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SmartMS 対応の ACQUITY RDa 検出器を用いたニコチン API 中の不純物の効率的な同定

SmartMS 対応の ACQUITY RDa 検出器を用いたニコチン API 中の不純物の効率的な同定

  • Tirupateswara Rao. B
  • Raghu Tadala
  • Dilshad Pullancheri
  • Bheeshmacharyulu S
  • Dr. Padmakar Wagh
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、新しい種類のコンパクトな小型 SmartMS 対応 LC-MS システムを用いて、ニコチンおよびその関連する不純物を同定するための、効率的で使いやすいワークフローを説明します。API(医薬品有効成分)および関連する不純物が、waters_connect ソフトウェアプラットホーム内の UNIFI アプリケーションを使用して同定され、報告されました。ACQUITY RDa 検出器でのフラグメンテーションによるフルスキャン機能によりフラグメントイオン情報が生成され、割り当てのさらなる確認に使用されました。フラグメンテーションコーン電圧を急上昇することにより、追加の構造情報が生成されました。 

不純物のプロファイリングは、医薬品開発プロセスの重要な部分です。未知不純物の同定は、医薬品の有効性および安全性を向上させるための重要な要素です。API に存在する不純物を同定するための有用なソリューションを提供することは、複雑で困難なタスクです。高分解能質量分析法(HRMS)は、API に存在する不純物を高い信頼度で同定するために多くの場合に使用される分析手法ですが、これらの分析上の問題を解決するための高度な経験と専門知識が必要な場合があります。ACQUITY RDa 検出器は、自動セットアップおよびキャリブレーション機能を備えているため、分析の専門知識の有無を問わず、科学者は精密質量測定を行うことができます。このように、専門家以外のユーザーでも HRMS にアクセスできるようになったため、科学者ははるかに詳細な分析情報を得ることができます。

図 1. ACQUITY RDa 検出器 

アプリケーションのメリット

  • 不純物プロファイリングのためのルーチン精密質量測定
  • SmartMS テクノロジーを搭載したコンパクトな小型システム
  • 直感的なシステムヘルスチェックと専用のエンドツーエンドワークフロー
  • データインテグリティを保証するコンプライアンス対応システム

はじめに

ニコチンは天然に産出され、興奮剤や抗不安剤として広く嗜好品に使用されるキラルアルカロイドです。ニコチンは医薬品として、禁煙での離脱症状を緩和するために使用されます。電子タバコ(e シガレット)およびニコチンガムは、タバコ喫煙の代替です。使用されるニコチンはタバコから抽出され、抽出されるニコチンの純度はメーカーやグレード(医薬用など)によって異なることがあります。米国薬局方(USP)グレードのニコチンは、単一の不純物が 0.5% (5 mg/g)未満で、合計不純物が 1%(10 mg/g)未満である必要があります。ニコチン不純物は、欧州薬局方モノグラフ 1452 に、ニコチン-N-オキシド、コチニン、ノルニコチン、アナタビン、ミオスミン、アナバシン、β-ニコチリンとして指定されています。

図 2. ニコチン 

ニコチンおよび関連アルカロイドの分析には多くの分析法(GC、NPD、MS)があります1-4。 ニコチン-N-オキシドなどのニコチン関連化合物は、GC 分析に必要な温度で熱的に不安定であることが知られています。ノルニコチンなどの一部のターゲット化合物は、インジェクターでのキャリーオーバーで深刻な問題になる場合があります1,2,4。 これらの問題は UV 検出器を備えた HPLC を使用することで解決されていますが、その感度は限られており、共溶出する可能性のある化合物を区別できません。そのため、HRMS などの分析手法が、これらの問題を克服するために必要です。この手法では通常、熟練したユーザーが装置を操作する必要があります。 

SmartMS 機能を備えた ACQUITY RDa 検出器は、HRMS の専門家ではないユーザーが精密質量測定にアクセスし、奥深い分析情報を取得するための、適切な選択肢です。さらに、waters_connect ソフトウェアにより、データインテグリティを保証するコンプライアンス対応フレームワークでの結果が、自動的に取り込まれ、解析され、報告されます。フラグメンテーションによるフルスキャン機能を使用することで、低エネルギースペクトルと高エネルギースペクトルを同時に取り込み、フラグメントイオン情報を生成して、化合物同定の信頼性を高めることができます。 

実験方法

USP モノグラフメソッドに準拠したニコチンの不純物分析に、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムに組み合わせた新しい ACQUITY RDa 検出器を使用し、さらにエンドキャップ済みの極性基内包型オクタデシルシリル化アモルファス有機シリカポリマー R(4.6 mm × 150 mm、5 μm)を固定相として用いるカラムを使用しました。ACQUITY RDa 検出器は、ルーチンの精密質量測定用の、質量分解能が 10,000 FWHM を超える、コンパクトな小型飛行時間型(Tof)質量分析計です。このシステムでは、フルスキャンと、フラグメンテーションデータを含むフルスキャン(データインディペンデント取得モード)の両方の取り込みが行えます。UNIFI アプリケーションは、精密質量、保持時間、フラグメントイオン情報を使用して、カスタマイズ可能なアプリケーション固有のライブラリーをすばやく検索して化合物を同定する、使いやすくカスタマイズ可能なプラットホームです。図 1 に ACQUITY RDa 検出器が示されています。 

サンプルの説明

不純物標準混合物のストック溶液(100 ppm)を水で調製しました。二酒石酸ニコチン二水和物の 10 mg/mL サンプル溶液を調製し、希釈剤として水を使用した不純物標準混合液をスパイクして、最終溶液濃度を 100 ppb にしました。 

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-Class PLUS

検出:

260 nm TUV

バイアル:

トータルリカバリーバイアル

カラム:

XBridge Shield RP18、4.6 × 150 mm、5 μm

カラム温度:

30 ℃

サンプル温度:

20 ℃

注入量:

20 μL

流速:

1.000 mL/分

移動相 A:

25 mL の 1 M 酢酸 + 6 mL のアンモニア溶液、pH 10

移動相 B:

アセトニトリル

グラジエントテーブル

MS 条件

MS システム:

ACQUITY RDa 検出器

イオン化モード:

フラグメンテーションのフルスキャン(疑似 MSE 取り込み)

取り込み範囲:

50 ~ 2000m/z

キャピラリー電圧:

1.5 kV

フラグメンテーションコーン電圧:

50-80 V

コーン電圧:

30 V

極性:

正イオン

スキャンレート:

5 ポイント/ 秒

脱溶媒温度:

550 ℃

データ管理

インフォマティクス:

waters_connect v1.9.12

結果および考察

ACQUITY RDa 検出器では、同定およびスマートな意思決定に必要な精密質量測定の精密質量ワークフローが使用されます。本研究では、不純物分析のための UNIFI ソフトウェアアプリケーションワークフローが実証され、図 3 に示されているように、これは分解試験に拡張することもできます。 

図 3. UNIFI アプリケーションの分析ワークフロー 

図 4 に示すように、UV 取り込みが MS と並行して行われ、2 つのトレース間の比較が可能になりました。 

図 4. 不純物混合液をスパイクしたニコチン API の、260 nm での UV クロマトグラムと ESI ポジティブイオンモードでの MS BPI(ベースピーク強度)クロマトグラムの比較 

不純物標準混合液(100 ppb)をスパイクしたニコチン API サンプル(10 mg/mL)を、ACQUITY RDa 検出器のフラグメンテーションによるフルスキャン機能を使用して取り込みました。この場合に、低エネルギーチャンネルおよび高エネルギーチャンネルには、それぞれ親イオンおよびフラグメントイオンの情報が含まれています(図 5)。 

図 5. A - UV クロマトグラム、B - 低エネルギー質量スペクトル、C - ニコチンの MS XIC(抽出イオンクロマトグラム)、D - ニコチンの高エネルギー質量スペクトル

このアプリケーションノートでは、図 6 に示すように、未知不純物を同定するための、「ディスカバーツール」を使用する、および「変換ツール」を使用する、2 つの異なるアプローチを実証しました。 

図 6.  未知不純物を同定するための「ディスカバーツール」アプローチおよび「変換ツール」アプローチ 

この統合されたディスカバーツールにより、未同定のピークを調査し、構造データベース ChemSpider を迅速に検索して、未知化合物の推定上の同定をすることができます。ディスカバーツールを使用することで、図 7 に示すように RT 17.57 分のニコチンのピークを同定できます。 

図 7.  17.57 分のニコチンのピーク 

このディスカバーツールにより、17.57 分に測定されるピークの精密質量が取得され、元素式が提示され、選択した ChemSpider ライブラリーで可能性のある一致が検索されます。この場合、使用している許容範囲内で 12 のデータベースマッチが検索されました。さらに、ディスカバーツールにより、提示されたデータベースマッチについて in silico のフラグメンテーションが行われ(.mol ファイルを使用)、理論フラグメントイオンが生成されて、これらは取込まれたフラグメントイオンスペクトルと比較されます。最初に検索された候補は、図 8 に示されているように、高エネルギースペクトルとマッチする候補フラグメントイオンが割り当てられたニコチンです。 

図 8. ChemSpider の検索機能およびディスカバーツールを使用したニコチンの同定 

ディスカバーツールを使用して未知不純物を同定したら、これらをサイエンスライブラリーに登録してルーチン分析に使用できます。図 9 に、ニコチンおよびその関連不純物のサイエンスライブラリーによる同定が示されています。 

図 9. サイエンスライブラリーを使用した、ニコチンおよびその関連不純物の同定 

あるいは、ディスカバーツールを使用して API の可能性のある同一性を見つけて、変換ツールを使用して不純物を同定できます。ここでは、酸化、還元、脱アルキル化に起因する API 関連の不純物を、UNIFI アプリケーションに内蔵された変換ツールを使用して同定に成功しました。疑わしい不純物が成分サマリーに表示され、ここでは予測不純物の m/z にマッチするすべてのピークがリストされます(図 10)。クロマトグラムとスペクトルビューも表示され、高エネルギースペクトルでの自動フラグメントイオン割り当てが青色アイコンで示されます(図 10)。図 10 の左側に示されている不純物分析ワークフローを組み込むことは、API に関連する未知不純物を同定する、効率的で効果的なアプローチです。 

図 10. 変換ツールを使用し、不純物分析の UNIFI ワークフローを組み込むことによる、ニコチン API の関連不純物の同定 

二酒石酸ニコチン二水和物の類縁物質すべてが、waters_connect ソフトウェアプラットホームおよび ACQUITY RDa 検出器の組み合わせで同定されました。 

結論

ACQUITY RDa 検出器、および TUV と waters_connect ソフトウェアプラットホームを組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムを使用して、ニコチンおよびその関連不純物の同定に成功しました。精密質量ワークフローを組み込むことで、API のレベルおよびこれに関連する不純物をモニターできます。これにより、これらの種類のサンプルセットを評価およびコントロールすることができ、製薬業界内での仕様限度値を確立できます。UNIFI アプリケーションを搭載した waters_connect ソフトウェアプラットホームを使用して、質量測定およびフラグメントイオン割り当てに基づいて、ニコチンおよびこれに関連する不純物が高い信頼性で自動的に同定されました。 

ルーチンワークフロー付き Waters ACQUITY RDa 検出器は、不純物の同定と特性解析で科学者をサポートし、情報に基づいた影響力のある意思決定が可能になります。 

参考文献

  1. Sheng, L.Q., L. Ding, H.W. Tong, G.P. Yong, X.Z. Zhou, S.M. Liu: Determination of Nicotine-Related Alkaloids in Tobacco and Cigarette Smoke by GC-FID; Chromatographia 62 (2005) 63–68.DOI: 10.1365/s10337-005-0567-y.
  2. Cai, J., B. Liu, P. Lin, Q. Su: Fast Analysis of Nicotine Related Alkaloids in Tobacco and Cigarette Smoke by Megabore Capillary Gas Chromatography; J. Chromatogr.A 1017 (2003) 187–193.  
  3. Yang, S.S., Smetena, S.I., C. Huang: Determination of Tobacco Alkaloids by Gas Chromatography with Nitrogen–Phosphorus Detection; Anal.Bioanal.Chem. 373 (2002) 839–843.DOI: 10.1007/s00216-002-1380–1.  
  4. Lisko, J.G., S.B. Stanfill, B.W. Duncan, C.H. Watson: Application of GC-MS/MS for the Analysis of Tobacco Alkaloids in Cigarette Filler and Various Tobacco Species; Anal.Chem. 85 (2013) 3380–3384.DOI: 10.1021/ac400077e. 
  5. Flora, J., W.N. Meruva, C.B. Huang, C.T. Wilkinson, R. Ballentine, D.C. Smith, M.S. Werley, W.J. McKinney: Characterization of Potential Impurities and Degradation Products in Electronic Cigarette Formulations and Aerosols; Regul.Toxicol.Pharmacol. 74 (2016) 1–11.DOI: 10.1016/j.yrtph.2015.11.009.
  6. Jayne Kirk, Russell J. Mortishire-Smith, Mark Wrona: A Novel Approach Using UPLC-Tof MSE and the UNIFI Scientific Information System to Facilitate Impurity Profiling of Pharmaceuticals, Ref: 720005604EN Feb 2016. 
  7. Laurent Leclercq, Russell J. Mortishire‐Smith, Maarten Huisman, Filip Cuyckens, Michael J. Hartshorn, Alastair Hill.IsoScore: automated localization of biotransformations by mass spectrometry using product ion scoring of virtual regioisomers. 

720007232JA、2021 年 5 月

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