クロマトグラフィーアッセイを実行し、タイムリーに結果を得ることは、特に品質管理環境や重要な分析法を開発する際に不可欠です。検査の遅延は珍しいことではありませんが、カラムの在庫切れは重大な問題になる可能性があります。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいて、サプライチェーンの問題により、カラムの発注から納品までの時間が長びくことがよくありました。特定のカラムケミストリーに依存するバリデーション済みの分析法の場合、カラムが不足すると、ラボのダウンタイムが発生し、QC の遅れにもつながって製品の発売が遅れる可能性があります。
特にカラムが製造中止になった場合や、メーカーのサプライチェーンに重大な問題が発生した場合に考えられる解決法として、ある固定相から別の固定相への分析法の移行が挙げられます。固定相の間で分析法を移管するプロセスは単純ですが、カラムケミストリーに関する洞察と選択性の違いについての理解が必要です。固定相の間の違いを補うために、同様のベースパーティクルと結合相の特性を持つ適切なカラムを選択することができます。この研究では、カラムが不足した場合に、元の固定相 Inertsil ODS-SP から別の固定相、Waters XSelect HSS T3 カラムに分析法を移行するツールとプロセス(査読済み論文で報告されているもの)について説明します。移管する分析法である、抗がん剤ポマリドミドの強制分解については、2015 年に発表されています。新規化合物の分解を理解することで安全性が確保され、その化合物が生体系とどのように相互作用するかについての理解が進むため、創薬ラボにおいては強制分解試験が重要になります。これらの試験は、QC 環境での不純物アッセイとしても使用できます。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックの間、多くの製品の世界的なサプライチェーンに負担がかかり、数々の製品の在庫が減少しました。このような不足は、特に救命薬の品質管理出荷試験に顕著な影響を及ぼしました。メーカーによっては一部の LC カラムの入手が非常に困難になり、未処理の重要試験が山積しています。一部のメーカーでは、入念な調達とサプライチェーンの頑健性を確保することにより、供給の問題の影響をあまり受けませんでした。特定のベンダーからカラムを入手することが困難になった場合、重要な分析法をより信頼性の高いベンダーに移行できることが、ダウンタイムを回避するための賢明な方法となる可能性があります。
新しい固定相への切り替えは困難を伴う場合があります。使用可能なカラムケミストリーが多数存在し、販売時に使用される名称や機能が類似している材質であっても、選択性や結果が大きく異なる場合があるためです。バリデーション済みの分析法では特定のカラムケミストリーが必要になる場合がありますが、適切な代替の材質を選択することは依然として困難な場合があります。この課題の一例として、ウォーターズから入手可能な C18 固定相(または L1 カラム)が挙げられます。T3 相以外に使用可能な結合 C18 には、計 8 種類あります。8 種類のカラムとは BEH C18、CSH C18、HSS C18、HSS C18 SB、CORTECS C18、CORTECS C18+、SunFire C18、Atlantis dC18 で、これらはすべて、アッセイ条件に応じてわずかに異なる結果が生成される可能性があります。このリストには、市場でさまざまなベンダーが提供するその他の C18 固定相は含まれていません1。 L1 カラムを必要とするバリデーション済みの分析法の場合、理論的にはこれらのうちのどれでも使用できます。ただし、ケミストリーに関する追加の情報がない限り、これらの材質の中から 1 つを選択して使用することは困難です。
この研究では、固定相を選択して、以前に開発した分析法を別の固定相に移行する際に使用できるツール、およびそのような変更の例について説明します。これらのツールを実証するために、多発性骨髄腫の治療に使用される抗がん剤ポマリドミドの強制分解分析の分析法を選びました。2。 分解生成物が患者に重大な害を及ぼさないようにするには、医薬品化合物についての多くの強制分解試験の場合と同様に、分解生成物の正確な定量と同定が重要です。さらに、特定の種類の薬物の場合、生物学的機能を理解するために、分解経路が重要になります。これらのアッセイは、不純物試験の品質管理にも使用できます。この試験で使用したカラムはすべて直ちに入手できましたが、すべてのアッセイにおいてそうであるとは限りません。今回示したツールは、固定相の間で分析法を移行するのに役立ちます。
ポマリドミドは Sigma-Aldrich から購入しました。30:70 アセトニトリル:水(w/w)のサンプル希釈液を使用して、0.5 mg/mL 溶液を 4 mL 作製しました。サンプルの分解を誘発するために、100 µL の 1M HCl 溶液を添加し、この溶液を 90℃ で 30 分間加熱しました。100 µL の 1 M NaOH 溶液を加えて溶液を中和しました。次に、サンプルを 30:70 アセトニトリル:0.1% ギ酸(v/v)で希釈して、ポマリドミドの濃度を約 0.25 mg/mL にしました。次に、サンプルをシステムに配置して分析しました。
LC 条件 |
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LC システム: |
Waters Alliance e2695、2489 UV/Vis 検出器搭載 |
検出: |
UV @ 240 nm |
バイアル: |
LCMS 品質保証透明ガラスバイアル 2 mL(製品番号:600000751CV) |
カラム: |
XSelect HSS T3、4.6 × 250 mm、5 µm(製品番号:186004793) |
Inertsil ODS-SP、4.6 × 250 mm、5 µm |
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カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
10 μL |
流速: |
1.0 mL/分 |
移動相 A: |
90:10(0.1% ギ酸含有水:アセトニトリル) |
移動相 B: |
アセトニトリル |
グラジエント: |
表を参照 |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 Feature Release 4 |
ある固定相から別の固定相に分析法を効果的に移行するには、元の材質の詳細を把握する必要があります。代替固定相を適切に選択するには、カーボン化率、粒子の種類、エンドキャッピング、結合リガンドのケミストリーなどの詳細を使用する必要があります。一部のベンダーでは、ウェブサイトや販促資料を通じて関連情報が直ちに得られる場合がありますが、表面積やエンドキャッピングの種類などの情報は公開していないことがあります。これらの固定相の特性を用いて、代替の固定相の調査が始められます。ただし、使用可能なカラムケミストリーの数が非常に多いため、外部の支援なしに同等の材質を見つけることが困難になる場合があります。ここで、Waters のカラムコーチまたはその他のツールが使用できます3,4。 Waters のカラムコーチにより、21 社のベンダーが提供している特定の固定相と同等のウォーターズのカラムを見つけることができます。ここで示す例では、元々 GL Sciences の Inertsil ODS-SP カラムを使用して分離を行っていました。ポマリドミドの酸分解経路を対象とするこの分離は、分析に代替の固定相を使用することでメリットが得られるアッセイの例です。このようなアッセイに使用できる固定相が複数あれば、ダウンタイムが減少します。Inertsil ODS-SP カラムはすぐに入手できますが、カラムの出荷遅延や一時品切れなどの予期しない事態に備えて、試験のために代替のカラムを用意しておくことが推奨されます。
Waters のカラムコーチは、Inertsil ODS-SP カラムと同等の代替品として、XSelect HSS T3 カラムを推奨しました。いずれのカラムも、C18ケミストリーで結合された全多孔性の球状シリカ粒子を使用しています。両方の材質の具体的なパラメーターを表 1 に示します。
Inertsil ODS-SP カラムと XSelect HSS T3 カラムの主な違いは、粒子の表面積とカーボン化率の割合などです。XSelect HSS T3 材質は、カーボン化率がわずかに高くなっています。これはリガンド密度が高く、粒子のエンドキャッピングの違い、あるいは使用しているベースパーティクルによるものと考えられます。残念ながら、Inertsil ODS-SP の材質のリガンド密度はメーカーにより記載されていないため、直接比較することはできません。アッセイの条件と試験対象化合物によっては、リガンドのカバー率が分離に大きな影響を及ぼす可能性があります。極性化合物を逆相で試験する場合、極性化合物は、固定相の疎水性表面とあまり相互作用せず、移動相に溶けやすいため、リガンドカバー率が高いと保持力が低下する可能性があります。一方、非極性化合物の場合、リガンドカバー率が高いほど保持力が高まります。表面積の違いも分離に影響を及ぼす可能性があり、ほとんどの場合、材質の表面積が大きいと保持力が高まります。実験を行う前に粒子の特性を一致させることにより、2 種類の固定相の間で同等な分離が得られるという合理的な確信が得られます。
ポマリドミドの分解には、リガンドカバー率が低い C18 固定相が必要です。ポマリドミドの cLogD 値は 0 を下回っており、中程度の極性であることを示しています。分解されると、生じる化合物も極性が大きくなります。そのため、リガンドのカバー率 C18が低いことが利点となります。引用論文には、主要な分解生成物がその生成経路とともに示されています。ほとんどの場合、分解生成物には、アミド結合の切断によるカルボン酸基の生成、末端アミン基またはアミド基を生じる複素環の開環が含まれます。分解経路の詳細については、原著論文を参照してください2。 図 1 に、UV 検出器を備えた Alliance HPLC システムで上記の分析法条件を用い、2 種類のカラムで得られたポマリドミドの酸分解サンプルのクロマトグラフィー分離を示します。
ここで、2 種類のカラムは、酸分解ポマリドミドサンプルでも同様に機能しています。XSelect HSS T3 カラムは、これらの条件下では保持力がわずかに低くなっていますが、クロマトグラフィー性能は Inertsil ODS-SP カラムと同様です。ピーク 1 と 2 のクリティカルペアの USP 分離度は、2 種類のカラムの間でわずかに異なりますが、どちらもベースライン分離が得られていません。XSelect HSS T3 カラムでは成分 2 について、Inertsil ODS-SP カラムよりも約 30% 低い USP 分離度が達成されています。一方、成分 5 では、XSelect HSS T3 カラムでの USP 分離度は、Inertsil ODS-SP カラムと比較して約 26% 高くなっています。2 種類のカラムのその他の性能測定値、特にポマリドミドの USP 法理論段数およびポマリドミドのピーク幅は、表 2 に示すように 2 種類のカラムの間で同等です。両方の性能測定値において、これら 2 種類のカラムは非常に類似しています。
カラム調達の問題は、サンプルのタイムリーな分析に多大な影響を及ぼす可能性があります。極端な場合、カラムが入手できないと、注文品が到着するのを待つ間、製品の出荷を一時的に停止せざるを得ないことがあります。多くの場合、カラムのニーズを適切に予測することでリスクが軽減されますが、サプライチェーンの問題によって予期しない遅延が発生する場合もあります。重要なアッセイに代替の固定相を使用することで、ラボのダウンタイム発生を防ぐことができます。ただし、適切な固定相を選択するプロセスは困難な場合があり、多くの場合、材質に関する深い知識が必要になりますが、そのような知識が常に利用できるとは限りません。Waters のカラムコーチなど、分析法移管の出発点として同等の固定相を提案することができ、移管のガイドとして役立つツールが存在します。
元は Inertsil ODS-SP カラムで行われていた低分子抗がん剤の酸分解分析を、選択性と分離性能の変化を最小限に抑えつつ、XSelect HSS T3 カラムに移行することに成功しました。Inertsil ODS-SP カラムとの比較における固定相の特性に基づき、XSelect HSS T3 カラムをこの試験用に選択しました。正しい材質を選択した場合、分析法を固定相の間で容易に移行できることが、この例によって示されています。
720007327JA、2021 年 7 月