このアプリケーションブリーフでは、Agilent 1260 Infinity Bio-Inert LC システムから、ACQUITY 30 cm シングルゾーンカラムマネージャー(CM-30S)を搭載した ACQUITY Arc Bio システムへの、モノクローナル抗体分析用サイズ排除クロマトグラフィー分析法の移管について説明します。 LC でのバンド拡散に基づいて最適な SEC カラムを選択することにより、同等の保持時間、モノマー、高分子種と低分子分解物の面積 %、ならびに再現性が得られました。
水系サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、タンパク質凝集体(高分子種、HMWS)の相対的定量で確立された手法です1。 タンパク質凝集体は、望ましくない免疫原性作用および有効性の低下と相関していることが、これまでに報告されています2。 このため、SEC 分析法では、さまざまな超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)システムの間での分析法移管の際に、HMWS の量を他の分解物の量とともに、再現性ある定量をできることが重要です。
分析法移管の際に考慮する必要がある重要な 1 つのシステム特性は、一般にバンド拡散とも呼ばれるカラム外拡散です。カラム外拡散が大きいと、特に固定相との相互作用が最小限またはまったくない拡散駆動型の分離である SEC 分離で、分離能にいつも悪影響が出てしまいます3。 LC システムに最適な SEC カラムサイズを選択することで、カラム外拡散の影響を最小限に抑えることができます4。これを説明するために、Agilent 1260 Infinity Bio-inert システムから CM-30S を搭載した ACQUITY Arc Bio システムへの SEC 分析法の移管を実証していきます。CM-30S は、ACQUITY Arc システム用のカラムマネージャーの新しい拡張です5。 これによって、より長いカラムが必要な従来の分析法を実行する機能が維持され、カラム格納本数が最大 15 カラム(2 つの CM-30S を使用)に拡張されて、より大きなカラムでの分析法開発が可能になります。
液体クロマトグラフィーでは、ピークのバンドの広がりは、およそカラム外拡散およびオンカラムの拡散ボリュームの合計です6。 カラム外拡散は実験によって決定できる値であり、5σec(ピーク高さの 4.4% でのピーク幅に流速を掛けた値)で表されます6,7。Agilent 1260 Infinity Bio-inert システムの 5σec 測定値は 31 µL であり、CM-30S を搭載した ACQUITY Arc Bio システムの場合は 50 µL です。分析法移管の主要な目標は、HMWS のパーセント面積と同等の定量値を得ることです。LC システムでのバンド拡散に基づく最適な SEC カラム選択のガイダンスに従い4、固定相粒子サイズ 3.5 µm の内径 7.8 mm × 300 mm の SEC カラムを選択しました。
乳がん治療に使用される抗 HER2 IgG1 モノクローナル抗体であるトラスツズマブ8(有効期限後)の SEC 分析を、Agilent 1260 Infinity Bio-inert システム(Agilent 1260 Bio)と、CM-30S を搭載した ACQUITY Arc Bio システムの両方で実行しました。図 1 に、2 つのシステムの間で、保持時間および分離能が同程度の同等なクロマトグラフィープロファイルが観察されることが示されています。両方のクロマトグラムで、単一の HMW のピークと 1 つの 低分子(LMW)のピークが、メインのモノマーピークからベースライン分離されました。モノマーピークに隣接して、分離されないショルダーピーク(「*」とラベル付け)が認められました。分析法の移管可能性を考慮して、モノマーピークはこのショルダーを含むように波形解析しました。
モノクローナル抗体やその他のタンパク質ベースの薬剤の製品ライフサイクルでは、タンパク質凝集が、望ましくない免疫原性応答や有効性の低下を引き起こす可能性があるため、主要な課題になっています。SEC 分離の最も重要な目標の 1 つは、凝集体、つまり HMW 分子種の割合を測定することです。表 1 に、両方の UHPLC システムでの HMW とモノマーの間の平均分離度(Rs)、ピーク高さの 50% でのピーク幅、HMW ピークのピークの 4.4% でのピーク幅が示されています。これら 2 つのシステムにわたる、HMW とモノマーの間の分離および HMW のピーク幅に、無視できるほどのわずかな違いが観察されました。
表 2 に、HMW のピーク、モノマーのピークおよび LMW 分子種のピークの面積 % と再現性をまとめています。面積 % の比較では、HMW、モノマー、LMW に差はなく、両システムにわたるすべての分析種の %RSD は、最大で 0 が 2 桁 の 0.00% であることが示されました。
CM-30S を搭載した ACQUITY Arc Bio システムは、Agilent 1260 Infinity Bio-inert システムよりカラム外拡散が大きいが、最適な SEC カラムを選択することにより、SEC 分離への影響は最小限に抑えられています。カラム外拡散は、オンカラム拡散に比べて十分に小さく、このため、これら 2 つの UHPLC システムの間で同等の分離が得られました。
モノクローナル抗体の SEC 分析法は、Agilent 1260 Infinity Bio-Inert UHPLC システムから、ACQUITY 30 cm シングルゾーンカラムマネージャー(CM-30S)を搭載した ACQUITY Arc Bio システムに正常に移管されました。重要品質特性である HMW 分子種の面積 % の差は、両システムにわたって 0.00% の範囲内でした。面積 % の再現性は、すべての分子種について 0.00% RSD 内に収まりました。
CM-30S で構成されている ACQUITY Arc Bio システムは、従来の SEC 分離でよく使用される内径 7.8 mm × 300 mm 長のカラムに容易に対応できます。このアプリケーションブリーフで、ACQUITY Arc Bio システムを用いた高分離能セパレーションの再現性と、凝集体、モノマー、フラグメントを正確に定量できることを実証しました。さらに、ACQUITY Arc Bio システムの構成に 2 つの CM-30S を組み込むと、最大 15 本のカラムまで格納できるようになり、最新の UHPLC システムとより大きなカラムでの分析法開発に利点をもたらします。
720007075JA、2020 年 10 月