• アプリケーションノート

ココアバターの原材料の認証のための RADIAN ASAP および LiveID を用いたダイレクト分析

ココアバターの原材料の認証のための RADIAN ASAP および LiveID を用いたダイレクト分析

  • Li Yan Chan
  • Yuwei Chang
  • Hong Peng
  • Guangtao Zhang
  • Waters Corporation
  • Mars Global Food Safety Center

要約

LiveID と組み合わせた RADIAN ASAP は、サンプル前処理をほとんどまたは全く必要としないダイレクト分析を使用する、ココアバターの真正性認証のための実用的なソリューションです。ココアバターの価格の変動が激しいことから、違法に金銭上の利益を得るためにココアバター類似品(CBE)を代用品として一部使用する偽装行為が増加しています。このテクノロジーにより、EU 規制に則したレベル(製品重量の最大 5% まで許可)の CBE の有無を迅速にモニターできるようになります。ココアバターに含まれるトリグリセリド(TG、トリアシルグリセロール、TAG、またはトリアシルグリセリド)のフィンガープリントが、偽装の検出に大いに役立ちます。LiveID でのリアルタイム認識により、数分間で結果が得られ、情報に基づく決断が迅速に下せるようになります。

アプリケーションのメリット

  • 使いやすい - サンプル前処理をほとんどまたは全く必要としないダイレクト分析
  • 迅速な結果取得 – LiveID のリアルタイム認識により、数分間の分析で情報に基づく意思決定を可能に
  • コンパクト – 設置面積が小さいため、テクノロジー展開における柔軟性が最大限に

はじめに

チョコレート製品に含まれる成分のうち、ココアバターが最も重要で最も価格の高いものです。ココアバターの独特なトリアシルグリセロール(TAG)組成により食感が良くなり、それがチョコレート製品の非常に魅力的な特徴となっています。ココアバターの価格の変動が激しいこともあり、製造コストを減らすため、菓子製品にココアバター類似品(CBE)を全部または部分的に代用品として使用する傾向が増加しています。真正ココアバターは主に、1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセロール(POP)、1−パルミトイル−2−オレオイル−3−ステアロイルグリセロール(POS)、1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセロール(SOS)の 3 種類の TAG で構成されています。CBE の存在により組成が変化し、結晶化や口どけ感に影響を与えます1。チョコレート製品のラベル表示の規則は、世界各地で異なります。EU では、チョコレートに CBE が最大 5% 含まれることが許可されています2。 CBE が添加されている場合、適切なラベル表示により、消費者に情報提供する必要があります。一方、現行の FDA 規制では、チョコレートを標榜する製品には、ココアバターあるいは特定の乳製品原料由来の脂肪以外の脂肪を含めてはならないと規定されています。そのため、食品メーカーにとっては、高品質で真正のココアバターを類似品と区別できることが極めて重要です。CBE の化学組成および物理特性は、ココアバターと非常に類似しているため、その定量は極めて困難であり、場合によっては検出さえも困難です。ガスクロマトグラフィーに基づく現行のターゲット分析法は時間がかかる上、複雑なサンプル前処理に依存しています。

RADIAN ASAP は、大気圧固体試料分析プローブ(ASAP)を用いるダイレクト分析専用のシングル四重極型質量検出器です。このテクノロジーは操作がシンプルで、サンプル前処理の必要性が最小限であるため、ユーザーの専門知識のレベルを問いません。LiveID ソフトウェアにより、リアルタイムにケモメトリックスモデリングが行われ、原材料の偽装を確認する際に不可欠な迅速な処理時間が実現できます。

ここでは、RADIAN ASAP および LiveID を使用して、迅速に偽装ココアバターを同定できることを実証しています。LiveID により、複雑な MS 生データを解釈しやすいケモメトリックスモデルに変換できます。

結果および考察

ココアバターへの 10%(w/w)の CBE 添加は、最終製品に対して CBE 約 3% という計算になり(EU 規制の許容範囲は 5% 未満)、このアプリケーションでは、このレベルをしきい値として使用することにしました。6 種類の純粋ココアバター、4 種類の純粋 CBE、6 種類の偽装ココアバター(10% CBE 含有)について、それぞれのサンプルの表面でガラスキャピラリーをそっと擦って RADIAN ASAP に導入し、MS データを繰り返し取得しました。TAG 領域(m/z 750 ~ 1050)に着目した主成分分析(PCA)および線形判別分析(LDA)を用いてケモメトリックスモデルを構築しました。成分 1、2、3 を使用した 3D PCA-LDA スコアプロットが示すように、3 つの異なるクラスが明確にクラスター化されました(図 1)。

図 1.  ココアバター(黄)、CBE(青)、偽装ココアバター(赤)の 3D PCA-LDA スコアプロット

純粋 CBE は、LD1 を用いてココアバターと明確に区別されています。一方、純粋ココアバターと偽装ココアバターは、2D PCA-LDA スコアプロットに見られるように LD2 で分離されています(図 2B)。それぞれのローディングプロット(図 2A)では、834(POP)、862(POS)、891(SOS)に LD2 の特徴である重要なイオンが見られます。結果は、ココアバターフィンガープリントの TAG の既知の重要性と合致しています3

図 2.  A. 単一成分のローディングプロット、B. 2D PCA-LDA スコアプロット

モデル構築に使用したサンプルとは別の純粋ココアバターのサンプル 1 つと偽装ココアバターのサンプル 1 つを 3 回繰り返し分析して、モデルの独立したバリデーションを行いました。そのモデルにより、図 3 に示したリアルタイム認識モードにおいて、マッチの信頼度 100% でブラインド試料が正しく分類されました。

図 3.  純粋ココアバターまたは偽装ココアバターの LiveID でのリアルタイム認識

他の種類のダイレクト分析手法と同様、RADIAN ASAP では事前のサンプルクリーンアップやクロマトグラフィー分離を行いません。結果の再現性と実験間でのキャリーオーバーの低減を確保するために、有効なイオン源クリーニングプロトコルの使用が推奨されます。

結論

RADIAN ASAP を LiveID と組み合わせて使用することで、ココアバターの品質モニタリングが正しく行えました。このテクノロジーにより、規制に則したレベルの CBE の存在の有無を迅速に把握できるようになります。シンプルな操作と可視化が容易なモデルにより、偽装ココアバターを、しきい値を CBE 10% まで下げても、数分間で検出できました。リアルタイム認識機能により、原材料の真正性認証プロセスで不可欠な、情報に基づいた意思決定が即座に行えるようになりました。

参考文献

  1. Perez M, Lopez-Yerena A, Vallverdú-Queralt A. Crit Rev Food Sci Nutr. 17 (2020), 1–15. 
  2. Council of the European Union, Directive 2000/36/EC.
  3. Lipp M, Simoneau C, Ulberth F, Anklam E, Crews C, Brereton P, de Greyt W, Schwack W, Wiedmaier C. J Food Compost Anal (2001), 399-408.

謝辞

これは Waters International Food と Water Research Centre(IFWRC)および Mars Global Food Safety Center(GFSC)による連携プロジェクトの一環です。

720007100JA、2021 年 1 月

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