• アプリケーションノート

デキサメタゾンリン酸エステルおよび類縁物質の分析での MaxPeak Premier カラムのバッチ間頑健性

デキサメタゾンリン酸エステルおよび類縁物質の分析での MaxPeak Premier カラムのバッチ間頑健性

  • Fadi L. Alkhateeb
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

要約

MaxPeak Premier カラムを装着した Arc Premier システムを用いる超高速液体クロマトグラフィー分析法を使用して、複数のカラムのバッチ間再現性を評価しました。MaxPeak Premier XBridge BEH C18 および XSelect HSS T3 の構成材質および充塡剤の両方の異なるバッチを試験しました。その結果、MaxPeak Premier カラムは、金属キレート化合物および金属非キレート化合物の混合物の分析に使用した場合、非常に再現性が高いことが示されました。相対保持時間、クリティカルペアの分離、ピーク面積など、さまざまなクロマトグラフィーパラメーターについて、異なるカラムでの再現性を調査しました。カラムは、試験したすべてのクロマトグラフィーパラメーターについて優れた再現性を示しました。たとえば、すべてのピークのピーク面積の %RSD は、すべての分析種について常に 0.1% ~ 5.6% の範囲内でした。これらの結果により、MaxPeak Premier カラムのバッチ間再現性が非常に高く、これらのカラムが非常に頑健であることが示されています。 

アプリケーションのメリット

  • MaxPeak Premier XBridge BEH C18 および XSelect HSS T3 カラムの構成材質のバッチ間再現性
  • MaxPeak Premier XBridge BEH C18 および XSelect HSS T3 カラムの充塡剤のバッチ間再現性

はじめに

ステンレススチールは、耐腐食性1、製造可能性、不活性であることの固有の特性により、液体クロマトグラフィー装置およびカラムの構成材質として、広く使用されています。ただし、金属キレート化合物などの一部のクラスの分析種は、これらの金属イオンの電子不足の性質により、金属表面の酸化膜と相互作用する場合があります。例えば、リン酸化された分析種は、クロマトグラフィーシステムの流路内のステンレススチールの電子不足表面に簡単に吸着されます。このような相互作用は、クロマトグラフィーピーク形状の不良、重大な分析種の損失、定量の不正確さにつながる可能性があります2,3

これらに対処するために、ウォーターズは最近、MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)と呼ばれるテクノロジーファミリーを開発しました。これらの表面は、エチレン架橋型ハイブリッド(BEH)クロマトグラフィー粒子に関連する高度に架橋された層で構成されます。MaxPeak HPS Surfaces は、金属表面との望ましくない相互作用を軽減することで、分析種の回収、感度、再現性を向上させるように設計されています。カラムの再現性は、分析法の長期的な信頼性および頑健性に極めて重要な影響を与える主要パラメーターです。これは、カラム間およびバッチ間のばらつきにより、許容できないクロマトグラフィー性能がもたらされ、規制要件に合致するために分析法の再バリデーションが必要な場合があるためです。そのため、分析法を開発する際には、分析法の寿命を通して OOS の結果や OOT の結果が発生するリスクを低減するために、選択したカラムが頑健で再現性があることが不可欠です。

この試験の主な目標は、異なるロットの High Performance Surfaces 材質を使用して構築された 3 種の XBridge BEH C18 カラムのロット間再現性を調査することです。さらに、同じロットの High Performance Surfaces 材質を使用した XBridge BEH C18 カラムの 3 種の固定相のバッチの再現性も検討します。XSelect HSS T3 カラムでも同じ試験を行います。そのため、金属の影響を受けやすい医薬品/類縁物質(構造については図 1 を参照)の分析のために以前に開発された UHPLC 分析法を使用して、異なる XBridge BEH C18 カラムおよび XSelect HSS T3 カラムを評価します4

図 1.  ヒドロコルチゾンリン酸エステル、デキサメタゾンリン酸エステル、およびその 3 種類の類縁物質の化学構造

異なるバッチのカラムを使用したクロマトグラフィーパラメーターの再現性に目を向けると、保持時間、ピーク面積、ピークの対称性、効率、およびその他のさまざまなパラメーターにばらつきが発生することがあります。これらの異なるカラムで得られる保持の再現性およびピークの他のいくつかのプロファイル特性を評価します。 

実験方法

ヒドロコルチゾンリン酸エステルトリエチルアミン、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム、デキサメタゾン、デキサメタゾン酢酸エステルはすべて、米国薬局方(USP)(米国メリーランド州 Rockville)から購入しました。これらの化合物の原液は、それぞれの標準試料の必要量を正確に計量し、50/50(v/v)水/アセトニトリル溶媒に溶解して調製しました。次に、これらの原液を使用して、2 種の API と 3 種のデキサメタゾンリン酸エステル類縁物質が含まれる試験混合試料を調製しました。この混合試料は、各標準試料の原液をサンプル溶媒の 90/10(v/v)水/アセトニトリルに希釈して調製しました。混合試料中の各分析種の最終濃度は、ヒドロコルチゾンリン酸エステルトリエチルアミンおよびデキサメタゾンリン酸エステルナトリウムが約 0.1 mg/mL、各類縁物質が約 0.07 mg/mL でした。 

LC 条件

LC システム:

Arc Premier システム、クオータナリーソルベントマネージャー(rQSM)、サンプルマネージャー(rFTN)、カラムマネージャー、および CM-Aux、PDA 検出器、ACQUITY QDa 質量検出器を搭載

検出:

PDA

カラム:

MaxPeak HPS XSelect HSS T3、4.6 × 100 mm、2.5 μm pH 範囲:1 ~ 10

MaxPeak HPS XBridge BEH C18、4.6 × 100 mm、2.5 μm pH 範囲:1 ~ 10

カラム温度:

35 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

3 μL

流速:

0.5

移動相 A:

10 mM ギ酸アンモニウム水溶液

移動相 B:

アセトニトリル(0.1% ギ酸)

グラジエント:

10 ~ 90% B/5 分または 15 分* のグラジエントは t = 0 に開始し、2 分間の最終ホールドを行ってから、初期条件に戻しました。

UV 検出:

254 nm

MS 条件

MS システム:

ACQUITY QDa 質量検出器

イオン化モード:

ESI+

取り込み範囲:

100 ~ 500 Da

キャピラリー電圧:

0.8 kV

ソース温度:

600 ℃

コーン電圧:

15 V

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower 3 クロマトグラフィーデータシステム

結果および考察

相対保持時間

カラムのバッチ間再現性を評価する際に考慮する必要がある主要なパラメーターは、化合物の相対保持時間です。表 1 に、異なるバッチの HPS 材質で構築した MaxPeak XSelect HSS T3 および MaxPeak XBridge BEH C18 カラムで分析した場合の、デキサメタゾンリン酸エステルおよびその類縁物質(ヒドロコルチゾンリン酸エステルを参照)の相対保持時間がまとめられています。結果により、相対保持時間は、両方のカラムケミストリーで、すべての分析種について、異なるバッチで非常に再現性があることが示されました。例えば、デキサメタゾンリン酸エステルとその類縁物質の相対保持時間の %RSD は、両方のカラムケミストリーについて、異なるバッチの HPS 材質で常に 0.1% 以下でした。これらの結果により、HPS 材質専用の社内製造プロセスが非常に高精度であることが示されています。

表 1.  本文に記載されている UHPLC 分析法を用いて分析した場合の、ベタメタゾンリン酸エステル、デキサメタゾンリン酸エステル、デキサメタゾン、デキサメタゾン酢酸エステルの相対保持時間。各値は、6 回の繰り返し注入の平均です。%RSD 値は、異なるバッチの HPS 材質で作製し、同じバッチの充塡剤を充塡した 3 種のカラムでの、18 回の注入の値です。

異なるバッチの充塡剤(構成材質は同じロット)の再現性についても試験したことを、ここで付言します。表 2 からわかるように、3 つの異なるバッチの充塡剤を充塡した両方のカラムケミストリーに注入した場合、デキサメタゾンリン酸エステルとその類縁物質の相対保持時間も非常に再現性が高く、すべての分析種について %RSD 値は 0.1% 以下でした。 

表 2.  本文に記載されている UHPLC 分析法を用いて分析した場合の、ベタメタゾンリン酸エステル、デキサメタゾンリン酸エステル、デキサメタゾン酢酸エステルの相対保持時間。各値は、6 回の繰り返し注入の平均です。%RSD 値は、3 つの異なるバッチの充塡剤を充塡した 3 種のカラムで行った 18 回の注入からの値です。

クリティカルペアの分離

カラム間再現性を評価する際に考慮することが重要なもう 1 つのクロマトグラフィーパラメーターは、「クリティカルペア」の分離度です。クリティカルペアは、クロマトグラムでの 2 つの成分のうち、それらの間の分離度の計算値が最も低いものを指します。この試験でのクリティカルペアはベタメタゾンリン酸エステル/デキサメタゾンリン酸エステルでした。本研究では、クリティカルペアを再現性よく分離する異なるカラムの能力も、異なるバッチの HPS 材質および異なるバッチの充塡剤の両方について評価しました。結果により、表 3 に示されているように、両方のケミストリーのすべてのカラムがこれら 2 つの成分を非常に再現性よく分離できることが明らかになりました。この試験で使用した 2 つのカラムケミストリーで、異なるバッチの構成材質での、デキサメタゾンリン酸エステルおよび類縁物質の代表的なクロマトグラムが、図 2 に示されています。 

表 3.  この試験で使用したすべてのカラムでのクリティカルペア(ベタメタゾンリン酸エステル/デキサメタゾンリン酸エステル)の USP 分離度。各値は、6 回の繰り返し注入の平均です。RSD 値は、同じバッチ番号の HPS 材質またはカラム充塡剤の 3 種のカラムで行った 18 回の注入からの値です。
図 2.  A:MaxPeak Premier XSelect HSS T3 カラム用の 3 つの異なるバッチの構成材質、および B:MaxPeak Premier XBridge BEH C18 カラム用の 3 つの異なるバッチの構成材質での、18 回の注入のクロマトグラムの重ね描き。ピーク(溶出順):ヒドロコルチゾンリン酸エステル、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム、デキサメタゾン、デキサメタゾン酢酸エステル。

ピーク面積

同じ量のサンプルを異なるカラムに注入した場合のピーク面積の一貫性も、バッチ間再現性を試験する際に考慮する必要があるもう一つの重要なパラメーターです。このことは、正しい結果を得るために面積の一貫性が主要な場合の、定量目的に対して特に重要です。表 4 に、この試験で試験した異なるカラムで分析した場合の、デキサメタゾンリン酸エステル、類縁物質、ヒドロコルチゾンリン酸エステルのピーク面積が示されています。すべての分析種のピーク面積により、異なるバッチの構成材質および異なるバッチの充塡剤にわたって、優れた再現性が示されました。

表 4. この試験で使用した異なるカラムで分析した場合の、ベタメタゾンリン酸エステル、デキサメタゾンリン酸エステル、デキサメタゾン、デキサメタゾン酢酸エステルのピーク面積。各値は、6 回の繰り返し注入の平均です。%RSD 値は、同じバッチ番号の充塡剤または構成材料の 3 種のカラムで行った 18 回の注入からの値です。 

結論

  • このアプリケーションノートでは、デキサメタゾンリン酸エステルおよび類縁物質の分析における、MaxPeak Premier XSelect HSS T3 および XBridge BEH C18 カラムの頑健性を明確に実証しました。
  • 分析法にバッチ間再現性が高い MaxPeak Premier カラムを使用することは、特に長期間使用する分析法の場合に非常に好都合です。
  • このアプリケーションノートでは、ウォーターズの装置によって、カラム温度、移動相流速、移動相組成の優れたコントロールが得られることについても実証しています。

参考文献

  1. S.F. Cogan, G.S. Jones, D.V. Hills, J.S. Walter, L.W. Riedy.Comparison of 316LVM and MP35N Alloys as Charge Injection Electrodes, J. Biomed.Mater.Res.28(2) (1994) 233–40.
  2. T.H.W. M. Lauber, M. DeLano, C. Boissel, M. Gilar, K. Smith, R. Birdsall, P. Rainville, J. Belanger, and K. Wyndham.Low Adsorption UPLC Columns Based on MaxPeak High Performance Surfaces, Waters White Paper, 720006930EN, 2020.
  3. K.E. Collins, C.H. Collins, C.A. Bertran.Stainless Steel Surfaces in LC systems, Part II: Passivation and Practical Recommendations, LC GC North America 18(7) (2000) 688–692.
  4. F.L. Alkhateeb, P.D. Rainville.Analytical Quality by Design Based Method Development for the Analysis of Dexamethasone Phosphate and Related Compounds Using Arc Premier MaxPeak High Performance Surfaces (HPS) Technology, Waters Application Note, 720007272EN, 2021.

720007350JA、2021 年 8 月

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