現在の新型コロナウイルスのパンデミックの結果として、多数の低分子薬物が、新型コロナウイルスの潜在的な治療薬として再調査されています。クロロキンは、その誘導体であるヒドロキシクロロキンと同様、長年にわたって抗マラリア薬として処方されている低分子薬物で、現在注目を浴びています。最前線の医療従事者の SARS-CoV-2 感染をクロロキンによって予防または重症度を軽減できる可能性について調べるため、世界的な大規模の臨床試験の計画が立てられつつあります1。治療薬開発における特性解析を支援するため、このアプリケーションブリーフでは、リン酸クロロキンの分析のための、最新の MS に適合した分析法を提供しています。質量分析法(MS)により、製造プロセスまたはルーチン検査で生じる新しい成分や未知の成分を正確に同定することができます。現在の USP モノグラフ分析法と比較すると、新しい分析法では分離能が高く、テーリングが少なく、分析時間が短縮されます。
クロロキン(CQ)およびその誘導体であるヒドロキシクロロキンは、長年にわたってマラリアの化学的予防法として処方されており、最近では慢性自己免疫疾患の治療の補助として処方されています2。 興味深いことに、in vitro 研究により、この医薬品の有効成分が SARS-CoV-2 の感染を阻害する可能性が示されています3。 CQ は、ACE2 の阻害により、ウイルス感染を防げると考えられてます3。 in vitro 研究および提案された作用機序の結果として、COVID-19 Research Outcomes Worldwide Network(新型コロナウイルス研究成果グローバルネットワーク、CROWN)は、世界各地の最前線の医療従事者への新型コロナウイルス感染に対するクロロキンの有効性試験の準備を行っています1。
このアプリケーションブリーフでは、USP のシステム適合性の要件を満たしつつ、MS 適合バッファーを使用したリン酸クロロキン錠の最新の改良分析法について紹介しています。
リン酸クロロキン錠における最新の MS 適合および現在の USP 分析法の条件を表 1 にまとめています。
新しい分析法を使用してシステム適合性溶液を分析した結果、現在の USP 分析法と比較して、クロロキンとアモジアキンのピークがよりよく分離することがわかりました(図 2)。更に、USP 分析法(7 分)と比較して、改良した分析法では分析時間が短縮されました(3 分)。ACQUITY QDa 検出器からのマススペクトルデータにより、質量検出による迅速で正確なピーク同定が可能になりました(図 3)。
システム適合性溶液を 5 回繰り返し注入し、リン酸クロロキン錠の USP モノグラフの要件に対して最新の MS 適合の分析法の性能を評価しました4。 結果から、最新の MS 適合の分析法のシステム適合性が USP 基準を満たしていることが示されました(表 2)。最新の MS 対応条件で分析すると、USP 分析法と比較して、クロロキンとアモジアキンの間の分離が大幅に向上しました。システム適合性溶液の 5 回の繰り返し注入におけるピーク面積および保持時間の相対標準偏差は、0.4% 以下でした。更に、最新の MS 対応の分析法では、クロロキンについて USP テーリングのわずかな改善が見られ、アモジアキンについては同様の USP テーリングが得られました。
このアプリケーションブリーフでは、リン酸クロロキン錠の MS 適合の分析法を提供しています。この分析法では、MS 分析を可能にすることで、クロロキンの特性解析および開発に使用できる分析ツールキットが拡張されます。MS 分析により、個別の標準試料を用いずに、化合物の定性的同定が可能になります。更に、現在の USP モノグラフの分析法と比較して、この最新の MS 適合の分析法により、分析時間が短縮され、分離が改善し、ピークのテーリングが少なくなることが分かりました。新型コロナウイルスの治療薬候補としてクロロキンの調査が進む中で、一刻を争う医薬品開発およびそれに続く製造プロセスにおいて、時間の短縮は重要になると考えられます。更に、堅牢な分析性能により、新型コロナウイルスのアウトブレイクの中で非常に重要な開発および品質管理環境における信頼性の向上が期待されます。
720006918JA、2020 年 5 月