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サロゲートペプチド定量分析法の開発 – ラットを用いた PK 試験でのデュラグルチド測定の MRM 最適化によるペプチドマッピング

サロゲートペプチド定量分析法の開発 – ラットを用いた PK 試験でのデュラグルチド測定の MRM 最適化によるペプチドマッピング

  • Caitlin Dunning
  • Mark Wrona
  • Waters Corporation

要約

デュラグルチド(TRULICITYTM)などの融合タンパク質治療薬の開発が進んでいる中、LC-MS/MS 定量分析法の迅速な開発に使用できる汎用ワークフローへのニーズが生じています。本書では、Fc が含まれている治療薬の分析法開発の完全なワークフローについて説明します。ペプチドマッピング実験は、定量用に適切なペプチドを特性解析および同定するために実施されました。次に、自動化した MassLynx Skyline インターフェースワークフローを使用して MRM の最適化を行いました。サンプルは、一般的なイムノアフィニティ捕獲法、迅速で再現性のある消化ワークフロー、そして選択的ペプチド SPE を使用して、分析用に前処理しました。デュラグルチドの定量下限 1 ng/mL を達成したことにより、この分析法はラットを用いた PK 試験の分析に成功裏に展開されました。

アプリケーションのメリット

  • Xevo G2-XS を使用したペプチドマッピングによる、固有のサロゲートペプチドの同定および選択
  • MassLynx Skyline インターフェース(MSI)を使用した、ペプチド MRM トランジションの迅速な選択と最適化
  • BEH 粒子および ACQUITY UPLC I-Class Plus テクノロジーを使用した高性能分離
  • Xevo TQ-XS 質量分析計を使用した、高感度デュラグルチド定量

はじめに

融合タンパク質などの次世代治療薬のための LC-MS/MS ベースの定量分析法の迅速な開発をサポートするワークフローは、不可欠です。LC-MS/MS 分析法は創薬および開発のラボで広く使用されていますが、最適化のために対象のペプチドを迅速に特性解析および選択するという点で、分析法開発プロセスを改良する余地があります。ここでは、Xevo G2-XS QTof を使用した GLP-1 アナログおよび IgG4 Fc の融合タンパク質であるデュラグルチドの、迅速なタンパク質確認、ペプチド同定、選択、最適化方法、そして(迅速な定量分析のための)トリプル四重極 Xevo-TQ システムへの移管のための全体的なプロセスについて説明します。2 番目の関連アプリケーションノート(720006823EN1 が発表されており、これには、最終的な LC-MS/MS 分析法とバイオ分析法の利点が詳細に説明されています。

分析法を設計するためのワークフローは、理想的には以下のステップで構成されます(図 1)。

1)HRMS の確認と特性解析

a. 確認のためのペプチドマッピング実験

b. 定量的モニタリング(安定性、脱アミド化、修飾レベル)に適したペプチドの決定

2)トリプル四重極の最適化および分析

a. MRM トランジションの迅速な選択と最適化

b. サンプル前処理の最適化(詳細はアプリケーションノート 720006823EN を参照)1

このアプリケーションノートでは、迅速な特性解析、配列確認、およびこの情報をラットを用いた薬物動態学(PK)試験でのデュラグルチドの分析法の構築への適用に、必要な手順が示されています。HRMS プラットホームには分析法自体を実行する機能もありますが、このワークフローでは、スループットを最大化するために、トリプル四重極プラットホームでこの分析法を実行する従来の方法が記載されています2。 定量下限 1 ng/mL(0.02 M)が達成され、デュラグルチドのより高感度の定量が可能になりました。

図 1ペプチドマッピング、MassLynx Skyline インターフェース(MSI)MRM 最適化、高感度で選択的なサンプル前処理法、LC-MS/MS 定量用 Xevo TQ-XS を活用した定量分析法開発ワークフロー。

実験方法

サンプル前処理

ペプチドマッピングのためのサンプル前処理および Skyline による最適化

ProteinWorks Auto eXpress 低容量プロトコル(製品番号: 176004077)を使用して、デュラグルチドの希釈液を消化しました。簡潔に説明すると、デュラグルチドを 300 μg/mL(24 μg)に希釈し、RapiGest SF 界面活性剤で変性し、ジチオスレイトールで還元してヨードアセトアミドでアルキル化しました。サンプルは、トリプシン:タンパク質比 1:10(w/w)でトリプシン消化し、ギ酸で反応を止めました。LC-MSE 分析を使用したペプチドマッピングは、10 μL(約 1.5 μg)のサンプルを ACQUITY UPLC I-Class PLUS および Xevo G2-XS QTof 質量分析計システムに注入して実施しました。MassLynx Skyline インターフェースによる MRM 最適化実験は、Xevo TQ-XS 質量分析計を使用し、1 回の分析に 1 μL を注入して行いました。

ラット PK サンプルの前処理

6 匹のラットにデュラグルチド 1 mg/kg を皮下投与し、投与前および投与後 2、4、7、24、48、72、96、120、168 時間に採血しました。サンプル前処理の完全な手順については、アプリケーションノート 720006823EN を参照してください。 

ペプチドマッピングの LC-MS/MS 分析法条件:

LC システム:

ACQUITY UPLC I-Class PLUS(固定ループ)

検出:

Xevo G2-XS QTof 質量分析計、ESI+

プレート:

MaxPeak High Performance Surfaces を採用した QuanRecovery 96 ウェルプレート

カラム:

ACQUITY UPLC Peptide BEH C18、300 Å、1.7 μm、2.1 ×100 mm

カラム温度:

60 ℃

サンプル温度:

10 ℃

サンプル注入量:

10 µL

流速:

0.2 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸含有アセトニトリル

グラジエント:

50 分で 1 ~ 35% B(0.2 mL/分)、続いてカラム洗浄および平衡化

MS システム:

Xevo G2-XS QTof質量分析計、ESI+

イオン化モード:

ESI+

キャピラリー電圧:

1.2 kV

コーン電圧:

40 V

ソース温度:

150 ℃

脱溶媒温度:

350 ℃

コーンガス流量:

20 L/時間

脱溶媒ガス流量

600 L/時間

MS ソフトウェア

UNIFI(v.1.9.4)

インフォマティクス

UNIFI(v.1.9.4)

Skyline および PK 試験の LC-MS/MS 分析法条件:

LC-MS/MS の完全な条件については、アプリケーションノート 720006823EN を参照してください。

結果および考察

定量的ペプチド同定のためのペプチドマッピング

定量に適したペプチドは、ペプチドマッピング実験によって同定できます。下流のサンプル前処理には、ProteinWorks Auto eXpress 低消化キットを使用したデュラグルチドの消化が含まれます。このキットは、(高コストの)シーケンシンググレードの材料を通常使用するペプチドマッピングアプリケーションを目的にしていませんが、(目的のサンプル調製法を使用した)トリプシン消化によってタンパク質から遊離するペプチドを特定し、その挙動を評価することができます。これらの分析法を使用して、デュラグルチドペプチドを 93% のシーケンスカバー率(図 2、パネル A)で同定しました。

ペプチド修飾や切断の欠落が簡単にに特定されました。デュラグルチドのペプチドマッピング実験では、長さ 6 ~ 33 アミノ酸の 15 種類のトリプシン消化ペプチドが同定されました(同定されたペプチドのうち 6 アミノ酸未満のものは、特異性と保持性が低いため、このリストから除外しました)。このリスト(図 2 のパネル B)から、アミノ酸長(8 ~ 25 残基)および同定された修飾の割合に基づいて、ペプチドをさらにフィルター処理しました。高レベルの修飾が認められたペプチドの 1 つである EFIAWLVK は、Fc 融合タンパク質の中の特異な位置にあるため、フィルター処理したペプチドのリストに残しました。このペプチドは、タンパク質の GLP-1 領域に由来し、この領域内の 2 つのみのペプチドのうちの 1 つです。このフィルター処理したペプチドのリストは、分析法開発の次のステップである MRM トランジションの最適化の基礎を形成します。

図 2ペプチドマッピング実験で得られた、デュラグルチドのシーケンスカバー率 93%(パネル A)。定量検討に適した長さのペプチド 15 個を同定し、フィルター条件を満たすペプチド 7 個を同定しました(パネル B)。

MassLynx Skyline による MRM の同定と最適化

オープンアクセスソフトウェアである Skyline (ワシントン大学、MacCoss Labs)が MassLynx ソフトウェアと統合されており、MRM の同定と最適化(コリジョンエネルギー、保持時間のスケジューリング、デュエルタイムなど)にシームレスなワークフローを提供し、最適化と開発に必要な日数が何週間も節約できます3。 MSI により、取り込みメソッドの作成、データ取り込み、データレビューの複数のステップが自動化されて、タンパク質あたりのペプチドに対する感度が最も高く、各ペプチドに対して最も感度の高いトランジションの最終的な方法が提供されます。ペプチドバイオアナリシスワークフローの例が図 3 に示されています。

図 3MRM トランジションの同定と最適化のための MassLynx Skyline インターフェースワークフロー。手順には、保持時間とプリカーサー m/z の同定(パネル A)、MRM の同定(パネル B)、コリジョンエネルギーに対する MRM の最適化(パネル C)、最適化した設定を使用した最終的な分析法の作成(パネル D)が含まれます。インポート/エクスポートの各ステップは、ML(MassLynx)または SK(Skyline)によって示され、これにより使用するソフトウェアパッケージが示されています。

ステップ A –保持時間のアラインメントとプリカーサーの選択

  • ペプチドマッピングにより同定された候補ペプチド配列は、MSI のダウンロードパッケージに付属の Skyline マスタードキュメントにコピーされます。このマスタードキュメントには、ペプチド MRM の同定および最適化に関する適切な設定が含まれています。
  • 各ペプチドのプリカーサー m/z は Skyline によって計算され、MassLynx 質量分析法ファイル(.exp)に自動的にエクスポートされます。
  • 対象の消化タンパク質は、エクスポートされた MassLynx メソッドを使用して LC-MS/MS 分析用に注入されます。結果は元の Skyline ドキュメントにインポートされます。
  • 各ペプチドの保持時間は、自動で特定されます。各ペプチドの最も強いプリカーサー m/z が特定されます。これらは、以降の最適化ステップで使用されます。

ステップ B - MRM 同定

  • プロダクトイオンが含まれている、新しい MassLynx の時間がスケジュールされたメソッドファイルが、Skyline からエクスポートされます。
  • 消化済みタンパク質が分析用に再度注入され、結果は Skyline にインポートされて、観察された MRM トランジションが特定されます。

ステップ C - MRM の最適化

  • ステップ B で観察された MRM トランジションは、データのインポート後に緑色のライトで示されます。観察されなかったトランジションは、赤色のライトで示されます。各ペプチドを選択すると、各 MRM トランジションの強度が、見やすいように 1 つのクロマトグラムに表示されます。トランジションリスト内の MRM トランジションは、強度に従ってランク付けされます。
  • 観察されたすべての MRM トランジションは、コリジョンエネルギーに対して最適化されます。このステップで最適化されるペプチドおよび MRM トランジションの数に対応する、適切な数の MassLynx メソッドが自動的に作成されます。
  • エクスポートされた MassLynx メソッドには、ペプチドあたり 7 つの機能が含まれます。各機能には、前のステップで観察されたすべての MRM トランジションが含まれており、コリジョンエネルギーは機能ごとに 2 eV ずつ異なります。対象のタンパク質の注入がもう 1 回行われ、取り込まれたデータが Skyline にインポートされます。

ステップ D – 最終メソッドの作成

  • 前のステップで取り込んだ結果を使用して、Skyline によって 各 MRM トランジションについて最適なコリジョンエネルギー値が特定され、その情報がドキュメントに保存されます。
  • ドキュメントは絞り込まれ、最も強い MRM トランジション以外はすべて削除されます。
  • 最強の MRM トランジションとその最適化されたコリジョンエネルギーが含まれている最終 MassLynx メソッドが、以後の分析法開発で使用するために、Skyline からエクスポートされます。

Skyline を使用したペプチドの最適化後、MRM トランジションを、必要な生体マトリックスでの感度と選択性について評価する必要があります。最も選択的な MRM では通常、プリカーサーおよびプロダクト m/z 値が高くなっています。

ラットを用いた PK 試験へのワークフローの適用

ここで説明したワークフローを、ラットの血漿から抽出したデュラグルチドの定量分析に対応する高感度分析法の開発に適用しました。ラットにデュラグルチドを投与し、ラットでのデュラグルチドの薬物動態(PK)特性を調べるために、サンプルを投与前および投与後 168 時間に収集しました。デュラグルチドタンパク質全体について理解するために、GLP-1 領域と Fc 領域の両方からサロゲートペプチドを選択しました。GLP-1 の N 末端ペプチド HGEGTFTSDVSSYLEEQAAK(HGEG)を、GLP-1 配列のコピーが少なくとも 1 つ含まれているインタクト融合タンパク質のサロゲートとして選択しました。このタンパク質の Fc 領域から、GLPSSIEK(GLPS)を総 Fc レベルのサロゲートとして選択しました。

PK のプロファイル(図 4)により、HGEG ペプチドおよび GLPS ペプチドの差異クリアランスが示されています。バイオ医薬品の半減期(HGEG ペプチドを使用して測定)は 22.9 時間であり(PKSolver を使用して計算)、文献で以前に報告された値と一致していました4-6。GLPS ペプチドの半減期は約 3 倍長く、その原因はおそらく、インタクト GLPS ペプチドと、血漿中のデュラグルチドの GLP-1 領域のタンパク質分解に由来する遊離 GLPS を観察したためと考えられます7。 PK 試験で、ペプチドを慎重に選択し、タンパク質の全体的な挙動を明確に理解するには、バイオ医薬品の性質を理解する必要があります。

図 4デュラグルチドを投与したラットの薬物動態プロファイルGLPS ペプチドをデュラグルチドの Fc 領域のサロゲートとして、HGEG ペプチドを GLP-1 領域のサロゲートとして使用しました。

免疫精製、消化、SPE 精製したラット血漿 50 μL を使用して、直線的かつ精密で正確なデュラグルチドの定量を達成しました。定量下限(LLOQ)1 ng/mL(0.02 nM)が達成され、検量線は 1 ~ 10、000 ng/mL(0.02 ~ 167.59 nM)の範囲で、1/X 2 線形回帰(表 1)を使用して直線性を示しました(r2>0.99)。QC レベルは ±15% 以内の誤差の精度であり、CV は 7% 未満で、標準的なバイオ分析法のバリデーションガイダンス基準と一致していました。すべての分析に対する QC 性能の統計値は、表 2 に強調表示されています。

表 1ラット血漿から抽出したデュラグルチドペプチドに対する、リニアダイナミックレンジおよび検量線の統計値。
表 2ラット血漿から抽出したデュラグルチドペプチドの QC 定量性能。

結論

ここに記載されている手順には、サロゲートペプチドの同定と最適化のための完全なワークフローが含まれています。このワークフローは、デュラグルチドの定量分析法の開発に適用されています。高度なサンプル前処理法と組み合わせることにより、ラット PK サンプルを高い正確度と精度で分析しました。

  • ペプチドマッピング実験を使用してデュラグルチドを同定し、デュラグルチドの定量の際に追跡する必要があるサロゲートペプチドのリストを絞り込みしました
  • MassLynx Skyline インターフェースソフトウェアを、選択したサロゲートペプチドの MRM トランジションの同定と最適化のために導入しました
  • ラット PK サンプル中のデュラグルチドを、0.15 ~ 98.21 nM の範囲にわたって、高い精度と正確度で定量しました

参考文献

  1. Dunning CM, Wrona MD.How to Maximize Bioanalytical Performance of Fc-Fusion Proteins: Practical Sample Preparation and LC-MS/MS Workflows for Dulaglutide Quantification from Plasma.Waters Application Note 720006823EN.
  2. Kellie JF, Kehler JR, Szapacs ME.Application of High-Resolution MS for Development of Peptide and Large-Molecule Drug Candidates.Bioanalysis.2016;8(3):169–177.
  3. Skyline targeted mass spec environment (2020).Downloaded from https://skyline.ms/project/home/software/Skyline/begin.view
  4. Zhang Y, Huo M, Zhou J, Xie S. PKSolver: An Add-In Program for Pharmacokinetic and Pharmacodynamic Data Analysis in Microsoft Excel.Comput Methods Programs Biomed.2010;99(3):306-314.
  5. Australian Public Assessment Report for dulaglutide rch (2015).Accessed March 2020 from https://www.tga.gov.au/auspar/auspar-dulaglutide-rch
  6. Center for Drug Evaluation and Research, Pharmacology Review of dulaglutide (2013).Accessed March 2020 from https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/nda/2014/125469Orig1s000PharmR.pdf
  7. Kang L, Camacho RC, Li W, D’Aquino K, You S, Chuo V, Weng N, Jian W. Simultaneous Catabolite Identification and Quantitation of Large Therapeutic Protein at the Intact Level by Immunoaffinity Capture Liquid Chromatography-High-Resolution Mass Spectrometry.Anal.Chem.2017;89(11):6065-6075.

720006969JA、2020 年 8 月

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