研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。
エレクトロスプレーイオン化質量分析を用いたビタミン K1(フィロキノン)の分析は、分子の疎水性とイオン化部位の欠如のために困難な課題です。もう 1 つの問題として、血清中のビタミン K1 濃度が低いこと(0.1 ng/mL 以下)が挙げられます。
エレクトロスプレーイオン化機能を備えた UPLC-MS/MS を用いて、血清中のビタミン K1 を分析する新しい臨床研究法が開発されました。サンプル前処理には、200 µL の血清を用いた PRiME µElution 固相抽出を使用しています。ACQUITY UPLC HSS PFP カラムケミストリーを搭載した ACQUITY UPLC I-Class FTN と Xevo TQ-S micro を用いた水/メタノール/フッ化アンモニウムのグラジエントを使用して、測定間隔の下限値 0.05 ng/mL を達成でき、再現性のある精度が得られました。また、安定同位体標識内部標準(13C6-ビタミン K1)を用いて、イオン化抑制の補正を行いました。
ビタミン K は腸で吸収される脂溶性ビタミンの一群を指します。ビタミン K は、ビタミン K1 と複数の形態からなるメナキノン類のビタミン K2 で構成されています。
ビタミン K は脂溶性ビタミンであり、血清中に低濃度で存在するため、結果の分析感度と選択性を向上させるために、従来は超臨界液体クロマトグラフィー(SLC)や大気圧化学イオン化(APCI)などの手法を使用してきました。
このアプリケーションノートでは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を使用した UPLC-MS/MS 法を開発しました。これにより、高い分析感度が得られ、臨床研究での使用に要する時間が短縮されることが実証されました。このアプリケーションノートでは、UPLC-MS/MS エレクトロスプレーイオン化を使用して、わずか 3 分間でビタミン K1 を抽出および分析する臨床研究法について説明します。抽出したサンプルのクロマトグラフィーは、ACQUITY UPLC HSS PFP カラムを装着した ACQUITY UPLC I-Class システムで実行し、Xevo TQ-S micro タンデム四重極型質量分析計で質量検出を行いました(図 1)。
200 µL の血清に、内部標準を含むエタノール 600 µL を添加しました。サンプルを混合して遠心分離しました。上清を Oasis PRiME HLB µElution プレートにロードし、洗浄してヘプタンを用いて溶出しました。乾燥後、抽出物をメタノールと水に再溶解しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-ClassFTN |
検出: |
Xevo TQ-S micro |
バイアル: |
拡張 1 mL ガラスインサート付き 96 ウェルプレート(Waters 製品番号 186000855) |
カラム: |
ACQUITY UPLC HSS PFP 2.1 × 50 mm、1.8 µm(Waters 製品番号 186005965) |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
20 μL |
流速: |
0.6 mL/分 |
移動相 A: |
0.05 mM フッ化アンモニウム水溶液 |
移動相 B: |
0.05 mM フッ化アンモニウムメタノール溶液 |
グラジエント: |
表を参照 |
MS システム: |
Xevo TQ-S micro |
イオン化モード: |
ポジティブモードのエレクトロスプレーイオン化 |
取り込みモード: |
MRM(マルチプルリアクションモニタリング)、詳細については表を参照 |
キャピラリー電圧: |
1.2 kV |
ソース温度: |
150 ℃ |
脱溶媒温度: |
650 ℃ |
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.2(TargetLynx XS アプリケーションマネージャーを搭載) |
以下は、ビタミン K1 と、ヒト血清サンプルからの濃度 0.14 ng/mL の内部標準のクロマトグラム例です(図 2)。
高濃度サンプルから後続のブランク注入へのシステムキャリーオーバーは観察されませんでした。サンプルを 5 日間(n = 25)にわたり 5 回繰り返し抽出して測定することで、精度を評価しました。合計精度と併行精度は、QC 濃度 0.2、0.5、および 4 ng/mL のビタミン K1 について CV 5.4 % 以下でした(表 1)。
5 日間にわたって処理済み血清中に調製した低濃度ビタミン K1 サンプルを 10 回繰り返し抽出・定量することで、分析感度を評価しました。測定間隔の下限(LLMI)は、精度が CV 20 % 以下、バイアスが CV 15 % 以下の最低濃度であると判定されました。さらに、システムが一貫してブランクの血清プール(内因性濃度)と評価対象のプールの差を測定できる濃度についても検討しました。LLMI の濃度は 0.05 ng/mL とみなされました(表 2)。
この分析法は、低濃度のプールと高濃度のプールを一定の範囲にわたって既知の比率で混合した場合、ビタミン K1 について 0.077 ~ 26 ng/mL の範囲にわたって直線性があることが分かりました。スパイクした処理済み血清中のすべての検量線は直線性で、決定係数(r2)は ≥ 0.995 でした。
典型的な内因性干渉物質(アルブミン、ビリルビン、クレアチニン、コレステロール、トリグリセリド、および尿酸)および外因性化合物(レチノール、α-トコフェロール、ビタミン K1 2,3-エポキシド、ビタミン K2 2,3-エポキシド、およびビタミン K2)を試験したところ、対照と比較して試験サンプルの回収率はすべて ±7.6% 以内でした。回収率の範囲が 85 ~ 115% を超える場合、干渉物質があると見なしました。
マトリックス効果の調査は、6 名のドナーの血清サンプルを用いて行いました。内因性ピーク面積は個別に定量し、低濃度および高濃度レベルの添加済みサンプルは、溶媒添加サンプルと比較できるように、平均ピーク面積を用いて調整しました(表 3)。ビタミン K1 の大幅なイオン化抑制が見られましたが、内部標準によって十分補正できることが示されました。
ALTM(全ラボトリム平均)と比較して計算した濃度の 9 つの KEQAS(英国ロンドン、ビタミン K 外部精度保証制度)のビタミン K1 サンプルを分析することにより、正確度を評価しました。結果を表 4 に示しますが、平均バイアスは 0.19 ~ 3.78 ng/mL の範囲にわたって 7.1% と、その制度とほぼ一致しています。
APCI を使用して独自に開発した SPE-LC-MS/MS 分析法との比較を行うために、匿名の血清サンプルのセット(n=66、0.11 ~ 2.05 ng/mL)を入手しました。デミング方程式 y = 0.97x - 0.07 が得られ、有意な比例バイアスはないものの、統計的に有意な定数バイアスがあることがわかりました。プロットを図 3 に示します。
QC 濃度にわたる回収率(抽出効率)は 80.2 ~ 93.2% の範囲で、全体平均は 84.9%、全体 CV は 8.6% でした。
臨床研究用の血清中ビタミン K1 の分析は困難なことから、高速な分析法を開発しました。この分析法では、短い分析時間でサンプルのハイスループットが得られます。分析感度調査では、血清中の濃度 0.1 ng/mL 以下のビタミン K1 が確実に検出できる可能性が示唆されています。この分析法には、精度が非常に高い、キャリーオーバーがない、必要な範囲にわたって直線性、試験した内因性化合物および外因性化合物からの干渉がない、選択した内部標準によるマトリックス効果がない、抽出効率が一貫しているなどの特徴があります。また、独自の LC-MS/MS 法との比較で良好な一致が見られ、EQA サンプルとも一致していることが示されました。
分析法比較のためのサンプルをご提供くださった、Biochemistry and Immunology Laboratory Center(デンマーク、Vejle)のAnne Schmedes 氏に感謝致します。
720007169JA、2021 年 2 月