PDA 検出器を搭載した Arc HPLC システムを用いた、飲料およびマルチビタミン製品中の水溶性ビタミン類およびカフェインの分析
要約
マルチビタミン錠剤と飲料中の 10 種類の水溶性ビタミンおよびカフェインを検出・定量するための頑健な分析法が開発されました。Arc HPLC-PDA と XSelect HSS T3 XP 分析カラムを組み合わせることで、16 分間で 10 種類のビタミンとカフェインを分離できます。分析法の直線性、正確度、再現性、および頑健性を評価して、栄養補助食品および飲料製品のルーチン分析のためのシステムおよび分析法の性能を評価しました。
アプリケーションのメリット
- マルチビタミン錠剤とビタミン飲料の 16 分間での効率的な試験方法
- XSelect HSS T3 XP カラムと Arc HPLC-PDA の組み合わせによる優れた再現性、正確度、精度
はじめに
ビタミン類は健康維持、人体の成長促進のために不可欠です。食事と食物からの摂取だけでは、一日に必要なビタミンレベルを得るのには不十分な場合があります。その結果、消費者が必要な摂取レベルを得られるように、多くのメーカーがマルチビタミン錠剤やビタミン強化飲料などのサプリメントを製造しています。一部のマルチビタミンは、フルーツジュース、ビタミンウォーター、栄養ドリンク、スポーツドリンクなどの多くの人気商品に含まれています。
米国食品医薬品局(FDA)は、ビタミン摂取の推奨レベルを確立しており、過剰摂取や過剰消費を防ぐための重要な情報を消費者に提供するために、製品の正確なラベル付けを要求しています。食品・飲料メーカーは、製品に含まれているビタミン化合物、着色料、およびその他の添加物を明確に表示することが要求されています。メーカーは、食品へのビタミン類やミネラルの添加に関する欧州規則(EC)No.1925/20061 や 21 CFR(米国の連邦規則集)Part 101(食品表示2 )および Part 104(食品の栄養品質ガイドライン)などの厳格な規制要件に準拠する必要があります3。食品・飲料メーカーでは、製品が配合された後に、製品の栄養成分を分析してラベルの内容を確実に実証するための、迅速で信頼性が高く、費用対効果の高い方法が必要になります4。
このアプリケーションノートでは、マルチビタミン錠剤とビタミン強化飲料に含まれる 10 種類の水溶性ビタミンとカフェインを検出・定量するために開発された頑健な分析法について概説しています。分離は、XSelect HSS T3 XP 分析カラムと組み合わせた Arc HPLC-PDA を用いて実施しました。
実験方法
材料と試薬
標準品およびバッファー塩
ビタミン類、カフェイン標準品、およびリン酸二水素ナトリウムは Sigma-Aldrich から入手しました。
リン酸は Honeywell Research Chemicals から入手しました。
マルチビタミン錠剤とビタミン飲料のサンプルは、最寄りの店(米国マサチューセッツ州)で調達しました。
サンプル前処理
標準試料の調製
個々のビタミンおよびカフェインの標準試料のほとんどは、濃度 10 mg/mL の水溶液になるように調製しました。葉酸、ビオチン、リボフラビンは、100 mM 水酸化ナトリウムで調製しました。標準ストック溶液は 4 ℃ で保存しました。ビタミン類とカフェインの混合標準液は、水で連続希釈して 100 µg/mL に調製しました。検量線範囲は 0.4 ~ 100 µg/mL でした。アスコルビン酸は他のビタミンと混合すると不安定になるため、分析のために検量線用の混合液を新たに調製する必要がありました。
成人用および小児用のマルチビタミン
個々の成人用および小児用のマルチビタミン錠剤を 3 回の繰り返しで別々の 50 mL 遠心分離チューブに入れ、50 mL の水を添加しました。サンプルを 10 分間振とうした後、5 分間遠心分離しました。上清を集め、ペレットにさらに 50 mL の水を加えました。サンプルを 10 分間振とうし、5 分間遠心分離しました。上清を集め、最初の上清と合わせました。100 mM 水酸化ナトリウムを 20 mL ペレットに加え、さらに 10 分間振とうし、5 分間遠心分離しました。上清を別々に集めて注入しました。サンプル中のビタミン濃度が異なっていたため、1 μL および 10 μL の注入量を使用してサンプルの希釈を減らし、サンプルを定量しました。
ビタミン飲料
ビタミン強化飲料を 0.2 μm の PVDF シリンジフィルターでろ過しました。サンプル中のビタミン類の濃度はさまざまでした。したがって、サンプルを希釈せず、1 μL および 10 μL の注入量でサンプルを定量しました。
LC 条件
LC システム: |
Arc HPLC システム |
検出: |
PDA 単一波長 @ 205 nm、254 nm 2998 PDA スペクトル 200 ~ 400 nm で分解能 1.2 nm |
バイアル: |
ポリプロピレン 12 × 32 mm スクリューネックバイアル(製品番号:186005220) |
フィルター: |
シリンジフィルター 0.2 μm PVDF(製品番号:WAT200806) |
カラム: |
XSelect HSS T3 XP カラム、100 Å、2.5 μm、4.6 mm × 150 mm(製品番号:186006741) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
5 ℃ |
注入量: |
1 μL および 10 μL |
流速: |
1.0 mL/分 |
移動相 A: |
25 mM リン酸ナトリウム、pH 3.0 |
移動相 B: |
メタノール |
弱洗浄: |
水/メタノール = 95:5 |
強洗浄: |
アセトニトリル/水/イソプロパノール = 50:25:25 |
シール洗浄溶媒: |
水/メタノール = 95:5 |
Gradient Table
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 クロマトグラフィーデータソフトウェア(CDS) |
結果および考察
水溶性ビタミン類とカフェインの分析法条件は、さまざまな移動相、pH 条件、および温度条件で複数の実験を実施することによって評価しました。分離メソッドには、温度 30 ℃ で pH 3 の 25 mM リン酸ナトリウムを選択しました。ビタミン類とカフェインの吸光度を、個々のビタミンの最大吸収について評価しました。パントテン酸カルシウム(B5)を除き、ほとんどのビタミンは波長 254 nm と 205 nm で検出でき、ビオチン(B7)は 205 nm でのみ観測できます。分析時間を短縮するため、この試験では 205 nm と 254 nm の吸光度波長を使用して、ビタミン類とカフェインを分析しました。ビタミン類とカフェインの保持時間と UV 吸光度を図 1 に示します。
検量線:直線性、面積の精度、および保持時間
水溶性ビタミン類とカフェインのマルチポイント検量線は、水で連続希釈して作製しました。標準溶液は 2 回繰り返し調製し、各濃度レベルについて 6 回繰り返し注入しました。検量線は 0.4~100 µg/mL で生成され、良好な直線性(R2 > 0.999)を示しました。アスコルビン酸(ビタミン C)の分解が約 4 時間後に見られました(R2 > 0.9983)。化合物の安定性のため、ビタミン C について直線性が得られるように、標準溶液を調製直後に分析しました。ビタミン類とカフェインの検量線を図 2 に示します。
LOD(3:1)と LOQ(10:1)を計算するためのビタミン類とカフェインのシグナル対ノイズ比(s/n)は、Empower ソフトウェアでのピーク間測定に基づいています。s/n 値は、205 nm と 254 nm の両方での UV 吸光度の分析から取得しました。254 nm での s/n 比 0.4 µg/mL の計算に使用した濃度での代表的なクロマトグラムに、ほとんどのビタミン類の LOQ レベルが示されています(図 3)。ビオチン、パントテン酸カルシウム、シアノコバラミンの s/n 比は、波長 205 nm のデータを使用してさまざまな濃度レベルで取得しました。表 1 に、ビタミン類とカフェインの LOD、LOQ、およびピークテーリングのまとめを示します。
保持時間と面積の再現性は、検量線の各濃度レベルの %RSD によって計算しました。ほとんどのビタミンとカフェインの保持時間の %RSD は、ビタミン C(約 2%)を除いて約 0.8% でした。ほとんどのビタミンの %RSD 面積は 2% 未満でした。保持時間精度の %RSD と面積精度の %RSD の結果を図 4A および 4B に示します。
分析法の頑健性
温度と pH の影響:
この分析法について異なる温度(28 ℃、30 ℃、32 ℃)を評価しました。
温度を 32 ℃ に上げても、ほとんどのビタミン類とカフェインで依然として良好な分離が維持されていました。ただし、ニコチンアミドとピリドキシンの間の分離は、温度上昇につれて低下しました。結果を図 5A に示します。
この分析法について異なる pH レベル(pH 2.8、pH 3.0、pH 3.2)を評価しました。
pH を 3.2 に上げても、ほとんどのビタミン類とカフェインで依然として良好な分離が維持されていました。チアミンとアスコルビン酸(ビタミン C)の間の分離は、pH 上昇につれて低下しました。結果を図 5B に示します。
カラム寿命および圧力トレース
このカラムを集中的に使用して分離メソッドの条件を評価し、ビタミン製品を分析しました。カラム寿命の再現性は、注入した新しい 100 µg/mL 標準溶液の最初のグラジエントから約 800 回の注入後の保持時間に基づいており、100 µg/mL の新しい標準溶液を再度注入しました。カラムの圧力トレースを、120 回目の注入から 1,000 回目の注入までモニターしました。1,000 回目の注入で約 200 psi の増加が見られました。代表的なクロマトグラムを、カラム寿命について図 6A に、圧力トレースについて図 6B に示します。
キャリーオーバー
図 7A に、小児用ビタミン錠剤の 3 回の注入の前後に注入したブランク注入のクロマトグラムを示します。図 7B に、100 µg/mL のビタミンとカフェインの標準混合液の前後に注入したブランク注入のクロマトグラムを示します。これらのサンプルからキャリーオーバーは認められませんでした。
マルチビタミン錠剤および飲料の分析
成人用および小児用のマルチビタミン錠剤中の 10 種類のビタミンの分析から得られた定量結果を表 2 に示します。サンプルは、さまざまな濃度の複数のビタミン類を含むさまざまなメーカーからのものを使用しました。注入量 1 µL を用いて、ビタミン C などのサンプルに存在する高濃度のビタミン類を定量しました。注入量 10 µL を用いて、サンプル中の低濃度のビオチンおよびその他のビタミン類を定量しました。高濃度のサンプルには、より少量の注入量を適用して、サンプル希釈の必要性を低減できます。ただし、サンプルに非常に高濃度のビタミン類とカフェインが含まれる場合は、直線近似のためにサンプルを希釈する必要があります。Arc HPLC インジェクターでの注入量は以前に試験が行われており、優れた直線性と精度を示しました5。
錠剤を 50 mL の水で 2 回抽出して、水溶性ビタミン類とカフェインを抽出しました。その後、20 mL の 100 mM 水酸化ナトリウムを用いて、ビオチン、葉酸、およびリボフラビンを抽出しました。水酸化ナトリウムに溶けているビタミン類を検出するために、抽出物の上清を別々に注入しました。錠剤中のシアノコバラミン(B12)とビオチン(B7)の濃度は、分析法の検出限界と定量限界を下回っていました。205 nm および 254 nm で分析した成人用錠剤のビタミンの代表的なクロマトグラム(図 8)。
ビタミン強化水、スポーツドリンク、栄養ドリンクなどの一般的な飲料のビタミンとカフェインの濃度を分析しました。1 µL および 10 µL の注入量を使用して、サンプルを希釈せずにサンプル注入を行いました。飲料中のシアノコバラミン(B12)の濃度は、この分析法のシアノコバラミンの検出限界および定量限界を下回っていました。結果を表 3 に示し、栄養ドリンクの代表的なクロマトグラムを図 9 で分析しました。
結論
Waters ARC HPLC-PDA システムと XSelect HSS T3 2.5 µm カラムを組み合わせることで、16 分間以内に 10 種類のビタミン類とカフェインを分離できました。
この分析法は、優れた直線性、精度、および正確度を示しました。
XSelect HSS T3 XP カラムは、保持時間と背圧において優れた再現性を示しました。
この分析ワークフローは、以下の点で飲料メーカーを支援するのに適しています。
- さまざまな複雑な水溶性ビタミン類の分析の標準化。
- ビタミン類やその他の原材料の過剰摂取の最小化。
- 必要な分析法の数の削減。
- 栄養価、ビタミン規格、ラベルの規制準拠の迅速な確認。
参考文献
- Website: http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2006:40 4:0026:0038:EN:PDF.
- Website: http://ecfr.gpoaccess.gov/cgi/t/text/text-idx?c=ecfr;sid=ea70279dd46.
- Website: http://ecfr.gpoaccess.gov/cgi/t/text/text-idx?c=ecfr;sid=ea70279dd46.
- Benvenuti M, Riches E. The Rapid Analysis of 10 Water-Soluble Vitamins, Caffeine, and Six Common Food Dyes using ACQUITY UPLC with UV Detection.Waters Application Note, 720003188EN, 2009.
- Yang J, Rainville P. Analysis of Soft Drink Additives with No Interference from Aspartame Degradants Using Arc HPLC System with PDA Detection.Waters Application Note, 720007219EN, 2021.
720007357JA、2021 年 9 月