• アプリケーションノート

ジフルオロ酢酸を移動相モディファイヤーとして使用した低分子の LC-MS 分析

ジフルオロ酢酸を移動相モディファイヤーとして使用した低分子の LC-MS 分析

  • Melvin Blaze
  • Thomas H. Walter
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションブリーフでは、IonHance ジフルオロ酢酸(DFA)を移動相モディファイヤーとして使用した低分子の LC-MS 分析を行い、ギ酸およびトリフルオロ酢酸(TFA)モディファイヤーを用いた分析と比較しています。

アプリケーションのメリット

IonHance DFA は、数少ない適切な酸性移動相モディファイヤーの新しい選択肢として、低分子の LC-MS 分析に使用できます。

はじめに

移動相モディファイヤーは LC-MS 分析において非常に重要な役割を担い、クロマトグラフィー保持、ピーク幅、および質量分析計(MS)のシグナル強度に影響を与えます。MS 以外の検出器を搭載している LC とは異なり、MS 検出を行う LC 用の適切な移動相モディファイヤーの選択肢は限られています。LC-MS 分析で使用する添加剤は、十分に揮発性が高く、高純度で、許容範囲内の感度を出せることが求められます。IonHance DFA はこのような要件を満たしており、ナトリウムおよびカリウムのレベルが 100 ppb 未満という高純度で、沸点 133.0 ℃ と十分な揮発性があり、蒸気圧は 1170 Pa です。

IonHance DFA は、ギ酸と比較してピーク幅が狭くなり、TFA と比較して MS 感度が高くなるなど、ペプチドおよびタンパク質の LC-MS 分析でのメリットが実証されています1,2,3。ここでは、酸性、塩基性、中性の低分子の LC-MS 分析について、IonHance DFA とギ酸および TFA の比較を行いました。ネガティブおよびポジティブのエレクトロスプレーイオン化(ESI)モードで、クロマトグラフィー保持およびピーク幅、MS シグナル強度についての比較を行いました。

実験方法

移動相は、水系移動相およびアセトニトリル系移動相の両方に、IonHance DFA(製品番号:186009201)、ギ酸(Optima LC-MS グレード、Fisher Chemical、製品番号:A117-50)または TFA(Optima LC-MS グレード、Fisher Chemical、製品番号:A116-50)のいずれかを追加し、濃度 0.1%(v/v)に調製しました。マルチプルリアクションモニタリング(MRM)トランジションを最適化した表 1 に示す分析種は、濃度 2.5 μg/mL の水溶液として調製し、Xevo TQ-S MS/MS 搭載の ACQUITY UPLC I-Class システムを使用し、ACQUITY UPLC BEH C18、1.7 μm、2.1 × 50 mm カラムで分離して分析しました。クロマトグラフィー保持、ピーク幅および MS シグナル強度を、アセトニトリルのグラジエント条件(5~100%)で測定しました。移動相中の水/有機溶媒の割合が MS シグナル強度に影響を与える場合があるため、2 つのプローブ分析種(2,6-ジメチルアニリン、4-クロロ-N-メチルアニリン)も、様々な水/有機溶媒の割合で LC 注入後 MS で分析を行い、固定の水/有機溶媒組成で 3 種の添加剤を使用して得られた MS シグナル強度を比較しました。

結果および考察

図 1 は、3 種の移動相モディファイヤーを使用した場合の、すべての分析種の保持時間の比較を示しています。中性の分析種 2-クロロ-4-ニトロアニリンの保持時間は、3 種のモディファイヤーについて同様でしたが、イオン化した他の化合物の保持時間には、顕著な差異が見られました。水系のモディファイヤー溶液の pH は 2.0(0.1% v/v TFA および 0.1% DFA)から 2.7(0.1% v/v ギ酸)とばらつきがあり、pKa 値が 1~4 の範囲の分析種の保持時間に影響を及ぼしています。分離条件下で正電荷を持つ化合物の場合は、モディファイヤーの陰イオンが正電荷を持つ分析種とイオン対を形成するため、モディファイヤーの疎水性の差異も保持時間に影響を与えます。疎水性は、TFA が最も高く、ギ酸が最も低いです。ペプチドについても、同様の保持時間の差が報告されました2

図 1. ACQUITY UPLC BEH C18、1.7 μm、2.1 × 50 mm カラムで、水系および有機溶媒系の両方の移動相中に添加剤(0.1% ギ酸、0.1% DFA または 0.1% TFA)を使用した場合の、低分子の分析種における保持時間の比較。エラーバーは、3 回の繰り返し測定についての標準偏差を表示しています。

図 2 は、3 種の移動相モディファイヤーを使用した場合の、すべての分析種についてのクロマトグラムピーク幅の比較を示しています。ほとんどの化合物において、DFA で得られたピーク幅は、ギ酸でのピーク幅よりも小さくなり、TFA でのピーク幅と同等です。ペプチドにおいても、同様の傾向が報告されています1,2

図 2. ACQUITY UPLC BEH C18 、1.7 μm、2.1 × 50 mm カラムで、水系および有機溶媒系の両方の移動相中に添加剤(0.1% ギ酸、0.1% DFA および 0.1% TFA)を使用した場合の、低分子の分析種におけるクロマトグラムピーク幅(半値全幅)の比較。エラーバーは、3 回の繰り返し測定についての標準偏差を表示しています。

図 3 は、3 種の移動相モディファイヤーを使用した同一の LC-MS 条件での、すべての分析種についての MS シグナル強度(ピーク面積)を示しています。すべての分析種において、DFA を使用した場合の MS シグナル強度は、TFA の場合と比較して、顕著に高くなりました(最大で 2 倍)。酸性の分析種においては、DFA を使用した場合の MS シグナル強度は、ギ酸の場合の強度と同等になりました。塩基性分析種のほとんどでは、ギ酸と比較して、DFA を使用した場合の MS シグナル強度が向上しました。ペプチド分析種を使用した以前の試験でも同様の傾向が示されました。1,2

図 3.ESI ポジティブおよび ESI ネガティブイオン化モードで、水系および有機溶媒系の両方の移動相中に 0.1% ギ酸、0.1% DFA および 0.1% TFA を使用した場合の、低分子の分析種における MS シグナル強度の比較。エラーバーは、3 回の繰り返し測定についての標準偏差を表示しています。

図 4 に、固定の水/有機溶媒の移動相組成での塩基性分析種 2 種(2,6-ジメチルアニリン、4-クロロ-N-メチルアニリン)の MS シグナル強度を示しています。この結果から、IonHance DFA を使用する場合、ギ酸と比較して MS シグナル強度がわずかに高く、また、様々な水系/有機溶媒系の移動相の組成において、TFA を使用する場合と比較して MS シグナル強度が著しく高くなることが明らかです。

図 4. 水系および有機溶媒系の両方の移動相中に移動相モディファイヤー(0.1% ギ酸、0.1% DFA および 0.1% TFA)を使用した場合の、塩基性分析種(2,6-ジメチルアニリン、4-クロロ-N-メチルアニリン)についての、様々な水系/有機溶媒系の割合での MS シグナル強度(LC 後 MS 注入)の比較。

結論

低分子の LC-MS 分析において、IonHance DFA は優れた移動相モディファイヤーとして使用できることが示され、適切な酸性モディファイヤーの数が限定されている中で、新しい選択肢となります。試験を行った分析種について、TFA 使用時と同様の狭いピーク幅と、ギ酸使用時と同様の高い MS シグナル強度が得られるなど、IonHance DFA はギ酸および TFA モディファイヤーの両方のメリットを有することが示されました。

参考文献

  1. Kellett, J.; Birdsall, R.; Yu, Y. Application of Difluoroacetic Acid to Improve Optical and MS Performance in Peptide LC-UV/MS.Waters Technology Brief, 720006482EN (2019).
  2. Nguyen, J. M.; et al.High Sensitivity LC-MS Profiling of Antibody-Drug Conjugates with Difluoroacetic Acid Ion Pairing.mAbs, 2019, 11(8),1358-1366.
  3. Zhang, X.; Birdsall, R.; Yu, Y. Q. Using Mass Detection as an Orthogonal Technology to Improve Routine Analysis of Biotherapeutics.Waters Application Note, 720006157EN (2017).

720006776JA、2020 年 3 月

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