• アプリケーションノート

Xevo TQ-S micro および Atlantis Premier BEH C18 AX カラムを使用した、ロサルタンカリウムの原薬中および製剤中のニトロソアミン不純物の測定

Xevo TQ-S micro および Atlantis Premier BEH C18 AX カラムを使用した、ロサルタンカリウムの原薬中および製剤中のニトロソアミン不純物の測定

  • Jun Xiang Lee
  • Zhen Han Mong
  • Wenlin Zhang
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、Xevo TQ-S micro タンデム四重極質量分析と APCI を使用した、ロサルタンカリウムの原薬中および製剤中のニトロソアミン不純物 3 種(NDMA、NDEA、NMBA)についての高感度で頑健な UPLC-MS/MS 定量法について実証します。開発した装置メソッドは、NDMA および NDEA で 0.5 ~ 100 ng/mL、NMBA で 1 ~ 100 ng/mL で優れた直線性を示し、R2 は 0.997 未満でした。すべての化合物について定量限界(LOQ)0.5 ng/mL(0.005 ppm)が得られました。この値は、米国 FDA のニトロソアミン不純物の許容限度値に適合しています。ロサルタンカリウムの DS および DP 中の不純物すべてについての平均抽出効率は 70% を超えていました。この試験の結果から、Atlantis Premier BEH C18 AX カラムでは、小さな極性化合物の保持が悪いという問題が克服されていることも実証されており、NDMA などの極性ニトロソアミンの分析に最適であることが分かります。

アプリケーションのメリット

  • Xevo TQ-S micro タンデム四重極質量分析と組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class を用いて、ロサルタンカリウム原薬中および製剤中の 1 ng/mL の NDMA、NDEA、NMBA(0.001 ppm)を正確に定量するための、頑健で再現性があり、高選択性の高感度分析法を開発
  • 開発した分析法では、NDMA、NDEA、NMBA に対して、2021 年 2 月に米国食品医薬品局(FDA)が規定した最新の許容限度値を下回る 0.5 ng/mL という LOQ を達成1
  • Atlantis Premier BEH C18 AX カラムにおいて、NDMA などの低分子極性化合物に対する優れた保持能を実証
  • ARB の原薬および製剤におけるニトロソアミン不純物の存在について試験したところ、事前添加試験により、3 種類のニトロソアミン不純物すべてについて抽出効率が 70% を越えることを確認

はじめに

2018 年初頭以来、米国 FDA は、高血圧および心臓発作の治療に使用されるいくつかの医薬品に許容限界を越えるニトロソアミン不純物が含まれていることを報告しています。許容限界を超える量のニトロソアミン不純物を長期間摂取すると、がんのリスクが高まる可能性があります。この現象により、世界中で一部の医薬品が使用中止になり、この種の医薬品が一定期間不足するという事態に至りました。

ニトロソアミン不純物の由来としては、医薬品の合成過程で使用された有効成分(API、原薬とも呼ばれる)や溶媒などが考えられます。さらに、不適切な保管条件により、時間の経過とともにニトロソアミン不純物の濃度が許容できない限界値まで増加した可能性もあります。

一方、ニトロソアミン不純物の濃度を許容限界以下で適切に管理することで、がんのリスクは増大しないと予測されます。したがって、メーカーでは医薬品合成のさまざまな段階でニトロソアミン不純物の有無について試験することが重要です。最新の FDA 規制によれば、原薬および製剤のメーカーは、LOQ が 0.03 ppm 以下の装置メソッドを使用して、許容摂取量が 26.5 ng/日以下のニトロソアミン不純物を正確に定量する必要があります1

このアプリケーションノートでは、Xevo TQ-S micro タンデム四重極質量分析と組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class を用いて、3 種類のニトロソアミン不純物(N-ニトロソ-ジメチルアミン(NDMA)、N-ニトロソ-ジエチルアミン(NDEA)、N-ニトロソ-N-メチル-4-アミノ酪酸(NMBA)を分析するための FDA のガイダンスに適合する頑健で感度の高い分析法を開発しました。ニトロソアミン不純物に関する他の試験と同様に2、大気圧化学イオン化(APCI)の方がエレクトロスプレーイオン化(ESI)よりも感度が高いことが分かったので、本実験では APCI を用いました。ここでは直線性、定量限界(LOQ)、正確度、精度、および抽出効率について報告します。この試験で取り上げた Atlantis Premier BEH C18 AX カラムは、NDMA などの極性の高い低分子に対して優れた保持性能を示します。 

実験方法

作業用標準試料の調製

標準ストック混合物(NDMA、NDEA、NMBA)と内部標準ストック混合物(NDMA-d6、NDEA-d4、および NMBA-d3)を、メタノール中にそれぞれ 50 µg/mL および 0.5 µg/mL になるように調製しました。 

5 ng/mL の内部標準を添加した 0.5、1、2、5、10、20 および 100 ng/mL の混合標準試料のキャリブレーション一式をメタノール:水(5:95)中に調製しました。

原薬サンプルの前処理

100 mg のロサルタンカリウム API を遠心チューブに正確に量り取り、10 mL のメタノール:水(5:95)に溶解しました。50 ng の内部標準を混合物に添加して、添加した内部標準の濃度を 5 ng/mL にしました。続いて、サンプルをボルテックス混合し、超音波処理した後、9,000 rpm で 15 分間遠心分離しました。上清を回収し、0.22 µm ナイロンフィルターでろ過してから、LC-MS 分析に注入しました。 

製剤サンプルの前処理

ロサルタン錠(100 mg)を微粉末に砕きました。続いて、溶解からサンプル分析までのサンプル前処理を、原薬サンプルの前処理と同様に行いました。

抽出効率のためのサンプル前処理

2.5 ng/mL のニトロソアミン不純物(NDMA、NDEA、NMBA)をロサルタンカリウムの DS および DP に添加してから、上記の DS および DP のサンプル前処理を行いました。上清を回収し、0.22 µm ナイロンフィルターでろ過してから、LC-MS 分析に注入しました。

クロマトグラフィーの条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-Class

カラム:

Atlantis Premier BEH C18 AX、1.7 μm、2.1 × 100 mm(製品番号:186009368)

カラム温度:

40 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

10 μL

流速:

0.45 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸含有 5 mM ギ酸アンモニウム水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸含有 5 mM ギ酸アンモニウムメタノール溶液

Gradient

質量分析条件

MS システム:

Xevo TQ-S micro

イオン化モード:

APCI +

APCI プローブ温度:

300 ℃

コロナ電流:

2 μA(システム/ピン固有)

コーンガス流量(L/時間)

100

脱溶媒ガス流量(L/時間):

1200

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:MassLynx v4.2

定量ソフトウェア:TargetLynx

MRM トランジション

データは、MRM トランジションモードを用いて収集しました。このモードには、化合物および関連する内部標準ごとに 2 つのトランジションが含まれています。NDMA、NDEA、NMBA に関連する内部標準はそれぞれ NDMA-d6、NDEA-d4、NMBA-d3 です。*印のついたトランジションは、表 1 内の定量イオンです。

表 1. NDMA、NDEA、NMBA のトランジション

結果および考察

Atlantis Premier BEH C18 AX カラムの保持能

NDMA は一般的なニトロソアミンであり、その極性に起因して保持における問題が生じます。したがって、適切な固定相を用いた適切なカラムを選択しないと、NDMA が極性のマトリックス干渉物とともに溶出する可能性があり、それによって感度と正確度が低下します。  

この試験では、同じ寸法の 2 種類のカラム(ACQUITY UPLC CSH Fluorophenyl カラムと Atlantis Premier BEH C18 AX カラム)における NDMA の保持を評価しました。図 1 から、Atlantis Premier BEH C18 AX カラムの方が、CSH Fluorophenyl カラムと比較して、最も極性の高いニトロソアミンである NDMA をよりよく保持できることが分かります。これにより、極性のマトリックス干渉物を分析種からよりよく分離できるようになり、この分析で報告しているように、最終的に感度と正確度が向上します。

図 1. Atlantis Premier BEH C18 AX カラムと ACQUITY UPLC CSH Fluorophenyl カラムにおける 10 ng/mL NDMA の保持能の比較

装置の直線性および正確度

図 2 に示す内部標準検量線は、2 つの個別の曲線のキャリブレーションポイントの平均を取ったものです。NDMA と NDEA のリニアダイナミックレンジは 0.5 ~ 100 ng/mL の範囲、NMBA のリニアダイナミックレンジは 1 ~ 100 ng/mL の範囲です。すべての分析種について得られた線形回帰(図 2 の R2)は 0.997 を超えており、得られたピーク面積と調製濃度の間に良好な直線性があることが示されました。すべての濃度にわたる % 残差は 14.6% 未満でした。

表 2. ニトロソアミンの保持時間と検量線の詳細
図 2. NDMA、NDEA、および NMBA の検量線

装置精度

1.0 ng/mL の標準混合物を 10 回連続注入することによって再現性試験を行いました。3 種類すべてのニトロソアミンで得られた濃度の %RSD は 12% 未満でした。図 3 の 10 回の繰り返し注入についての計算濃度のトレンドプロットからは、Xevo TQ-S micro タンデム四重極質量分析により、低濃度の分析種でも再現性のある結果を生成できることが示されています。

図 3. 10 回の繰り返し注入にわたる NDMA、NDEA、NMBA の計算濃度のトレンドプロット

定量限界(LOQ)

LOQ レベルとは、正確に同定して定量できる分析種の最低濃度レベルです。この試験では、LOQ は、シグナル対ノイズ比が 10 を超える化合物の最低濃度に基づいて設定しました。   

図 4 に、NDMA、NDEA、NMBA の濃度 0.5 ng/mL を示していますが、これはベースラインの 10 倍のシグナルが生成する最低濃度です。したがって、3 種類の化合物すべてについて LOQ を 0.5 ng/mL と設定しました。

図 4. LOQ における NDMA(上)、NDEA(中)、NMBA(下)のクロマトグラム

ロサルタンカリウムの DS および DP の分析およびニトロソアミン抽出効率の評価

ロサルタンカリウムの原薬(DS)および製剤(DP)を、開発した方法を用いてニトロソアミン不純物についてスクリーニングしたところ、すべてのニトロソアミンが LOQ を下回っていることが分かったため、未検出と報告しました。ロサルタンの DS および DP におけるニトロソアミンの抽出効率を調べるために、ニトロソアミン不純物を最終濃度 2.5 ng/mL(0.025 ppm)になるようにそれぞれ DS および DP に事前に添加し、「実験方法」セクションに記載した方法でサンプル前処理を行いました。2 つの DS サンプルと 4 つの DP サンプルを評価に用いました。

% 抽出効率は、下の式で計算します。表 3 に示すように、NDMA、NDEA、NMBA の回収率はそれぞれ 70.7% ~ 88%、85.3% ~ 105.3%、89.3% ~ 116.0% の範囲でした。

% 抽出効率 = [添加を行ったロサルタンカリウムの DS および DP 中の不純物濃度の測定値/2.50 ng/mL] × 100%

表 3. ロサルタンカリウムの DS および DP 中の添加したニトロソアミン 0.025 ppm に基づく抽出効率

装置の品質管理検査

1 ng/mL と 10 ng/mL の既知濃度の標準試料を品質管理(QC)に用いて、分析全体でのシステム性能を評価しました。上記の一式の QC の分析(n = 7)では、6 回のサンプル分析ごとに 1 回注入することにより、サンプルリスト全体を通して分析しました。    

1 ng/mL および 10 ng/mL の品質検査用の化合物すべての精度が 10% 未満であり、再現性が優れていることが示されました。1 ng/mL および 10 ng/mL の品質検査用の化合物の精度はそれぞれ 21% 未満および 11% 未満であり、分析全体を通して信頼性の高い結果が得られていることが示されました。

結論

ニトロソアミン不純物(NDMA、NDEA、NMBA)の迅速なスクリーニングと定量のための、大気圧化学イオン化と、ACQUITY UPLC I-Class システムと Xevo TQ-S micro タンデム四重極質量分析計の組み合わせを用いる MRM トランジションに基づく分析法を開発しました。

得られた結果から、装置の精度、再現性、感度が良好であることが示されました。また、その装置ではすべてのニトロソアミン不純物に対して 0.005 ppm の LOQ を達成する能力があることも証明されました。この値は、26.5 ng/日以下というニトロソアミン不純物の摂取量について米国 FDA が設定した許容下限値である 0.03 ppm よりも低いです。ロサルタン DS および DP の事前添加による評価でも、すべてのニトロソアミン不純物について抽出効率が良好であることが示されました。さらに、Atlantis Premier BEH AX カラムは、DS および DP 中の小さな極性化合物であっても、他の市販のカラムと比較して、より強く保持できることが分かりました。  

参考文献

  1. Center for Drug Evaluation and Research.Control of nitrosamine impurities in human drugs.U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration Center for Drug Evaluation and Research (CDER).Revision 1, February 2021.
  2. Lee, J.-H., Lee, S-U. and Oh, J-E. Analysis of nine nitrosamines in water by combining automated solid-phase extraction with high-performance liquid chromatography-atmospheric pressure chemical ionization tandem mass spectrometry.International Journal of Environmental Analytical Chemistry, 93:12, 1261–1273.

720007393JA、2021 年 10 月

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