国際的な法規制の強化に伴い、様々な業界において、抽出物と浸出物(E&L)成分の同定および特性解析の重要性がますます高まっています。通常の E&L 分析ワークフローには、成分のライブラリーまたはデータベースに基づいたターゲットスクリーニングステップが含まれています。信頼性の高いスクリーニングのためには、ライブラリーの質が高いことが重要な要因となります。また、ワークフローには、ノンターゲットスクリーニングのステップが含まれ、続いて、検出された未知成分の特性解析を行います。通常、このステップは複雑で時間がかかりますが、UNIFI 科学情報システムで提供しているような比較および解析ソフトウェアツールを使用することで、作業が大幅に改善されます。
高分解能質量分析(HRMS)手法は、ターゲットスクリーニング分析とノンターゲットスクリーニング分析の両方において、膨大な化合物のリストを扱うのに適しています。イオンモビリティーと HRMS を組み合わせることで、サイズ、形状、電荷に基づいたイオンの更なる分離が可能になります。これにより、イオンの衝突断面積(CCS、単位:Å2)の値を決定できます。CCS は、気相中のイオンを区別する際の重要な特性であり、化学構造や 3 次元構造にも関係しています。CCS を追加のデータポイントとして使用することで、スクリーニング用ライブラリーの質が改善でき、より信頼性の高いターゲットスクリーニングアプリケーションが可能になります。イオンモビリティーを使用するもう 1 つのメリットとして、スペクトルのクリーンアップが挙げられます。これにより、未知化合物のスペクトルを解析し、既知化合物を確認することができます。
このアプリケーションノートでは、E&L ワークフロー内で UNIFI 科学情報システムを使用することで、ターゲットスクリーニングおよびノンターゲットスクリーニングを 1 つのアプリケーション内に組み込む方法を概説しています。また、サイエンスライブラリーの作成、バイナリー比較の実行、解析ツールおよびその他のツールの使用方法についても触れています。
製品の包装材料および食品接触材料は、様々な化学物質から製造されており、ポリマーや、抗酸化物質、スリップ剤、着色剤、およびその他の化合物などのポリマー添加剤を含む場合があります。このような化学物質およびその不純物や分解産物が、本来それらを保護するように設計されている消費者製品に移し、食品、医薬品、化粧品、薬物送達システム、植え埋め込み型医療機器、およびその他の製品に、潜在的に危険性がある、望ましくない物質が混入する可能性があります。
国際的な法規制の強化に伴い、様々な業界において、抽出物と浸出物(E&L)成分の同定および特性解析の重要性がますます高まっています1-7。 通常の E&L 分析ワークフローは、ターゲットスクリーニングのステップから始まります。スクリーニングは、成分のライブラリーまたはデータベースに基づいて行われ、精密質量、保持時間、フラグメント質量のデータに対するマッチングが行われます。信頼性の高いスクリーニングアプリケーションのために、このようなライブラリーの質が重要になります。次に、このワークフローは、ノンターゲットスクリーニングのステップに入り、続いて、検出された未知成分の特性解析を行います。通常、このステップは複雑で時間がかかりますが、比較および解析のためのソフトウェアツールがプロセスを大いに補助し、時間短縮してくれます。
高分解能質量分析(HRMS)手法は、ターゲットスクリーニング分析とノンターゲットスクリーニング分析において、膨大な化合物のリストを扱うのに適しています。イオンモビリティー分析(IMS)と HRMS を組み合わせることで、イオンがモビリティーセルの気体中をドリフトするため、サイズ、形状、電荷に基づいたイオンの更なる分離が可能になります。イオンの衝突断面積(CCS、単位: Å2)の値は、IMS デバイスのドリフト時間を使用して測定することができます。CCS は気相中のイオンを区別する重要な特性であり、化学構造や 3 次元構造にも関係しています。CCS を追加のデータポイントとして使用することで、これらのライブラリーの質をターゲットスクリーニング用に更に改善できます8。IMS を使用するもう 1 つのメリットとして、スペクトルのクリーンアップが挙げられます。これにより、未知化合物のスペクトルを解析し、既知化合物を確認することができます9。
このアプリケーションノートでは、1 つのアプリケーションにターゲットスクリーニングとノンターゲットスクリーニングの両方を含むシンプルなワークフローを概説しています。また、サイエンスライブラリーの作成、バイナリー比較、解析、およびその他のツールについても触れています。また、溶出物/浸出物(E&L)スクリーニングのアプリケーションにおいて、Vion IMS QTof を使用するイオンモビリティーのメリットが記載されています(図 1)。
サンプル抽出物は、包装材を 5 mm2 に切断し、断片 1 g を 10 mL の 2-プロパノール中で 9 時間、平均温度 45 ℃ で超音波処理して前処理しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-ClassFTN |
カラム: |
CORTECS C18 カラム、90Å、1.6 µm、2.1 mm × 100 mm(製品番号:186007095) |
カラム温度: |
40 ℃ |
注入量: |
1 μL |
流速: |
0.4 mL/分 |
移動相 A: |
水 + 1 mM 酢酸アンモニウム + 0.1% 酢酸 |
移動相 B: |
メタノール |
グラジエント: |
移動相グラジエントの詳細は、表 1 に記載されています。 |
MS システム: |
Vion IMS QTof |
イオン化モード: |
ESI+、ESI- |
取り込みモード: |
HDMSE |
取り込み範囲: |
50~1500 m/z |
スキャン時間: |
0.2 秒 |
ソース温度: |
120 ℃ |
脱溶媒温度: |
500 ℃ |
脱溶媒ガス: |
1000 L/時間 |
コーンガス: |
50 L/時間 |
レファレンス質量: |
ロイシンエンケファリン [M+H]+ m/z 556.276 |
キャピラリー電圧: |
0.6 kV |
コリジョンエネルギー: |
ESI+ 低エネルギー:6 eV 高エネルギーランプ:20~40 eV ESI- 低エネルギー:6 eV 高エネルギーランプ:30~70 eV |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
UNIFI 科学情報システム v1.9.4 |
MS ソフトウェア: |
UNIFI 科学情報システム v1.9.4 |
インフォマティクス: |
UNIFI 科学情報システム v1.9.4 |
分析前、分析中、分析後に分析したブラケット標準試料を使用して、同定された成分の質量の正確度および CCS 値を確認しました。同定された化合物の許容範囲は、質量正確度について ≤3%、CCS 値のデルタについて ≤2% に設定されています。
この分析では、CCS 値が確立された Waters LC-MS QC 標準試料(製品番号:186007362)と、Waters E&L システム適合性混合標準試料(製品番号:186008063)10 の 2 種類の異なるシステム適合性レファレンス標準試料混合物を用いました。E&L 標準試料に含まれている 18 種の化合物は、一般的な工業用ポリマー添加剤および防腐剤を代表するものであり、幅広い質量範囲をカバーしています。また、ESI ポジティブモードおよびネガティブモードの両方でイオン化する化合物を含んでいます。
この実験では、E&L 化合物のターゲットスクリーニング用に、100 以上のエントリーを含む、アプリケーション専用の UNIFI ライブラリーを作成しました。最初に、ライブラリーに化合物名、IUPAC 名、タグ、関連する .mol ファイルなど、各成分の主な情報が取り込まれました。次に、標準試料の分析により実験的に得られた検出結果を補足していきました。
100 種を超える一般的な E&L 化合物について、インク、染料、抗酸化物質、UV フィルターからの一般的な化合物を含む標準原液を調製して、混合液としてプールしました(1 つの混合液あたり 9~10 化合物)。2 つの濃度(5 ppm および 0.5 ppm)の混合標準溶液を、「実験方法」セクションに概説した分析法を用いて、1 混合液につき 7 回注入しました。得られた結果(表 2)から、平均 CCS および保持時間の値を UNIFI ライブラリーにインポートしました。分析したライブラリー内のそれぞれの成分について、追加の付加イオンと付加イオンの情報を、サイエンスライブラリーに送りました(図 2)。各ライブラリー成分の広範で正確な情報により、ターゲットスクリーニング分析中の擬陽性の数を減らすことができます。これにより、ターゲット成分の同定において、ユーザーの信頼性を高めることができます。
ワークフローとは、データセット全体を可視化できるように設計することで、最小限のユーザー操作で意思決定に必要な情報に簡単にアクセスできる一連のステップを指します。UNIFI では、データの解析方法やワークフローの表示方法も定義でき、ユーザー個人の要件に基づいてカスタマイズできます。図 3 に 1 つのワークフローに複数のステップを含めて作成した E&L 分析法に固有の分析の一般的な例を示します。ユーザーのニーズに応じて、これを更にカスタマイズすることもできます。ここでは、システム適合性のレビュー、開発したライブラリーに対して同定された成分のレビュー(ターゲットスクリーニング)、バイナリー比較を使用した未知化合物の同定(ノンターゲットスクリーニング)、問題解明用ツールのステップを説明しています。サンプルは、「実験方法」に記載した分析法を用いて分析しました。
この UNIFI のワークフロー例の 1 つ目のステップでは、システム適合性標準試料のレビューおよび受入れができ、システム全体の性能をチェックできます。成分概要プロット(図 4 を参照)、または成分サマリーの形式で、データを表示できます。
UNIFI ワークフローの次の段階には、UNIFI サイエンスライブラリーに対して、ターゲットスクリーニング分析で同定された成分のレビューおよび受入れに役立つステップが含まれています。これらの結果は、成分概要プロット、または成分サマリーの形式で表示できます(図 5)。擬陽性を防ぎ、同定の信頼度を高め、結果のレビューに必要な時間を削減するためには、複数の同定要素の使用が重要となります。精密質量、保持時間、質量フラグメント、CCS のすべてが、ターゲットスクリーニングの同定要素として使用できます。
イオンモビリティー質量分析法を使用して得られた CCS 値は、新たな同定要素としてのメリットがあり、擬陽性を減らすことができます。保持時間とは異なり、CCS 値は、移動相、カラムなどの変更や、マトリックス効果の影響を受けません。更に、精密質量のみでは異性体の分離ができない場合でも、CCS 値を使用することで、存在する異性体を分離および同定できる可能性があります。そのため、溶出物/浸出物(E&L)スクリーニングライブラリーに CCS 値を追加することで、ターゲットスクリーニングがうまくいくための役割が果たせるようになります。
これと並行して、スクリーニングにおける CCS のもう 1 つのメリットには、成分を保持時間とイオンモビリティードリフト時間でアライメントした場合に得られるスペクトルが明瞭であることも含まれ、これによってプリカーサーイオンおよびフラグメントイオンが可視化され、同定しやすくなります(図 6)。様々なイオンモビリティードリフト時間に共溶出する化合物がクロマトグラフィーで除去されるため、低エネルギーおよび高エネルギースペクトルが鮮明になり、ドリフト時間がイオンモビリティーの次元でアライメントされるため、フラグメントイオンがそれらのプリカーサーイオンに容易に関連付けられるようになります。
UNIFI でデータを表示するもう 1 つの方法として、サマリープロット機能があります。これにより、選択した成分における結果の傾向を、分析のすべての注入にわたって可視化できます(図 7)。表示は、CCS、精密質量、保持時間、またはレスポンスなど、成分の結果についてまとめることができます。
UPLC クロマトグラム中の未知ピークの同定は、E&L の分析でサンプルの完全な特性解析を達成する上で、非常に重要な点となります。ここで作成したワークフローには、データのレビューのための 2 つのステップがあります。1 つ目のステップでは、未知化合物の検索および一覧を行います(図 8)。
2 つ目のステップでは、バイナリー比較を使用します。UNIFI ソフトウェアのこの機能により、化合物のサンプルとレファレンス用ブランク抽出物の結果を直接比較して、主な相違を特定することができます。サンプルにのみ含まれる成分や、サンプルで著しく大量にある成分が、成分サマリーに分かりやすく表示され、詳細にレビューできます(図 9)。これは、バックグラウンドレベルの E&L の種類の化合物がしばしば見られる E&L 分析において重要なツールです。このワークフローでは、バイナリー比較を取り上げていますが、統計比較が必要な場合は多変量解析も使用できます。
未知成分が検出されたら、UNIFI ディスカバリーツールを用いて、「問題解明ツールキット」のワークフローから直接、成分同定が行えます11(図 10 を参照)。ツールセットには、精密質量ピークについて最も可能性の高い化学構造式を決定できる元素組成カリキュレーターが含まれています。i-FIT アルゴリズムを使用して、スペクトル内のピークのクラスターにマッチする構造式の理論的な同位体パターンの可能性および高分解能精密質量測定により、各構造式をスコアリングします。次に、ソフトウェアは、予測された元素組成を使用して、ChemSpider などで構造のデータベース検索を行います。次に、検出された構造の in-silico フラグメンテーションが行われ、観察された高エネルギーイオンと理論的フラグメントとのマッチングが行われます。暫定的な結果が表示され、評価することができます。100% マッチングを達成するには、レファレンス標準試料が必要になる場合があります。一方で、UNIFI ソフトウェアを使用することで、解析プロセスにかかる時間が大幅に短縮できます。
UNIFI E&L ワークフローでは、ここに記載していない別途のステップを使用することができます。例えば、定量ステップを含めることができます。それにより、既知の標準試料で検量線を作成し、これを使用して分析するサンプル中の成分のレベルを定量します12。 更に、UNIFI ワークフローにはカスタマイズ可能なレポート作成ツールが含まれています。このツールは、データや、ユーザーが必要とするその他の情報を表示するように設計されています。図 11 に、Waters LC-MS QC レファレンス標準試料を使用した、システム適合性試験のレポート出力を示します。
UNIFI E&L スクリーニングワークフローにより、ユーザー定義の、あるいは確立されたワークフローを使用して、複雑なデータのナビゲーションがしやすくなります。単一の統合されたプラットホームで、取り込み、解析、レポート作成を実施でき、サンプル分析からレポート作成までにかかる時間が短縮できます。1 つのアプリケーション内でターゲットスクリーニングおよびノンターゲットスクリーニングを実施できると同時に、サイエンスライブラリーの作成、データの比較、解析など、特定のワークフローを完了するための、ユーザーのニーズに合った追加のステップを実施することができます。
サイエンスライブラリーアプリケーションにより、ワークフロー内のエントリーのデータベースに対して迅速に検索が行える機能が提供されます。m/z、保持時間、CCS、フラグメントイオンの情報などについて、正確で信頼性の高い検索を行うことができます。インフォマティクスベースの構造解析ディスカバリーツールにより、未知の成分の情報を評価するための迅速なプロセスが提供されます。
イオンモビリティー質量分析を使用することで、複雑なサンプルについて異なる次元の分離が得られ、CCS 値を生成することができます。抽出物/浸出物(E&L)分析において、ターゲットスクリーニング用にデータポイントを追加することにより、擬陽性を減らし、同定の信頼性を高めることができます。ドリフト時間のアライメントによるスペクトルの明瞭度の向上により、イオンがより簡単に同定でき、未知化合物のスペクトルの解析および既知の化合物の確認が容易になります。
720006988JA、2020 年 8 月