ステロイドホルモンの LC-MS/MS 分析における MassTrak 内分泌ステロイドキャリブレーション試薬セットおよび品質管理セットの信頼性
要約
ステロイドホルモンのルーチン分析は、性徴、炎症、血圧などに影響を及ぼす代謝経路の機能の理解に不可欠です。液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)は、従来のリガンド結合手法と比較して大きなメリットがあるため、ステロイド分析において人気が急速に高まりました。そのメリットとして、分析感度および選択性の改善、多成分の質量検出を 1 回の分析で行える性能などが挙げられます。一方、多くの LC-MS 分析法は統一や標準化が行われていません。Waters MassTrak 内分泌ステロイドキャリブレーション試薬セットおよび品質管理セット(IVD)には、計量計測トレーサビリティーキャリブレーション試薬が含まれており、これらがラボの ISO 15189 準拠に役立ち、バリデーション済みの LC-MS 分析法を使用する際の正確な結果に対する信頼性が得られます。
MassTrak 内分泌ステロイドキャリブレーション試薬セットおよび品質管理セットの性能を実証するため、ACQUITY UPLC I-Class PLUS および Xevo TQ-S micro タンデム四重極型質量分析計と、社内で開発した LC-MS/MS 手法を使用しました。
アプリケーションのメリット
- ラボにおける ISO 15189 準拠に役立つ計量計測トレーサビリティーキャリブレーション試薬および品質管理セット
- 正確なステロイドホルモンに対する信頼性が得られ、ラボの分析法統一への道が開ける
- 凍結乾燥したキャリブレーション試薬および品質管理セットで、サンプル前処理にかかる時間が最小に
はじめに
ステロイドホルモンの分析は、性徴、炎症、血圧などに影響を及ぼすステロイドの生合成経路の機能不全を理解するために不可欠です。
従来、ステロイドホルモンの分析はリガンド結合法を使用して行われていました。これらの手法は分析感度が高く、高度な自動化が可能であるため、サンプルのハイスループット処理が可能です。一方、この手法の欠点として、分析種のパネルの検出が行えない点と、使用する試薬の選択性に関わる問題の影響を受ける点が挙げられ、特に低濃度のステロイドホルモンの結果の信頼性に影響が及びます。最近では LC-MS/MS の人気が高まっています。それは、リガンド結合法で見られた制限を克服できると同時に、同等レベルの分析感度が得られることが確立されたためです。
臨床検査室での LC-MS 分析法は多くの場合、自家調整検査法(LDT)に基づいており、各国の規制ガイドラインに対してバリデーションされています。これらのガイドラインは常に進化しており、これらの変化する規制に準拠するために、臨床分析法のあらゆる面における要求がますます高まっています。これには、分析法内での正確なキャリブレーション法を作成するとともにそれを独立に確認するためのキャリブレーション試薬および品質管理の材料も含まれます。ISO 15189 への準拠を支援するために、社内で調製した材料に代わる計量計測トレーサビリティーキャリブレーション試料に対する需要が高まっています。
Waters MassTrak 内分泌ステロイドキャリブレーション試薬セットおよび品質管理セット(IVD)(図 1)には、現在市販されている最高レベルの計量計測トレーサビリティーが得られるように、さまざまなステロイドホルモンが凍結乾燥血清中に含まれています。本製品に含まれる材料の品質を実証するため、Xevo TQ-S micro タンデム四重極型質量分析計と ACQUITY UPLC I-Class PLUS の組み合わせを使用して、固相抽出(SPE)および分離、ならびにサンプル検出を用いた材料の性能の概念実証を行いました。
実験方法
MassTrak 内分泌ステロイドキャリブレーション試薬セットおよび品質管理セットには、凍結乾燥血清中にステロイドホルモンであるデヒドロエピアンドロステロン硫酸塩(DHEA-S)、コルチゾール、21-デオキシコルチゾール、コルチコステロン、11-デオキシコルチゾール、アンドロステンジオン、11-デオキシコルチコステロン、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)、ジヒドロテストステロン(DHT)、プロゲステロンが含まれています。キャリブレーション範囲および QC に割り当てた濃度を表 1 に示します。
キャリブレーション試薬および品質管理試薬は、使用説明書(IFU)に従って再溶解してから、サンプル前処理および分析を行っています。
サンプルの説明
サンプル前処理には除タンパクを用い、続いて固相抽出を行いました。
除タンパク
125 µL の血清サンプルに内部標準(SIL)を含む 50/50(v/v)メタノール/水溶液 25 µL を添加し、1 分間混合しました。250 µL のメタノールを添加し、5 分間混合しました。サンプルを 550 µL の水で希釈してから 1 分間混合し、5,000 g で10 分間遠心分離しました。
固相抽出
Oasis MAX µElution プレートを 150 µL のメタノールおよび水でそれぞれコンディショニングおよび平衡化しました。625 µL の上清を SPE プレートにロードし、10 µL の上清(DHEA-S 用)を 1 mL 96 ウェルのコレクションプレートに直接移しました。洗浄は、150 µL の 1% ギ酸含有 10% アセトニトリル溶液、続いて 150 µL の 1% アンモニア含有 10% アセトニトリル溶液を使用して行いました。除タンパク済みの上清 10 µL が既に含まれている 1 mL 96 ウェル回収プレートに、35 µL の 60% アセトニトリルでサンプルを溶出しました。35 µL の 50 mM 重炭酸アンモニウム水溶液(pH 7.4、0.03% 酢酸を含む)を添加し、1 分間混合してシールしてから、LC-MS/MS システムに注入しました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUSFTN |
サンプルニードル: |
30 μL |
カラム: |
CORTECS C8、90 Å、2.1 mm × 100 mm、2.7 µm |
プレカラム: |
CORTECS C8 VanGuard カートリッジ、2.1 mm x 5 mm、2.7 µm |
カラム温度: |
50 ℃ |
サンプル温度: |
8 ℃ |
注入量: |
25 μL |
流速: |
0.3 mL/分 |
移動相 A: |
0.1 mM フッ化アンモニウム水溶液 |
移動相 B: |
0.1 mM フッ化アンモニウムメタノール溶液 |
分析時間: |
7.8 分 |
Gradient Table
MS 条件
MS システム: |
Xevo TQ-S micro タンデム四重極型質量分析計 |
イオン化モード: |
ポジティブ/ネガティブ ESI |
キャピラリー電圧: |
2.5 kV |
MRM Parameters
Method Events
データ管理
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.2(TargetLynx XS 搭載) |
結果および考察
CORTECS C8、2.7 µm、2.1 mm × 100 mm カラムを使用して、12 種のステロイドホルモンのクロマトグラフィー分離を達成しました。MRM のみでは区別できないステロイドホルモンの異性体もベースライン分離されています(図 2)。11-デオキシコルチコステロンと 17-OHP の異性体ペアに加え、21-デオキシコルチゾール、コルチコステロン、11-デオキシコルチゾールもベースライン分離されています。
キャリブレーション範囲での直線性が実証され、12 種のステロイドホルモンにわたる検量線の平均 r2 値は 0.994 超でした。ステロイドホルモンの低濃度キャリブレーション(C1)標準試料のシグナル対ノイズ比(S/N)を評価することで、分析法の分析感度を判定しました。5 回の分析全体にわたって、キャリブレーター 1 の各濃度での S/N(PtP)は 10 超でした。これについては表 2 にまとめており、低濃度キャリブレーターでの S/N の例も図 2 に示します。
総合精度および再現性は、不連続の 5 日間にわたって、1 日あたり 3 濃度の QC 試料を 5 回の繰り返しで抽出および定量することによって測定しました(n = 25)。低濃度、中濃度、高濃度はそれぞれ、DHEA-S では 527、4770、19,061 nmol/L、コルチゾールでは 30、279、931 nmol/L、21-デオキシコルチゾールでは 0.64、6.2、94 nmol/L、コルチコステロンでは 0.65、6.4、93 nmol/L、11-デオキシコルチゾールでは 0.64、6.3、95 nmol/L、アンドロステンジオンでは 0.74、7.4、114 nmol/L、11-デオキシコルチコステロンでは 0.11、1.1、40 nmol/L、17-OHP では 0.66、6.2、207 nmol/L、DHEA では 2.9、28、110 nmol/L、DHT では 0.35、3.4、5.8 nmol/L、プロゲステロンでは 0.40、3.6、114 nmol/L でした。3 種の QC 濃度すべてのステロイドホルモンにわたる総合精度および再現性は ≤ 7.7% CV でした(図 3)。
更に、5 回の分析にわたってキャリブレーション試薬に対して比較することにより、QC の正確度を評価しました。3 濃度の 12 種のステロイドホルモン全体にわたる QC の平均正確度は 91.0% ~ 112.4% でした(表 3)。
UK NEQAS からの EQA サンプルの分析を通じて、DHEA-S、コルチゾール、アンドロステンジオン、テストステロン、17-OHP、プロゲステロンについて正確度を評価しました。得られたデータをサンプルの質量分析法での平均と比較し(LC-MS 値が得られなかったため、プロゲステロンについては ALTM 値を使用)、このデータセットについてブランド-アルトマン分析を実施しました。DHEA-S、コルチゾール、アンドロステンジオン、テストステロン、17-OHP、プロゲステロンについてのブランド-アルトマン分析の結果、分析法の平均バイアスは ±7.8% 以内となり、ステロイドホルモンについての EQA 分析法の値は一致性が優れていることが実証されました(図 4a-f)。
DHT の正確度は、Royal College of Pathologists of Australasia Quality Assurance Program(RCPA QAP)のサンプルの分析により評価しました(n = 4)。ブランド-アルトマン分析での一致性により、すべてのラボ平均(n ≥ 8)と比較して、平均バイアスは 6.6%(範囲 -1% ~ 13%)であることが実証されました。
結論
この性能実証評価により、MassTrak 内分泌ステロイドキャリブレーション試薬セットおよび品質管理セット(IVD)を用いることで、血清中の 12 種のステロイドホルモンについて、精度および正確度の高い定量が行えることが実証されました。
Xevo TQ-S micro タンデム四重極型質量分析計と ACQUITY UPLC I-Class PLUS の組み合わせにより、わずか 125 µL のサンプル容量で、低濃度のステロイドホルモンの分析に十分な分析感度が得られました。キャリブレーション範囲全体にわたって優れた精度レベルが実証され、総合精度および再現性は ≤ 7.7% CV でした。更に、QC セットの正確度は 91.0% ~ 112.4% の範囲と確立されました。また、EQA サンプルとの一致性による計量計測トレーサビリティーの指標が示され、この分析法は、EQA (DHEA-S、コルチゾール、アンドロステンジオン、テストステロン、17-OHP、プロゲステロン)のサンプルと RCPA(DHT)のサンプルに対して、分析法のバイアスの平均がスキームの分析法の平均値と比較して ±7.8% 未満と、よく一致していることが示されました。
免責事項
この分析法は、この文書に記載された装置、ソフトウェア、消耗品を使用したアプリケーションの例です。この分析法は、診断目的では、規制当局からの許可を受けていません。分析法の完全な開発およびバリデーションは、エンドユーザーの責任下で行ってください。MassTrak 内分泌ステロイドキャリブレーション試薬セットおよび品質管理セットは、一部の国/地域では販売されていません。提供状況については、最寄りのウォーターズの営業担当者にお問い合わせください。
720007401JA、2021 年 10 月