• アプリケーションノート

逆相ペプチドマッピング法の分析法移管における ACQUITY UPLC H-Class Plus バイオバイナリーシステムと ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムの分析法の同等性の実証

逆相ペプチドマッピング法の分析法移管における ACQUITY UPLC H-Class Plus バイオバイナリーシステムと ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムの分析法の同等性の実証

  • David Dao
  • Brooke M. Koshel
  • Robert E. Birdsall
  • Ying Qing Yu
  • Waters Corporation

要約

最新の LC プラットホームを導入する場合、新しいシステムが従来の分析法の目的に合致しており、新しいシステムと元のプラットホームの間で分析法の同等性が確立できることを実証することが重要になります。本研究では、RPLC ペプチドマッピング法を使用して、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムから ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステムへの分析法移管を評価しました。2 つのシステム間での保持時間とピーク面積の再現性について評価を行いました。標準的な出荷時設定を使用してシステムを実行した場合、クロマトグラフィー性能がシステム間で同様であることが分かりました。13 本のペプチドピークについてのシステム間の平均保持時間の差は約 1.5 秒でした。ただし、流路系のチューブの直径や設定(溶媒ミキサーの容量など)の違いにより、LC システムのデュエルボリュームが異なることが多いため、保持時間のシフトが発生することが予想されます。LC プラットホーム間でシステムのデュエルボリュームが異なる場合に、これらの差を考慮するために、グラジエント SmartStart テクノロジーを使用し、注入前にグラジエントを調整して、グラジエントテーブルを変更せずに保持時間をアライメントすることができます。グラジエントオフセットを適用することで、クロマトグラフィー性能が両方のシステムで同様であることが再確認されました。13 個のピークの保持時間の直交プロットにより、R2 値が 0.99996 であることが分かりました。これにより、選択性がプラットホーム間で保たれていたことが示されています。ピーク面積の割合もシステム間で維持されていました。これらの結果からは、2 つの LC システム間で既存の分析法を移管する場合に、類似したクロマトグラフィーおよび定量結果を得られることが示されました。

アプリケーションのメリット

  • Empower の グラジエント SmartStart テクノロジーを用いることで、ミキサーの容量のばらつきが保持時間に及ぼす影響を調整し、LC システム間で保持時間をアライメントすることができます。
  • 2 つのバイナリー UPLC システム間の保持時間とピーク面積の再現性によって示される分析法の同等性

はじめに

バイオ医薬品分析は、サンプルの複雑化や新しい治療法の継続的な進化により、ますます困難になってきています。頑健な分析法の開発は、生成するデータすべての再現性を確保するために不可欠です。この点は、分析法を外部受託ラボに移管する場合や、内部で QC 施設や製造施設に移管する場合に特に当てはまります。分析法は多くの場合、複数のベンダープラットホーム間で移管しますが、古い装置プラットホームは段階的に廃止されるため、新しいテクノロジーの導入にも対応していく必要があります。LC プラットホーム間の性能の違いを考慮することは、移管する側のラボと受ける側のラボの相違をより包括的に理解するための重要な作業となります。

本研究では、ペプチドの RPLC 分析法を 2 つの異なるバイナリー UPLC プラットホーム(ステンレススチール製の ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムおよび ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステム)の間で移管し、試験した条件における分析法の同等性を評価しています。「生体適合性」または「生体不活性」の LC システムは、耐腐食性の材料を用いた設計や、タンパク質やその他の生体試料との表面相互作用を軽減するために金属を含まない流路を用いており、バイオ医薬品業界の関心を特に集めています。耐腐食性材料は SEC や IEX などの用途に適していますが、多くのラボでは専用の装置を使用しておらず、同一の LC システムを RPLC 分離にも使用されています。ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステムは、生体マトリックスや移動相の条件に適した生体適合性の高い流路および大きなチューブ内径、そしてより信頼性の高いグラジエント送液を可能にするバイナリーポンプを活用した、生体適合性の高いバイナリー LC システムです。

実験方法

サンプルの説明

NIST mAb リファレンス物質を還元およびアルキル化し、トリプシン消化したものである Waters トリプシン消化標準品(製品番号:186009126)を、0.1%(v/v)ギ酸水溶液に再溶解し、60 秒間ボルテックス混合して、最終濃度 0.5 µg/µL にしました。すべてのサンプルは注入直前に調製しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC H-Class Plus バイオバイナリーシステム(生体適合性)

ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム(ステンレススチール製)

検出:

214 nm

バイアル:

MaxPeak HPS を採用した QuanRecovery バイアル

カラム:

ACQUITY UPLC BEH C18 カラム、130 Å、1.7 μm、2.1 × 100 mm

カラム温度:

60 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

10 μL

流速:

0.5 mL/分

移動相 A:

0.1%(v/v)ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1%(v/v)ギ酸アセトニトリル溶液

グラジエント

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower 3 FR4

結果および考察

分析法移管を評価するために、RPLC アプリケーション専用のステンレススチール製バイナリー UPLC システム、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム、および ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステムでペプチドマッピング用の汎用 RPLC 分析法を実行しました。いずれのバイナリー LC システムも、デフォルトの出荷時設定を使用して評価しました。両方の LC システムで、グラジエント全体にわたって選択した 13 本のピークについて同様のクロマトグラフィーが得られました(図 1)。ピークの保持時間は、手動のオフセットを行わなくても非常によくアライメントされており、両システムのグラジエントディレイボリュームが非常に類似していることを示しています。表 1 に、4 回の注入にわたって選択したピークの平均保持時間を示します。表 1 では、保持時間の平均差の計算値は 1.5 秒です。これは、デュエルボリュームの差 12.5 µL に相当します。これは無視できる量であり、独立の実験で決定した各システムのデュエルボリュームの差と一致しています1。システム内データを評価した結果、13 本のピークの保持時間の標準偏差の平均は 0.0017(ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム)および 0.0012(ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステム)でした。いずれのシステムでも装置の仕様を満たす保持時間のデータが生成されており、互いに同等のデータが得られ、アプリケーションの要件を満たしていました。

図 1. NIST mAb トリプシン消化標準品の RPLC クロマトグラム(デフォルトの出荷時設定を使用)。Hong および McConville により概説されている方法で各システムのデュエルボリュームを測定した結果、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムでは 89.4 µL、ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステムでは 95.8 µL でした1。これらの値は装置仕様に適合しており、クロマトグラムで生成された同様の保持時間を裏付けているものです。クロマトグラフィープロファイルはシステム間でほぼ維持されていますが、若干のばらつきが見られるのは、システム準備プロトコルの違いによるものである可能性があります。 
表 1. 4 回の注入にわたる 13 種のペプチド(図 1)の平均保持時間(分)の比較 

同じ分析法を実行していても、LC システム間のデュエルボリュームの違いにより、保持時間のシフトが見られることは珍しくありません。以前の研究により、ペプチドマッピングアプリケーションにおいて大きなミキサー容量を使用することの利点が示されています2。 LC プラットホーム間で、より大きなミキサーを使用し、デュエルボリュームが顕著に異なるシナリオを観察するため、ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステムの標準の 50 µL ミキサーを 340 µL のミキサーに交換し、上記のペプチドマッピング分析法を実施しました。ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム(50 µL ミキサー)と 340 µL ミキサーを搭載した ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステムのクロマトグラフィープロファイルは類似していますが、保持時間にはるかに大きなシフトが見られます(図 2A)。分析法の許容基準では、LC システムのデュエルボリュームが異なることを考慮して、相対保持時間を報告することがよくありますが、グラジエント SmartStart テクノロジーを用いることで、グラジエントテーブルを変更せずに保持時間を調整することもできます。この例では、2 つのシステム間のデュエルボリュームの差は約 296 µL でした。グラジエント SmartStart テクノロジーにより、このボリュームを用いて、注入前のグラジエントの開始を遅らせることができるようになりました(図 2B)。この調整により、標準の ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム設定と、340 µL インラインの ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステムの間でピークの保持時間がアライメントされています(図 2A)。

図 2A. デュエルボリュームが異なるシステムを考慮して、Empower ソフトウェアのグラジエント SmartStart テクノロジーを使用した分析法移管を示すクロマトグラム。図 2B.グラジエント開始時間は、注入時、注入前、または注入後に適用でき、Empower ソフトウェアで μL 単位の容量として入力できます。この値は、Hong および McConville により概説された方法1 によって、もしくは実験内で RT オフセット(分) × 流速(mL/分)の式によって決定したシステムのデュエルボリューム差を計算することで決定することができます。ここで、RT オフセットは図 2A の上段および中段のクロマトグラムを比較して決定しています。いずれの値も、より一般的な計算と整合しており、ミキサー容量の差 340 µL - 50 µL = 290 µL が求められます。下段のクロマトグラムは、注入前に適用したグラジエント開始時間の結果です。 

このデータをさらに調査するために、図 3 に、選択した 13 本のピークの保持時間を、両方のシステムで 4 回の繰り返し注入にわたって互いにプロットし、選択性の変化がないか観察します。R2 値は 0.999996 で、このアプリケーションのプラットホーム間で選択性が極めて類似していることを示しています。ピーク面積の再現性も、分析法移管が成功した場合に保持されると予想される指標の 1 つです。13 種のペプチドのピーク面積の割合を図 4 に示します。ピーク面積の値は、両システムで類似していました。ピーク面積の差はすべてのペプチドで 1 % 未満であり(ピーク 7 は 約 1.2 %)、一部のペプチドでは 0.1 % 以下でした。ほとんどのペプチドについて、ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステムの方が標準偏差も %RSD の観測値も小さくなりましたが、両システムとも装置仕様を満たしており、互いに同等の結果を示しました。

図 3. ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステム(340 µL ミキサーとグラジエント遅延を使用)と ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムの保持時間の生データ(分)の比較。データは、選択性がシステム間で保持されていることを示しています。 
図 4. ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムと ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステム(340 µL ミキサーおよびグラジエント遅延を使用)で得られた 4 回の注入にわたる面積(%)の比較データからは、ピーク面積がシステム間で保持されていることが示されています。 

結論

バイオ医薬品関連企業は、医薬品の製造および試験において信頼性の高い結果を得るために、堅牢な LC システムを必要としています。ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステムは、生体適合性の高い流路とバイナリーポンプを利用して、より精密で正確なグラジエント送液を実現しています。ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムのプラットホームから ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイオバイナリーシステムへの分析法移管により、同等の保持時間とピーク面積の結果が得られることが実証されました。グラジエント SmartStart テクノロジーでは、LC プラットホーム間でデュエルボリュームが異なる例において、システム間で保持時間がアライメントされることも示されました。 報告された標準偏差と %RSD の値が小さいことは、アッセイ内精度が優れていることを示していますが、同時に結果がシステム間でも非常に類似していることも示されました。

参考文献

  1. Hong, P, McConville, PR.Dwell Volume and Extra-Column Volume: What Are They and How Do They Impact Method Transfer.Waters White Paper 720005723EN.2016 May.
  2. Dao, D, Birdsall, RE, Yu, YQ.Instrument Mixer Considerations to Improve Assay Reproducibility and Sensitivity.Waters Application Note 720007011EN.2020 Sep.

720007147JA、2021 年 2 月

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