• アプリケーションノート

イオンペア逆相(IP-RP)液体クロマトグラフィーを使用したオリゴヌクレオチド分析のベストプラクティス – カラムおよびケミストリー

イオンペア逆相(IP-RP)液体クロマトグラフィーを使用したオリゴヌクレオチド分析のベストプラクティス – カラムおよびケミストリー

  • Martin Gilar
  • Nicholas J. Zampa
  • Waters Corporation
支援をご希望ですか?
ウォーターズでは、新型コロナウイルスに対抗するための取組みを支援しています。支援の要請は、以下にご連絡ください。

要約

イオンペア逆相(IP-RP)液体クロマトグラフィーを用いてオリゴヌクレオチド分析を正常に実行するための、重要なカラムおよびケミストリーに関するベストプラクティスの一部を紹介します。診断アプリケーションや治療における高品質オリゴヌクレオチドの保証は、頑健な分析法に依存しています。例えば、世界的な新型コロナウイルス感染症のパンデミックに対応し、新型コロナ患者において SARS-CoV-2 の遺伝コードを検出するために、PCR ベースの診断キットが開発されています。PCR を使用した正確なウイルス検査には、高品質のオリゴヌクレオチドプライマーおよびプローブが必要です。さらに、オリゴヌクレオチドは、新型コロナウイルス感染症の治療および予防用の治療薬(mRNA ベースのワクチンなど)として研究されています。

アプリケーションのメリット

  • ウォーターズの BEH ベースの C18 粒子を使用することで、LC または LC-MS に適合するバッファー中での高 pH および高温でのオリゴヌクレオチド分離が可能に
  • 一貫性を確保するために、各ロットは MassPREP オリゴ標準試料を使用して QC テスト済み
  • 分取または分析アプリケーションに対応するさまざまな粒子径およびカラム寸法
  • 5 分未満で完了する IP-RP によるオリゴヌクレオチドの 3 ステップ分離法の開発

はじめに

本アプリケーションブリーフでウォーターズは、イオンペア逆相(IP-RP)液体クロマトグラフィーを用いたオリゴヌクレオチドの特性解析におけるベストプラクティスの短いリストを提供します。これらのベストプラクティスには、分離温度、pH の最適化、ポアサイズの選択、移動相の選択、迅速な分析法開発における検討事項、精製のガイドライン、一般的なバッファーの調製法が含まれています。オリゴヌクレオチド分析のこれらのベストプラクティスに従うことにより、分析法の頑健性を確保し、治療または診断用のアプリケーション用に一貫して高品質のオリゴヌクレオチドを提供する一助になります。

新型コロナウイルスのパンデミックは、診断用アプリケーションにおけるオリゴヌクレオチドの重要性を示す好例になっています。SARS-CoV-2 ウイルス感染の適時の診断は、依然として新型コロナウイルスパンデミックを正しく管理するための最重要事項です。そのため、多くの企業が SARS-CoV-2 の遺伝物質の存在を検出するための体外診断検査試薬を開発しました。米国において緊急使用許可(EUA)を取った体外診断検査試薬のほとんどは、SARS-CoV-2 ウイルスの遺伝子コードを検出する PCR ベース(例えば qPCR、RT-PCR)の検査です1。ウイルス遺伝子コードの分子検出用の診断キットは、PCR 増幅および検出時のプライマーおよびプローブとして、オリゴヌクレオチドに依存しています。結果として、品質を分析的に評価し、適切な純度を確保することは、診断テストの成功にとってきわめて重要です。 

結果および考察

ウォーターズは、オリゴヌクレオチドの IP-RP 分離法および製品開発リソースをレビューした結果として得られたベストプラクティスの短いリストを作成しました。以下に 6 つの主要なプラクティスについて説明します。

1)最適な結果を得るために、高 pH および高温でオリゴヌクレオチド分離を行います。

I. 温度を上げることで、オリゴヌクレオチドの二次構造が保持に影響するのを阻止できます(60℃)。温度を上げると、DNA/RNA の二次構造が分離に影響しないことが保証されます。高度の二次構造の CG リッチまたは G リッチのオリゴヌクレオチドの場合、カラム温度を 80 ℃ または 90 ℃ に上げることが必要になる場合があります。

ii.  オリゴヌクレオチド分離では、高 pH バッファー(pH ≥ 7)を通常使用します(TEAA など)。

iii.TEA-HFIP は、さまざまなサイズの単鎖オリゴヌクレオチドにわたって優れた LC-MS 感度と分離が得られる頑健な移動相であることが分かりました2

iv.  オリゴヌクレオチドの IP-RP 分離には高 pH を使用するため、ほとんどの一般的なシリカベースの固定相が使用できません。

v. ウォーターズの BEH 吸着剤テクノロジーは、その高い pH 安定性と温度耐性により、オリゴヌクレオチドの分離に適しています。

図 1.  BEH 吸着剤の構造の模式図。エチル基の架橋により、加水分解に対する安定性が得られます。吸着剤の表面は、オリゴヌクレオチド分析のために C18 官能基によってアルキル化されています。

詳細については、ウォーターズのアプリケーションノート HPLC and UPLC Columns for the Analysis of Oligonucleotides(『オリゴヌクレオチド分析向け HPLC および UPLC カラム』)(720002376EN)を参照してください。

2)オリゴヌクレオチド分離に適したポアサイズを選択します。正しいポアサイズを選択することで、分析種の適切な拡散が得られ、オリゴヌクレオチドとリガンド間の相互作用が最適化できます。リガンドとの相互作用の改善により、ピーク形状が向上します。

 i. ポアサイズ 130 Å は、単鎖オリゴヌクレオチド(2 ~ 100 mer)に最適です。

 ii.  ポアサイズ 300 Å により、単鎖オリゴヌクレオチドおよびより長い dsDNA フラグメントの両方が効率的に分離できます。

3)適切な移動相を選択します。バッファーの調製法については、セクション 6 を参照してください。

i. トリエチルアミン/ヘキサフルオロイソプロパノール(TEA/HFIP)は、MS に適合しており、優れた分解能を示します。TEA/HFIP バッファー濃度を高くすると、分離性能が向上します。濃度を下げると、MS 感度が向上します。

ii.  酢酸ヘキシルアンモニウム(HAA)でも卓越した分離と MS 適合性が得られますが、HAA の MS 適合性は TEA/HFIP より低くなります。HAA を使用すると、標識オリゴヌクレオチドおよび長いオリゴヌクレオチド(> 35 mer)の分離が、TEA/HFIP と比較してより良好になることがあります。これは、LC 分析のみを実行する場合に重要になることがあります。

iii.  新しい TEA/HFIP 移動相および HAA/HFIP 移動相は、良好な分離に重要です。これらの半揮発性移動相が徐々に分離能を失い、MS スペクトルにアルカリ付加イオンが混入することがあります。日々の結果が頑健であることを保証するために、移動相を毎日調製するか、限られた量だけ調製します。移動相を使用できる期間の上限は 1 週間です。

iv.   TEA と HFIP はどちらもドラフトチャンバーで調製し、Waters APC 溶媒ボトルキャップを使用してガスの放出を防ぎ、可能であればシステムの上方で排気パイプを使用します。

図 2. 異種複合体オリゴヌクレオチドの分離。イオン対移動相の種類は、分離の選択性に影響します。TEAA などの「弱い」イオンペアリングシステムでは、疎水性相互作用およびイオンペアリング相互作用の両方が分離に関与します。「強い」イオンペアリングシステム(TEA/HFIP、HAA)では、オリゴヌクレオチドは主にその電荷/長さによって分離されます。

詳細については、以下のウォーターズのアプリケーションノートを参照してください:

  • UPLC/MS Separation of Oligonucleotides in Less than Five Minutes: Method Development(『5 分未満でのオリゴヌクレオチドの UPLC/MS 分離:分析法開発』)(720002387EN)。
  • Evaluation of Alternative Ion-pairing Reagents in the Analysis of Oligonucleotides with the ACQUITY QDa Detector(『ACQUITY QDa 検出器を用いたオリゴヌクレオチド分析における代替のイオン対試薬の評価』)(720005830EN)。
  • Hexylammonium Acetate as an Ion-Pairing Agent for IP-RP LC Analysis of Oligonucleotides(『酢酸ヘキシルアンモニウムをイオン対試薬として用いたオリゴヌクレオチドの IP-RP LC 分析』)。(720003361EN)。

4)5 分未満で完了する IP-RP によるオリゴヌクレオチドの迅速 3 ステップ分離法の開発。

i. 適切な初期グラジエント強度を確認するか、スカウティンググラジエントで開始します。15 mM TEA/400 mM HFIP イオンペアリングシステムでは、スカウティンググラジエントの例として以下が挙げられます。

  • 20% MeOH で開始し、流速 0.2 mL/分で 1%/分の MeOH グラジエントをかけます(高分子についてカラム効率を高めるには 0.2 mL/分が有用です)。

ii.  グラジエントの傾きを調整して、必要な分離を達成します(グラジエントを浅くすると分離能は向上しますが、分析に必要な時間が長くなります)。必要に応じて開始時の MeOH の割合を調整し、分析時間を短縮します。必要に応じて MeOH グラジエントの時間を、対象のオリゴヌクレオチドおよび不純物が溶出されるまで延長します。次に、有機溶媒比率の高いフラッシュを挿入して、強く保持されている成分(多くの場合、オリゴヌクレオチド以外の成分)を溶出し、キャリーオーバーを最小限に抑えます。対象のオリゴヌクレオチドは、有機溶媒比率の高いフラッシュではなく、グラジエントの間に溶出する必要があります。

iii.  速度が重要な場合は、流速を大きくし、グラジエント時間をそれに比例して減らして(グラジエントカラム容量一定)、分離速度を上げます。分離の低下を最小限にしつつ、分離の選択性を変化させないことが必要です。高感度または最適な分離能を目指す場合は、低流速を使用します。

  • 0.4 mL/分は、速度と分析性能の妥当な妥協点です。ハイスループット分離には、流速 0.8 mL/分が推奨されます(分離時間 1 ~ 3 分、カラム内径 2.1 mm)。
  • XBridge OST カラムの分析法開発における検討事項の詳細(開始時のグラジエントの傾き、バッファー組成、カラムの検討事項など)については、Waters 715001476 を参照してください。
図 3. 2.1 × 50 mm、1.7 µm ACQUITY UPLC OST C18 カラムを用いた 30 ~ 60 nt のオリゴデオキシチミジンの分離。
図 4. 15 ~ 35 nt のオリゴデオキシチミジンの分離

詳細については、以下のウォーターズアプリケーションノートを参照してください。

  • UPLC/MS Separation of Oligonucleotides in Less than Five Minutes: Method Development(『5 分未満でのオリゴヌクレオチドの UPLC/MS 分離:分析法開発』)(720002387EN)。
  • UPLC Separation of Oligonucleotides: Method Development(『オリゴヌクレオチドの UPLC 分離:分析法開発』)(720002383EN)。
  • XBridge OST C18 Method Guidelines(『XBridge OST C18 分析法ガイドライン』)(715001476)。

5)Xbridge オリゴヌクレオチド BEH C18 カラムを用いたオリゴヌクレオチド精製のガイドライン。

i. XBridge Oligonucleotide BEH C18、130 Å カラムは、ラボスケールの分離要件を満たすように設計されたカラムサイズが入手可能であるため、脱トリチウム化オリゴヌクレオチド精製に適した製品です。 

ii.  XBridge Oligonucleotide C18 カラムの寸法および流速の選択は、主に合成反応混合物のスケールによって異なります。

  •  例えば、XBridge Oligonucleotide BEH C18、130 Å、2.5 µm 粒子を採用した 4.6 × 50 mm カラムは、オリゴヌクレオチドの注入量が 0.2 µmol 以下の場合に適した選択です。
  •  成分の分離を最大化し、望ましくない不良配列の中から目的の生成物を回収するために、オリゴヌクレオチドサンプル注入に適したカラムサイズを選択することを推奨します。注入量のガイドラインについては、表 1 を参照してください。
図 5. 合成 21-mer オリゴヌクレオチドの HPLC 精製。サンプル濃度は 2.8 nmol/µL、オンカラム注入範囲は 1.4 ~ 140 nmol でした。

*記載値は目安であり、オリゴヌクレオチドの長さ、塩基組成、使用する「ハートカッティング」フラクション回収法によって異なります。

表 1. 脱トリチル化オリゴヌクレオチド精製用 XBridge OST C18 カラム選択ガイド

6)選択 IP-RP バッファー(1 リットル)の調製法

i. すべての作業はドラフトチャンバー内で行います

ii.  すべての移動相を溶媒に適合する 0.45 µm メンブレンフィルターでろ過し、清浄で微粒子のないボトルに保管します。

  • 以上は移動相 A の調製法です。移動相 B は通常、有機溶媒(ACN、MeOH など)と移動相 A との適切な比率(例えば 20% ~ 50%)の混合液です。G リッチなオリゴヌクレオチドを含む分離には、より高濃度のバッファー(15 mM TEA/400 mM HFIP)が使用できます。日常的な脱トリル化オリゴヌクレオチド LC-MS アプリケーションには多くの場合、低強度バッファー(8.6 mM TEA/100 mM HFIP)で十分です。

結論

ウォーターズは、お客様のオリゴヌクレオチドに関わる作業をサポートするため、これらの非常に重要なベストプラクティスを提供し、オリゴヌクレオチド分析において、一貫した高性能 IP-RP 液体クロマトグラフィー分離を行えるようにします。頑健な分析法は、診断や治療用のアプリケーションに用いる高品質のオリゴヌクレオチドをお届けするために、きわめて重要です。例えば、高品質のオリゴヌクレオチドプライマーおよびプローブは、正確な PCR ベースの診断分析(新型コロナウイルス用など)に不可欠です。

参考文献

  1. In Vitro Diagnostic EUAs - Test Kit Manufacturers and Commercial Laboratories Table [Internet].Washington (DC).FDA.[cited 2020 Jun 1].Available from: https://www.fda.gov/medical-devices/emergency-situations-medical-devices/emergency-use-authorizations#covid19ivd
  2. Gilar M, Fountain KJ, Budman Y, Holyoke JL, Davoudi H, Gebler JC.Characterization of Therapeutic Oligonucleotides Using Liquid Chromatography with On-line Mass Spectrometry Detection.Oligonucleotides.2003 13(4):229-243.

720006948JA、2020 年 7 月

トップに戻る トップに戻る