多くのバイオ医薬品ラボには、LC 装置を個々の分析法に専用で使用するためのリソースがありません。バイナリー LC システムは、ペプチドマッピング分析法に一般に関連する、低速流量やなだらかなグラジエントなどのより厳しい分析法条件に対応しますが、LC プラットホームに関係なくすべての分析法で再現性のある結果が得られることが重要です。この研究では、HILIC、HIC、SEC 分析法を使用して、一般的なバイオ医薬品分析法のための目的に適合した LC システムとして、ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムの性能を評価します。
複雑なサンプルの最適な分離度を達成するために低流速となだらかなグラジエントを取り入れた分析法は、再現が最も難しい分析法の一部です。ペプチドマッピング法は、バイオ医薬品に用いられるそのような分析法の中にあり、その分析では保持時間の再現性がピークの適切な同定と定量にきわめて重要です。ペプチドマッピング実験を行う科学者の間では、バイナリー LC システムがクオータナリー LC システムと比較して、より正確で精密にグラジエントを届けることができることが一般に認められています。これは、それぞれのポンプの設計方法での根本的な相違によるものです。ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムは、再現性が卓越したペプチドマッピングが得られることが示されている1,2 一方で、HIC、IEX、SEC などの非変性分析法では一般に、信頼性の高い結果を得るためにバイナリーポンプの厳密性は必要ではありません。クオータナリー LC システムは多くの場合、より手頃な価格の選択肢と考えられており、追加のインライン溶媒リザーバーが利用できるため、分析法開発により適しているさらなる利点があります。ラボには必ずしも個々の分析法に専用の装置があるとは限らないため、使用する LC プラットホームに関係なく必要な結果が得られることを実証することが重要です。本研究では、従来はバイナリーシステムの性能が必要ではなかった分析法について、ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムの性能を評価して、この LC システムが多くのバイオ医薬品分析法の目的に適合していることを確認します。
LC システム: |
CH-A を搭載した ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステム(バイナリー) CH-A を搭載した ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio システム(クオータナリー) |
カラム: |
ACQUITY UPLC Glycan BEH Amide カラム、130 Å、1.7 μm、2.1 × 150 mm(製品番号:186004742) |
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波長: |
FLR 検出、励起波長265 nm および 蛍光波長425 nm |
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注入量: |
6 μL(RFMS 糖鎖標準試料)、1 μL(デキストランラダー) |
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カラム温度: |
60 ℃ |
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移動相 A: |
50 mM NH4HCO2(pH 4.4) |
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移動相 B: |
アセトニトリル |
システイン結合型抗体薬物複合体(ADC)は、共同研究者か ら 10 mg/mL で提供され、1 M(NH4)2SO4(移動相 A)中で 2 mg/mL に希釈しました。
カラム: |
Protein-Pak Hi Res HIC カラム、2.5 μm、4.6 mm × 100 mm(製品番号:186007583) |
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波長: |
280 nm での TUV 検出 |
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注入量: |
10 μL |
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カラム温度: |
25 ℃ |
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流速: |
0.500 mL/分 |
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移動相 A: |
1 M(NH4)2SO4 含有 50 mM NaH2PO4/Na2HPO4(pH 6.8) |
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移動相 B: |
50 mM NaH2PO4/Na2HPO4 (pH 6.8) + 10% IPA |
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メソッド: |
10 分間で 0 ~ 100% B(合計分析時間 30 分) |
ウォーターズのモノクローナル抗体サイズバリアント標準試料(製品番号:186009429)は、NIST モノクローナル抗体と非還元 IdeS 消化 NISTモノクローナル抗体フラグメントの混合物であり、120 μL の水に再溶解して最終濃度 1.5 mg/mL にしました。
カラム: |
BioResolve SEC mAb カラム、200 Å、2.5 μm、4.6 mm × 150 mm(製品番号:176004592) |
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波長: |
280 nm での TUV 検出 |
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注入量: |
5 μL |
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カラム温度: |
35 ℃ |
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流速: |
0.200 mL/分 |
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移動相: |
50 mM Na3PO4(pH 7.0)、200 mM KCl |
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メソッド: |
アイソクラティック分析時間 8.5 分 |
MS システム: |
ACQUITY QDa 検出器 |
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イオン化モード: |
ESI+ |
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取り込み範囲: |
m/z 350~1,250 |
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キャピラリー電圧: |
1.5 kV |
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コーン電圧: |
15 V |
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プローブ温度: |
400 ℃ |
Empower 3 クロマトグラフィーデータソフトウェア FR4
遊離糖鎖の特性解析とモニタリングは、バイオ医薬品の開発で日常的に使用されています。確立されたワークフローとデータ解析とレポート作成用のインフォマティクスは、サンプル前処理および蛍光/MS 検出に使用できます。歴史的に、分析に使用されるメソッドではバイナリー LC システムの性能が要求されていなかったため、分析用に好まれる LC システムはクオータナリー LC システムでした。
糖鎖解析について ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムを評価するには、RapiFluor-MS 糖鎖性能試験標準試料を使用して、得られた結果をクオータナリー LC システムで得られた結果と比較しました。図 1 に、バイナリー LC システムとクオータナリー LC システムの両方での一連の注入で得られた代表的なクロマトグラムが示されています。この標準試料には、クロマトグラムでラベルつけした 19 種の同定済み N 型糖鎖が含まれています3。クオータナリー LC および バイナリー LC で生成された結果では、19 本のピークそれぞれが同様のクロマトグラフィープロファイルおよび相対存在量を示しました。ACQUITY QDa 検出器は、MS 検出器からの圧力の増加によって FLR フローセルの圧力が仕様を超えないように、バイナリー LC システムの FLR 検出器の後にインラインで配置しました。FLR フローセル全体にわたる圧は約 60 psi で、装置仕様よりも十分に低い値でした。ACQUITY QDa 検出器を追加することで、図 1 の対応する TIC (下部パネル)に示されている、補足質量データを取り込むことができ、糖鎖解析の柔軟性が向上します。
グルコース単位(GU)値によって糖鎖を同定することにより、LC システムの相違による保持時間の差が低減されます。GU 値は、グルコース多量体の溶出時間と糖鎖の保持時間を相互に関連付けるデキストランキャリブレーションラダーを介して決定されます。より体系的に結果を比較するために、19 本の標準ピークそれぞれについて GU 値を決定し、5 回の注入にわたって平均しました(表 1)。LC システム間の GU 値の差は表 1 にも示されており、これによるとシステム間の平均差は 0.1 GU 値(3.5 秒)未満です。この差異は GU の再現性に対して期待される範囲内に十分に入っており、ユーザーは必要に応じてウォーターズ GU サイエンスライブラリーを参照できます。各システムの平均 GU 値も相互に対してプロットして、選択性の差異を観察しました(図 2)。R2 値は 0.99996 で、2 つの LC プラットホーム間の結果が高度に同等であることが示されています。ピーク面積パーセントも、両システムにわたって非常に類似していると判断されました(図 3)。ほとんどの場合、ピーク面積の差は無視できる程度でした(19 本のピーク中 16 本で 0.06% 未満)。ピーク面積に観察された最大の差はピーク 11 の 0.6% でした。この場合ピーク 11 は約 15% 存在しており、より多量に存在するため、無視できると見なされます。このデータは、ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイナリーバイオシステムを遊離糖鎖の解析に使用することができ、クオータナリー LC プラットホームで得られた結果と同等の結果が生成されることを示唆しています。
ネイティブタンパク質もしくは非変性タンパク質の分離には、多くの場合、高塩濃度の移動相が必要です。最適な性能および分離度を達成するために、多くの場合低拡散 LC システムが望まれますが、内径が小さいチューブでは、従来の HPLC システムで用いられる内径の大きいチューブの場合よりも、詰まりや沈殿が起こりやすい可能性があります。ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムを、高濃度の塩に長時間さらした後の詰まりや沈殿について評価するために、ADC 用の HIC 分析法を用いて複数日にわたる試験を行いました。毒性のないペイロードを持つシステイン結合型 ADC は共同研究者から提供され、Protein Pak Hi Res HIC カラム(2.5 μm、4.6 mm x 100 mm)に 2 mg/mL で注入しました。実験では、4 回のブランク注入(移動相 A)の後にサンプルを注入しました。この一連の注入を 10 回繰り返し、サンプルセットの合計分析時間は 25 時間でした。新鮮な移動相とサンプルを毎日調製し、連続した 3 日間実験しました。図 4 に、3 日間それぞれでの、分析時間 25 時間にわたる 5 回目の ADC 注入ごとのクロマトグラフィーの重ね描きが示されています。クロマトグラムは、各データセット内で視覚的に適切に重ね描きされますが、連続する日それぞれにわたってきれいに揃えられています。クロマトグラム中の 10 本のピークが同定され、その平均保持時間が表 2 に記録されています。データセット内の各ピークの保持時間の標準偏差は無視することができ、3 日間の各日の平均標準偏差は 1 秒未満です。各日の間に保持時間のわずかな差異が認められますが、これは移動相の違いから予測できるものです。
この同じデータセットについて、ピーク面積を薬物抗体比(DAR)の観点から評価しました。DAR は、抗体に共結合している薬物の平均数を意味し、ADC の重要な品質特性です。ペイロードはジスルフィド結合によって結合されているため、0、2、4、6、8 の DAR が可能です。図 5 に、クロマトグラフィーでの DAR の分布およびピーク面積パーセントの対応する棒グラフが示されています。各データセットの標準偏差が小さいことが認められます。さらに、結果は 3 日間それぞれにわたって互いに誤差範囲内です。
保持時間およびピーク面積の再現性の評価から、カラムまたは LC システムで目詰まりや塩の沈殿が発生したことを示唆する証拠はありません。報告された標準偏差はシステム仕様に適合しており、データ収集の間に目視で確認された漏れはありませんでした。これらの潜在的な危険性の可能性をさらに調べるため、それぞれの一連の注入の過程にわたって圧力トレースを詳しく調べました。塩の沈殿は、圧力(および光学的)トレースでスパイクとして現れる場合がありますが、すべてのブランク注入について、ノイズのない再現可能なベースラインが観察されました(データは示されていません)。個々の ADC 分析で観察された最大圧力をプロットすることで、圧力が 3 日間の試験にわたって安定していることがわかります。圧力差の変化は、各サンプルセットで約 50 psi です。カラムまたは LC システムの詰まりが観察された場合は、一連の注入の間に、および複数日にわたって、注入回数が増えるにつれて圧力が徐々に上昇することが予想されますが、これは発生しませんでした。ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムにより、試験済みの条件を使用する高塩濃度での分離の、目的に適合したソリューションが提供されます。
SEC はバイオ医薬品開発で使用される日常的な分析法であり、従来タンパク質凝集体や高分子種(HMWS)の評価に使用されました。粒子径が大きいカラムと拡散性の大きい LC システムを使用する従来の分析法では、クリップやフラグメントなどの低分子種(LMWS)の最適な分離を達成できません。新しいカラムテクノロジーと低拡散 LC システムの出現によってこれらの LMWS の分離が改善されたことで、より正確な定量が可能になって、信頼性が高まり、結果をより深く理解できるようになりました。
BioResolve SEC mAb カラム(2.5 μm、4.6 mm × 150 mm)を低拡散 LC システムである ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムと組み合わせて使用して、ウォーターズのサイズバリアント標準試料モノマーおよび LMWS を十分に分離できることを実証しました(図 7)。クロマトグラムで HMWS がモノマーから、分子量の差が大きいことから予想されるように、十分に分離されます。従来のカラムと LC システムを使用する場合、通常モノマーピークと共溶出する LMWS 1&2 は、短いカラムを使用しても十分に分離されます。結果をさらに評価するために、ピーク面積と保持時間をレポートしました(表 3)。相対ピーク面積パーセントに関係なく、すべての分子種に対して結果の再現性が非常に高いことが示されています。より最新のテクノロジーを開発環境や QC 環境に取り入れることにより、ルーチン分析法によって従来の方法と比較して追加の情報が得られます。
ウォーターズの以前の研究で、ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムにより、低流速でなだらかなグラジエントが必要な分析法に対して、優れた性能を発揮することが実証されています。多くのラボには、LC システムを個々の分析法に専用で使用するためのリソースがないため、分析法が異なる LC プラットホーム間で移行された場合に、信頼性の高い結果を生成できることが非常に重要です。HILIC、HIC、SEC 分析法を使用して、クオータナリー LC システムでより頻繁に実行される分析法について、ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムの性能を評価しました。この試験で評価した分析法はすべて、従来使用されていた分析法条件に変更も特別な検討も加えずに使用でき、ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio バイナリーシステムが、一般的なバイオ医薬品のクロマトグラフィー分析法に適していることが実証されました。
720007304JA、2021 年 7 月