イムノアフィニティークロマトグラフィークリーンアップを UPLC および蛍光検出器と組み合わせて使用した、ミルク中のアフラトキシン M1 の測定
要約
アフラトキシンは発癌性のマイコトキシンであり、汚染された食物・飼料を摂取するヒト・動物の健康に、有害な影響を与えます。アフラトキシン M1(AFM1)は、アフラトキシン B1(AFB1)で汚染された飼料を摂取する動物のミルク中に存在する AFB1 の代謝物です。ミルク中の AFM1 を高感度で選択的に測定するための分析法が開発されています。サンプルは、ミルクを遠心分離し、脂肪層を分離して取り出して除去して、調製しました。次に表面の浮遊部分を、AFM1 に選択的に結合する特定の抗体が含まれている VICAM Afla M1 イムノアフィニティークロマトグラフィー(IAC)カラムに注入しました。カラム上の抗体に AFM1 が結合した後、カラムを洗浄してマトリックス成分を除去し、AFM1 をカラムから溶出します。AFM1 濃度は、蛍光検出器を搭載した ACQUITY UltraPerformance 液体クロマトグラフィー(UPLC)システムを用いて測定しました。この分析法の性能を、スパイクサンプルの繰り返し分析によって評価しました。この手順の検出限界は 0.005 μg/kg(ppb)でした。全体的な回収率は 80% を超えて良好で、相対標準偏差は 10% 未満であることが示されました。ブランクサンプルで干渉ピークが観察されなかったことから、この分析法は特異的であることがわかりました。この分析法は、ミルク中の AFM1 に世界中で規定されている規制限度への準拠のモニタリングに適していることが実証されています。
アプリケーションのメリット
- 高性能 - この分析法は、AOAC および欧州連合の分析法の性能要件を満たしている
- 頑健性 – この分析法は、確立されている AOAC の公定分析法に改良を加えたものである
- 速度 – この分析法に必要なミルクはわずか 2 mL であるため IAC クリーンアップは迅速で、UPLC により分析時間が短縮される
はじめに
マイコトキシンは、真菌の毒性代謝物であり、ヒトの健康に有害で、病気や家畜の生産効率低下による経済的損失を引き起こします。食品や動物用飼料に一般に存在するマイコトキシンのうち、最も毒性と発癌性の高いグループはアフラトキシンです。ミルクおよび乳製品には、ヒトに対する強力な発癌物質であるアフラトキシン B1(AFB1)の代謝物であるアフラトキシン M1(AFM1)が、含まれていることがあります。AFM1 は、AFB1 で汚染された乳畜のミルク中に存在し、AFB1 の一部がこの水酸化代謝物に変換されて、ミルク中に排出されます1。 ミルクおよび乳製品中に AFM1 が存在することは、いくつかの理由から世界中で食品安全性の懸念として報告されています2。 AFM1 は、国際がん研究機関(IARC)によってヒトに対する発癌物質のグループ 2B に分類されており、AFM1 および AFB1 の急性毒性は同程度です。AFM1 は熱安定性であり、通常の処理や保管では、ミルクおよび乳製品中の存在レベルを下げる効果がありません。少量のこの汚染物質でも、特に人口集団中の影響を受けやすいサブグループである子供などの、乳製品の消費者に対して、健康リスクが生じる可能性があります。さらに、ミルクおよび乳製品中の AFM1 がもたらす経済的影響は、乳製品生産者にとって深刻な可能性があります。アフラトキシンの標準に適合しない製品が国内市場または国際市場で拒絶されると、直接の経済的影響が発生します。場合によっては、動物飼料中の AFB1 およびミルクサンプル中の AFM1 の量が比較的高く、地域の消費者の健康上の危険を引き起こすことがあります。バングラデシュとパキスタンでの最近の 2 件の調査によれば、それぞれのサンプルの 71% および 48% が AFM1 で汚染されていることがわかりました2,3。
多くの国で、ミルクなどの食品中のアフラトキシンに関して厳格な規制が定められています(ただし、内容はさまざまな国によって異なります)。例えば、中国、インド、ロシア、米国などの国では、液体ミルク製品中の AFM1 に最大推奨 Codex 限界値 0.5 μg/L(ppb)が適用されていますが、EU ではミルク中の AFM1 の下限値 0.05 μg/kg(ppb)が定められています4。 ミルクは、液状ミルクとして摂取されるだけでなく、乳児用調製粉乳、ヨーグルト、チーズ、ミルクベースの菓子(チョコレート、ペストリーなど)の調製品にも使用されます。
食品および飼料の汚染物質に関する規制がまだ整備されていない国でも、ミルクおよび乳製品中の AFM1 濃度をモニターすることは極めて重要です。現場での試験にはモノクローナル抗体の選択性に基づく免疫化学ストリップテスト(例:VICAM の Afla M1-V)が使用されていますが、通常のラボでの使用にはクロマトグラフィー手法が好まれており、公定レファレンス分析法にも使用されています(多くの場合、イムノアフィニティークロマトグラフィー(IAC)カラムクリーンアップ後に行われる)。蛍光検出器(HPLC-FLD)に接続した高速液体クロマトグラフィーが、主にその優れた感度のために、食品中のアフラトキシンの測定に広く使用されています。FLD は、AFM1 が発する自然蛍光に基づき、他の光学検出器よりも感度および選択性が高く、一部のその他のアフラトキシンの測定に必要なポストカラム誘導体化による強化の必要がありません。
この試験の目的は、AOAC Official Method 2000.08 を改良した分析法を用いたミルク中の AFM1 の測定での、VICAM Afla-M1 LC IAC カラムを ACQUITY UPLC システムで使用した分析法の性能を実証することでした5,6。 この分析法は、多くの国で公的検査に適用されています(例:インド分析法 No.FSSAI 07.014:2020)7。
実験方法
アフラトキシンのサンプル抽出およびクリーンアップの詳細の概要が、図 1 に示されています。試験サンプルは、水浴中で液状ミルクを温めた後、マグネチックスターラーでそっと撹拌して脂肪層を分散させてから、遠心分離して調製しました。上層の脂肪層を捨て、脱脂(スキム)ミルクをろ過してからさらに分析を行いました。元の AOAC 公定分析法では、50 mL のスキムミルクを試験に用いることが指定されていましたが、より感度の高い検出器と UPLC 装置を使用する新しい分析法では、必要なサンプル量はより少量であり、クリーンアップのステップにかかる時間が短縮されました。このスキムミルクの一部を、Afla-M1 LC IAC カラムに適用しました。AFM1 はカラム上で抗体に結合します。次にカラムを水とメタノールの混合液で洗浄してカラムから共抽出物を除去してから、メタノールで AFM1 を溶出しました。続いて、抽出物中の AFMI の測定を、FLD を装着した UPLC で行いました。Afla-M1 LC IAC カラムの使用の詳細については、こちらを参照してください。
キャリブレーション標準試料およびスパイクしたミルクサンプルの調製には、アセトニトリル中 10 μg/mL AFM1 溶液(Superco、製品番号 CRM46319)を使用しました。キャリブレーション標準試料は、移動相で希釈して、0.005 ~ 2.0 ng/mL の範囲で調製しました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class PLUS(FTN サンプルマネージャーを搭載) |
検出: |
大容量フローセル付き ACQUITY 蛍光検出器(製品番号:205000609)、励起波長 360 nm、蛍光波長 440 nm |
バイアル: |
LCGC 認定透明ガラス製スクリューネックバイアル、12 × 32 mm、2 mL(製品番号:186000307C) |
カラム: |
ACQUITY UPLC HSS T3、1.8 μm、2.1 × 100 mm(製品番号:186009468) |
カラム温度: |
25 ℃ |
サンプル温度: |
25 ℃ |
注入量: |
10 μL |
流速: |
0.4 mL/分 |
移動相 A: |
水(68%、v/v) |
移動相 B: |
アセトニトリル(24%、v/v) |
移動相 C: |
メタノール(8%、v/v) |
分析時間: |
3.5 分 |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 |
分析法のバリデーション
バリデーションは、ブランク試料と見なすスパイクしたミルクサンプルの繰り返し分析によって実施しました。感度、選択性、直線性、真度、ラボ内再現性(RSDr)の 4 つのパラメーターを評価しました。真度と再現性は、3 濃度(予測 LOQ(0.005 μg/kg)、EU の限界値(0.05 μg/kg)、米国を含む多くの国で採用されている Codex 限界値(0.5 μg/kg))で調製したサンプルの 10 回繰り返し分析で測定しました。
結果および考察
アイソクラティック条件を使用する HPLC-FLD が、AFM1 の検出に長年使用されてきました。2 μm 以下の粒子と UPLC システムによって得られるクロマトグラフィー効率の向上と Waters ACQUITY 蛍光検出器内の大容量フローセルの使用の組み合わせにより、定量限界が非常に低くなりました。アイソクラティック条件を使用した代表的な UPLC クロマトグラムが、図 2 に示されています。このクロマトグラフィー分析法により、AFM1 に対する優れた保持とピーク形状が、3.5 分以内に得られました。
下のクロマトグラムのピークに対するシグナル対ノイズ比(S/N)で示されているように(図 3)、この感度により、この分析法は世界中の最大規制限界への準拠の確認に適していることが示されています。この手順の検出限界は、0.005 μg/kg 以下と推定されます。ブランク試料からの抽出物では、適合しないサンプルに対する偽陽性の報告をもたらすシグナルは検出されませんでした。このことは、例えば図 3 のミルクの分析のクロマトグラムを比較することでわかります。
0.005 ~ 2.0 ng/mL の範囲にわたる 4 点検量線を移動相で作成し、AFM1 の定量に使用しました。線形回帰が適用され、決定係数(r2)の値は 0.9995 であり、AFM1 の信頼性の高い定量が実証されました。
回収率で表される真度は 80 ~ 114% の範囲内であり、再現性(RSDr)は 9.1、9.3、2.4% RSD で優れていました(表 1 を参照)。これらの値は、欧州委員会8 および AOAC9 によって規定された要件内です。
結論
Afla M1 IAC クリーンアップカラムにより、ミルクからの可能性のある干渉が適時に排除され、分析種の回収と正確性が良好であることが示されています。ACQUITY UPLC H-Class PLUS のオプションによって分析時間を短縮する機会が提供され、蛍光検出器での大容量フローセルの使用によって感度が向上しました。この分析法には、ミルク中の AFM1 の世界中の規制限界への準拠の確認に使用するために必要な感度、選択性、および全体的な性能が備わっています。
参考文献
- Koser P et al.The Genetics of Aflatoxin B1 Metabolism.J Biol.Chem. 1988 263: 12584–12595.
- Sumon A et al.The Presence of Aflatoxin M1 in Milk and Milk Products in Bangladesh.Toxins 2021, 13:440.
- Waqas N et al. Assessment of Aflatoxin B1 in Animal Feed and Aflatoxin M1 in Raw Milk Samples of Different Species of Milking Animals From Punjab, Pakistan.J Food Safety 2021 41(3):e12893.
- Turna N and Wu F. Aflatoxin M1 in Milk: A Global Occurrence, Intake, and Exposure Assessment.Trends in Food Science & Technology 2021 110:183–192.
- Dragacci S et al.Immunoaffinity Column Cleanup With Liquid Chromatography for Determination of AflatoxinM1 in Liquid Milk: Collaborative Study.J AOAC Int 2001 84(2):437–443.
- AOAC Official Method 2000.08-2004.Aflatoxin M1 in Liquid Milk.Immunoaffinity Column by Liquid Chromatography; AOAC International: Rockville, MD, USA, 2004, pp.1–3.
- FSSAI.Manual of Methods of Analysis of Foods–Mycotoxins.2020. https://fssai.gov.in/upload/advisories/2020/12/5fca3db8df192Order_Revised_Manual_Mycotoxins_04_12_2020.pdf.
- European Union.Commission Regulation (EC) No 401/2006 of 23 February 2006 Laying Down the Methods of Sampling and Analysis for the Official Control of the Levels of Mycotoxins in Foodstuffs.Off.J. Eur.Union 2006, L 70:12–34.
- AOAC. Official Methods of Analysis.Appendix F Guidelines for Standard Method Performance Requirements, 2016.
720007431JA、2021 年 11 月