シームレスに移管できることを説明します。
有効な分析法移管であれば、同じ分析については装置・実験室・資材に関わらず、同等の結果が得られます。時間もコストもかかる再バリデーションが最小限になるため、同等の結果を得ることは重要です。本アプリケーションブリーフでは、不純物の HPLC 分析法の、Waters Arc HPLC システムへのシームレスな移管について紹介します。さらに、分析法を 5 µm から 3.5 µm にスケーリングして同じ流速を維持することにより、クロマトグラフィー分離の完全性を損なうことなく、分析時間と溶媒消費量を削減できることを示します。分析法移管の達成状況については、USP の推奨に従ってクロマトグラフィー分離およびシステムスータビリティの結果を調べることによって評価しています1。
Arc HPLC システムにより、HPLC 分析法が、クロマトグラフィー分離の品質を損なったり、再バリデーションへの労力を必要としたりすることなく、シームレスに再現できます。粒子径 3.5 µm のカラムの使用にも対応し、適切なスケーリングと同じ流速が維持でき、ラボの効率と生産性が向上します。
さらに、Arc HPLC の高耐圧性により、カラム長、流速、グラジエント条件を変えずに、粒子径 3.5 µm のカラムの向上した分離能が分析法に活用できます。
不純物の HPLC 分析法を、Alliance システムおよび粒子径 5 µm のカラムを装着した Arc HPLC システムの両方で、表 1 に記載されている条件で実行しました。Arc HPLC システムは、Alliance システムで得られたクロマトグラフィー分離を正常に再現し、重要なペアピーク 5 と 6 の間で、1.7 という同一の USP 分離度が得られました(図 1)。
ピーク面積の相対標準偏差(RSD)、保持時間、分離度、ピークテーリングなどのシステムスータビリティパラメーターを用いて Arc HPLC システムで実行した分析法のクロマトグラフィー性能を評価し、Alliance システムを用いて得たデータと比較しました。不純物および API を含む混合液の 5 回の繰り返し注入によるシステムスータビリティ結果を表 2 に示します。保持時間とピーク面積の再現性は、両システムで同等でした。Arc HPLC システムでのピーク面積の RSD は 0.28% 以下であり、USP 仕様である 2.0% を十分に下回っています1。 全てのピーク間のUSP 分離度も二つのシステムで同等で、分析法移管により分離は低下しなかったことが示されます。USP テーリング係数は 1.2 以下でした。
小さい粒子径のカラムに分析法を移管することにより、分析時間と溶媒消費量を削減でき、ラボのスループットと生産性を向上させることができます。より小さい粒子径にスケーリングする場合、分析法の分離能を維持するには、カラム長(L)と粒子径(dp)の比率が元の分析法と同じでなければなりません。注入量やグラジエント時間などのその他のパラメーターは、同じクロマトグラフィー分離品質を維持するように幾何学的にスケーリングされており、このスケーリングはカラムカリキュレーターを使用して実行することができます2。今回の場合、流速については、分析の実行時間を短縮するための幾何学的なスケーリングを行いませんでした。
本研究では、不純物分析法を、同じ内径を維持しつつ、粒子径 5 µm ~ 3.5 µm のより短いカラムにスケーリングしました(表 1)。同じ流速 2.9 mL/分で粒子径 3.5 µm のカラムに分析法を更新することにより、分析時間が 33% 短縮され、5 µm を使用した分析法と同じ分離の完全性が維持されました(図 2)。5 µm および 3.5 µm の分析法を用いて得られたシステムスータビリティにより、保持時間およびピーク面積の %RSD、USP 分離度、ピークテーリングについて同等の結果が得られることがわかります(表 3)。
最新の LC 装置を用いる場合、エンジニアリングの改良は、従来の圧力限界が適用されないことを意味します。古い LC 装置では、新しい分析法においてそれらの低圧力限界の範囲内での分析が確実に行えるようにする、カラムの寸法と粒子径のスケーリングが重要です。Arc HPLC システムは高い背圧に耐えることができます。これにより、同じ分析条件でより高分離能のカラムを使用することが可能になります。
分析法の分離能の向上は、L/dp 比を大きくすることで達成できます。つまり、元の分析法と同じカラム長(L)を維持しつつ粒子径(dp)を小さくします。ただし、同じ寸法と条件で粒子径の小さいカラムに移行すると、一般に背圧が高くなります。
不純物分析において、粒子径 3.5 µm の 4.6 × 150 mm カラムで、5 µm 分析法と同じ装置条件を使用して分析を再現しました(表 1)。3.5 µm で分析を行った結果、よりシャープで効率的なクロマトグラフィーピークが得られ、背圧がより高くなりました(図 3)。さらに、3.5 µm 分析法では、5 µm 分析法と比較して、ピーク間の USP 分離およびピーク高さが大幅に向上し(図 4)、より簡単で頑健な波形解析が可能になり、より高感度で正確な定量ができるようになります。
従来の LC システムでは、より高い背圧に耐えられないため、この分析は不可能と考えられます。一方、Arc HPLC システムでは、最大圧力が高いため、より高い効率およびより高い分離能が必要な場合に、より小さい粒子径のカラムを使用することができます。
Arc HPLC システムでは、分析法の完全性を損なうことなく、HPLC 分析法がシームレスに受け入れられ、再現されます。粒子径 3.5 µm のカラムにも対応することができ、5 µm 分析法と較べてスケーリングしたグラジエントステップによる分析時間の短縮および溶媒消費量の低減が行えます。あるいは、高い背圧が制限要因ではない場合には、より小さな粒子によって得られる高い効率と分離能の向上を活用することができます。より迅速な分析およびより頑健なピーク波形解析により、QC ラボでのルーチン検査の効率と生産性が向上します。
Arc HPLC システムにより、頑健で信頼性が高く、再現性のある性能が得られ、あらゆる LC プラットホームからの効率的な分析法移管や、効果的な分析法改良が可能になります。Arc HPLC システムの最大圧力 9,500 psi により、高流速を用いた粒子径の小さいカラムでの分析が可能になります。全体としてこれにより、分析ラボにおける製品の一貫性とデータ品質を確保しつつ、データの完全性への懸念を最小限に抑えることができます。
720006947JA、2020 年 7 月