• アプリケーションノート

ルーチン食品プロファイリングにおけるはちみつ中の予期せぬ物質の検出

ルーチン食品プロファイリングにおけるはちみつ中の予期せぬ物質の検出

  • Gitte Barknowitz
  • Sara Stead
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、新型の高性能ベンチトップ型直交加速飛行時間型(Tof)LC-MS システムで、簡素化・最適化された標準操作モードと、直感的に操作できるソフトウェアおよび多変量解析機能を含む自動ワークフローメソッドを使用することで、非標的メタボロミクスにより、ポリフローラル由来と単一の植物(モノフローラル)由来のはちみつのサンプルを区別し、はちみつを含む健康補助食品における不正な強化を検出できるかどうかを調べます。

アプリケーションのメリット

はちみつに関連する一般的な偽装を調査するツールとして ACQUITY RDa 検出器を使用することで、目的に合った高分離能 LC-MS(Tof)プラットホームにより合理的なデータ取り込みと解析が可能になり、食品の真正性分析の初心者でも、初めの一歩が踏み出しやすいように設計されています。

はじめに

健康的で自然なライフスタイルへの消費者の新たな指向により、国際市場ではちみつの需要が高まっています。はちみつは、とりわけ抗酸化成分、抗炎症成分などにより、食品・飲料業界において、天然の砂糖、シロップや人工甘味料に代わる魅力的な代替食品になっています。一方、最近では、創傷被覆材から風邪の治療薬まで、医薬品および消費材の成分として、はちみつへの関心が高まっています1

高価値の食料品であるはちみつは、様々な形の食品偽装の被害を受けやすくなっています。例えば、マヌカなど、モノフローラル(単花)由来のはちみつ製品は、安売り競争のための偽装に直面しています。結果として、生粋の養蜂家は、価格面で偽装製品との競争に勝てないために廃業に追い込まれ、各地のエコシステ世界中の食品の 3 分の 1 はミツバチの働きによるものであり、操業中の生産者を維持し、安価な偽装はちみつと闘うことによる、世界中のミツバチの数の保護は、以前として多くのレベルで進行中の課題です2。 更に、健康上および栄養面での有効性を謳っているはちみつを含む天然健康補助食品は、製品の偽りの「有効性」を提供するために未申告の医薬成分を用いた不正な強化がしばしば行われており、消費者の安全を脅かしかねません。

食品・飲料メーカーは、消費者の選択肢、手頃な価格、一貫した製品の品質および供給の継続性を保つために、サプライチェーンに頼っています。人口増加、限られた資源に対する需要増、食習慣の変化により、国際的な供給システムにかかる圧力が高まる中で、企業各社は食品偽装の可能性に注意を払いつつ、顧客やサプライヤーと積極的に連携して、食品偽装のリスクを特定し、軽減する必要があります。

はちみつの分析は非常に複雑であり、偽装の種類も多岐にわたるため、複数の分析手法が必要です。分光法および分光技術を使用した複数成分の同時検出と、多変量解析(MVA)の組み合わせは、植物を区別する上で有望なアプローチです3。 LC-HRMS は、はちみつの分析を含む食品・飲料業界の代謝プロファイリングに広く使用されている手法です。本研究では、新型の高性能ベンチトップ型直交加速飛行時間型 LC-MS システムで、簡素化・最適化された標準操作モードと、直感的に操作できるソフトウェアおよび多変量解析機能を含む自動ワークフローメソッドを使用することで、非標的メタボロミクスにより、ポリフローラル由来と単一の植物(モノフローラル)由来のはちみつのサンプルを区別し、はちみつを含む健康補助食品における不正な強化を検出できるかどうかを調べます。

図 1 に示すように、システムの制御を UNIFI ソフトウェアで行い、セットアップおよびキャリブレーションルーチンの自動化や、確立された非標的スクリーニングワークフローによる解析により、操作を簡素化しています。

図 1. ACQUITY RDa 検出器でのはちみつのスクリーニングおよび調査のための、サンプル前処理からデータ解析までのワークフロー。単一のプラットホームで装置のセットアップ、データの取り込み、解析、MVA、調査を行います。

実験方法

ポリフローラルまたは単花由来(マヌカ)のはちみつのサンプルを分析しました。各種類ごとに 3 つの異なるサンプルを選出し、3 回繰り返し注入しました(グループごとに計 9 データポイント)。はちみつ由来の健康補助食品 1 種も調査しました。品質管理(QC)プールを作成し、アッセイの技術的再現性を評価しました。

最大 40 サンプルのバッチの実施を約 30 分 で行える高速かつ簡素化したサンプル前処理を採用しました。はちみつ 1 mL を遠心チューブに量り取り、抽出溶媒 20 mL(メタノール/水(30/70%、v/v)、0.1% ギ酸含有)を添加して、5000 rpm で 5 分間遠心分離し、上清を 30 ℃ で 1 分間超音波処理しました。次に、サンプル抽出物 1 mL を UPLC ガラスバイアルに移し、ACQUITY RDa 検出器と組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class PLUS に 5 µL 注入し、分離を行いました。ワークフローを図 1 に示します。

この装置では内蔵の SmartMS テクノロジーを使用することで、高分解能装置の初心者のためにセットアップを改善しています。ACQUITY RDa システムでは、セットアップ溶液が装置に常に接続されており、装置セットアップがオペレーターに対し、最適化されたページに表示されます。システムは、自動的に検出器のセットアップ、自動調整および質量キャリブレーションを行い、取り込みの準備ができたら表示します。

データの取り込みおよび解析は、UNIFI を使用して waters_connect(バージョン 1.2.0、Waters)と EZinfo(バージョン 3.0.3、Umetrics)で行いました。ピークピッキングを UNIFI、多変量解析を EZinfo で行っています。解析の前に、UNIFI 中のサンプルリストを編集して[グループ ID]の列を追加すると、これによって Ezinfo でのマーカー標識が自動化されます。質量範囲および保持時間の限界をマーカーディスカバリー用に全範囲に設定した結果、UNIFI によって約 40,000 のマーカーが作成されました。マーカーは、自動ルーチンによって Ezinfo に転送され、多変量解析が行われました。モデルのスケーリングを[Pareto](パレート)に設定して、ラベルを[Group ID](グループ ID)に変えました。測定した健康補助食品のはちみつと品質管理プールの比較のために S プロットを作成しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-CLASS PLUS

カラム:

ACQUITY BEH C18(2.1 × 100 mm、1.7 µm)

移動相 A:

10 mM 酢酸アンモニウム水溶液

移動相 B:

アセトニトリル

カラム温度:

45 ℃

注入量:

5 µL

グラジエント

時間(分)

移動相 B(%)

曲線の設定

0.0

1

初期条件

0.75

1

6

2.0

5

6

3.0

5

6

6.5

55

6

8.5

90

6

9.0

90

6

9.1

1

6

12.0

1

6

MS 条件

MS 検出器:

ACQUITY RDa 検出器

モード:

フラグメンテーションのフルスキャン(疑似 MSE 取り込み)

質量範囲:

低(50 ~ 2000 m/z

極性:

ポジティブ

スキャンレート:

10 Hz

コーン電圧:

30 V

フラグメンテーションコーン電圧:

60 ~ 180 V

キャピラリー電圧:

1.5 kV

脱溶媒温度:

550 ℃

結果および考察

非標的プロファイリングおよび MVA

分離能 10,000 の LC-Tof と自動 MVA(PCA)を使用することで、はちみつサンプルのポリフローラル種とモノフローラル(単花)種を容易に区別でき、良好なグループ内およびグループ間のクラスタリングが得られました。取り込みの過程全体にわたって、QC プールのサンプルの繰り返し注入を無作為の間隔で行い、技術的誤差を評価しました。QC プールの注入では、PCA スコアプロットにおいて、ポリフローラルおよびモノフローラルのはちみつ集団の間の、非常に近接したクラスターになりました。このことから、システム全体の技術的誤差は小さく、多変量解析の目的に適合していることが分かりました。

図 2 から、ポリフローラルまたはモノフローラル由来のはちみつの被験群、はちみつ由来健康補助食品、プールした QC サンプルの間の区別ができていることが明らかです。健康補助食品はちみつグループは、他のグループとは明確に離れており、EZinfo 内で QC プールに対して別個に調査しました。更に、3 種のポリフローラルはちみつサンプルおよび 3 種のマヌカはちみつサンプルの間の顕著なグループ内差異も見られます。

図 2. プールした QC サンプルとともに分析したはちみつのパレートモデル。28,000 個のマーカーから作成したモデル。

マーカー解析ツール

はちみつを含む健康補助食品では、作成した S プロットで、多数の固有のマーカーイオン(m/z = 390.1456)が見られました(図 3)。

図 3. 上部に、はちみつを含む健康補助食品と QC プールを比較した S プロットを示します。下部に、目的のマーカーが UNIFI に戻り、ChemSpider データベース検索を開始するボタンを押した後に開く画面を示します。強調表示されている楕円は、ソフトウェアでのクリックが必要な場所を示しています。

プリカーサーイオン質量と、当初のデータ取り込みで使用したコーン電圧のランプによる疑似 MSE 取り込みによって可能になったフラグメントイオンマッチを用いた ChemSpider 検索により、選択したマーカーは、医薬品化合物タダラフィルと仮同定されました。図 3 に示すように、EZinfo の S プロットからの目的のマーカーを 3 回のクリックで再インポートした後、調査が UNIFI で行われました。

図 3 の左下隅に、自動作成されたマーカーのサマリープロットが UNIFI で示されています。これは、選択したマーカーのサンプルセット全体にわたる存在量を示しています。EN1、EN2、EN3 は、製品の 3 つの異なるアリコートから得られたはちみつを含む健康補助食品の注入結果です。QC2 は健康補助食品を含む QC プールで、この文章では QC プールと呼んでいるものです。

定量分析ツールセット

マーカーの同定後、タダラフィル標準試料の定量分析を行いました。UNIFI でライブラリーのエントリーを作成し、ChemSpider からダウンロードしたモルファイルをエントリーに追加しました(図 5)。これにより、UNIFI が構造から予測されるフラグメントイオンを生成し、これらを疑似 MSE データ中で検索することができます。次に、新しいタダラフィルのライブラリーエントリーを追加して UNIFI の解析メソッドを更新し、データを再解析してしきい値を評価しました。非線形曲線近似を UNIFI 内で適用すると、500 ~ 3000 ng/mL にわたって R2 が 0.994 になりました(図 4)。はちみつベースの健康補助食品中のタダラフィルの算出濃度は、医薬品シアリスの最大配合量を超えると推定され、無防備な消費者に対する潜在的な健康リスクになります。この機能は、完全な定量分析に必要な分析を行う前の、偽装レベル推定のための強力なツールとなります。

図 4. タダラフィルの検量線
図 5. 新規作成したライブラリーのエントリーを、モルファイルの追加により、手動で修正する方法を示す UNIFI スクリーンショット
図 6. UNIFI のサンプルリスト全体にわたるタダラフィル化合物の自動生成されたサマリープロット

結論

  • ACQUITY RDa 検出器を装備した ACQUITY UPLC I-Class PLUS により、効率の良い分離と、包括的でバイアスがかかっていない MS 取り込みが可能になり、UNIFI でのメタボロミクスワークフローで使用する、プリカーサーイオンおよびフラグメントイオンの精密質量および同位体分布を含む、情報量の豊富なデータが得られます。
  • このシステムは、はちみつのような複雑な食品マトリックスのプロファイル分析に適用できます。ポリフローラルとモノフローラルのはちみつの種類を区別するなどの問題に対処できるとともに、不正な添加剤や予想外の汚染物や混和物を過去にさかのぼって検出することができます。
  • 簡素化された装置のシステムセットアップと合理的なワークフローにより、ユーザー体験が向上し、迅速に回答が得られます。
  • このアプリケーションノートでは、対象のマトリックスにはちみつを使用していますが、このテクノロジープラットホームとワークフローを、食品・飲料検査セクターの様々な応用分野で使用できる可能性もあることがわかりました。

参考文献

  1. Honey Market Size, Share & Trends Analysis Report by Application (Food & Beverages, Personal Care & Cosmetics, Pharmaceutical), by Distribution Channel, by Region, and Segment Forecasts, 2019–2025, Grand View Research, 2020 via https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/honey-market.
  2. Honey Fraud – The Impact on Beekeeping, Poelsma, 2020 via https://www.vatorex.com/blog/bee-culture-3/post/honey-fraud-the-impact-on-beekeeping-17.
  3. Discrimination of Different Unifloral Honeys using an Untargeted High-Definition Mass Spectrometry Metabolomic Workflow, Wallace et al., 2017, Waters Application Note 720005963EN.

720007087JA、2021 年 1 月

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