法医学目的のみに使用してください。
このアプリケーションノートでは、ウォーターズの新しい ACQUITY RDa 検出器を用いた、押収薬物のスクリーニングについて詳しく紹介しています。この方法では、溶解、ろ過、直接希釈注入によるサンプル前処理を使用し、分析時間は 10 分です。
違法薬物の使用、密売は、世界中の法執行機関にとって、引き続き重大な問題となっています。押収薬物のスクリーニングは、規制物質を扱うラボでサンプルの証拠を特定する上で非常に大切な最初のステップです。従来の押収薬物のスクリーニング技術には発色試験や TLC が含まれており、それ以外の技術の中ではとりわけ GC-MS 分析が確認に使用されていました。
スポット発色試験および TLC なら既に特性解析済みの一般的な乱用薬物のフラグ付けは行える場合がありますが、新規の向精神薬を検出できるとは限りません。LC-Tof 装置を使用した押収薬物のスクリーニングは、カスタマイズ可能なターゲット薬物のリストをスクリーニングする迅速で効率の良い分析法を提供し、未同定化合物の同定を容易にしてくれます。
新しい ACQUITY RDa 検出器を ACQUITY UPLC I-Class PLUS FTN システムと組み合わせて、この分析法の開発に使用しました。この装置は、ルーチンの精密質量検出用の質量分解能 10,000 FWHM を超えるベンチトップに収まる小型 Tof 質量分析計です。このシステムは、フルスキャンデータと、フラグメンテーションを含むフルスキャンデータ(データインディペンデント取得)の両方の取り込みが行えます。押収薬物スクリーニング実験では、フラグメンテーション取り込みモードでのフルスキャンデータを利用することで、確認用フラグメンテーションデータが得られ、化合物同定が容易になります。Waters_connect ソフトウェアは、使いやすくカスタマイズ可能なプラットホームであり、精密質量、保持時間、化合物フラグメンテーションデータを利用して、カスタマイズ可能なアプリケーション専用の化合物ライブラリーで検索を迅速に行い、ケースワークサンプルを同定します。図 1 に ACQUITY RDa 検出器の概略図を示します。
標準試料は Cerilliant(テキサス州、Round Rock)から入手しました。処方薬のサンプルは Safeway pharmacy(カリフォルニア州、Livermore)から入手しました。カリフォルニア州 Livermore の路上で、路上で取引する薬物と推定される小袋が発見されました。
非公式調査により、カスタマイズした 100 化合物のターゲットリストを作成し、スクリーニング実験に使用しました。これらの化合物は付録 A のリストに記載しています。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS(FTN) |
カラム: |
ACQUITY HSS T3 1.8 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:186003539) |
カラム温度: |
45 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
10 μL |
流速: |
0.5 mL/分 |
移動相 A: |
5 mM ギ酸アンモニウム水溶液、pH 3.0 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
パージ溶媒: |
50:50 MeOH:H2O |
ニードル洗浄溶媒: |
25:25:25:25:MeOH: H2O:IPA:ACN + 1% FA |
MS システム: |
ACQUITY RDa 検出器 |
イオン化モード: |
ESI + |
脱溶媒温度: |
550 ℃ |
測定モード: |
フラグメンテーションによるフルスキャン |
質量範囲: |
低(50 ~ 2000 m/z) |
スキャンレート: |
10 Hz |
コーン電圧: |
20 V |
フラグメンテーションコーン電圧: |
70 ~ 130 V |
キャピラリー電圧: |
0.8 kV |
Intelligent Data Capture: |
オフ |
ダイナミックロックマス補正: |
オン |
取り込み時間: |
0 ~ 8 分 |
waters_connect v1.9.12
錠剤を粉砕して粉末状にし、以下のように前処理しました。
液体を 20% MeOH で 100 倍に希釈し、分析しました。
ACQUITY RDa 検出器での一般的な押収薬物のスクリーニングは、以下のように行います。
これにより、分析過程の管理の証拠を維持しつつ、シフトの間により多くのサンプルを前処理および分析できます。
例として、図 2 に、カリフォルニアの路上で発見された、薬物と推定される小袋の写真を示します。
図 3 に、ACQUITY RDa 検出器を用いた 10 分間の分析での、小袋の内容物のスクリーニング実験で得られた結果を示します。
waters_connect ソフトウェア一式を用いて実施したスクリーニング実験では、化合物 100 種が含まれているカスタム医薬品ライブラリーを作成して利用すれば、いつでも更新することができます。
このソフトウェアは、精密質量、保持時間、フラグメンテーションデータ収集によるフルスキャン機能を利用して同定を行い、サンプルデータをユーザーがカスタマイズできる型式で表示します。
このサンプルのスクリーニングでは、ヒドロコドン、ロラゼパム、パラセタモールについて陽性と推定されました。これで、陽性確認のための確認検査(GC-MS または LC-MS)に移行することができます。
ACQUITY RDa 検出器を使用する押収薬物のスクリーニングのもう 1 つのメリットとして、1 回の注入で完全なデータセット全体が収集できるため、遡及的なデータ分析が行える点が挙げられます。図 4 に、ターゲットリストの薬物が検出されなかった処方薬の分析を示します。
waters_connect ソフトウェアに内蔵されているディスカバリーツールを使用して、図 5 に示すように、RT 2.19 分に未知ピークが同定できています。
ディスカバリーツールキットは、2.19 分で測定した精密質量を用いて組成式を提案し、その情報を選択した ChemSpider ライブラリー(550 種類から選択可能)に送信して、考えられる候補を検索します。希望するライブラリーのサブセットを選択して検索することも、利用可能なライブラリーすべてを検索することもできます。この場合、想定されるデータベースマッチが 9 つ見つかりました。このディスカバリーツールは、in-silico 結合切断実験も行い、データベースでマッチした候補の理論上のフラグメントイオンを発生させ、そのスペクトルを取り込まれたフラグメントスペクトルと比較します。検索された 1 つ目の候補はラモトリギンで、図 6 で前処理および分析を行ったサンプル 5 の「未知」の錠剤のスペクトル組成とマッチしています。
この「仮」の同定結果は、サンプルの 1 回の注入のデータと、5 分未満の追加の分析時間で実施しました。次のステップとして、この仮のデータを明確に確認するために、関連する認証済標準物質を購入し、同一条件で分析します。
Waters ACQUITY RDa 検出器により、迅速で効率の良い分析法が開発でき、押収薬物サンプルの包括的なスクリーニングが行えます。精密質量、短い分析時間、カスタマイズや拡張が可能なライブラリー、およびフラグメンテーションを含む完全なデータセットの取り込みの組み合わせにより、薬物スクリーニング実験において信頼性の高い結果が得られます。完全なデータセットの取り込みができる Tof アナライザーの機能により、ターゲットライブラリー検索で結果が得られない場合も、遡及的なデータ分析が容易に行えます。統合ディスカバリーツールにより、未同定のピークを調査し、数百のデータベースを迅速に検索して、未知の化合物の仮同定ができます。
ACQUITY RDa 検出器を用いた精密質量スクリーニングにより、スポット発色試験や TLC では得られない優れたレベルのデータが得られ、押収薬物のケースワークでのスクリーニング結果の信頼性が高まります。更に、1 回目の注入で完全なデータセットが取り込まれているため、ターゲットリストのライブラリーで化合物が同定されない場合に、遡及的なデータ分析が行えます。
720007097JA、2020 年 12 月