ポリソルベートは、食品や医薬品の賦形剤として広く使用される非イオン性界面活性剤です。その品質と純度は医薬品の安全性および患者の健康に関連するため、適切な試験方法を使用した品質保証および管理を行う必要があります。米国薬局方により、メチル化した酸の遊離脂肪酸への変換による、脂肪酸組成に基づくポリソルベート 20 の水素炎イオン化検出(FID)手順を用いるガスクロマトグラフィー(GC)が指定されています(USP–NF 2021 Issue 1)。本研究では、ポリソルベート 20 医薬品原料の分析のための、質量分析計(MS)と組み合わせた HPLC 分析法を紹介します。この新しい分析法により、質量検出器を使用して脂肪酸組成を測定することによる迅速で直接的な分析が提供され、複雑なサンプル前処理手順が不要になります。
ポリソルベートは、多くの場合商品名 Tween で呼ばれる非イオン性界面活性剤です1-3。 これらは医薬品の製造で、乳化剤、安定化剤、湿潤剤、可溶化剤、分散剤として広く使用されています3。
ポリソルベートは、多成分の複雑な混合物であり、飽和脂肪酸および/または不飽和脂肪酸のポリオキシエチル化したソルビタンモノエステルで構成されています1。 ポリソルベートの種類の間の相違は、脂肪酸側鎖とエステル化の程度にあります。ポリソルベートの分析は、その複雑で不均一な性質のため、困難なタスクである可能性があります。さらに、ポリソルベートには UV 検出に必要な強い発色団がありません。主要なポリソルベート亜種の分析および特性解析のため、荷電化粒子検出器(CAD)、エバポレイト光散乱検出器(ELSD)、および質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC)などのさまざまな分析手法が開発され、適用されています1-3。 その他の手法では、質量検出および核磁気共鳴(NMR)テクノロジーを搭載したガスクロマトグラフィー(GC)が活用されています2。 報告されているいくつかの分析法では、単一のピークとしてポリソルベートを定量できますが、すべての脂肪酸に対しては特異性がありません2。
ポリソルベート 20 は、乳液や懸濁液の安定化や点眼剤の潤滑剤として、医薬品に広く使用されています4。 米国薬局方により、メチル化した酸の遊離脂肪酸への変換による、脂肪酸組成に基づくポリソルベート 20 の水素炎イオン化検出(FID)を用いるガスクロマトグラフィー分析法が推奨されています5。 この手順では、脂肪酸を遊離するためのポリソルベートの加水分解および誘導体化が必要です。これは複雑で時間がかかる手順であり、QC ラボ内でのルーチン試験には適していません。
本研究では、脂肪酸組成に基づくポリソルベート 20 医薬品原料の分析のための、質量検出器を用いる迅速な HPLC 分析法を紹介します(表 1)。この分析法により、直接注入により脂肪酸を迅速で正確に分析でき、複雑なサンプル前処理手順やガスクロマトグラフィー装置が不要になります。
脂肪酸、ポリソルベート 20、質量分析グレードの溶媒は、Sigma から購入しました。
脂肪酸の標準溶液の原液は、エタノール中に濃度 1 mg/mL で調製しました。標準試料溶液の原液は、水/エタノール(50:50、v/v)混合液で希釈し、濃度 20 μg/mL にしました。
ポリソルベート 20 試験サンプルを、1 M 水酸化カリウム水溶液中で加水分解し、脂肪酸を遊離させました。1 M 水酸化カリウム中に調製した試験サンプル(1.5 mg/mL)を、40 ℃ で 6 時間インキュベートしました。次に溶液を等量の 1 M ギ酸で中和し、水/エタノール(50:50、v/v)混合液で希釈して濃度 0.1 mg/mL にした後、PVDF シリンジフィルターを通して濾過してから、分析しました。
LC 条件 |
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LC システム: |
Arc HPLC システム、パッシブプレヒーター付きカラムヒーター/クーラー、ACQUITY QDa 検出器、イソクラティックソルベントマネージャー(ISM) |
バイアル: |
LCMS マキシマムリカバリー、容量 2 mL(製品番号:600000670CV) |
カラム: |
XBridge BEH C18、4.6 × 100 mm、3.5 μm(製品番号:186003033) |
カラム温度: |
60 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
25 μL |
流速: |
2.0 mL/分 |
移動相: |
溶媒 A:10 mM 酢酸アンモニウム水溶液 溶媒 B:アセトニトリル |
洗浄溶媒: |
パージ/サンプル洗浄:60:40 水/アセトニトリル シール洗浄:90:10 水/アセトニトリル |
MS システム: |
ACQUITY QDa 検出器、パフォーマンスオプション |
イオン化モード: |
ESI- |
取り込み範囲: |
m/z 75~350 |
シングルイオンレコーディング(SIR): |
m/z 115.1、143.1、171.2、199.2、227.3、279.3、255.3、281.3、283.3 |
プローブ温度: |
600 ℃ |
キャピラリー電圧: |
0.5 kV |
コーン電圧: |
10 V |
メイクアップ溶媒: |
50:50 水:アセトニトリル + 1 mM 酢酸アンモニウム |
流速: |
0.2 mL/分、10:1 スプリット比率および希釈比 |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 FR4SR2 |
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本研究の分析法は、ポリソルベート 20 の加水分解による脂肪酸の遊離に後続する逆相分離、および質量検出器による脂肪酸組成の決定に基づいています。
飽和脂肪酸には発色団(または二重結合)がなく、UV によって検出できません(表 1)。UV による直接検出はできませんが、ACQUITY QDa 検出器で頑健なシグナルが生成されます。MS のトータルイオンクロマトグラム(TIC)に、ESI モードで m/z 75 ~ 350 の質量範囲にわたって検出されたすべてのピークが示されています(図 1A)。ACQUITY QDa 検出器で得られるマススペクトルデータにより、脂肪酸を迅速に同定できます。対象の単一イオンの強度を測定するシングルイオンレコーディング(SIR)モードにより(図 1B)、ターゲット化合物のシグナルが増強され、分析が簡素化されます。定量分析では、脂肪酸はシングルイオンレコーディング(SIR)モードを使用して測定しました。
ACQUITY QDa 検出器に入る送液をスプリットおよび希釈するために、アイソクラティックソルベントマネージャ(ISM)6 を使用しました。ISM メイクアップ(希釈)溶媒をカラム後に追加し、ソースに入る送液と混合しました。本研究では、アセトニトリル、メタノール、酢酸アンモニウムバッファーが含まれているさまざまな ISM メイクアップ溶媒をスクリーニングし、MS シグナルを強化し、繰り返し注入での許容可能な再現性を確保しました。例えば、アセトニトリルと酢酸アンモニウムを使用したメイクアップ溶媒により(図 2)、脂肪酸について頑健なシグナルが得られるとともに、繰り返し注入(n = 5)で許容可能な再現性が得られました。1 mM 酢酸アンモニウムメイクアップ溶媒を使用した場合のピーク面積の %RSD は、この試験でスクリーニングした他のメイクアップ溶媒よりも低い値でした。
この分析法の性能は、USP General Chapter <621>、「クロマトグラフィー」に記載されている仕様に従って、20 μg/mL の脂肪酸標準試料の 6 回繰り返し注入でのシステム適合性を評価することにより、測定しました(図 3)7。 この分析法により、すべての脂肪酸は、ピーク間の USP 分離度(Rs)≥ 4.2 で正常に分離されました。保持時間およびピーク面積の再現性は、それぞれ 0.13 ~ 0.62 および 1.29 ~ 4.19 %RSD でした。
Empower ソフトウェアを用いて、ポリソルベート 20 サンプル中の各脂肪酸の割合(%)を、各脂肪酸のピーク面積をクロマトグラフィー注入のすべての脂肪酸の総面積と比較することで、計算しました。計算は、ポリソルベート 20 の USP モノグラフに従って行いました5。 ポリソルベート 20 サンプル溶液中の脂肪酸組成の結果は、USP 基準に適合しました(図 4)。
開発した HPLC-MS 分析法により、ポリソルベート 20 中の脂肪酸組成を迅速に決定でき、試験サンプルの複雑な加水分解および誘導体化の手順が不要になります。質量スペクトルデータにより、質量検出による分析種の正確で迅速な同定が可能になります。この新しい分析法により、ポリソルベート 20 医薬品原料の品質および純度の正確な評価が可能になり、サンプル成分の確認に関連する信頼性が向上します。
全体的に見て、Arc HPLC は、強力な性能、高い注入精度、少ないキャリーオーバー、高い背圧耐性を実現する最新の装置です。ACQUITY QDa 検出器は、正確で信頼性の高い結果が得られる、頑健で使いやすい質量検出器です。これらのテクノロジーは、QC ラボでの医薬品原料のルーチン試験に簡単に適用できます。
720007336JA、2021 年 8 月