Waters BioResolve SEC mAb、200 Å、2.5 µm、7.8 × 300 mm カラムと、粒子径 3 µm 以下で 7.8 × 300 mm の 3 種の市販 SEC カラムで、モノクローナル抗体医薬品であるセツキシマブの凝集体(HMWS)、モノマーおよびフラグメント(LMWS)の分離における性能を比較しました。同じ SEC カラム、または粒子表面ケミストリーが類似しているが粒子またはカラムのサイズが異なると推測されるカラムについて、セツキシマブの分離用に各カラムメーカーが以前に報告している移動相を用いて、比較を行いました。BioResolve SEC mAb カラムは最高の効率(USP 理論段数)を示し、試験したカラムの中でも最も低い USP テーリング値の 1 つを示していました。試験したカラムの間では、モノマーと二量体の HMWS の間で同等の分離能が観察されましたが、ポアサイズが大きいカラム 2 種の方が、多量体とダイマー HMWS の分離がややより良好でした。最後に、BioResolve SEC mAb カラムではモノクローナル抗体モノマー(150 kDa)と LMWS(50 kDa および 100 kDa)の間の分離がより優れていました。
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、タンパク質凝集体(高分子種、HMWS)のルーチン評価において最適な方法で、タンパク質フラグメント(低分子種、LMWS)の非変性分析にも用いられています1。 多くのモノクローナル抗体バイオ医薬品における LMWS は IgG ヒンジ領域でのタンパク質切断の結果であり、Fab-Fc LMWS(LMWS1、約 100 kDa)および Fab、Fc ドメイン(LMWS2、約 50 kDa)が生じます2。
複数の HPLC SEC(HP-SEC)カラムシリーズや低い線速度を使用して、LMWS1 をモノクローナル抗体モノマーから高い信頼性で分離するために必要な効率が得られますが、このような分離には通常、妥当な分析スループットが得られるように、粒子径 2 µm 以下の効率の高い UPLC-SEC(UP-SEC)カラムが使用されています3。粒子径 2 µm 以下の SEC カラムでは、HMWS の分析において最高のサンプルスループットが得られますが、このようなカラムは通常、内径 4.6 mm で製造されているため、LMWS1 の分析に用いる場合、一貫性のある分離と再現性の高い LMWS1 の相対ピーク面積を得るためには、非常に低く、十分に制御された拡散ボリュームを持つ UPLC システムを使用する必要があります3,4。
結果として、UPLC-SEC カラム間の性能のギャップを効果的に埋めるために、内径 7.8 mm の大型のカラムハードウェアにポアサイズ 200 Å の 2.5 µm BEH 粒子を充塡した HP-SEC カラム(XBridge Protein BEH SEC、200 Å、2.5 µm カラム、製品番号:186009164)が開発されました。このカラムにより、より頑健で簡単に移管できる分析が得られ、使用する LC システムでのカラム外拡散の影響を受けにくく、分析時間の増加が 50% 未満で済みます5。 この汎用カラムをカラム充塡剤の面で再び最適化し、IgG モノクローナル抗体モノマーおよび LMWS1 の分離を特に改善することで、BioResolve SEC mAb、200 Å、2.5 µm、7.8 × 300 mm カラム(製品番号:186009441)が作られました。
本研究の目的は、市販の 3 種の SEC カラム(粒子径 3 µm 以下、7.8 × 300 mm)と比較した BioResolve SEC mAb、7.8 × 300 mm カラムの性能を実証することです。基本的な性能として、モノクローナル抗体の HMWS および LMWS についての効率とピーク形状および分離能を比較しました。異なるベンダーの SEC カラムの比較ではほとんど、ベンダーが自社カラム用に最適化した同一の移動相を使用して、他社製カラムの評価を行っています。このアプローチによる偏りを避けるために、当社では、複数のカラムベンダーが詳細(移動相の組成など)を公開しているそれぞれの SEC 分離法を用いて、治療用モノクローナル抗体(セツキシマブ)を同定しました。その際、この試験でテストしたものと同一のカラムか、粒子サイズまたはカラムハードウェアのいずれかが変更された SEC パーティクルケミストリーを持つと思われるカラムを使用しました。
Waters BEH200 SEC タンパク質標準試料混合液(製品番号:186006518)を使用して、BioResolve SEC mAb、200 Å、2.5 µm、7.8 × 300 mm カラムと 3 種の市販 SEC、粒子径 3 µm 以下、7.8 × 300 mm カラムとを比較しました。図 1 には、それぞれのクロマトグラムの視覚的な比較と、各カラムで使用した分離条件を示します。チログロブリン多量体(T3)およびウラシル(U)の溶出ボリュームの差に基づき、4 種のカラムすべてで、同等のポアボリュームが観察されました(10% の範囲内、データは示さず)。一方、個別のタンパク質標準試料の相対溶出ボリュームにはばらつきが見られました。類似性が最も高かったのは BioResolve カラムとカラム Y で、カラム X とカラム Z での分離も比較的に類似していました。このような差異は、主に充塡された粒子の平均ポアサイズに関連しており、これはチログロブリンモノマー(T1)とチログロブリンの HMWS(T2 および T3)の分離で最も明確に観察されました。これらは、ポアサイズが大きいカラム X とカラム Z で更によく分離されました。逆に、IgG(I)と BSA(B)は、ポアサイズが小さい BioResolve カラムとカラム Y での分離がより良好でした。この後、ポアサイズの差がモノクローナル抗体の分離に与える影響を確認していきます。
SEC カラムの相対的な性能を測定するための方法として、タンジェント USP 法理論段数(N)法を使用して、ウラシル(U)(完全に含まれている SEC マーカー)について分離効率を比較しました。試験を行った SEC カラムの中でも、BioResolve カラムの粒子が最も小さいことからも予測されたように、測定された理論段数については BioResolve カラムが最も高くなりました。理論段高さ(H = L/N、L はカラム長さ)を粒子径について標準化すると(低い理論段高さ、h = H/dp、dp は粒子径)、カラム X (h = 2.81)およびカラム Y (h = 3.04)が BioResolve カラム(h = 2.87)に近くなり、カラム X とカラム Y も充塡効率が高いことが示されました。
次に、USP テーリングを検討し、カラム充塡剤の品質を測定しました。USP テーリングの値が 1.0 に近付くにつれて、ピークが左右対称に近くなりました。USP テーリングは、ピーク高さ 5% でのピークの対称性を示す尺度です。ここで、BioResolve カラムとカラム Y ではほぼ左右対称のピークが得られるのに対し、カラム X とカラム Z ではテーリングがやや大きいピークになりました。タンパク質の SEC 分離において、わずかなテーリングが見られるカラムでは、HMWS およびモノマーの分離が改善されますが、LMWS の分離は劣化していました。また、左右対称のピークが見られるカラムでは、HMWS および LWMS の両方でより一貫性の高い分離が得られました。
セツキシマブのクロマトグラム表示(フルスケールおよび拡張表示)を図 2 および図 3 に示します。フルスケールのクロマトグラムでは、保持時間について、タンパク質標準試料の場合とほぼ同様の傾向(4 種のカラムすべてで、モノクローナル抗体モノマーについてシャープで左右対称のピーク形状)が見られます。拡張表示(図 3)を見ると、クロマトグラフィープロファイルでベースラインが、BioResolve カラムおよびカラム Y では LMWS2 の溶出前の元のレベルに戻り、カラム X およびカラム Z では LMWS2 のすぐ後のレベルに戻り、適切な挙動が示されています。このことは、各カラムで使用した移動相が妥当であったことを示しています。
HMWS1 およびモノマーの分離は、4 種のカラムで同等でした。HMWS1 の USP 半値幅の分離能が BioResolve カラムでは 26~50% 高かったですが、この値は、ポアサイズが大きなカラムでの 2 番目の HMWS1 サイズバリアントの分離向上と矛盾しています。また、カラム X およびカラム Z では、多量体の HMWS2 形式の分離が向上していることがわかりました。これは、SEC タンパク質標準試料内のチログロブリンで観察された結果と一致しています。HMWS1 と HMWS2 の相対量にばらつきが見られました。これは、複数回におよぶ凍結融解サイクルにより、サンプルが不安定になった結果と考えられます。凍結融解サイクルは、液体剤型の医薬品には推奨されません。HMWS1 と HMWS2 の相対量を示していますが(図 3)、今回の比較では重視されていません。
50 kDa の LMWS2 フラグメントの分離を考慮すると、4 種のカラムすべてでこの分離が得られると考えられます。このフラグメントのピーク面積割合は極めて低く(~0.1%)、その結果、220 nm でのUV 吸光度モニタリングにおけるシグナル対ノイズ比が向上しました。BioResolve カラムとカラム Y では、LMWS2 のベースライン分離が得られ、ピーク面積割合(0.11%)が同一でした。カラム X とカラム Y では、モノマーのピークのテーリングが低レベルで、その結果、分離が部分的となり、波形解析後の HMWS2 ピーク面積割合が人為的に高くなっています。
モノマーと LMWS1 の分離において、BioResolve カラムおよびカラム Y でのみ谷が認められました。LMWS1 におけるピークバレー比(P/V)で測定したこの分離は、BioResolve SEC mAb カラムでは P/V 4.98 と、カラム Y の 1.24 と比べてはるかに高くなりました。これは、BioResolve カラムの、ポアサイズの最適化、理論段数の増加、低レベルのテーリングの減少などの結果であると考えられます。カラム Y でほとんど分離が見られなかったことも、LMWS1 のピーク面積割合(0.81%)の人為的増加(BioResolve カラム(0.48%)と比較)につながります。LMWS1 の量が減少するにつれて、カラムまたは LC システムが原因で発生する主要なモノマーのピークにおける低レベルのテーリングにより、モノマーからの分離および信頼性の高い定量が困難になります。この試験では評価していませんが、試験を行った SEC カラム 4 種すべてで、モノマーからの LMWS1 の分離が部分的でした。その結果、サンプル中の LMSW1 の相対量が高い場合に、信頼性の高い定量が行える可能性があります。あるいは、これらのカラムのカラム長を長くするか流速を下げることにより、分離効率を向上させる必要があると考えられます。
現在、粒子径 3 µm 以下でカラムサイズが 7.8 × 300 mm の市販の SEC カラムで、モノクローナル抗体サンプル中の製品関連の HMWS および LMWS 不純物の分析に使用できるカラムが複数あります。このような最新の粒子径 3 µm 以下の SEC カラムにより、5~8 µm の粒子が充塡された前の世代の SEC カラムと比較すると、非常に優れた分離効率が得られます。また、粒子径 2 µm 以下の内径 4.6 mm の SEC カラムでは、HMWS および LMWS の分離で最大のサンプルスループットが実現できますが、LMWS1 の再現性の高い分析は、超低拡散 UHPLC および UPLC システムでのみ実現可能です。それに対して、最適化した最新の内径 7.8 mm、粒子径 3 µm 以下の SEC カラムは、幅広い HPLC システムプラットホームで効率良く使用でき、サンプルスループットの減少は 33% 以内でした。
Waters BioResolve SEC mAb、200 Å、2.5 µm、7.8 × 300 mm カラムにより、モノクローナル抗体 HMWS1(二量体)およびモノマーについて、市販の適切に評価された SEC カラムと同等の分離が得られます。評価した SEC カラムすべてにおいて、モノクローナル抗体の HMWS1 および HMWS2(多量体)の間の十分な分離が高い信頼性で実現しました。BioResolve SEC mAb カラムおよび SEC カラム Y は平均ポアサイズが小さいことから、(平均ポアサイズが大きい)カラム X およびカラム Z と比較して分離が悪くなりました。
フラグメント分析において、平均ポアサイズがより小さい BioResolve カラムおよびカラム Y では、LMWS2(50 kDa)の同等のベースライン分離が実現し、LMWS1 (100 kDa)およびモノクローナル抗体モノマーの間に見分けられる谷が生じました。BioResolve カラムでは、LMWS1 の優れた分離が得られ、カラム Y の P/V が 1.24 であるのに対し、平均 P/V が 4.98 でした。カラム Y における LMWS1、およびカラム X とカラム Z における LMWS2 の分離が低下したことで、BioResolve カラムで観察された値と比較して、不純物の波形解析された相対面積が人為的に高くなりました。
BioResolve SEC mAb、200 Å、2.5 µm、7.8 × 300 mm カラムの高効率とピーク形状の対称性により、HPLC、UHPLC、および UPLC プラットホームで、モノクローナル抗体ベースの医薬品やこれと同等のサイズのタンパク質について、高分離能での HMWS および LMWS 分離が実現できます。
この研究における Pamela Iraneta、Steve Shiner、William Warren 各氏のご協力に感謝いたします。
720006985JA、2020 年 8 月