• アプリケーションノート

ヒト血清中のジアシルホスファチジルコリン類分析向け LipidQuan-R:リピドミクス研究のための迅速なターゲット UPLC-MS/MS 分析法

ヒト血清中のジアシルホスファチジルコリン類分析向け LipidQuan-R:リピドミクス研究のための迅速なターゲット UPLC-MS/MS 分析法

  • Billy J. Molloy
  • Waters Corporation

研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。

要約

ヒト血清中の 57 種類のジアシルホスファチジルコリンの半定量的分析のための、迅速なターゲット UPLC-MS/MS 分析法を開発しました。この分析法は、ヒト血清における生理的な濃度の分析種の分析に適していることが実証されました。この LipidQuan-R 分析法は、胆汁酸、アミノ酸、遊離脂肪酸、トリプシン分解ペプチド、アシルカルニチン、トリプトファン代謝物、および様々な脂質など、多様な化合物群の分析に以前から活用されていた、同様に汎用性の高い LC-MS プラットホーム上で最適化されています。  この新しい分析法では、LipidQuan-R/MetaboQuan-R の一連の分析を拡張し、標的を定めたマルチオミクスワークフローで連続操作することで、その他の代謝物や脂質などが分析できます。

アプリケーションのメリット

  • 1 回の分析(分析時間 9 分以内)で 57 種のジアシルホスファチジルコリンのターゲット一斉分析を UPLC-MS/MS で実施(200 以上の MRM トランジション)
  • より大きなサンプルセットを分析できるハイスループットな分析
  • 特異性の高いマルチプルリアクションモニタリング(MRM)により構造異性体を同定可能
  • 一般的な LC-MS で 1つの化合物クラスから他のクラスに切り替え可能な汎用性

はじめに

ジアシルホスファチジルコリン類(diacyl-PC)は、エステル結合を介してグリセロホスホコリンヘッドグループ(1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)に結合した 2 つの脂肪酸から構成される脂質分子です。図 1 に、一般的な構造および具体的な例を示しています。これらはヒトのシステムにおいて非常に豊富に存在する脂質であり、全ての細胞膜を構成する主要な脂質の一つです。他の型の PC も生物システムに存在しますが、ほとんどの PC はジアシル型で存在します。このクラスの化合物は、グリセロホスホコリンヘッドグループに結合できる脂肪酸に関して非常に多様です。ここでは、57 種の個別のジアシルホスファチジルコリン類の特異的ば半定量分析の UPLC-MS/MS 分析法を紹介します。従来、この種の化合物はタンデム四重極型質量分析法を用いて m/z= 184 のプロダクトイオンによって検出してきました。これは、この方法で最も大きなレスポンスが得られるためです。しかしながら、このトランジションは特異性が低いため、特定の分析種に対して著しい干渉を及ぼす傾向があります。現在の分析法では、4 つの MRM トランジションを使用して、所定のジアシル PC 分析種を特異的にターゲットにします。これら 4 つの MRM トランジションは、分子からの脂肪酸残基の喪失を伴うフラグメンテーションパターンに起因します。そのため、検出される脂質に関して非常に特異的で、場合によっては構造異性体を区別することも可能です。例えば、PC 36:4(2 つの脂肪酸が 36 個の炭素原子と 4 つの二重結合で構成されているジアシル-PC)は、最も一般的な異性体である PC(18:2_18:2) または PC(16:0_20:4) のいずれかである可能性があります。現在の分析法では、PC 種ごとにエステル化された脂質を区別して測定することが可能であるため、個々の PC 種の特異性の高い同定を行うことができます。

図 1.(A)ジアシル-PC の一般構造。2 つの R 基は脂肪酸残基です。(B)特定のジアシル-PC、この例では PC(16:0_18:2) です。

実験方法

ヒト血清サンプルの前処理

ヒト血清をプロパン-2-オールで(プロパン-2-オール:血清= 4:1の比率で)除タンパクしました。これを 25,000 g で 3 分間遠心分離しました。得られた上清を脱イオン水で 1:1 に希釈して混合しました。そのうちの 5 µL を UPLC-MS/MS システムに注入しました。

LC 条件

UPLC 分離は、CORTECS T3、2.7 µm(2.1 × 30 mm)カラムを接続した ACQUITY UPLC I-Class システム(固定ループ)で行いました。5 µL のサンプルを流速 0.40 mL/分で注入しました。移動相 A は 0.2 mM ギ酸アンモニウム含有 0.01% ギ酸水溶液で、移動相 B は 0.01% ギ酸と 0.2 mM ギ酸アンモニウム含有 50% イソプロピルアルコールのアセトニトリル溶液でした。最初の 1 分間に移動相 B を 70%で維持した後、70~98%の移動相 B のグラジエントによりホスファチジルコリンを 4.6 分間かけてカラムから溶出させて分離し、続いて 98%の移動相 B で 2 分間カラムを洗浄しました。その後、カラムを初期条件で再平衡化しました。分析カラムの温度は 60 ℃ に維持しました。

MS 条件

Xevo TQ-S micro 質量分析計を使って、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)分析を行いました。すべての実験は、エレクトロスプレーイオン化ポジティブ(ESI+)モードで実施しました。イオン源の温度とキャピラリー電圧を一定に保ち、それぞれ 150 ℃ と 2.0 kV に設定しました。コーンガス流量は 50 L/hr、脱溶媒温度は 650℃ としました。すべての MRM トランジションは、コーン電圧 40 V 、コリジョンエネルギー 25 eV でモニターしました。

インフォマティクス

分析法の情報は、MassLynx 内の Quanpedia 機能を使用して LC-MS システムにインポートしました。この拡張可能で検索可能なデータベースには、化合物の定量用に TargetLynx で使用する LC および MS 分析法ならびに解析法が含まれています。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-ClassFL

検出:

Xevo TQ-S micro

カラム:

CORTECS T3 2.7 µm(2.1 × 30 mm)

カラム温度:

60 ˚C

サンプル温度:

60 ˚C

注入量:

5 μL

流速:

0.4 mL/分

移動相 A:

0.2 mM ギ酸アンモニウム含有 0.01% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.01% ギ酸および 0.2 mM ギ酸アンモニウム含有 50% イソプロパノールアセトニトリル溶液

グラジエント:

最初の 1.0 分間、移動相 B を 70% で維持した後、4.6 分間の 70~98% の移動相 B のリニアグラジエントを適用し、続いて 98% の移動相 B で 2 分間カラムを洗浄しました。その後、カラムを初期条件に再平衡化しました。

MS 条件

MS システム:

Xevo TQ-S micro

イオン化モード:

ESI +

キャピラリー電圧:

2.0 kV

結果および考察

ジアシルホスファチジルコリン(ジアシル-PC)は、一連の MRM トランジションを使用して検出しました。ここで、プリカーサー質量とはプロトン化イオン [M + H]+ のものであり、プロダクトイオンは、2 つの脂肪酸残基のニュートラルロスか、アルキルケテンとしての脂肪酸のニュートラルロスにより、対応する 2 種の Lyso-PC のうち 1 つを切り離すフラグメント化のいずれかです(図 2 で例示されています)。表 1 に本分析法で測定できる 57 種のジアシル-PC のリストを示しています。この 4 つの MRM のアプローチにより、各 PC の脂質種の構造情報を解析できました。図 3 に、 2 つの脂肪酸に 36 個の炭素と 4 つの二重結合が含まれる 2 つのジアシル PC について取得したクロマトグラムを示します。図 3 は、異なる特異的 MRM トランジションだけでなく、PC(18:2_18:2) および PC(16:0_20:4) という最も一般的な 2 つの構造異性体もクロマトグラフィー分離されていることを示しています。 

図 2. 所定のジアシル PC(PC 32:1 [18:1_14:0])の検出に使用される特定の MRM トランジションのフラグメンテーションパターン。示している 2 つのトランジションが、2 つの脂肪酸エステルのいずれかで起こり、各ジアシル PC について 4 つの MRM トランジションが得られます。
表 1. 各種ジアシル PC の MRM トランジション
図 3. 2 つの構造異性体 PC(18:2_18:2) [A] および PC(16:0_20:4) [B] のクロマトグラム

結論

バイオメディカル研究のリピドミクス研究において、ジアシルホスファチジルコリン類の特異的な半定量分析のための迅速 UPLC-MS/MS 分析法を開発しました。この分析法は、ヒト血清におけるこれらの重要なクラスの脂質化合物の生理学的な濃度での特性解析に適していることが実証されました。この分析法では、さまざまな化合物群の分析(メタボロミクス、リピドミクス、プロテオミクスなど)に使用できる単一の汎用 LC-MS プラットホームを利用しています。この分析法と、Waters のターゲットオミクス分析法ライブラリーのウェブサイト(www.waters.com/targetedomics)で入手できる他の補完的な分析法とを組み合わせて展開することにより、包括的でターゲットを絞ったマルチオミクスワークフローの基礎とすることができます。

720006935JA、2020 年 6 月

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