研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。
このアプリケーションノートでは、生理活性オキシリピン類(酸化脂肪酸)の半定量的プロファイリングのためのターゲット UPLC-MS/MS 分析法を紹介します。ミックスモード固相抽出(Oasis MAX µElution SPE)と UPLC-MS/MS の組み合わせにより、ターゲットワークフローで使用する幅広いオキシリピン類に対応する分析法が実現します。92 種のオキシリピンの保持時間と MRM トランジションについて、バイオメディカル研究でのサンプルのルーチンターゲット分析用に詳述されています。
オキシリピンは重要な生理活性脂質であり、主な生物学的プロセス(特に炎症の発生と終息など)でとりわけ大きな役割を果たします。そのため、血漿/血清/細胞培養サンプル中の幅広い範囲のオキシリピン類の半定量的プロファイリングは、バイオメディカル研究に大きなメリットをもたらします。オキシリピンは、オメガ 6 系の多価不飽和脂肪酸(リノール酸、アドレン酸、アラキドン酸)およびオメガ 3 系の多価不飽和脂肪酸(α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸)の酵素的および非酵素的な酸化により生成されます(図 1 および図 2 を参照)。このクラスの化合物の生成に関連する主な代謝経路には、シクロオキシゲナーゼ(COX)、リポキシゲナーゼ(LOX)、シトクロム P450(CYP)経路があります。これらの経路は、多数の疾病に対する重要な薬剤のターゲットであるため、半定量的プロファイリング手法は、創薬に大きく関連しています。しかし、オキシリピン類の内因性濃度は低く、サンプル内の安定性が低いため、半定量分析は非常に困難です。さらに、脂肪酸の前駆体が分子のさまざまな位置で反応して、複数の異性体になる場合があります。そのため、分析特異性があり、感度の高い手法が必要です。これまでのオキシリピン類の測定は、放射測定法や酵素免疫測定法を使用して行われてきましたが、これらの分析法は多くの場合、特異性に欠けており、限られた数の化合物のみが対象でした。ガスクロマトグラフィー(GC-MS)分析法も使用されましたが、誘導体化などの複雑な手順が必要です。ここでは、血漿/血清/細胞培養サンプル中の 92 種のオキシリピンに対するターゲット UPLC-MS/MS 分析法を実証します。
ACQUITY UPLC I-Class システムに ACQUITY Premier BEH C18(2.1 x 150 mm)分析カラムを接続して、35 ℃ に維持し、UPLC 分離を行いました。3 μL のサンプルをカラムに注入し、逆相グラジエント条件で溶出しました。ここで、移動相 A には 0.01% ギ酸水溶液、移動相 B には 0.01% ギ酸アセトニトリル溶液を使用しました。オキシリピン類がカラムから溶出し、3 段階のリニアグラジエントを使用して分離しました。1 段階目は 25 ~ 28% の移動相 B の 4 分間のグラジエントで、2 段階目は 28 ~ 32% の移動相 B の 8 分間のグラジエントです。最後の 3 段階目は 32 ~ 95% の移動相 B の 14 分間のグラジエントで、その後カラムを 2 分間フラッシュ洗浄してから、再平衡化して、開始状態に戻しました。
オキシリピン類は、Xevo TQ-XS 質量分析計でマルチプルリアクションモニタリング(MRM)分析を用いて検出しました。すべての実験はエレクトロスプレーイオン化ネガティブモード(ESI‐)で実行しました。イオン源の温度とキャピラリー電圧は一定に保ち、それぞれ 150 ℃ と 2.0 kV に設定しました。コーンガス流量は 50 L/時間、脱溶媒温度は 650 ℃ でした。使用した MRM トランジションの詳細は表 1 に記載しています。
分析法の情報は、MassLynx 内の Quanpedia 機能を使用して LC-MS システムにインポートしました。この拡張可能で検索可能なデータベースにより、化合物の定量用に TargetLynx で使用する LC および MS メソッドならびに解析メソッドを作成できます。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class |
検出: |
Xevo TQ-XS |
カラム: |
ACQUITY Premier BEH C18(2.1 × 150 mm) |
カラム温度: |
35 ℃ |
サンプル温度: |
6 ℃ |
サンプル注入量: |
3 μL |
流速: |
0.4 mL/分 |
移動相 A: |
0.01% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.01% ギ酸アセトニトリル溶液 |
グラジエント: |
0 ~ 4 分 25 ~ 28% B 4 ~ 12 分 28 ~ 32% B 12 ~ 26 分 32 ~ 95% B |
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
イオン化モード: |
ESI- |
キャピラリー電圧: |
2.0 kV |
この研究の焦点は、血漿、血清、細胞培養サンプル中の生理活性オキシリピン類をプロファイリングするための、高感度で特異性の高い UPLC-MS/MS 分析法を実証することでした。オキシリピンは生体サンプル中に非常に低いレベルで存在し、正常に分析するには、適切なサンプル前処理が非常に重要です。関連性のないマトリックス成分をできるだけ除外し、低含有量の化合物に対する感度を最大限に高めるために、UPLC-MS/MS 分析の前に、陰イオン交換ミックスモード固相抽出(Oasis MAX SPE)を使用しました。このタイプの SPE は、特にマトリックスからの酸を対象として抽出し、標準の SPE 分析法よりはるかにクリーンなサンプルが得られます。
化合物クラスの 1 つとして、オキシリピン類には構造的に類似した同重体化合物が特に多く含まれています。これらの化合物を分離するには、適切なクロマトグラフィー条件が極めて重要です。ここで使用した逆相 UPLC 条件は、複数の同重体化合物の分離が可能になる条件を得るために、さまざまな移動相/固定相の組み合わせを比較した後、大幅に最適化しました。図 3 に、プールされているヒト血漿サンプルの代表的なクロマトグラムが示されており、サンプル中に最も多量に含まれているオキシリピン類の溶出順序が示されています。表 1 は、分子種 92 種すべての保持時間および最適化した MRM 条件の包括的なリストです。図 4 は、UPLC グラジエントの優れた特異性が実証されている例です。表示されているクロマトグラムから分かるように、マトリックスには、これらの同じ化合物の同重体がより多く含まれているため、溶媒標準試料から 2 つの構造異性体(PGE2 と PGD2 など)を分離する能力だけでは不十分です。ヒト血漿中の PGE2 および PGD2 の UPLC クロマトグラムには、これらの化合物の同重体がどれぐらいあるかが示されます(矢印は化合物のピークを示す)。
Xevo TQ-XS の ESI ネガティブモードを使用して、保持時間および最適な MRM トランジションを、個々のオキシリピン類すべてに対して確認しました(表 1)。これらの MRM トランジッションを、保持時間ごとに決定した取り込み幅にすることでトランジッションの重なりを削減し、十分なデータポイント数を確保することで定量性を改善しました。この UPLC-MS/MS 分析法を使用することで、血漿、血清、細胞培養サンプル中の 92 種のオキシリピンを迅速にプロファイリングしました。
ヒト血漿/血清/細胞培養サンプル中の 92 種のオキシリピンの研究分析のための UPLC-MS/MS 分析法が開発されました。この分析法は、生理的な濃度のオキシリピン類の分析に適していることが実証されています。ミックスモード固相抽出による特異性を、UPLC 分離、タンデム四重極型質量検出を組み合わせることで、バイオメディカル研究におけるオキシリピン類のターゲット分析のための、包括的な分析プラットホームが得られました。
720007030JA、2020 年 10 月