現在の新型コロナウイルスのパンデミックを契機に、リバビリンおよびその類縁物質の分離法を、ACQUITY UPLC BEH Amide カラムを用いた親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)を使用して開発しました。これらの化合物の分離は、USP モノグラフに概説されている特定の条件での逆相クロマトグラフィーで達成できますが、HILIC もこれらの極性分析化合物の保持に適しています。HILIC を使用するメリットには、MS の高感度、SPE などのサンプル前処理技術との適合性が優れていることなどがあります1,2。
リバビリンは、C 型肝炎、ヒト RS ウイルス、一部のウイルス性出血熱などの感染症の治療用に処方される抗ウイルスプロドラッグです。さらに、新型コロナウイルスのパンデミックが原因で、リバビリンと他の抗ウイルス薬物の併用に関する臨床試験が開始されました。そのような試験の一つによると、リバビリンを含む併用療法によって、SARS-CoV-2 ウイルスの排出時間が短縮されると報告されています3。 新型コロナウイルス感染症の治療法としてのリバビリンの臨床結果にかかわらず、リバビリンの作用メカニズムおよび治療経過を理解するために、細胞内でのリバビリン分析は重要です。ウリジンのような内在性化合物によってリバビリンの分析が妨げられることがあります。その理由は、これら 2 つの化合物は構造的に類似し、同重体であるからです。つまり、リバビリンを定量する場合は、これらの化合物をクロマトグラフィーで分離する必要があります。本アプリケーションノートでは、リバビリンおよびその類縁物質の HILIC を使用した分離法を紹介します。
サンプルについて:標準物質を Sigma Aldrich から購入しました。原液は、1 mg/mL のアセトニトリル:水(50:50)溶液として作成しました。原液を合わせて、最終組成がアセトニトリル:水(90:10)になるように希釈しました。混合液中のリバビリン、ウリジン、およびリバビリン類縁物質 A の濃度は 100 μg/mL でした。ウラシルの濃度は 30 μg/mL、リバビリン類縁物質 D の濃度は 10 μg/mL でした。
LC 条件 |
|
---|---|
LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class(CHA、PDA 搭載) |
検出: |
UV @ 230 nm |
バイアル: |
TruView LCMS 品質証明マキシマムリカバリーバイアル |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH Amide、2.1 × 50 mm、1.7 µm |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
15 ℃ |
注入量: |
2 µL |
流量: |
0.5 mL/分 |
移動相 A: |
水 |
移動相 B: |
アセトニトリル |
移動相 D: |
100 mM 重炭酸アンモニウム、pH 10.0 |
時間(分) |
流量(mL/分) |
%A |
%B |
%D |
カーブ |
---|---|---|---|---|---|
0.00 |
0.5 |
5 |
90 |
5 |
6 |
1.50 |
0.5 |
5 |
90 |
5 |
6 |
3.00 |
0.5 |
25 |
70 |
5 |
6 |
4.00 |
0.5 |
25 |
70 |
5 |
6 |
4.01 |
0.5 |
5 |
90 |
5 |
6 |
6.00 |
0.5 |
5 |
90 |
5 |
6 |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 Feature Release 4 |
MS ソフトウェア: |
N/A |
インフォマティクス: |
N/A |
リバビリンおよびその類縁物質の分析は困難な課題です。その理由は、これらの分析化合物がすべて親水性で、従来の逆相カラムに保持されにくいからです。図 1 に示すように、これらの化合物の cLogD 値(pH 10)は -1.5 未満であり、水への溶解度が非常に高いことがわかります4。 リバビリンおよび類縁物質は逆相クロマトグラフィーを使用して分離されてきましたが、HILIC の方がこれらの高極性分析化合物の保持により適しています。HILIC では、分析化合物は、分配やイオン性相互作用などのさまざまな様式で固定相と相互作用します5-7。 このことから、このような相互作用を調整することにより、保持能、分離能、ピーク形状を最適化することができます
血漿などの生物学的マトリックス中のリバビリンを定量する場合はさらなる課題が生じます。内在性化合物であるウリジンは、リバビリンの同重体であり、質量に基づくリバビリンの同定の妨げになります。リバビリンを正確に定量するには、ウリジンから完全に分離し、保持時間によるリバビリンの同定ができるようにする必要があります。一部の分析法開発事例では、最終サンプルでウリジンが検出されない場合でも、確実にリバビリンから分離するために、ウリジンも含まれています8。 両化合物には複素環構造と結合したリボース基が含まれており、そのためにこれらが類似の化学的性質を持ち、固定相との類似の相互作用をします。
これらの化合物の分析のために BEH Amide カラムを選択しました。この固定相は、高 pH の移動相に対して抵抗性のハイブリッド粒子がベースになっており、非修飾のハイブリッド粒子やシリカ粒子より強力な保持能が得られる中性リガンド構造です。図 2 に、230 nm での UV 検出によるこの化合物の分離を示しています。
分析化合物のベースライン分離は、分析時間 6 分間で達成できました。化合物 3 および 4(それぞれウリジンおよびリバビリン)は、USP 分離度 3.58 の良好な分離を示しています。これらの化合物について、ピークの対称性が良くピーク幅も狭く、ピークの正確な波形解析および高信頼度の定量が可能でした。リバビリン類縁物質 A は他の化合物よりかなり長く保持されることに注意が必要です。cLogD 値を調べると、この化合物は、これらの化合物の中で最も親水性が高く、分配メカニズムによる保持が最大であると予測されます。主要な保持メカニズムを理解することにより、必要に応じてより良好な分析法の最適化および開発が可能になります。
ACQUITY UPLC BEH Amide カラムを搭載した HILIC を使用した分析法により、リバビリンおよび類縁物質の迅速な分離ができることが実証されました。リバビリンとウリジンの優れた分離が達成できました。このことは、ウリジンがリバビリンの同重体であることから、LC-MS を使用したリバビリンの定量にきわめて重要です。この分析法は、リバビリンの純度判定や治療薬物モニタリングなどの広範なアプリケーションに有用である可能性があります。新型コロナウイルスのパンデミックによってリバビリン分析の進歩に対するニーズがさらに増大しましたが、新型コロナウイルス感染症の治療法としてのリバビリンの臨床結果にかかわらず、リバビリン分析でのクロマトグラフィー分析法の改良は依然として有用です。
720006957JA、2020 年 7 月