• アプリケーションノート

COVID-19 を理解する:LC-MS に基づく SARS-CoV-2 検出のためのマルチプルリアクションモニタリングのトランジション選択および最適化戦略

COVID-19 を理解する:LC-MS に基づく SARS-CoV-2 検出のためのマルチプルリアクションモニタリングのトランジション選択および最適化戦略

  • Laurence Van Oudenhove
  • Nikunj Tanna
  • Jan Claereboudt
  • Hans Vissers
  • Bart Van Puyvelde
  • Simon Daled
  • Dieter Deforce
  • Katleen Van Uytfanghe
  • Maarten Dhaenens

研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。

要約

新型コロナウイルスのパンデミックにより、タンパク質の特性解析、同定、定量を行うための質量分析に基づく分析法の開発が進められています。これらの分析法は、SARS-CoV-2 の相互作用のメカニズムと構造生物学的な理解を深めることや、関連するマーカーを検出するための補足的手法として用いることを目的としています。タンパク質分解後のウイルスペプチドの体液内での検出によるターゲット質量分析法が、SARS-CoV-2 検出法の 1 つとして提案されています1。 ここで紹介する研究では、Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計を用いた、ペプチドのマルチプルリアクションモニタリングの選択と最適化の自動化における MassLynx Skyline インターフェースの使用を説明しています。

アプリケーションのメリット

  • MRM トランジションの生成および最適化の自動化
  • SARS-CoV-2 タンパク質の検出および定量のためのサロゲートペプチドの検出

はじめに

COVID-19 は、SARS-CoV-2 ウイルスにより引き起こされた世界中で現在進行中のパンデミックです。現在使用されている標準的なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)診断検査の限界および関連試薬の不足を乗り越えるための取り組みにより、新しい診断法の探求が進められています2,3。SARS-CoV-2 ウイルスには通常、タンパク質が多く含まれており、スパイク糖タンパク質(SPIKE)および核タンパク質(NCAP)がタンパク質部分の大半を占めています。SPIKE は、感染初期段階で、ヒトのアンジオテンシン変換酵素 2 を認識します。NCAP はウイルス粒子の構造的構成要素であり、ゲノムの複製および転写に関与しています4。 そのため、ターゲット LC-MS 分析法による SARS-CoV-2 タンパク質の検出および定量が、新型コロナウイルスウイルス量の代替の測定法になると考えられています。その結果、コミュニティベースの取り組みの一環として、LC-MS 分析法の開発が現在進められ、「汎用可能なコロナマルチプルリアクションモニタリング分析」の開発が待たれています5。 ここでは、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)トランジションなど、SARS-CoV-2 のタンパク質の検出および定量を行うために、サロゲートペプチドを選択および同定するための複数の補完的アプローチを適用しました。

実験方法

組換え SARS-CoV-2 SPIKE タンパク質および NCAP タンパク質の組み合わせ消化手順で得られるトリプシン Lys C ペプチドは、それぞれ個別の標準試料または汎用輸送培地(Universal Transport Medium、UTM)マトリックスにスパイクした状態で、Cov-MS から凍結乾燥の形で入手しました5。 得られたペプチドを、Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計に接続した ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムを使用して MRM モードで分析しました。定量データの解析は、TargetLynx および Skyline で行いました6

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-Class PLUS

バイアル:

MaxPeak HPS を採用した QuanRecovery バイアル

カラム:

ACQUITY PREMIER Peptide BEH C18 300 Å、2.1 mm × 50 mm、1.7 µm

カラム温度:

40 ℃

サンプル温度:

10 ℃

サンプル注入量:

5 µL

流速:

0.6 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

MS 条件

MS システム:

Xevo TQ-XS

イオン化モード:

ESI +

測定モード:

MRM

キャピラリー電圧:

0.5 kV

コリジョンエネルギー:

ペプチド/トランジション最適化済み

コーン電圧:

35 V

グラジエント

時間(分)

%B 溶媒

0.0

5

5.5

33

5.6

85

7.0

85

7.1

5

8.0

5

データ管理

ソフトウェア

MassLynx

TargetLynx

MassLynx Skyline インターフェース

Skyline

結果および考察

元の Cov-MS 標準作業手順(SOP)で定義されている NCAP のアミノ酸配列およびカバー率を図 1 に示します。これらは、SPIKE タンパク質の一次アミノ酸配列と共に、MRM 選択および最適化プロセスの基礎となります。MassLynx Skyline インターフェース(MSI)のプロセスに従って、タンデム四重極 MRM 分析法の自動最適化および微調整7、並びに追加のシグネチャーペプチド候補の検出を行いました。要約すると、MSI では 4 段階の自動プロセスを実施し、ここでまず、ペプチドの保持時間を測定します。次に、既定の計算済み衝突誘起解離(CID)のフラグメンテーションエネルギーを用いて、全ペプチド中で最も感度の高いプリカーサー/プロダクトイオン対(MRM トランジション)を測定します。その後、個別のトランジションコリジョンエネルギーの最適化を行います。最後に、適切な取り込み範囲の MRM 分析法を作成します。図 2 の左側に示すように、Skyline のドキュメント内に適切なペプチドとトランジションの設定が指定されています。次に、図 2 の右側に示すように、MSI で、ドキュメントおよびその他の分析法のファイル(チューンページ、取り込みメソッド、LC グラジエント)が指定されています。

図 1. タンパク質構造
https://swissmodel.expasy.org/interactive/UfqxZJ/models/03)およびステップ四重極 DIA ベースのシーケンスカバー率(青色で強調 = DIA で同定)のマップ P0DTC9|NCAP_SARS2。
図 2. Master Skyline ドキュメントのトランジション設定(左)と Mass Skyline インターフェース(右)。

NCAP および SPIKE タンパク質は、in-silico で消化し、1 つの配列モチーフに特異的なミスクリーベージにより、ディスカバリーで同定されたペプチドについて MRM トランジション設定を最適化し、その他の関連ペプチドの同定を試みました。この最適化プロセスの段階で、ペプチドごとのトランジション数を 6 回に設定し、下流での取り込み実験および定量実験時のトランジション選択における柔軟性を保ちました。検出されたペプチドの概要を表 1 に記載しています。表 1 にまとめた結果は、(1) ディスカバリーべースのデータインディペンデント分析(DIA)法を用いて同定され、MRM を用いてバリデーションされた、元の Cov-MS SOP で指定されたペプチド、(2) MSI プロセスにより同定された SARS-CoV-2 ペプチド、(3) LC-MS のレスポンスおよびスータビリティー/特異性に基づく最終的な MRM 分析法で保持されたペプチド、について概説しています。

表 1. ディスカバリーメソッドおよび MSI により同定されたターゲットペプチド候補の Cov-MS MRM 分析法、並びに、『COVID-19 を理解する:マルチプルリアクションモニタリングに基づく SARS-CoV-2 分析のために LC-MS 検出のダイナミックレンジを最大化』(720006968JA)で実証された定量分析の結果のための最終的な MRM 分析法で保持されたペプチド。

正しい数のトランジション/フラグメントイオンを定量に用いることの重要性を示すために、NCAP ペプチドの 1 つの MRM クロマトグラムを図 3 に示します。上 2 つのクロマトグラムは、元の Cov-MS SOP で指定されている 2 番目に高いスパイクレベル(100 ng)について、それぞれのペプチドごとに最大で最も量が多い 2 つのトランジションを使用した MRM 取り込みを示しています。トランジション実験の数を最大にすることで、選択、取り込み後、最も干渉の少ない MRM トランジションの面で最高の柔軟性が得られますが、これはマトリックスおよび患者サンプルによって異なる可能性があります。一方、最も量が多い 2 つのトランジションを使用することで、最善のタンデム四重極のデューティーサイクルおよび最善のシグナル対ノイズ比と考えられる値が得られます。後者は、希釈シリーズの検出された 2 番目に低いスパイクレベル(10 ng)を示す、図 3 に示した下 2 つのクロマトグラムによって実証されています。これにより、ペプチドごとに最大数のトランジションを用いた場合に干渉が生じて検出が妨げられ、2 つの最も含有量が高く干渉のない MRM トランジション を使用する場合と比較して、最終的に達成可能な検出限界(LLOD)の面で性能が低いことがわかります。

図 3. トランジション数(横方向)とサンプルのスパイクレベル量(縦方向)の関数としての、UTM マトリックスにスパイクした P0DTC2|SPIKE_SARS2 からの SFIEDLLFNK の MRM クロマトグラム。

結論

MRM LC-MS ベースの分析法の高効率で正確な開発には、この臨床研究ブリーフで説明したように、専門的な知識、ディスカバリーベースの同定結果、あるいは公開リポジトリーで得られる情報に基づく、事前のペプチド選択規則を補完するための、信頼性が高い自動プロセスが必要となります。新型コロナウイルスに関連する課題に対処するために、MSI の一部として、使いやすい効率的な MRM 選択および最適化プロセスを適用しました。得られた結果を Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計に適用・試験することに成功しました。更に、得られた MRM 分析法は、その他の LC-MS システムに簡単に移管して MRM 分析法の更なる最適化を行い、SARS-CoV-2 タンパク質の検出に適用することができます。

参考文献

  1. BC Osburn, C Jenkins, SM Miller, BA Neely and, NN Bumpus In Silico Approach Toward the Identification of Unique Peptides from Viral Protein Infection: Application to COVID-19.https://doi.org/10.1101/2020.03.08.980383
  2. WHO Laboratory Testing for 2019 Novel Coronavirus (2019-nCoV) in Suspected Human Cases.Interim guidance.2020 Jan 17. https://www.who.int/publications-detail/laboratory-testing-for-2019-novel-coronavirus-in-suspected-human-cases-20200117
  3. N. Subbaraman.Coronavirus Tests: Researchers Chase New Diagnostics to Fight the Pandemic, Nature, 2020 Mar 23 .doi: 10.1038/d41586-020-00827-6.
  4. JM Parks, JC Smith.How to Discover Antiviral Drugs Quickly.N Engl J Med. 2020 Jun 4;382(23):2261-2264.doi: 10.1056/NEJMcibr2007042.
  5. M Dhaenens et al.http://genesis.ugent.be/uvpublicdata/Cov-MS_launch.mp4 and https://www.youtube.com/watch?v=-yV8WJAr1Lc&t=2724s
  6. B MacLean, DM Tomazela, N Shulman, M Chambers, GL Finney, B Frewen, R Kern, DL Tabb, DC Liebler, MJ MacCoss.Bioinformatics, Skyline: An Open Source Document Editor for Creating and Analyzing Targeted Proteomics Experiments.2010 Apr 1;26(7):966-8.
  7. N Tanna, C Dunning, B Molloy.MassLynx-Skyline Interface (MSI): A New Automated Tool to Streamline MRM Method Development and Optimization for Large Molecule Quantification (720006813EN).

謝辞

SARS-Cov-2 MRM メソッドを設計するためのコミュニティベースの取り組みの一環として、評価キットをご提供いただいた Cov-MS コンソーシアムの皆様に対して、感謝を申し上げます。

Laurence Van Oudenhove, Nikunj Tanna, Jan Claereboudt and Hans Vissers (Waters Corporation); Bart Van Puyvelde, Simon Daled, Dieter Deforce and Maarten Dhaenens (Pharmaceutical Biotechnology, University of Ghent); Katleen Van Uytfanghe (Department of Bioanalysis, University of Ghent).

720006967JA、2020 年 8 月

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