• アプリケーションノート

SPE および UPLC-MS/MS を用いた法中毒学のための全血中ホスファチジルエタノール(PEth)の分析

SPE および UPLC-MS/MS を用いた法中毒学のための全血中ホスファチジルエタノール(PEth)の分析

  • Jonathan P. Danaceau
  • Michelle Wood
  • Waters Corporation

法中毒学目的のみに使用してください。

要約

ホスファチジルエタノール(PEth)分子種は、その選択性と、他のアルコールバイオマーカーと比較して比較的長い半減期のため、最近ますます関心を集めているアルコール摂取の直接バイオマーカーです。ウォーターズは、この分析法に必要な性能と分析感度を達成するために、Ostro パススルーサンプル前処理プレート、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム、Xevo TQ-S micro を用いた、全血からの PEth 16:0/18:1 および 16:0/18:2 の迅速、クリーンで堅牢な抽出メソッドを開発しました。

アプリケーションのメリット

  • 全血からの PEth の迅速、簡単、クリーンな抽出
  • 10 ng/mL(0.014 μM)までの分析感度
  • キャリーオーバーのない迅速なクロマトグラフィー
  • 分析範囲全体にわたる正確で精密な定量

はじめに

ホスファチジルエタノール(PEth)分子種は、エタノール存在下で細胞膜中に生成される異常リン脂質です。40 を超えるホモログが報告されています。ただし、全血中で最も豊富な PEth 分子種は、16:0/18:1 および 16:0/18:2 であり、全 PEth のうちそれぞれ約 37% および 25% を占めています1。 PEth は、中度のアルコール摂取量の場合でも直接マーカーであり、年齢、性別、肝疾患などの要因の影響を受けないようです。PEth は、飲酒のパターンや行動の識別に使用できます(たとえば、中等度、過剰な飲酒、短時間に大量の飲酒)。尿中でモニターするエチルグルクロニド(EtG)やエチル硫酸(EtS)の検出期間が 3 ~ 4 日間であるのに対し、PEth は 3 ~ 4 週間と比較的長期間にわたって検出できるため、飲酒マーカーとして最近ポピュラーになっています。PEth には、EtG や EtS などの他のバイオマーカーや化合物と比較して、高度の選択性があります2-5。 ベースライン PEth 濃度は、断酒中の個人では通常 10 ng/mL (0.014 μM) 未満であり、中等度の飲酒行動を示すカットオフ値 0.05 μM が提案されています3。 濃度が 0.3 μM(210 ng/mL)を超えると、重度の飲酒または短時間での大量の飲酒を示すと提案されています2。 ただし、全血中の PEth の抽出と分析には、これらの分子の極度の疎水性と独特の化学的性質のために、いくつかの固有の分析上の課題があります。

本書では、固相抽出(SPE)を使用する PEth の定量分析用のソリューション、続いて全血中 PEth 16:0/18:1 および PEth 16:0/18:2 の分析のための迅速な UPLC-MS/MS 分析法について詳しく説明します。Ostro パススルーサンプル前処理プレートを、簡単な 2 ステッププロセス(ロードおよび溶出)で使用しました。メソッドの最適化により、逆相特性と HILIC 特性の両方を有すると思われる独特の複合保持特性が明らかになりました。50:50 ACN:IPA で構成される強力な移動相と組み合わせた BEH C8 カラムでの溶出により、検出できるキャリーオーバーがないほどの迅速なメソッドが実現しました。

実験方法

試料

PEth 16:0/18:1、PEth 16:0/18:2、および重水素化類似体 PEth 16:0/18:1-D5 は、Cerilliant(テキサス州、Round Rock)から入手しました。PEth 16:0/18:1-D5 は、両分子の内部標準試料として使用しました。全血は Lampire Biological Products (ペンシルベニア州、Pipersville)から入手しました。

分析法

100 マイクロリットルの全血を 2 段階で沈殿させました。まず、50 ng/mL の重水素化内部標準試料が含まれている 200 μL のイソプロパノール(IPA)を添加し、5 ~ 10 秒間ボルテックス混合してサンプルを完全に混合しました。次に、0.1% ギ酸(FA)が含まれている ACN 800 μL を即座に添加し、サンプルを再度ボルテックス混合しました。次に、このサンプルを 21K rcf で 10 分間遠心分離し、上清を Waters Ostro パススルーサンプル前処理プレートに直接ロードしました。サンプルを、2 × 400 μL アリコートの 60:20:20 ACN:IPA:水で溶出しました。20 マイクロリットルを Xevo TQ-S micro タンデム四重極型 MS と組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム(FTN)を用いて分析しました。

分析種は、1.7 μm Waters BEH C8 カラム(2.1 × 50 mm)で、40 ℃ でクロマトグラフィー分離しました。移動相 A(MPA)は 0.1% ギ酸が含まれている 5 mM ギ酸アンモニウム、移動相 B は 50:50 ACN:IPA でした。流量は 0.5 mL/分でした。溶媒ランプは 50:50 MPA : MPB で開始し、3 分間で 100% MPB まで増加しました。キャリーオーバーを最小限に抑えるために、分析後、50:50 MPA:MPB から 100% MPB への 30 秒間の高速ランプを 2 回追加しました。サンプルはネガティブ ESI モードで分析しました。各化合物に対して 2 回のトランジションをモニターしました。MS パラメーターは表 1 にリストされています。検量線は 10 ~ 1000 ng/mL(0.014 ~ 1.4 μM)の範囲で生成しました。分析法は、抽出の回収率、マトリックス効果、直線性、正確度、精度、分析感度、キャリーオーバー、希釈の完全性、抽出サンプルの安定性についてバリデーションしました。

表 1. MS パラメーター

結果および考察

サンプルのクリーンアップ

分析法の最適化により、Ostro 吸着剤での PEth に対する可能性のあるマルチモデル保持メカニズムが明らかになりました。吸収剤から PEth を溶出させるために、かなりの割合の水(20%)と、別のプロトン性溶媒(MeOH または IPA)が必要であったため、HILIC 特性が多少あるように思われました。同時に、PEth の高い親油性のため、強力な逆相溶出溶媒も必要でした。第三の共溶媒としてメタノールではなく IPA を使用することで、回収率が向上し、一貫性が向上しました。最適化後の最終溶出溶媒は、60:20:20 ACN:水:IPA でした。

この抽出法により、イオン化抑制が最小限に抑えられ、回収率が高くなり、メソッドの分析感度要件が容易に満たせます。この抽出メソッドは簡略で、効率的、クリーンでした。PEth 16:0/18:2 および PEth 16:0/18:1 の回収率は、それぞれ平均で 88% および 79% でした。抽出には再現性があり、すべての %RSD は 10% 未満でした。マトリックス効果は、両分子とも最低で、13% 未満でした。回収率およびマトリックス効果の結果は表 2 に示されています。

表 2. 回収率およびマトリックス効果

クロマトグラフィー

UPLC-MS/MS メソッドは最適化され、キャリーオーバーを最小限に抑えつつ、メソッドの必要な保持と選択性のバランスが取れていました。これは、C8 カラムと、組成が 50:50 ACN:IPA の強力な移動相 B を用いることで達成されました。最初のメソッド開発では、C18 カラムの保持力が強すぎ、ACN のみの移動相では PEth を十分に溶出させてキャリーオーバーを防ぐには強度が不十分であることが示されました。移動相の最適化に加えて、分析ランプの後に急速な鋸歯状グラジエントを使用して、キャリーオーバーの可能性をさらに最小限に抑えました。ここで説明した条件を使用することにより、PEth 16:0/18:1 と PEth 16:0/18:2 は相互にベースライン分離され、全血中の他の干渉物質からも分離されました。このことは、図 1 の PEth 16:0/18:1 および PEth 16:0/18:2 の後に溶出する広いピークによってわかります。PEth 16:0/18:1 および PEth 16:0/18:2 の保持時間はそれぞれ 2.54 分および 2.64 分でした。高濃度標準試料(1000 ng/mL)を注入した後でも、検出可能なキャリーオーバーはありませんでした。

図 1. PEth クロマトグラフィー

定量バリデーション

この分析法の分析感度は十分であり、両分子の定量限界は 10 ng/mL(0.014 mM)で、文献で報告されている検出法の要件および検出限界に容易に適合しました2,3。 血液マトリックスに少量の PEth が存在しましたが(約 5 ng/mL)、分析法のバリデーションにより、10 ng/mL の添加を最も低いキャリブレーションレベルで容易に識別し、正確に定量できることが明らかになりました。このメソッドは、10 ~ 1000 ng/mL(0.014 ~ 1.4 μM)で直線性でした。PEth 16:0/18:1 および PEth 16:0/18:2 の検量線が図 2 に示されています。

図 2. PEth の検量線

正確度および精度

正確度と精度の結果が表 3 に示されています。すべての正確度はターゲット値の 15% 以内で、そのほとんどは 10% 未満でした。%RSD はすべて 13% 未満で、そのほとんどは 10% 未満でした。定量限界は、最低のキャリブレーター(10 ng/mL)として定義され、バリデーション時に確認されました。正確度は 15% 以内で、%RSD は 5.1% でした。

表 3. 正確度および精度

結論

全血中の PEth 16:0/18:1 および PEth 16:0/18:2 の定量分析のためのバイオ分析メソッドを開発しました。この分析法では、除タンパクの後に、Ostro パススルーサンプル前処理プレートを使用する簡単な抽出を行います。Waters ACQUITY UPLC システムおよび Xevo TQ-S micro 質量分析計を使用した分析により、直線的、正確、精密で、検出可能なキャリーオーバーがなく、推奨カットオフレベル 0.05 μM に容易に適合するために必要な分析感度がある分析法が得られました。

参考文献

  1. Helander, N. et al.  Molecular Species of the Alcohol Biomarker Phosphatidylethanol in Human Blood Measured by LC-MS.2009.Clin.Chem., 55(7):1395–1405.
  2. Andreassen, T., et al.High Throughput UPLC-MS/MS Method for the Analysis of Phosphatidylethanol (PEth) 16:0/18:1, A Specific Biomarker for Alcohol Consumption, in Whole Blood.2018.J. Anal.Tox. 42(1): 33–41.
  3. Kechegias, S. et al.Phosphatidylethanol Compared with Other Blood Tests as A Biomarker of Moderate Alcohol Consumption in Healthy Volunteers: A Prospective Randomized Study.2015.Alcohol and Alcoholism 50(4): 399–406.
  4. Stewart, S.H. et al., Phosphatidylethanol and Alcohol Consumption in Reproductive Age Women.Alcoholism: Clinical and Experimental Research, 2010.34(3): 488–492.
  5. Ohuou, P. et al.UPLC-MS/MS Method for Quantitation of EtG and EtS in Human Urine.Waters Customer Communication, 2018.720006273EN.

720007120JA、2021 年 1 月

トップに戻る トップに戻る