• アプリケーションノート

製造プロセスおよび製剤開発サンプルのための BioResolve SEC mAb ガードカラム

製造プロセスおよび製剤開発サンプルのための BioResolve SEC mAb ガードカラム

  • Stephan M. Koza
  • Weibin Chen
  • Waters Corporation

要約

サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、バイオ医薬品タンパク質製品の開発をサポートするため、タンパク質の自己集合およびフラグメンテーションの評価に一般的に使用されています。しかしながら、製造過程中の精製および製剤開発サンプルでは、溶液中に存在する目的のタンパク質が沈殿を形成することがよくあり、SEC カラムの寿命を大幅に縮めることがあります。ここでは BioResolve SEC mAb、200Å、2.5 µm ガードカラムの使用により、分析用の BioResolve SEC、2.5 µm、7.8 × 300 mm カラムを効果的に保護でき、分離に対する影響が最小限になることを実証します。さらに、懸濁するタンパク質沈殿を含むサンプルに対して、粒子径 1.7 µm のカラムに比べ、粒子径 2.5 µm のカラムの方が耐性が高いという予測を実証しました。

アプリケーションのメリット

  • 沈殿する可能性のあるタンパク質サンプルのハイスループットの SE-HPLC 分析が可能に
  • 沈殿したタンパク質の注入による分解能の低下に対する SE-HPLC カラムの耐性が UP-SEC に比べて高いことを実証

はじめに

タンパク質の自己集合型、または高分子種(HMWS)は、治療の安全性と有効性の両方に影響を与える可能性があるため、バイオ医薬品タンパク質の調合における重要品質特性(CQA)としてルーチンで評価されています1。 SEC は、信頼性が高くハイスループットな分析法であるため、タンパク質の自己集合を評価するための主要な分析法の一つであり続けています2。 ただし、SEC 測定の正確さを、分析用超遠心機(AUC)などの相補的な分析法を用いて確認することが重要です3。 なお、特にモノクローナル抗体ベースの医薬品については、SEC によるタンパク質フラグメントレベルまたは低分子種(LMWS)の測定が増加しています4。 サンプルスループットの向上が一層要求されているため、さらに効率的で粒子径の小さい(2 µm 未満)超高性能 SEC(UP-SEC)カラムの使用が必要になっています。また、UP-SEC カラムは 4.6 mm のより小さな内径のカラムであり、粒子径がより大きい内径 7.8 mm の高性能 SEC カラム(SE-HPLC)と較べて、はるかに低拡散の LC システムが必要です5

LC システムの拡散に対する耐性が低いことに加えて、UP-SEC カラムは、最適な分離能を維持するために、より高性能のガードカラムを必要とします。結果として、UP-SEC には高効率のガードカラムが必要となります。以前に発表されたアプリケーションノートでは、モノクローナル抗体の分離において、粒子径 2.5 µm、内径 7.8 mm の SE-HPLC カラムを使用して、分析時間は多少長くなるものの、UP-SEC カラムと同等の分離が得られることが示されています6。 内径 7.8 mm の SE-HPLC カラムは、拡散が起こりやすい LC システムで効果的に使用できるのと同じ理由により、SE-HPLC ガードカラムの性能に対する要求はそれほど高くありません。さらに、HP-SEC カラムは粒子径が大きいため、予測通り、粒子径 1.7 µm のカラムと比べて、懸濁したタンパク質沈殿物を含むサンプルに対する許容性が高いことも分かりました。これらの特性は、試験を行うタンパク質サンプルの微粒子の濃度が不確かな場合には必ず考慮に入れる必要があります。

結果および考察

BioResolve SEC mA、200Å、2.5 µm ガードカラム(製品番号:186009443)を用いて、7.8 × 300 mm BioResolve SEC mAb カラム(製品番号:186009441)を、懸濁したタンパク質沈殿物の注入から保護する効果について評価しました。さらに、沈殿したタンパク質の注入による影響の受けやすさを、BioResolve SEC mAb、2.5 µm ガードカラムと ACQUITY Protein BEH UPLC SEC、200Å、1.7 µm ガードカラム(製品番号:186005793)の間で比較しました。沈殿したタンパク質は、BEH200 SEC タンパク質標準試料混合液(製品番号:186006518、500 µL の水に再溶解)を、オービタルシェーカーを用いて 800 RPM で、80℃ で 30 分間振とうストレスを与えることで作製しました。2 mg/mL 液剤として提供されている使用期限切れのアービタックス(セツキシマブ)のサンプルを使用して、分離性能を評価しました。

BioResolve SEC mAb ガードカラムがセツキシマブの分離に与える影響を評価しました(図 1)。実験の詳細は図 1 の説明文に記載しています。予測通りの保持時間の増加が認められ、分離の質の変化がごくわずかであることを確認しました。ガードカラムを取り付けていない場合に比べ、取り付けた場合の HMWS1 の分離度(USP)は同等で、LMWS1 のピークバレー比(P/V)のわずかな低下が認められました。LMWS1 の濃度が 0.5% であることを考えると、P/V の少しの低下は、拡散効果による低濃度のテーリング範囲の増加の結果である可能性があります7

図 1. 粒子径 2.5 µm の 7.8 x 300 mm BEH SEC カラムに、BioResolve SEC mAB ガードカラムを装着した場合(青色)、およびガードカラムを装着していない場合(黒色)の、2 mg/mL セツキシマブのサンプル(注入量 14 µL)の SEC 分離の重ね描き。HMWS1 の分離度(Rs)と LMWS1の P/V およびピーク面積 % を示しています。流速は 0.575 mL/分、移動相は 50 mM リン酸ナトリウム、200 mM KCl(pH 7.0)でした。Empower 3 を使用し、H-Class Bio UPLC で分析を行いました。

次に、ガードカラムを装着したカラムで、振とうストレスを与えたタンパク質標準試料の一連の注入(14 µL)を実施し、注入 20 回ごとにセツキシマブの分離を評価しました(図 2)。振とうストレスを与えたタンパク質標準試料の 40 回の注入にわたって、HMWS1 の分離能は一定の割合で低下しました。さらに、HMWS1 および HMWS2 のクロマトグラフィープロファイルに若干の変化が見られました。これらの試験全体を通して HMWS2 および HMWS1 のピーク面積 % に変化が見られましたが、その理由は主にこれらの自己集合型の濃度が高く、不安定であることによるものです。HMWS2 および HMWS1 が高濃度であるのは凍結融解を繰り返した結果であり、そのような製品の医療における使用は推奨されません。そのため、これらの値の報告はありません。

図 2. 分析用 SEC カラムと BioResolve ガードカラムを用いたセツキシマブの SEC 分離結果。実験開始時(黒)と、振とうストレスを与えた SEC タンパク質標準試料 14 µL を 20 回(紫)および 40 回(緑)注入した後の結果を示しています。その他の実験条件は図 1 の説明文に記載しています。

LMWS1 の P/V の低下も見られ、より顕著なこととして、LMWS1 のピーク面積が 60% 増加しました。これはおそらくモノマーピークの低濃度テーリングが増加した結果と考えられます。LMWS1 の濃度が mAb ベースの医薬品の CQA と見なされる可能性があるため、これに注意する必要があります。

次に汚れたガードカラムを交換し、セツキシマブの分離を再評価しました(図 3)。示したように、クロマトグラフィー性能が大幅に向上しました。HMWS1 の分離度と LMWS1 の P/V は、実験開始時のレベルまで完全には回復しませんでしたが、以前の性能のほとんどは回復し、LMWS1 のピーク面積 % の顕著な増加は元に戻りました。これらのデータから、BioResolve SEC mAb ガードカラムにより、沈殿したタンパク質を含むサンプルの分析において、分析カラムの寿命が効果的に延びることが示されました。

図 3. 分析用 SEC カラムと BioResolve ガードカラムを用いたセツキシマブの SEC 分離結果。実験開始時(黒)と、振とうストレスを与えた SEC タンパク質標準試料を 40 回注入した後、ガードカラムを交換して得られた結果を示しています。その他の実験条件は図 1 の説明文に記載しています。

最後の試験として、同じ粒子径 2.5 µm、7.8 × 300 mm の分析カラムを使用し、BioResolve SEC mAb、2.5 µm、4.6 × 30 mm ガードカラムへの吸着速度を、同じサイズの ACQUITY UPLC Protein BEH SEC、1.7 µm ガードカラムへの吸着速度と比較しました。この試験では、振とうストレスを与えたタンパク質標準試料の少量注入(5 µL)を粒子径 1.7 µm のガードカラム(内径 4.6 mm の分析カラム用であるため)で行い、10 回の注入ごとにセツキシマブの分離を評価しました(図 4)。初期性能の低下速度は、HMWS1 の分離についてはあまり変わらないものの、LMWS1 の P/V については、沈殿したタンパク質サンプルの最初の 20 回の注入後に大きく低下しているようでした。2 つのガードカラムの内径と長さが同じであること、注入量は粒子径 2.5 µm の方がおよそ 3 倍多いことを考慮に入れると、これらの結果は、粒子径 2.5 µm の SEC カラムは、粒子径 1.7 µm の SEC カラムに比べて、沈殿したタンパク質の吸着が大幅に少ない傾向にあることを示しています。これは予想通りです。なぜなら、粒子径が大きいほどこれらの粒子のろ過効果が少ないためです。また、吸着したガードカラムがこれらの分離に与える影響は、内径 4.6 mm の分析カラムの方が内径 7.8 mm の分析カラムより大きいと予測されます。これは後者の方が生成するピーク容量が大きいためです。

図 4. 分析用 SEC カラムと ACQUITY SEC 200 Å ガードカラムを用いたセツキシマブの SEC 分離結果。実験開始時(黒)と、振とうストレスを与えた SEC タンパク質標準試料 5 µL を 10 回(紫)および 20 回(緑)注入した後の結果を示しています。その他の実験条件は図 1 の説明文に記載しています。
図 5. BioResolve ガードカラムまたは ACQUITY SEC 200Å ガードカラムを装着した分析用の SEC カラムによるセツキシマブの SEC 分離における、HMWS1 の分離および LMWS の P/V の傾向の比較。データは図 2 および 4 に示したクロマトグラム由来のものです。

結論

これらの結果は、BioResolve SEC mAb ガードカラム(製品番号:186009443)で BioResolve SEC mAb カラムを保護することは、様々なレベルの沈殿タンパク質が含まれている可能性のあるプロセス開発サンプル中の HMWS および LMWS の両方を分析する際に有用であることを示しています。 

また、1.7 µm の粒子を充塡した UP-SEC カラムと比較して、粒子径 2.5 µm の HP-SEC カラムでは、沈殿したタンパク質を注入した際の性能低下に対する耐性が大幅に高いことが示されました。

最後に、ガードカラムの使用は有用である可能性があるものの、ろ過あるいは、より好ましくは遠心分離によって微粒子を除去することで、潜在する分析種分化を最小限に抑えるサンプルの前処理も可能な限り考慮する必要があります。

参考文献

  1. Roberts, C. J. Therapeutic Protein Aggregation: Mechanisms, Design, and Control.Trends in Biotechnology 2014, 32 (7), 372-380.
  2. Hong, P.; Koza, S.; Bouvier, E. S. Size-Exclusion Chromatography for the Analysis of Protein Biotherapeutics and their Aggregates.J. Liq.Chromatogr.Relat.Technol.2012, 35 (20), 2923-2950.
  3. Philo, J. S. Is Any Measurement Method Optimal for All Aggregate Sizes and Types? The AAPS Journal 2006, 8 (3), E564-E571.
  4. Mou, X.; Yang, X.; Li, H.; Pollard, D. J. A High Throughput Ultra Performance Size Exclusion Chromatography Assay for the Analysis of Aggregates and Fragments of Monoclonal Antibodies.Pharmaceutical Bioprocessing 2014, 2 (2), 141-156.
  5. Koza, S. M.; Reed, C.; Chen, W. Impact of LC System Dispersion on the Size-Exclusion Chromatography Analysis of Monoclonal IgG Antibody Aggregates and Fragments: Selecting the Optimal Column Configuration for Your Method.Waters Application Note, 720006336EN, 2018.
  6. Koza, S. M.; Reed, C., Chen W., Impact of LC System Dispersion on the Size-Exclusion Chromatography Analysis of Monoclonal IgG Antibody Aggregates and Fragments: Selecting the Optimal Column for Your Method.Waters Application Note, 720006336EN, 2019.
  7. Koza, S. M.; Reed, C.; Chen, W. Evaluating the Impact of LC System Dispersion on the Size-Exclusion Chromatography Analysis of Proteins.Waters Application Note, 720006337EN, 2019.

謝辞

本研究で用いた移動相およびカラムをご提供いただいた Lavelay Kizekai 氏および Steve Shiner 氏、ならびに本原稿をレビューしていただいた Bill Warren および Pam Iraneta 氏に感謝いたします。

720006955JA、2020 年 8 月

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