ソフトドリンクには、添加物としてカフェイン、安息香酸塩、ソルビン酸塩、アセスルファムカリウム、サッカリン、アスパルテームが含まれていることがあります。飲料製造工場での品質管理においては、ソフトドリンク製品中のこれらの添加物の濃度が目標レベルに適合していることが不可欠です。ソフトドリンクの分析における潜在的な問題の 1 つはアスパルテームの分解です。アスパルテームの分解物が共溶出して、対象添加物の定量に干渉する可能性があるためです。この試験では、アスパルテームの分解について調査し、分解物によるクロマトグラフィーに対する干渉を排除する方法の最適化について記載します。また、Arc HPLC システムでの注入の直線性および正確度も調査し、その性能をメスピペットを使用した場合と比較しました。この最適化された飲料分析により、高速でシンプルかつ正確な HPLC 分析法が得られ、ソフトドリンク製造環境における全体的な生産性が向上します。
多くの場合、ソフトドリンクには、覚醒作用や香り付けのためにカフェイン、保存料として安息香酸ナトリウムおよびソルビン酸カリウム、およびアセスルファムカリウム(Ace-K)、アスパルテーム、サッカリンなどの人工甘味料が含まれています。品質管理(QC)の観点から、最終製品に含まれるこれらの一般的な 6 種類の添加物の濃度を、指定範囲に適合させることが重要になります。ソフトドリンク分析における潜在的な問題の 1 つは、アスパルテームの分解です1。アスパルテームの分解物が共溶出して、対象添加物の定量に干渉する可能性があるためです。本研究では、アスパルテームの分解について調査し、Arc HPLC システムで使用する既存の飲料分析法を最適化しました。その結果、飲料添加物の分析が迅速かつシンプルになり、アスパルテーム分解物による添加物の定量への干渉が排除されました。この分析法では、環境に優しい調合済みの移動相、洗浄溶媒、および標準品が含まれている Waters 飲料分析キットを使用します。Arc HPLC システムでは、従来の HPLC テクノロジーと比べてインジェクター設計が改善されており、最大動作圧力が高いため、ルーチン検査法の精度、正確度、速度を向上できます。このアプリケーションノートでは、飲料分析に Arc HPLC システムを使用する利点について説明します。
主流のソフトドリンクブランドのダイエットコーラ 2 種類および普通のコーラ 1 種類を最寄りの店で購入しました。これらのソフトドリンクのサンプルを、1 分間超音波処理して炭酸を除去し、0.2 μm PVDF フィルター(製品番号 WAT200806)でろ過しました。必要なサンプル前処理はこれだけです。
LC 条件 |
||
システム: |
Arc HPLC システム |
|
サンプルループ: |
標準(50 μL) |
|
カラム: |
XBridge BEH Phenyl XP カラム、130Å、2.5 μm、4.6 mm × 100 mm(製品番号 186006075) |
|
バイアル: |
LCGC 品質証明透明ガラスリカバリーバイアル(製品番号 186003270) |
|
温度: |
35 ℃ |
|
移動相 |
Waters 飲料分析移動相試薬(製品番号 186006006) |
|
サンプルマネージャーパージ溶媒: |
Waters 飲料分析移動相試薬(製品番号 186006006) |
|
サンプルマネージャー洗浄溶媒: |
Waters 飲料分析洗浄溶媒(製品番号 186006007) |
|
シール洗浄溶媒: |
Waters 飲料分析洗浄溶媒(製品番号 186006007) |
|
流速: |
1.6 mL/分(アイソクラティック) |
|
分析時間: |
12.0 分 |
|
注入量: |
5 μL |
|
検出器: |
2998 PDA 検出器 |
|
検出: |
UV @ 214 nm |
|
ソフトウェア: |
Empower 3 CDS |
|
図 1(A)に、Arc HPLC システムで 0.2 ~ 20 μL を注入した場合の、ソフトドリンク添加物のピーク面積と注入量との関係を示します。データセットには、様々な注入量で繰り返し注入した際の結果が含まれます(n=6、注入順序はランダム)。これらの添加物について、原点を通る線を最小二乗回帰(重み付けなし)で近似しました。すべての近似線で優れた直線性が得られました(R2 >0.9999)。図 1(B)は、図 1(A)の近似線における残差プロットを示します。これは、異なる注入量における注入量の正確度を示しています。また、比較のため、メスピペットの ISO 最大許容系統誤差3 も図 1(B)にプロットしました。(注入量が 1 μL 未満の場合の ISO 限界値は使用できません)。観測された注入量の相対誤差は、ピペットの ISO 限界値の範囲に十分収まっていました。更に、このレベルの容量正確度は、メスピペットを使用する食品検査ラボで得られた容量正確度よりも良好であることが分かりました4。これらの結果により、Arc HPLC システムが、少なくとも 2.5 μL 以上の注入量では、メスピペットよりも正確な容量を送液できることが示されました。
アスパルテームは不安定で、特定の条件下では 5-ベンジル-3,6-ジオキソ-2-ピペラジン酢酸(ジケトピペラジン誘導体または DKP)、アスパルチル-フェニルアラニン(Asp-Phe)、フェニルアラニン(Phe)、およびその他の化合物に分解することがあります1。これらのアスパルテーム分解物は、添加物と共溶出し、定量に干渉する可能性があります。図 2 に、加熱(60 ℃ で 5 時間および 30 時間)ならびに非加熱の状態での標準溶液のクロマトグラムの比較を示します。標準品を加熱すると、保存時間(RT)1.51 分の未知ピーク 7 および RT 3.16 分のピーク 8 が増大することが分かりました。DKP、Phe、および Asp-Phe の各標準品が同じ条件下で分離され、これらの RT および UV/Vis スペクトルを使用して PDA UV/Vis スペクトルライブラリーを作成しました。Empower のライブラリー検索機能を使用して、ピーク 7 を Asp-Phe、ピーク 8 を DKP にそれぞれ割り当てました。図 3 に、Empower UV/Vis スペクトルライブラリー検索結果のスクリーンショットを示します。 フェニルアラニンもピーク 7 と同じ RT で溶出しますが、UV/Vis スペクトルではピーク 7 のスペクトルと一致しません。この点からは、ソフトドリンクの安定性試験で検出された Phe の量が少なかったという知見と一致します1。
Waters 飲料分析キットは、多くのソフトドリンク製造工場で使用されています5。 ここでは、様々な粒子径とカラム寸法の XBridge BEH Phenyl カラムを様々な流速でスクリーニングし、Arc HPLC システムで最適な分離を達成しました。評価した主な最適化基準は、分析時間、Ace-K とアスパルテーム分解物(Phe)の間の分離、および溶媒使用量でした。FDA のガイダンスに従って、分離基準として最小分離値 2.0 を使用しました(R > 2.0)6。表 1 に、5 μm の 4.6 × 150 mm カラムおよび 2.5 μm の 4.6 × 100 mm カラムのスクリーニング結果を示します。2.5 μm の 4.6 × 100 mm カラム(流速 1.6 mL/分)では分析時間が短く、分離度が優れ、溶媒使用量が少ないことから、最適な条件として選択しました。5 μm の 4.6 × 150 mm カラム(流速 2.50 mL/分)でも分析時間と分離度について十分な結果が得られましたが、溶媒使用量が多く、理論段数が比較的少ないという結果になりました。また、3 × 100 mm、4.6 × 75 mm などのより小さい XBridge BEH Phenyl 2.5 μm カラムもスクリーニングしましたが、Ace-K と Phe の間の分離度が 2.0 未満でした。(結果は表 1 に含まれていません)。特筆すべき点として、Arc HPLC の最大動作圧力は 9,000 psi と高いため、より高い流量で分析を実行でき(表 1 を参照)、その結果、分析時間がさらに短くなる(12 分)ことが挙げられます。
図 4 に、3 つのソフトドリンクのサンプル(SD1、SD2、SD3)のクロマトグラムおよび添加物濃度の測定値を示します。表 2 に、これらのソフトドリンクサンプルの分析結果を示します。カフェイン含有量の測定値は、製品パッケージに記載されているカフェイン値の 98.5% ~ 100% でした。すべての測定において、RSDr(再現性精度)は 0.4% 未満で RSDir(室内再現精度)は 1.16% 未満の値が得られました。
これらのソフトドリンクサンプルのカフェインレベルは 107 mg/L ~ 192mg/L で、飲料分析標準品中のカフェインレベルよりも高くなっています。通常、サンプル中のカフェインのピーク面積をキャリブレーション範囲内に収めるには、サンプルの希釈が必要です。ここでは、Arc HPLC システムの優れた注入量正確度(図 1 を参照)を活用することで、ソフトドリンクサンプルの注入量を減らし(SD1 および SD2 では 4 μL、SD3 では 2.5 μL)、サンプル中のカフェインのピーク面積をキャリブレーション範囲内に収めることができました(図 4 を参照)。これにより、ワークフローの効率が改善し、手作業でサンプルを希釈する際に発生する可能性のある人的ミスが排除されます。サンプルおよび標準品の注入量が若干変化しても、分離および定量に影響しませんでした。
このアプリケーションノートでは、PDA 検出器搭載 Waters Arc HPLC システムで Waters 飲料分析キットを使用した、ソフトドリンク添加物分析のための高速かつシンプルで、正確な分析法を実証しています。アスパルテーム分解物のピークが同定され、最適化した条件下での対象添加物の定量に対する潜在的な干渉が排除されました。Arc HPLC システムの優れた注入正確度は、メスピペットの ISO 要件を満たしています。これにより、レスポンスをキャリブレーション範囲に適合させるために、サンプル注入量を減らすことがサンプル希釈の代替法になります。Arc HPLC システムで Waters 飲料分析キットを使用したこの飲料分析を導入することで、ソフトドリンク製造環境における全体的な生産性を向上させることができるとともに、以下の重要な利点を享受できます。
720007219JA、2021 年 4 月