• アプリケーションノート

Waters ACQUITY RDa 検出器が、強制分解試験でのルーチン精密質量測定に使いやすいソリューションであることの実証

Waters ACQUITY RDa 検出器が、強制分解試験でのルーチン精密質量測定に使いやすいソリューションであることの実証

  • Chris Henry
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

要約

強制分解試験は、FDA への承認申請の一環として製薬会社が使用する安定性を示す方法を開発するための重要な分析試験です1。高分解能質量分析(HRMS)は、複雑な混合物中の化学成分を確実に同定するためによく使用される手法ですが、ユーザーが操作やデータ解釈に熟練していることが必要になります。ウォーターズは最近、精密質量測定テクノロジーの導入を容易にするために ACQUITY RDa 検出器を発表しました。これによってルーチンワークフローが取り入れられ、HRMS の専門知識が必要なくなりました。

ここでは酸性、塩基性および酸化的条件下でのシンバスタチンの強制分解について実証します2。 Waters ACQUITY UPLC I-Class PLUS を使用して、分解物から API(医薬品有効成分)を分離することができました。

すべての主要な分解物が自動的に同定され、経時的な分解プロファイルが質量誤差 3 ppm 以内で視覚化されました。低エネルギーと高エネルギーの機能を両方備えたフルスキャンを用い、フラグメンテーションコーン電圧を上昇させることで、フラグメントイオン情報が生成され、追加の構造情報が得られました。 

アプリケーションのメリット

  • 医薬品分解試験のためのルーチンの精密質量データ収集
  • SmartMS ワークフローで自動取り込み、解析、およびレポート作成を実施
  • 直感的なシステムヘルスチェックおよびセットアップ – 手動による調整やキャリブレーションが不要
  • 頑健なデータインテグリティーのための完全なオーディットトレイルを備えたコンプライアンス対応システム

はじめに

FDA および ICH のガイドライン3,4 に記載されているように、医薬用製剤および原薬の強制分解は、既知および未知の不純物の特性解析を必要とする医薬品分析開発における重要な要素です。分解生成物のルーチンモニタリングには UV(紫外線)検出が使用されますが、最初の化合物の特性解析には高分解能質量分析(HRMS)などの手法が必要です。通常、この手法では装置を操作したり、生成されたデータを解釈したりするためには、専門知識が必要です。

ACQUITY RDa 検出器は、自動セットアップおよびキャリブレーション機能を備えているため、分析の専門知識の有無を問わず、科学者は精密質量測定を行うことができます。専門家以外のユーザーでも HRMS にアクセスできるようになったため、科学者ははるかに詳細な分析情報を得ることができます。  

さらに、waters_connect ソフトウェアプラットホームは、専用のエンドツーエンド SmartMS ワークフローを使用して、コンプライアンス対応のフレームワーク内で、自動的に取り込み、解析し、結果を報告します。この機能により、科学者は規制環境内でこのプラットホームを簡単かつ高い信頼性で使用することができます。ここでは、ACQUITY RDa 検出器を使用したこのワークフローの例として、個別の酸性、塩基性、および酸化的条件下におけるシンバスタチンの強制分解について実証します。UNIFI ソフトウェアでシンバスタチン API と生成した分解物を自動的に同定して視覚化する機能を紹介します。フラグメンテーション機能によるフルスキャンを使用することで、高エネルギースペクトルと低エネルギースペクトルを同時に取り込み、フラグメントイオン情報を生成して化合物同定の信頼性を高めることができます。

実験方法

シンバスタチンの標準品は Sigma(英国 Poole、Dorset)から入手しました。ストック溶液をメタノール中に調製し、0.5 M 塩酸、5 mM 水酸化ナトリウム、10% 過酸化水素の 3 つの条件下で分解を行いました。

酸性および酸化的条件での分解は 60 ℃ で行い、塩基性条件での分解は室温で行いました。

サンプルは時間の経過とともに分解され、さまざまなタイムポイントでアリコートを取って分析して、分解の進行をプロファイリングしました。

比較用に移動相でシンバスタチンの対照溶液を調製しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-Class PLUS

検出:

TUV @238

バイアル:

TruView マックスリカバリーバイアル、製品番号:186005668CV

カラム:

ACQUITY BEH C18、2.1 mm × 5 0 mm、1.7 µm、製品番号:186003554

カラム温度:

45 ℃

サンプル温度:

6 ℃

注入量:

1 μL

流速:

0.6 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

グラジエント:

25 ~ 90% B(8 分)

MS 条件

MS システム:

ACQUITY RDa 検出器

イオン化モード:

ESI+

取り込み範囲:

100 ~ 2000 Da

キャピラリー電圧:

1.5kV(既定値)

コーン電圧:

20V

フラグメンテーションコーン電圧のランプ:

120 ~ 170V

スキャンレート:

10Hz

脱溶媒ガス温度:

550 ℃

データ管理

MS ソフトウェア:

waters_connect プラットホーム、UNIFI 1.9.12 で構成されている waters_connect ベースキット

結果および考察

ACQUITY RDa 検出器のセットアップは、検出器のセットアップ、自動調整、質量キャリブレーションなどを含め、完全に自動化されました。このルーチンのセットアップ後、MS フルスキャンの精密質量データを、キャピラリー電圧 1.5kV およびコーン電圧 20V で取り込みました。

フラグメンテーション機能を備えたフルスキャンモードでは、コーン電圧のランプが可能で、高エネルギースペクトルと低エネルギースペクトルの両方を同時に取り込むことができます。自動的に割り当てられたフラグメンテーション情報により、化合物の同定の信頼性がさらに高まります。

LC/UV クロマトグラムも、Waters ACQUITY TUV を使用して、比較用に 238 nm で取り込みました。

シンバスタチンの対照サンプルは、プリカーサーイオンを含む低エネルギーチャンネルと、フラグメントイオンの情報を含む高エネルギーチャンネルを用いて取り込みました(それぞれ図 1 および図 2)。プリカーサーイオンとフラグメントイオンの割り当ては自動的に行われ、質量クロマトグラムに注釈が直接付けられます。

図 1.  親化合物シンバスタチンの UV/XIC とシンバスタチンの .mol.File に基づいて視覚化した構造
図 2.  シンバスタチンの高エネルギー取り込みから割り当てられたフラグメントイオン

シンバスタチンおよびその分解物は、すぐにカリウム付加物を形成するため、解析メソッドには [M + K]+ と [M + H]+ を含め、検出された付加物が自動的に割り当てされます。API に関連する分解物を正しく同定するために、UNIFI 内での解析方法の一部として、可能性のある分解による変換も選択しました5,6

[クリーベージツール]オプションを選択すると、UNIFI はリングの開裂によって生成するフラグメントイオンを自動的に同定できるようになります。これが可能なのは、分子の in silico 開裂を行い、可能な官能基を同定する化学的にインテリジェントなアルゴリズムを用いて、親分子の構造的情報が得られるためです。

記載した酸性および塩基性条件での分解により、主要分解物であるシンバスタチン酸(図 3/4)が生成されます。これは、テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン環の開裂に続いてジヒドロジオール(H2O2)基が結合して生成したものです。酸化的条件下で認められる主な分解物はジヒドロジオール分子種です(図 5)。すべての分解物の構造は、API の .mol File に基づいて表示しています。

図 3.  高エネルギースペクトルおよび低エネルギースペクトルを含む HCl 分解シンバスタチンの UV/XIC
図 4.  高エネルギースペクトルおよび低エネルギースペクトルを含む NaOH 分解シンバスタチンの UV/XIC
図 5.  高エネルギースペクトルおよび低エネルギースペクトルを含む過酸化物分解シンバスタチンの UV/XIC

コーンランプによる高エネルギースペクトルを同時に取り込み(図 6、7、8)、示唆された親化合物のフラグメンテーション部位を視覚的に表しています。

図 6.  高エネルギーフラグメントイオンを強調表示した HCl 分解シンバスタチンの UV/XIC
図 7.  高エネルギーフラグメントイオンを強調表示した NaOH 分解シンバスタチンの UV/XIC
図 8.  高エネルギーフラグメントイオンを強調表示した過酸化物分解シンバスタチンの UV/XIC

[サマリープロット]機能(図 9、10、11)により、目的の分解物が時間とともに増加していることを示す棒グラフを表示しています。

図 9.  HCl 分解シンバスタチンの UV/XIC、およびシンバスタチン酸の経時的サマリープロット
図 10.  NaOH 分解シンバスタチンの UV/XIC、およびシンバスタチン酸の経時的サマリープロット
図 11.  過酸化物分解シンバスタチンの UV/XIC、およびシンバスタチン酸の経時的サマリープロット

[サマリープロット]では、塩基性条件下でのシンバスタチンの分解が非常に速く、室温において 1 分未満でほぼ完全にシンバスタチン酸に変換されることが分かります。酸性および酸化的条件下でのシンバスタチンの分解はより遅く、目的とする API の 10% ~ 20% 分解を達成するために、それぞれ 90 分および 5 時間かかっています。

API、生成した分解物およびフラグメントイオンの質量精度は -1.9 ~ 2.4 ppm でした。

結論

シンバスタチンの強制分解を、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムおよび TUV と組み合わせた ACQUITY RDa 検出器を使用して正常に特性解析することができました。UNIFI アプリケーションを備えた waters_connect ソフトウェアプラットホームを使用して、シンバスタチンおよび対応する分解産物を、高い信頼性で自動的に同定しました。高エネルギーデータを同時に取り込むことにより、フラグメントイオンが生成され、より厳密な化合物同定を達成できました。現れた化合物イオンおよびフラグメントイオンはすべて、3ppm 未満の優れた質量精度を示していました。

このレベルの化合物特性解析では通常、HRMS に精通したユーザーが装置を操作し、生成された結果を解釈する必要があります。専用のエンドツーエンドワークフローと ACQUITY RDa 検出器の自動セットアップを組み合わせて取り入れた waters_connect ソフトウェアプラットホームにより、ルーチンワークフローで精密質量測定データにアクセスすることができます。このように情報が豊富な取り込みが可能になることで、化学者は豊富な情報を得ることができ、HRMS の専門知識を必要とせずに、薬物の安定性に関する十分な情報を得た上で、決定を下すことができます。

参考文献

  1. Patolia VN.An Introduction To Forced Degradation Studies For Drug Substance & Drug Product.Pharmaceutical Online Jan 9, 2020.
  2. Alden P, Jones MD, Lefebre P, and Plumb R. Utilizing UPLC-MS for Conducting Forced Degradation Studies.
  3. ICH Guidelines, Q1A(R2): Stability Testing of New Drug Substances and Products (Revision2), International Conference on Harmonization.
  4. FDA Guidance for Industry, INDs for PhaseII and III Studies – Chemistry, Manufacturing, and Controls Information, Food and Drug Administration.
  5. Laurent L, Mortishire-Smith RJ, Huisman M, Cuyckens F, Hartshorn MJ, Hill, A. IsoCore: Automated localization of Biotransformations by Mass Spectrometry using Product Ion Scoring of Virtual Regioisomers.Rapid Communication in Mass Spectrometry, Pages 39-50, Dec 3, 2008 https://doi.org/10.1002/rcm.3854.
  6. Kirk J, Mortishire-Smith R, Wrona M.: A Novel Approach Using UPLC-Tof MSE and the UNIFI Scientific Information System to Facilitate Impurity Profiling of Pharmaceuticals, Ref: 720005604EN Feb 2016.

720007124JA、2021 年 1 月

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